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竜海神社のご神体2

『ほう……これがそうか?』

「そ、そう。がんばって、作った……作りました」

「素材はわたしが作ったのよ」

「ああ、ここに〈加護(プロテクション)〉の魔法をかけるのね。なるほど……」

『おお! とすると、〈竜王部〉女子全員の共同作業によるわしへの貢ぎ物というわけじゃな?』

「あはは。そうなる……のかな?」


 〈竜王部〉の部室にて、部員達が集まって何やら話をしている。机の上に置かれているのは金属製の棒が組み合わさった立方体。大きさは両手で抱えて持つくらいか。

 立方体の骨組みは鈍い金属光沢を放っており、角の部分は黒く、少し分厚くなっている。よく見ると、その分厚くなっている部分に細かく文字が書かれているのがわかるだろう。


「それじゃ、早速装着しようぜ」

 斉彬が部屋の奥から白いケースを持ってきて机の上に置いた。それは細かい傷や取れない泥汚れなどで結構汚れている。


 その時、部室の扉が勢いよく開かれた。


「うーす。何やってるんだ?」

 徹が片手を軽く上げながら部室に入ってきた。


「栗山! あんたまた剣術部に行ってたでしょ!」

 徹が来るなりおかんむりになったのは結希奈だ。それもそのはず。今日、徹は剣術部に顔を出していて〈竜王部〉の迷宮探索に参加していなかったからだ。


「え!? 慎一郎にはちゃんと伝えたぞ。おい慎一郎! お前結希奈に言ってなかったのか?」

「え……? あ、そうだっけか? ごめん……」

「まったく、しっかりしてくれよな、部長。お、なんだこれ?」

 徹が机の上の物体を目ざとく見つけ、ひょいと持ち上げる。


『こら、勝手に触るな! これは“竜王ガールズ”がわしのために作ってくれた、いわばわしの“魔法の鎧”じゃ!』

「竜王ガールズって何よ……」

 結希奈が微妙な顔で言った。


「魔法の鎧……?」

 徹の疑問にメリュジーヌはエヘンと偉そうに立体映像の薄い胸を張る。


『よし、竜王ガールズよ、始めるがよい!』

「だから、誰が竜王ガールズなのよ……まあいいわ。外崎さん、お願いね」

「わ、わかった……わかりました……」


 この骨組みを作った〈竜王部〉鍛冶担当の外崎姫子(とのさきひめこ)が徹からそれを受け取り、斉彬が持ってきた白いケース――慎一郎の〈副脳〉が入ったケースだ――に装着した。

 それは寸分狂わずケースにぴったりと収まり、まるでフェイスガードをつけたアメフト選手のような姿になった。


「何だこれ……?」

 徹の疑問はもっともだ。


「まあまあ、見てなさいって。浅村、始めていいかな?」

 結希奈の問いに慎一郎が頷くと、結希奈はケースに手を当てていつもの祝詞を唱え始めた。


「竜海の森を守る竜よ……」


 すると箱全体が淡く光り始めた。迷宮内でも何とか見たことがある結希奈の〈加護(プロテクション)〉の魔法だ。日曜日の今日、結希奈は今でも律儀に巫女服にウィッグで巫女の正装をしている。そのせいもあって結希奈の魔法行使はより神秘的に見えた。


「これでよし」

 結希奈が呪文の詠唱をやめても箱は淡い光を纏ったままだ。〈加護〉の魔法は一定時間、対象を外からの衝撃から守る効果がある


「魔法の効果は一週間は保つはずだから、来週またお願いね、結希奈ちゃん」

「そんなに効果があるのね。普通にかけるだけだとせいぜい数分か数時間レベルなのに」

「いろいろ工夫したからね。錬金術の技術の結晶よ。ちょっとした自慢なんだから」


 そんな結希奈とこよりのやりとりを見ていた徹はまだ疑問顔だ。

「で……何なのこれ?」

『じゃから、これは竜王ガールズによるわしへの貢ぎ――』

「はいはい、それはもういいって」

 メリュジーヌの自慢を結希奈が遮り、徹に説明を始めた。


「この前のイヌとの戦いでジーヌが気を失ったでしょ?」

「ああ。まる一日、目を覚まさなかったよな、ジーヌ」

「もともと副脳ケースって衝撃に強くて、中の〈副脳〉を守るようにできてるけど、さすがに戦闘に使う用にはできてないじゃない」

「ま、そりゃそうだ」


 軍隊や警察にはそういったケースもあるらしい――高度一万メートルから落下して無事だったケースもある――が、一般的な高校生である慎一郎がそんなケースを持っているはずもない。


「だから強化してあげようと思ってね。魔法でね」

「ああ、それで“魔法の鎧”ってわけか」


 実際、“魔法の鎧”という表現は正しい。一般的な魔法のアイテムも同様に作られているからだ。伝説的な魔法のアイテムの中には魔法のリチャージが必要でないものもあるが、多くは数ヶ月から数年単位でのメンテナンスが必要だ。限られた設備で作られたこの“魔法の鎧”のリチャージが一週間というのはかなり優秀だろう。


『仲間達の気遣いにわしは感激に打ち震えておるぞ』

 メリュジーヌはケースを愛おしそうに撫でる。言ってみればこのケースはこの時代でのメリュジーヌの唯一の肉体とも言えるだろう。そして同時にこの“魔法の鎧は”メリュジーヌ唯一の持ち物だ。


「わたしが錬金術で素材を作って、外崎さんに形を作ってもらったのよ。ね、外崎さん」

 姫子はこよりに頭を撫でられるままにされている。

「や、やめ……なんでもありません……ぐふぅ……」

「それで、そこにあたしが魔法をかけたってワケ」

「こよりさんに外崎ちゃんに結希奈……。なるほど、それで竜王ガールズってことか」

 ようやく徹も納得顔だ。


「竜王ガールズってのはやめて! 恥ずかしいから」

 結希奈が顔を赤くして怒る。徹はそれを見てさらにからかうつもりになったようだ。

「えー、どうしようかな? デートしてくれたらやめてやめても……ぐへっ!」

 変な声が出た。結希奈が徹のみぞおちにエルボーをかましたからだ。


「結希奈……お前、手加減ってものを……」

 徹は腹に手を当てながらそのままくずおれる。

「安心しなさい。重傷でもあたしが魔法で治してあげるから」

 その言葉に、結希奈を怒らせるのはやめようと心に誓う男子生徒一同だった。

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