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戦士長ゴン3

 そこは十字路というよりは今まで歩いていた広い道に人ひとり歩くのがやっとというほどの狭い路地が交差している場所、という方が正しいのだろう。左右に分かれて身を潜めた。慎一郎、徹、結希奈が左側、こより、斉彬が右側という感じだ。


「ったく、厄介な奴だぜ」

 向こう側の通路で斉彬が窮屈そうに身体を小さくしながら言った。彼にとってこの路地は少々狭かったかもしれないが、逆にそこまで狭い路地だから巨大イノシシは絶対に入ってこられないという確証がある。待避場所としては理想的に思えた。


 とはいえ、こうやって普段から巨大イノシシが来ないかどうかを気にして探索をするのは想像以上にストレスが溜まる。特に巡回ルートが変わってからはいつ現れるかも知れず、気が抜けない状態が続いている。


 足音はどんどん大きくなってくる。慎一郎はイノシシまでの距離を測るために顔を出した。

「危ないよ」と結希奈が心配してくれたが、「大丈夫」とそのまま確認を続ける。


 この辺りは迷路のように入り組んだ形状になっているが、イノシシが通れそうな広い道は一直線になっていて見通しがいい。いつイノシシが接近してもいいように、等間隔で明かりをともしてあるので後方の視界も良好だ。


「ん……? あれは何だ……?」

 後方をのぞき込んでいた慎一郎が思わずつぶやいた。後ろにいた徹が身を乗り出して通路を見ようとする。


「どうした? 何があった?」

 そして、おぼろげに見える巨大なイノシシの影の前方を走る小さな影に目がとまる。


「何だありゃ? 何かイノシシに追いかけられてるぞ」

「なになに? どうしたの?」

 徹が騒ぎ始めたから結希奈も何事か気になったようだ。慎一郎の足下から四つん這いになって顔を出す。


「うわ、押すなって……!」

「狭い、狭い!」

「文句言わないの!」

 そんなやりとりを行いながら結希奈も通路から顔を出す。


 その小さな影はちょこちょこと短い足を必死に動かしながら逃げるが、イノシシの方が速いので、みるみる差を縮められる。しかし道にできた落とし穴を起用に避ける小さな影とは対照的にイノシシはすべての穴に足を取られ、その都度速度が落ちているので速度の均衡がとれているように見える。


「なにあれ! かわいい!」

 結希奈が色めきだつ。イノシシに追われてちょこちょこ走っているのは青い体毛の二足で走る“犬”だった。布でできた質素な服をまとい、手には短い槍を持って懸命に走っている。


 気がつけば向こう側の通路ではこよりが斉彬の身体の上にのしかかって犬の方を見つめ、キャーキャーと興奮している。


「むおおおおおおおお!!」

 乗られている斉彬の方も別の意味で大変そうだ。


 しかし犬が危機的であることに変わりはない。よく見るとイノシシの四本の足からは落とし穴に落ちたときに中の槍が刺さった後だろうか、血が流れ出しているのが見えるが、その速度が落ちているようには思えない。

 このままではイノシシに追いつかれるのは時間の問題だ。


 そう思ったとき、慎一郎は無意識のうちに動き出していた。

 犬が目の前にやってくるタイミングを見計らって通路から飛び出し、犬をかっ攫うように掴んで小脇に抱え込むと、反対側の通路に飛び込んだ。


 反対側の通路にいた斉彬に受け止められた直後、轟音と強風が通路に吹き込み、巨大な肉体が背後を駆け抜けていった。


 助かったとひと息ついた。『無茶なことをしおって!』とメリュジーヌの抗議は無視して、腕の中の青い毛玉を見る。

 犬はまだ自分の身に起こったことが理解できていないのか、慎一郎の腕の中で大きな目をさらに大きく見開いて辺りをキョロキョロ見回していた。


 遠くからは走り去ったイノシシの足音が聞こえる。時折、ズドンという重い音が聞こえるが、あれはイノシシが落とし穴に落ちた音なのだろう。

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