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こより4

 昼食からおよそ一時間。出口への道を塞がれた一行は別の出口を探して地下迷宮をさまよっていた。出てくるモンスターは断続的で、それほど脅威ではなかったがさすがに朝から歩き通しで体力の消費が激しい。


「ここらでひと休みしようか」

 言って、慎一郎は手近の岩に腰掛ける。


「はい、お水」

「あ、ありがとう」

 結希奈がすかさず水を差しだしてくれた。何だかマネージャーみたいだなと思うと同時にちょっと照れくさかった。


「ふぅ~、疲れた……」

 徹が腰を叩きながら漏らす。


『情けないのぉ。これじゃから最近の若いもんは』

「うふふっ、ジーヌちゃん、まるでおばあちゃんみたい」

『なっ……! コヨリよ、ひとつ言っておくが、わしは年寄りではない!』


 昼食から数時間が経過。いつもの放課後では実現できないほどの距離を進んでいるものの、未だ出口らしきものは発見できていない。


「今、どの辺りなんだ?」

「ん? えっと……」

 慎一郎の問いに徹がマッピングをしていたノートをめくる。


「そうだな……あれ? ここって入り口の辺じゃないのか?」

「まさか。こんな景色、見たことないぞ」


『おそらく、入り口の真下であろう。緩い下り坂は気づきにくいものじゃしの』

「それじゃあ、ここの天井を突き破れば最悪、出られそうだな」


「その時は細川さんに頼もうか」

「あれ……? わたしすっかり力持ちキャラにされちゃってる?」


 こよりは意外にも奮戦していた。錬金術を学んでいたということに加え、やはり二年生だからなのだろうか、慎一郎達の知らない魔法も多く知っており、特に“レムちゃん”と名付けたゴーレムとの連携は一日の長を思わせた。ちなみに、彼女のメイン武器は腕に纏わせた石のかたまりである。




「よし、そろそろ行こうか」


 小休止を挟み、再び日の当たらぬ地下の道を進む。複雑に分岐している道のひとつひとつを潰して、丹念にマッピングする。実質的に道に迷っているときには地道だがこれしかない。


「おい、お前の座ってるその岩……」


「ん?」

 徹が慎一郎の座っている岩をじっと見る。慎一郎が立ち上がると、徹は岩の所まで歩いてきて、岩を両手で押した。


「やっぱり。この岩動くぞ。慎一郎、手伝ってくれ」


 徹は慎一郎と協力して岩を押す。すると、鈍い音とともに少しずつ岩が動いた。そこには、人が這って入れるほどの小さな穴が広がっていた。


「真っ暗だな……。慎一郎、中を見てきてくれないか?」

 徹の提案に慎一郎が驚く。

「ええっ、おれが!?」


「そりゃそうだろ。中に何かがあったとして、俺たちじゃ対処できない。ここは前衛の慎一郎に行って貰わないと。そうだろ、結希奈、こよりさん」


「頼んだわよ、浅村」

「応援してるわよ~」

 女子達は徹のプランに賛成のようだ。


「くっ、ずるいぞ徹……」

 形勢不利の慎一郎の顔がゆがむ。


『まあ、仕方あるまい。このわしがついておる。心配するな』

「い、いや! ここは公平にじゃんけんだ! じゃんけんしかない!」


「慎一郎、お前……女々しいぞ」

 あきれ顔の徹。


「いいんだ! 女々しくてもおれはじゃんけんを希望する!」

「よしわかった。じゃあ、俺と一対一だ。負けた方がこの奥に行く。いいな?」


「わかった。男に二言はない」




 五十センチ強ほどしかない高さの道を這って進む。穴に入る前に徹が用意してくれた〈光球〉の魔法――慎一郎を自動追尾してくれるよう設定してある――のおかげで視界に不安はない。〈竜王部〉の中でもっとも体格のいい自分がこんな狭い通路を通っていることに疑問を持たないといえば嘘になるが、仕方がない。


「悪いな、俺じゃんけん強いんだよ」


 先ほどのじゃんけん勝負の後の徹のしてやったりという顔が頭にこびりついて離れない。


『どうだ? 何か見えるか?』


 その徹からの〈念話〉だ。離れたところのやりとりに〈念話〉は非常に便利だ。あまり離れすぎると中継装置がなければ届かなくなるのが欠点だが、この距離なら全く問題はない。


「相変わらずだ。這って進んでる。お、天井が高くなった。立てるくらい高いな」


『奥はどうなってる?』


「暗くてよくわからない。もう少し進んでみようと思う」

 と徹に言い、先に進もうとしたが――


『待てシンイチロウ。この先に気配を感じる』


『大丈夫か?』

 メリュジーヌ――今は映像による姿を表示していない――の忠告に徹が反応する。


『小さい気配じゃが、数が多いな……おそらく、入り口付近でよく見かけるネズミじゃろう』


 それからふむ、とメリュジーヌは少し考えて、そして

『トオル、ユキナ、コヨリ。来い。おそらく全員で対処した方が良いじゃろう』


『わかった、今行く。結希奈、こよりさん――』




 少しして三人がやってきた、三人とも服に砂がついているが、十分に乾燥している砂なので、払えば落ちたようだ。


「わ。結構広いのね」

 こよりが感嘆の声を上げる。結希奈も目を丸くしている。


「この先か、敵がいるのは?」

『うむ、これまでよりちと数が多い。もしかすると、ネズミどもの巣かもしれんの』


「うぅ、わたし、ネズミ苦手なのよねぇ……」

 こよりが自分で自分の肩を抱いてぶるっと震える。おそらく、本当に苦手なのだろう。


「大丈夫、いざとなったら俺が守ってやるって」

『トオルのいつもの調子が始まったの』

 本気で言っているのかそうでないのかはわからないが、徹の軽口でその場の雰囲気が和らぐのはいつも通りだ。徹は一行に欠かせないムードメーカーなのだ。


「ネズミって、入り口でよく見かけるモンスターだろ?」

 奥の暗がりを見ながら慎一郎が問う。


『うむ。この気配は間違いないの』


「なら、ここから入り口に行ける通路があるんじゃないか?」

『そうじゃな。ネズミしか入れない大きさの通路でなければいいがの』


「レムちゃんが通れる大きさなら、手紙を持たせて助けを呼びに行けるわよ」

 こよりが地面に手をついて言った。戦闘にゴーレムも参加させるのだろう。


「それはできることなら勘弁して欲しいな……」

「そうだな。ここへの立ち入りが禁止されそうだ」


「いつもこんな危ないことしてるの? できればやめて欲しいんだけどな……」

 こよりはそう言って地面から手を離す。地面の土塊がもこもこと動き出して小さな人型――ゴーレムのレムちゃんの形になる。


「まあ、それはここを出てから相談ということで……」

 と言いつつ徹は言いくるめる気満々である。この手のことは徹の得意分野だから任せることにした。


「よし、行くぞ。みんな、気を抜かないように。逃げ道はないから、焦らず、慎重に」

『シンイチロウの言うとおりじゃ。負ける相手ではないが、数が知れぬ。少しでも傷を負ったらすぐに回復するのじゃ。油断大敵だとゆめゆめ忘れるな』


「回復なら任せて!」

 巫女服で腕まくりするのはどうかと思うが、この場での結希奈は非常に頼りになる。


「呪文の詠唱は終わってる。今日仕入れた新魔法、見せてやるぜ」


「レムちゃん、いくわよ」

 各々が返事をして準備が整ったことを伝える。


「よし」

 慎一郎が徹の方を見る。お互いに目配せをして、慎一郎が抜剣する。


「行くぞ!」


 慎一郎を先頭に、通路の暗闇の奥へと走って行く。するとすぐに闇の中に無数の光る点が見えてきた。ネズミの瞳が光球を反射しているのだ。


「氷の(つぶて)よ!」

 徹の声を合図として戦いが始まった。

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