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戦士長ゴン5

「こっちっす!」

 コボルトは自らをゴンと名乗った。この()()()()()()()コボルト一族の戦士長を務めるという。


「あっ、斉彬殿。そこに落とし穴があるっす」

「何……? おっと……!」

 ゴンは自分で掘った落とし穴の位置を正確に覚えており、またコボルト村への案内もスムーズで、村までのルート開拓は大いにはかどった。


 複雑に入り組んだ迷路のような回廊を抜け、岩の影に隠れるように続く細い道を進み、わらで編んだと思われるシートをくぐって先に進み、十五分ほどでそこにたどり着いた。

 ――コボルト村である。




「……わぁ!」

 思わず声が漏れる。


 丸太組みにわらをかぶせた質素だが、温かみのある家、整然と整備された道々、その左右に広がる田園。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。どれもがコボルトサイズで小さいが、そこはまるで、時代劇に出てくる農村のようであった。


 そして何より驚いたのはこの小さな村が森を切り拓いて造られているという所にある。そう。ここは地下迷宮の外、〈竜海の森〉の一角にある。


 ゴンに案内され、一行は迷宮の出口からまっすぐ伸びる道を歩く。周囲にはやはり青い毛のコボルト達がせっせと働いており、ゴンの顔を見るや気さくに挨拶してくる。


 しかし、村の雰囲気はのどかというにはほど遠い。どのコボルト達も倒壊した家の修復や、荒らされた畑の整備に汗を流している。そこにはどこか悲壮感とか、諦めの感情というものが漂っていた。


『あれを見よ』


 メリュジーヌがすぐそばの畑を指さした。そこはコボルト達の手が回っていないのだろう、巨大な質量が走って行った跡がありありと残っており、無残な様子見せている。丁寧に植えられていたであろう麦の穂は折れ、また足跡の近くの麦は根から無残にも引き抜かれている。


 やがて村の広場と思われる場所――ここもイノシシの足跡でぐちゃぐちゃに荒らされている――を通り抜け、他の建物よりも少し大きめの、木造のしっかりしたつくりの家に案内された。


 そこは大きいとはいえコボルトサイズなので、人間が五人も入るにはかなり手狭だった。進められるままに木でできたテーブルの周囲に置かれている椅子――これもかなり小さい――に腰掛けるが、腰掛けてなお、斉彬などは屋根に頭がつきそうだった。


 部屋――というよりも土間に近い――には飾り気はなく、窓も小さいので昼間にもかかわらず薄暗い。入り口とは反対方向に奥へ続くであろう()()でできた暖簾がかけてあった。


「今長老をお呼びするっす。待ってて欲しいっす」


 そう言うとゴンは暖簾をくぐり、奥の部屋へと消えていった。かわりにメス(おそらく)のコボルトがやってきて、一行にお茶を出してくれた。木で作られた質素な椀に淹れられた薄緑色のお茶。


 せっかくなのでと手に取りずずず、とお茶を飲む。

 ……思わず感想を口に出しそうになったが、そこはぐっと堪えた。周りを見ると皆も顔をしかめていた。食べ物、飲み物にうるさいメリュジーヌがお茶を出されても何も言わなかった時点で気づいておくべきだったのかもしれない。『コボルトの食文化に興味はない』とつぶやいていた。


 そうしている間に奥の部屋からゴンが戻ってきた。ゴンは奥の部屋の入り口にある暖簾を開けたままにして、奥にいる誰かが入ってくるのを待っている。


 そして、奥から一体のコボルトがやってきた。


 ぱっと見、ゴンとは着ている服が違うだけのように思えたが、よく見ると青い体毛につやがなく、まぶたが垂れ下がって瞳がよく見えないなど、結構違いがあることに気づいた。このコボルトが村の長老なのだろう。


 長老は杖をつきながらよたよたと歩き、部屋の中へと入ってきた。

 杖のコボルトはゴンに促され、部屋の一つ残った椅子――これにだけ背もたれが付けられている――に腰掛ける。そして目の前の人間達を見回し、十分すぎるほど間を置いてから話し始めた。


「この度はお越しいただき、誠にありがとうございます――」

 コボルトの長老はぷるぷると震えながら慎一郎たちに礼と、これまでの事情を話した。ほとんどは事前にゴンから聞いた話と同じだったが、有力な情報を聞くこともできた。


「あのイノシシは日に一回、必ず村の中央広場を通過するのです」


 長老の話によると、それは朝なのか夕方なのか、夜中なのかは決まってはいないが、日が暮れてから翌日の日が暮れるまでの間に必ず一回だけ、イノシシは先ほどこの家に入る前に通過したあの広場を通るというのだ。


「ちなみに今日は明け方通過したので、日暮れまでイノシシは来ないでしょう」

 そう言って長老は再び奥の部屋へと引っ込んでいった。




「ここが中央広場っす」

 長老との挨拶を済ませた〈竜王部〉一行は、ゴンの案内で中央広場までやってきた。そこは文字通り村の中央にある場所で、人間の大きさでも二人並んで楽に歩ける程度の生活道路が四方に延びている。


 ここには一日一回、イノシシが必ず通り抜けていくという。確かに四方に伸びる道路はもちろん、広場の周りの畑や家々は他の場所のものよりも荒れ方が激しい。


「あまりに被害が大きいので、ここらの修復は後回しにしてるんすよ」


 なるほど確かに、村の至る所で現状復旧にいそしんでいるコボルト達の姿はここでは見当たらない。


 広場の地面は固く踏み固められていたはずだが、イノシシが繰り返し走って行くことで何度も掘り返され、挙げ句地下から漏れ出したのか、水がしみ出してすっかりぐちょぐちょになってしまっている。


 慎一郎はしゃがみ込み、そんな様子の広場の地面を見つめている。


「そういえばお前、いい考えがあるって言ってたよな」

 徹が慎一郎に声をかけた。慎一郎は立ち上がり、広場の中心を指さしながら、集まってきた部員達に言った。


「ここに、落とし穴を作ろうと思う」

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