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学園生活3

「浅村君。君の〈竜王部〉には、独自に動いてもらおうと思う」


 部長会後の会議室。他の部長達はそれぞれ部員に今後の役割分担を告げに行き、残っているのは〈竜王部〉部長の慎一郎と菊池やイブリースなど、生徒会役員のみ。


「はぁ……。独自……ですか?」

 先の部長会で唯一、名前が出なかった竜王部。その部長である慎一郎は怪訝な表情だ。全校集会の時からメリュジーヌは眠っているのか、全くリアクションがない。


「そうだ。竜王部にはある意味、生徒達の“希望”となってもらいたい」


「希望……?」

 わけがわからない。


「あなた達にはここから外に出る方法を探していただきます」

 菊池に代わって副会長のイブリースが説明した。


「出る方法……って、そんなのあるんですか?」

 知っているなら早く言って欲しかった、非難の瞳で二人を見る。


「いえ……出る方法については私たちも把握はしていません。ただ……」

「君たちがその鍵を握っている……と言ったら?」

「どういう……ことですか?」

 菊池はその問いにすぐには答えず、窓際まで歩き、外を見ながら言った。


「君たちが〈竜王部〉の活動で言っていた地下迷宮。あそこに鍵があると我々は見ている」


「……! どうしてそれを……」

 菊池の発言に慎一郎の瞳が驚愕に開かれる。

 地下迷宮のことは部員だけの秘密だ。入り口にビニールシートをかけて見つからないようにしていた。


 しかし、万全だったかと言われると心許ない。これまで結希奈やこよりが着いて来た例を挙げるまでもない。


「あの地下迷宮はおそらく、君たちが考えているより相当広い。このタイミングであの不自然な迷宮が見つかった。事件と関係あるとしても不思議ではないだろう」


 確かに、一理ある。


「それでおれ達に脱出の方法を探せと……?」

 菊池は無言で頷いた。


「地下迷宮にはモンスターが出現すると聞いています。そこで生徒会は一般の生徒の立ち入りを禁止すると共に、すでに迷宮探索に関して一日の長のある竜王部にこの役割を担っていただきたいと考えているのです」

 イブリースのその赤い瞳に見つめられると身体が動かせなくなるような気がする。


「どうだろう? 引き受けてもらえないだろうか?」

 こんな時にメリュジーヌがアドバイスをくれたらと思うが、先ほどから眠っているのか、全く返事がない。


「引き受けてくれた場合はもちろん、生徒会として全力のサポートをさせていただきます。食料や装備の優先供給、可能な限りの情報提供、必要に応じて人員の確保も承りましょう」

 菊池とイブリースはたたみかけるように条件を提示する。


「もちろん、断ってくれても構わない。その時は〈竜王部〉には他の部と同じように他の作業を受け持ってもらうことになるが、どの作業であっても迷宮探索よりは安全だろう」




「それで、引き受けたわけ?」

「まあ。そう……なるかな……」

「あっきれた! あたしたちに何の相談もなしに、そういうの決めてきたの?」

 慎一郎の答えに結希奈が憤慨する。


「いや、だけど……やるだろ?」

「あったり前じゃない!」結希奈は怒っているのか興奮しているのかわからないような様子だ。

「まあ、当然だよな」徹は微笑を浮かべて楽しそうに言った。

「わたしはみんなの決定に従うよ」こよりも優しげな笑顔で言った。

『わしも異論はない。楽しそうじゃしの!』起き抜けのメリュジーヌは脳天気に言った。


「そう言うと思ったから引き受けたんだが。それでも問題あったか?」

 慎一郎は部員を見渡し言った。


「問題はあるけど……まあ、反対もないし、いいんじゃないの?」

「それで? この森センパイはどういうわけで竜王部に?」

「おう! 斉彬でいいぞ!」

 徹の質問に斉彬は自分の胸を強く叩いて答えた。背が高くて筋肉質だからその絵が様になる。


「それじゃあ、斉彬さん……? 竜王部に入部希望なんですよね?」

「おう! と言っても、生徒会との兼部だけどな」

 先ほどの全校集会で兼部は認められたばかりだ。生徒会役員自らがそのルールを適用することになるらしい。


「オレは役に立つぜ! こう見えて去年は野球部のエースで四番だったのさ!」

 そう言って斉彬はバットを振る仕草をする。そのスピードはかなりのもので、バットがないにもかかわらず近くに立っていた慎一郎に風が届いたほどだ。


『ほう。奇妙じゃが、なかなかよい振りじゃな。戦士としての素質がありそうじゃ』

 メリュジーヌが満足そうに頷いた。


「生徒会長が一番竜王部の役に立ちそうだからって推薦してくれたんだ」

 そう説明する慎一郎に斉彬は何故か誇らしげだ。


「それで、どうするんだ?」

 徹が慎一郎に聞いた。慎一郎は逆に皆に問う。

「どう、って……おれは入部してもらいたいけど……。仲間は多いほど探索が楽になる。みんなはどう思う?」


「あたしは構わないわよ。面白いことになりそうだし」

 結希奈はそう言って意地の悪そうな目つきでこよりの方を見た。

「もう、結希奈ちゃん、からかわないでよ!」


「こよりさんはどうなの? 嫌なら断るけど」

 そう提案する慎一郎の言葉にあわせて、斉彬の表情がみるみるしぼんでいく。


「え……? わたしも入ったばかりだし……。みんながいいなら、わたしもいいよ」

 小さくガッツポーズを繰り返す斉彬。こよりの賛成がよほど嬉しかったらしい。


「俺も構わないよ。お前が言うように、戦力は多い方がいいからな。よろしく、斉彬さん」

 徹が手を差し出し斉彬と握手した。「こちらこそよろしく」と斉彬。


『わしも賛成じゃ。またひとり、わしの臣下が増えたというわけじゃ。ナリアキラよ、そなたにはわしの親衛隊長を任命するぞ。光栄に思うがいい』

 その話を聞いた斉彬は、メリュジーヌを指さし、言った。


「……なあ、何で小学生がこんな所にいるんだ? 誰かの妹?」

 斉彬とは先ほど〈念話番号〉を交換したばかりだ。メリュジーヌのことについての事情も説明していない。


『むきーっ! わしを子供扱いするなーっ!』


 メリュジーヌが顔を真っ赤にして怒り、部室内で暴れ回ったが、彼女の姿は〈念話〉による映像でしかないので気にする者は誰もいなかった。

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