カバンの重み
「おはようございます、お兄様!」
ユサユサ
由香は照麻の身体を両手を使い揺らす。
「んぅ~」
「ほら起きてください。もう朝ですよ?」
太陽の陽が部屋に差し込んでくる。
もう朝か。
そう思い、照麻は瞼を擦りながら起き上がる。
それを見た由香は部屋のカーテンを開け、窓を開けた。
外の冷たくひんやりとした風が部屋に入ってくる。
「寒い、お休みなさい」
照麻は居心地がよいお布団の世界へと再び入ろうとしたその時だった。
「なに、バカな事を言われるのですか。起きてください!」
「ダメなの?」
「ダメです!」
「絶対?」
「絶対です!」
「なら後三秒でいいから……」
「その三秒で違う世界に行こうとしないでください!」
由香はそのまま照麻から掛布団を取り上げた。
身を護る物がなくなった照麻は近くに合った毛布で妥協しようとしたがそれも由香に後少しで手が触れるタイミングで取り上げられた。
「ほら。もう高校生なんですから、しっかりしてください。それと朝ごはん出来ているので早く食べてください」
照麻は寝る事を諦めてベッドから出ると、少し不機嫌になった由香の頭をポンポンと軽く叩いてから部屋を出た。
すると由香の表情に笑みが戻る。
朝から照麻に構って貰えたことが由香にとっては嬉しいのだ。
「あっ、食べ終わった食器はそのまま置いといてください」
そう言い残して由香は洗面所の方に行って、洗濯を始めた。
白米、お味噌汁、サバの味噌煮、プチトマトのサラダを食べて歯磨き、洗顔、寝癖直しを終わらせた照麻。
由香が朝ごはんで使った食器を洗い片付けている間に照麻は一度自室へ戻り、寝間着から学ランに着替え護身用にと魔力石を内ポケットにしまい、鞄を持ってリビングへと行く。
まるで夫婦みたいだなと思いながら、照麻はソファーに腰を下ろして由香の支度が終わるのを待つ。
その後リビングで由香と合流して一緒に玄関に行き、靴を履く。
そのまま二人が家を出ようとしたとき、照麻の手がピタリと止まった。
「お兄様?」
「いやカバンがいつもより重いなって……」
照麻の考えはこの時由香に見抜かれていた。
どうせ学園に行っても寝ているのであれば教科書は必要ないと考えた照麻。
だから怒ると怖い先生の教科だけしっかりと教科書、ノートを持っていけばいいのではないかと思ったのだ。
「お兄様? いい加減お勉強しないと今年は留年なんてことになりますよ?」
なんてことを笑顔で言ってきた。
留年と言う二文字に照麻は思わずゾクッとしてしまった。
留年なんて仮にしたら来年由香と同じ学年になる。
そう考えただけでも色々と恐ろしいことになるからだ。
今よりも由香と比べられる毎日。それはそれである意味表にこそあまり出さないが内心とても辛かったりもするのだ。
照麻は諦めて返事をする。
「わかった、わかった。今年は追試受けなくていいように頑張ります……多分」
と答えて玄関の扉を開けた。