エクスカリバー3
「と、いうわけで、今日からしばらくおれの新しい剣の材料探しに付き合ってもらいたいんだけど、いいかな?」
「そういう理由なら、仕方ないわね」
「うん、いいよ。浅村くんのあたらしい剣、早くできるといいね」
姫子に代わり硬貨を生徒会室に送り届けた後部室に戻り、鍛冶部でのやりとりを説明すると、部員達は快く手伝いを申し出てくれた。
「うーん……。鉄鉱石に銅鉱石。それに水晶。こんなの学校の地下にあるのかしら……?」
こよりが首をひねる。錬金術を得意とする彼女は鉱石にも詳しい。
「あのさ、これなんだけど」
斉彬は姫子が作成した集める素材リストを見ている。斉彬は一行の前衛兼、アイテム収集係だ。
「どうしました、斉彬さん?」
「いや。オレ、この石、見たことあるぞ」
「本当ですか!?」
驚きの部員達を前に斉彬は大きく頷いた。
「ああ、間違いない。前拾って生徒会に買い取ってもらった」
「ホントに!? 学校の地下に鉱脈があるのなら、そこでレムちゃんを作れば今より強いレムちゃんが作れそう」
「じゃあ、慎一郎の剣の材料の他に、こよりさんのゴーレムの材料も探すことにしましょう」
そして一行は鉱石を探しにいつも通り地下迷宮へと潜っていった。
「ここだ。ここに落ちてたんだ」
地下迷宮の入り口からおよそ一時間を歩き、たどり着いたのはこれまでにも何度か来ている場所、あの巨大イノシシと最初に遭遇した長い下り坂の終着点だ。下り坂が終わり、丁字路になっているその場所は斉彬が言うとおり、石の破片がいくらか散らばっている。
「ああ、ここかぁ。確かここって……」
「うん、あのデカいイノシシが止まりきれずにぶつかったところだな」
突き当たりの粘土状の壁の中に大きな岩が埋まっている。そこには最近できたと思われる白い傷跡が残っている。ここにイノシシがぶつかって岩が一部欠けたのだろう。
「それじゃ、少し割ってみるか」
徹が部室から持ってきた魔法陣用の紙に魔法陣を書く。これを石の表面に貼り付けて爆破するつもりだ。正確に場所を指定して魔法を起動させるには呪文だけで魔法を起動させるよりも、魔法陣を使い、そこを起点に魔法を使った方がよい。
岩の表面に魔法陣を書いた紙を貼り付け、徹が呪文を唱える。部員達は念のために数メートル離れてそれを見守る。
「爆裂!」
瞬間、耳をつんざくような破裂音と、爆破の際に生じた白い粉じんが当たりを包み込む。予想以上の煙に全員が目を擦り、咳き込んだ。
そしてしばらくして、粉じんが収まった所にあったのは――
「うわっ、堅っ!」
徹が思わず叫んだのも無理はない。くだんの岩は表面に傷が少しついただけで砕けることなくそのまま残っていたからだ。
「うーん……。やっぱり表面を爆破しただけじゃ爆破の魔力が全部外に出ちゃうから、うまく割れないわね」
こよりが岩の表面を見て分析した。
岩が割れるのは、爆破の魔法によって生じた魔力が岩に伝わり、連鎖的に爆破魔法が発生するからだが、この場合は岩に行くよりも外に逃げてしまう方が大きいからうまくいかないのだ。穴を開ければうまく行くだろうが、生憎と岩を開ける道具も魔法もない。
「そうだ! なら、これならどうかしら?」
こよりは岩の表面に両手を挙げて呪文を唱える。そして――
「レムちゃん、出ておいで!」
徹の魔法でも傷ひとつつかなかった岩がまるで粘土のように盛り上がり、自在に形を変え、しばらくするといつものゴーレムの形になった。しかし、いつもの土のゴーレムと異なり、岩のゴーレムである。
こよりは続けて魔法を使い、合計で五体のゴーレムを創り出した。ゴーレムはまるで鳥の雛のようにこよりのあとをついて回る。その姿に結希奈は思わず「かわいい~!」と頬を赤らめた。
「このままレムちゃん達に歩いて鍛冶部まで行ってもらうね」
「そりゃ楽でいいや。さすがはこよりさんだ」
重い石を持っていかなくていいからなのか、こよりの活躍を見られたからなのかはわからないが、斉彬は上機嫌だ。
こよりのゴーレムを連れて慎一郎と徹、こよりは鍛冶部部室までやってきた。
「おおおおおぉ~!」
鍛冶部部室まで隊列を組んで整然と行進してきたこよりのゴーレムを見て姫子は掃除用具入れから出てきた。目を丸くして興奮し、我を忘れている。
「はーい、レムちゃん達。整列ー。礼。解散」
引率のこよりの命令通りに姫子のまえに一列に並び、ちょこんと一礼した後、全員一斉に元の石に戻り、ばらばらになる。
「あ……」
満面の笑みを浮かべていた姫子の顔が一瞬にしてもとの仏頂面に戻る。部室に散らばった石を拾い上げてそれをじっくりと見る。
「ふひ! 品質はいい。ふひふひふひ」
「じゃ、じゃあ……!」
慎一郎と徹、こよりの顔に笑顔が宿る。
「けど、これじゃ全然足りない……足りません。これじゃその剣の三分の一のショートソードが一本、できるかどうかって所だけど……です……」
「そんなぁ……」
喜びから一転、落胆の表情に染まる。
「ならこの九倍、持ってくればいいってことだろ?」
徹の提案に姫子は首肯する。
「なら話は早い。明日にでももう一度行ってまたゴーレムにして持ってくれば……」
その話にこよりは残念そうに首を振る。
「ごめんね、浅村くん、栗山くん。わたしが一度に呼び出せるレムちゃんの数は五人までなの」
「そうなのか……。だとするとこよりさんの力を当てにするとしてもあと八回はあそこを往復しなきゃいけないな」
「距離的にも一日一往復が限界だ。そうすると八日かかる計算になるな。剣を作る時間を考えるともっとか。それまで剣がもつかどうか……」
問題山積である。三人はうんうん唸りながら頭を抱え込んでしまった。ここは八日後まで剣がもつことを祈るしかないかのように思えた――
「そ、それなら……」
そこで口を開いたのは姫子だった。一同が一斉に姫子の方を見たので、姫子は目をそらして黙り込んでしまった。
「そ、それなら……!? 外崎さん、何かいいアイデアがあるなら教えてください。この通り!」
慎一郎が勢いよく頭を下げる。その勢いに姫子は驚いたのか、一瞬身体をビクッと震わせた。慎一郎に続いて徹とこよりも頭を下げる。
「あの、その……」
姫子は目をそらして、なるべくこちらを見ないようにしながら、それでも一生懸命説明してくれた。
「八日……その、待てないんだったら……あの、えっと……。一度に……持ってくればいい……と、思います。ゴーレムを……その場で、すぐ石に戻して……一度に、えっと、持って帰ればいいのでは……ないでしょうか? ね?」
今日のようにゴーレムのまま鍛冶部まで持ってこずにその場で石に戻して、石を運んでくればいい。しかし――
「それはいいアイデアだけど、さすがにそんなにたくさん鉱石は持ちきれないなあ」
「いくら斉彬さんでもそれだけの量は持てないよなあ」
姫子から求められている石の量はおそらく百キロを超える。男子三人で手分けしても持ちきれるものではない。
「やっぱり、何日かに分けて――」
しかし、そこに対する答を出したのも姫子だった。
「〈転移〉の魔法を使えばいい……と、思います……ふひ」
〈転移〉の魔法とは離れた二点間を接続して、瞬時に移動することができる魔法だ。このタイプの魔法には使用可能距離や使用の際の条件などによって多くの魔法が存在するが、高校生である彼らに使えるのは離れた二点で同時に魔法を唱えて門を開く、もっとも初歩的なやり方だ。
「なるほど。それは思いつかなかったな。けど問題は……」
「誰かが部室に戻って門を開く必要があるってことね」
そう、この魔法の最大の弱点は誰かがあらかじめ転移先に残って門を開かねばならないと言うことにある。部員数が少なく、全員が迷宮探索に繰り出している竜王部には取ることのできない戦法だった。
「しかし、背に腹は代えられない。俺かこよりさんか結希奈のうち誰かが残って……」
「わ、私がやろうか? ふひ!」
「けど、戦力の低下が……え?」
その声はあまりに小さかったので、一瞬聞き逃しそうになった。聞き逃しそうになったが、確かに姫子はそう言った。「私がやる」と。
「外崎さんが……!? 本当にいいの?」
慎一郎の問いに姫子がこくりと頷く。
「た、戦うんじゃないなら……私にも……で、できそうだから……ふひ」
そう言った姫子は笑顔を浮かべていた。――引きつってはいたが。




