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戦士と巫女3

聖歴2026年4月28日(火)


「いやいや。俺、家から呼び出しあったから帰るって言ったぞ。お前にも、ジーヌにも」

 翌日の放課後、体育館裏から木々を抜けてほこらの残骸がある場所へと歩いて行く。その時、昨日黙って先に帰っていった徹に苦情を言うと、こんな答えが返ってきた。


「そ、そうだっけ……? メリュジーヌ、お前、気づいてた?」

『いや、わしも夢中になっておったから、全然気づかんかった』


「ったく……。まあいいや。で、どうなの? 慎一郎の剣の腕は?」

『まあまあじゃな。一度も剣を握ったことがないにしては上出来じゃ。わしというよい師がおったからじゃと声を大にして言わせてもらうがの』


「はいはい、感謝してますよ」

 そう言う慎一郎の腰には三本の剣が差されている。通学鞄の中にはドラッグストアでそろえた若干のアイテム、さらに〈副脳〉を肩からぶら下げている。これが今日の迷宮探索の装備だ。


「んじゃま、行きますか。未知への冒険の旅へ」

 迷宮への入り口にかけたビニールシートを外そうとしたときに手が止まった。


「……?」

『どうした、トオルよ?』


「俺、前に帰るとき、ビニールシートに土、かけておいたよな?」


 前回迷宮から出たとき、入り口を第三者に見つかってしまわないようにビニールシートをかけた。それは上に土をかけてカモフラージュするためだった。


 しかし今、土だけが丁寧に取り払われている。

「確かに……。誰かが掃除したようにも見えるな」


 そう言われてみれば、近くの木が倒されてほこらは破壊されたのだが、周囲に散らばっていたはずのほこらの残骸もなくなっている。さすがに潰されたほこらと倒れた木自体はそのままになっているようだが……


『……! 誰じゃ!』

「……!」

 メリュジーヌの鋭い声飛んだ方向で、小さな影が木の裏に見えた。


「誰かいるのか?」

 慎一郎が声を掛けるとその人物は渋々といった感じで姿を現した。


 慎一郎の肩ほどしかない小柄な女性。腰に届きそうなほど長い黒髪を肩のあたりで簡単に結わえている。

 白衣に緋袴(ひばかま)――巫女装束を着用していることから、巫女であることがわかる。加えて薄化粧のおかげだろうか、少々つり目であるにもかかわらず、柔和な印象を受ける。

 年の頃は中学生くらいにも見えるが、化粧のおかげでよくわからない。


「おっ、なかなかかわいい……」

 徹がすかさず反応するが、それは無視。


「えっと……どちら様?」

 慎一郎の問いに巫女装束の少女は「え?」と驚いた様子だったが、その問いには答えなかった。代わりに――


「ここはうちの神社の敷地なんだけど……」

「うちの神社……? って、竜海神社?」


 北高の敷地は近隣にある〈竜海神社〉からすべてを借り受けている。そのため、北高の敷地はすべて〈竜海神社〉の敷地であると言ってもよい。


「このほこら、竜海神社のものだったのか……。って、考えてみれば当たり前か」

 慎一郎が感心したように言う。


「それで、勝手に入ると……」

「え!? ああ、大丈夫。俺たち、すぐにここから離れるから」

 そう言うと徹はビニールシートをめくりあげ、地下へ通じる入り口を露わにする。女の子は目を見開き、驚きの表情を隠さない。


「んじゃ、行こう」

 そう言って地下へと入っていった。もちろん、女の子の「ちょっと待って」という声は聞こえなかった。




「光よ!」

 徹のその声で頭上に明かりがまたたき、あたりを照らす。石造りの通路が奥に続いているさまは、先週来たときと同じだった。


「じゃあ、おれが前衛、徹が後衛で」

「了解」


『む、お主も来たのか?』


 後ろを見ると、巫女装束の女の子が階段を下りてきたところだった。女の子は不安げな表情であたりを見渡しているが、光源の近く以外は明かりもなく、真っ暗なので何も見えない。


「えっ!? 着いて来ちゃったの? 危ないからダメだよ」

「え、でも……。ここも神社の敷地だし……」

 階段の壁に身を隠すように寄り添い、消え入りそうな声でそう言った。今にも泣きそうなのは暗い迷宮を恐れてか、男子生徒二人を恐れてのことか。


「けどなあ……ここ、モンスターも出るし、結構危ないよ?」

 徹が小さい女の子に諭すようにそう言うと、女の子はさらに怯えたように身体を小さくして隠れてしまう。


「で、でも……。こんな地下道あるって知らなかったし、放っておくわけには……」

 どうやら、神社の巫女としての責任感が彼女を後押ししているようだ。それにしては不安げな様子で身体も半分ほど隠しているようだが。


「でも、そんな危ないところに、こんな小さな子を連れて行ったら危ないと思います……」

『わしは子供ではない!』

「ひっ……! ご、ごめんなさい……」

 驚いた女の子は再び隠れてしまった。


「と、いうわけで、君を連れて行くわけにはいかないんだ。ごめんね」

 慎一郎が優しく諭すが、女の子は意外にも強情だ。壁の向こうから再び顔を出し、

「でも……」


「まいったな……。このまま無視して先に行くわけにもいかないし……」

『ま、よいのではないか? わしの見立てでは近くに強力なモンスターはおらん』


 結局、いつまでもここで押し問答している時間もないし、メリュジーヌのお墨付きがもらえたということもあって、女の子も連れて行くことになった。

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