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混沌の迷宮1

 光差さぬ場所に男は立つ。目の前に誰かがいてもわからないほどの暗さだが、男にとってはそれがちょうど良かった。彼にとって世界は明るすぎる。


 暗闇の中にさらに暗い一帯がある。仮にそこに光があったとしても闇に囚われて永遠に抜け出せないのではないかと思わせるような完全なる闇。

 それは彼が描いた魔法陣だった。


「――――――――――――――――」

 静寂を破るように男は呪文を唱える。それは何か言っているようにも何も言っていないようにも、意味があるようにも何の意味がないようにも感じられる不思議な言葉。


 いや、それは本当に言葉なのだろうか……?


 男が呪文を唱えるたび、まるで周囲から闇を奪っているかのように魔法陣の中心部がより暗くなっていく。もし、そこに彼ら以外の観測者がいたとするなら、さらなる闇の先がまだあることに驚いたことだろう。


 しかし、そこに余人の姿はない。


 つぶやくような、歌い上げるような呪文が終わる。再び訪れる静寂。

 しばらくして、もっとも闇の深い魔法陣の中央部分で何かが動き出した。

 ()()は、まるで音を出すことを禁じられているかのように立ち上がった。


 男はにやりと笑った。成功だ。男の目には魔法陣の中心で立ち上がった少女の姿がくっきりと映し出されている。

 まるで周囲の闇をかき集めて染めたような漆黒を基調とした袴姿の少女はうつろな瞳で男を見ている。


 〈黒巫女〉――闇の力で  を染め上げる、闇を司る巫女だ。


「やるべきことは、わかっているだろうな?」

 男の問いに〈黒巫女〉が答える。


「――はい」

 〈黒巫女〉はうつろな表情をして、しかしはっきりと答えた。


 その答えに男はにやりと笑う。成功だ。

 これは大いなる復讐への第一歩に過ぎないが、この先に復讐の成就があると考えると普段笑うことなどない男をもってしても笑みがこぼれることを抑えることはできない。

 声もなくひとしきり笑った後、男は唐突にぱん、と手を叩いた。


 その瞬間、〈黒巫女〉はまるで操り人形の糸が切れたかのようにその場に崩れ落ちる。

 と同時に、〈黒巫女〉から溢れ出していた闇のオーラは彼女の身体の中に収まり、〈黒巫女〉は普通の少女に戻っていた。


 力を使うその瞬間だけ〈黒巫女〉であれば良い。それまでは普通の女子生徒として生活していた方が周囲の目も偽れるというものだ。


 男は少女を担ぎ上げて光差さぬ場所をあとにする。しばらくは光の中で生きなければならないが、復讐さえ成就すればこんな場所とはおさらばだ。


 いや、世界を自分好みに作り替えるのも悪くないな。


 そう考えると男は再び普段使うことのない表情筋を再びつり上げるのだった。

 そして闇には再び静寂が訪れる――

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