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戦士長ゴン4

「この度はお助けいただき、ほんっっっっとうに、ありがとうっす……!! このご恩は一生忘れないっす!」


 慎一郎に助けられ、イノシシの恐怖から解放された犬は、頭を地面に擦りつけそうな勢いで慎一郎達に礼を言う。見事なまでの土下座である。


「というか、この子……」

「ワンちゃんだと思っていたのに……」

 あからさまに残念そうな女子生徒達。


「なんすか、そのあからさまに残念そうな顔は……」

 顔を上げたら目の前の女子が残念そうな顔をしていたら誰でもそう思うだろう。このコボルトもやはりそう思ったようだ。


『うむ。犬ではなくコボルトじゃの。やはりこの迷宮には亜人がおったか』


 コボルトとは犬によく似た亜人である。身長は人の腰より下と小さく、村をつくって森の中などに暮らしている。知能が高いのでペットとして飼う国もあるそうだが、日本では一般的ではない。


『それで、そなた。何故あのイノシシに喧嘩を売ったのじゃ? ここら一帯の落とし穴、あれはそなたが作ったものじゃろう?』


「喧嘩を……?」

 慎一郎の疑問にメリュジーヌが答える。


『気づかなかったか? あのイノシシの尻に何本も槍が刺さっておった。今こやつが持っておる者と同じものじゃ。それでイノシシが怒り、こやつを追いかけていたのじゃろう』

 もっとも途中でイノシシはそれすら忘れて走り去っていったようじゃがとメリュジーヌは付け加えた。


 慎一郎はメリュジーヌの質問をコボルトに伝える。メリュジーヌの言葉はゴンには届かないからだ。

「実は、かくかくしかじかで……」


 コボルトが言うにはあのイノシシが毎日、村を襲うようになり、コボルトの少なくない数が怪我を負っているとのことだ。農作物も荒らされ、このままでは村の存亡にかかわるために倒すことを決意したという。


『しかし、お主ではどう考えても無理じゃろう……』

 メリュジーヌのつぶやきに一行はコボルトを見る。短い手足、もふもふの身体。どう考えても戦闘向きではない。実際、コボルトは温厚な種族であまり戦闘能力は高くない。


 とそこで、座って事情を話していたコボルトが再び勢いよく土下座を始めた。ガバッという音が聞こえてきそうな勢いである。


「名のある冒険者の方とお見受けしたっす! どうかどうか、おいら達の村を救ってくだせえ。あのイノシシを退治してくだせえ……!」


 それだけ言うと再び地面に頭を擦りつけた。村の存亡がかかっているのだ。頭くらいいくらでも低くしてみせよう、そんな決意が感じられる。


「ねえ、みんなちょっと来て」

 少し離れた場所で結希奈が皆を呼び寄せる。土下座したままのコボルトをその場に残し、生徒達は結希奈の所に集まった。


「どう思う?」

「どうって言われても……あのイノシシを倒すのはさすがに無理だろ」

「魔法を散々打ち込んでもけろっとしてたしなぁ」


 結希奈の問いかけに斉彬と徹は否定的な見解を示した。さもありなん、あのイノシシとこれまで何度か対峙してきた中で、事前に準備をしてなお足止めをするのがやっとだった相手だ。とても倒せるとは思えない。


「うーん、確かにそれはそうなんだけど……」

「何だよ結希奈。いつものお前らしくないじゃないか」

 徹の指摘通り、言いよどんでいるのは結希奈らしくない。とそこに、こよりが助け船を出してきた。


「コボルト達の村にイノシシが来るようになったのは、わたし達のせい……とまでは言わないけど、原因の一端はあると思うよ」

「こよりさんの言うとおり! さすがはオレの嫁!」

「嫁じゃありません!」

 光の速さで手のひらを返す斉彬にこよりだけでなく一同が呆れる。


 確かに、イノシシが壁を突き破って温泉のある部屋に突っ込んでいった翌日からイノシシの動きに変化が見られた。コボルトによくよく話を聞いてみると、イノシシが村に現れるようになったのはどうもその日を境にしているようだ。これで無関係とするにはさすがに無理がある。


「けど、倒すって言ってもなあ……」

 徹が腕組みをして首をかしげる。


『シンイチロウ、お主はどう考える?』

 そこで今まで沈黙を守っていたメリュジーヌが同じく部員達の話を聞くことに徹していた慎一郎に矛先を向けた。


「おれは――」

 言って、全員の顔を見渡す。

「コボルト村に行ってみたい。ちょっと考えがあるんだ」




 まずはコボルト村へ行って状況を確かめたい。そうコボルトに告げると彼(?)は破顔し、涙を流さんばかりの勢いで喜んだ。


「あ……ありがとうっす……! ありがとうっす……!」

 コボルトはこちらがもういいと止めてもなお感謝の言葉を繰り返した。よく見ると尻尾がはち切れそうな勢いで振られていた。


「やっぱり犬ね……」

 結希奈がそうつぶやいた。そうでしょうとも。

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