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竜海の巫女3

 校舎の前で足を止めた結希奈は、油断なく周囲を確認する。

 身を隠せそうな場所はそれこそ山のようにあるが、何者かが隠れているようには思えない確信があった。それどころか普段は生徒達の活気で溢れている校内からはまるで全ての生徒達が消えてしまったかのように静まりかえっている。


 その静寂の中で、背後に小さなかさ、という葉がこすれ合う音がした。

「……!!」


 後ろを向くと、すぐ背後にまで靄が迫ってきていた。先ほどの音は靄が木の葉に触れたときに生じた音だった。


「……っ! 風よ!」

 いつの間に持っていたのか、〈副脳〉にセットされた魔法を無詠唱で発動させる。菊池から授けられた杖から突風が吹き出して靄を吹き飛ばした。

 しかし靄はまるで何事もなかったかのようにすぐにその形を復元させ、さらに結希奈に迫り来る。


「どうにかしないと……!」

 結希奈は校舎の間を走って本校舎の昇降口の前まで出てきた。目の前に広がる校庭はヴァースキとの戦いで腐り、荒れ果ててしまったはずだが、目の前の校庭はどういうわけか一面のトウモロコシが実っていた。


 何もかもがおかしい。しかしそれをおかしいと思う余裕もない。結希奈が振り返ると、靄はさらに成長し、四階建ての本校者を包み込むように乗り越えてくるところが見えた。


「くっ……!」

 結希奈は杖を構えて呪文を詠唱し始めた。同じ呪文を同時に二つの〈副脳〉にも行わせる。自分自身とあわせた三重詠唱だ。


「世界を包み込む優しき風の力よ。我の呼びかけに応え、その力を表わせ。襲いかかる脅威を切り裂く刃と成せ……風よ!」

 無詠唱の魔法とは比較にならない暴風が校舎にもたれかかる靄に襲いかかり、それらを千々に切り裂き吹き飛ばす。


 しかしそれは一瞬のことであった。靄は先ほどにもまさる勢いで校舎を包み込む。その勢いで結希奈自身も捕らえようとその暗黒の腕を伸ばす。


「風よ! 風よ!」

 無詠唱の風魔法を連続で唱える。最初は小枝を振り回していただけでも追い払うことができた靄であったが、もう風の魔法でも散らせることができない。


「…………っ!」

 靄が結希奈の身体全体を包み込もうとする。なすすべもない。結希奈は身を固くした。


 その時、天空から一条の光が差し込み、暗黒の靄を切り裂いた。


「ひゃっ……!」

 靄に掴まれ、引っ張られるのを抵抗していた結希奈はその力がいきなりなくなった影響で思わず尻餅をついてしまう。


 尻餅をついたことで上向きになった結希奈の瞳に、空から無数の光が降ってくるのが見えた。

 青空から降り注いでくるそれは雨のようで、しかしその光の中に強大な力が込められていることはひと目でわかる。


 次々降り注ぐ光は雨が泥を汚れ落としていくように靄を切り裂き、切り裂かれた靄はそれ以上育つことができず千々に霧散していく。

 光は校舎に、中庭に、通路に、渡り廊下に降り注いで靄を洗い流していく。校舎全体を覆うほど巨大だった靄はやがて、跡形も残らず消え去った。


 結希奈は立ち上がり、辺りを見渡す。もうあの不気味なもはやなく、いつもの北高に戻っていた。


「…………」

 結希奈の目の前に刺さった一本の剣。それは最初に降ってきて結希奈を救った光だった。〈エクスカリバーⅢ改〉。


「結希奈!」

 声に振り返ると、部室棟の屋上に人影を認めた。結希奈は笑顔になり、周囲に無数の剣――〈エクスカリバーⅢ改〉を従えるその人物の名を呼ぶ。


「慎一郎!」

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