表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/424

牛の歩みも千里5

「ちょ……! 何で! 俺が!」


 斉彬に担がれた徹が抗議の声を上げる。その身体はロープでぐるぐる巻きに固定され、身動きひとつ取れない。そんな状況であっても暴れていないのは暴れると本気で危ないことがわかっているからだろう。


『何でって、そりゃ、お主が男の中では一番軽いからじゃろ。それとも何か? お主はかような場所に女子(おなご)を放り投げるつもりでも?』


「……くっ。そう言われると何も反論できねぇ。斉彬さん、頼むから手荒なまねはしないでくれよ?」

「任せておけ! このオレを信じろ!」

「信じる……信じられるのか?」


 斉彬が縄で縛られた徹を担いだまま井戸の横まで来た。その脇にはこよりが召喚した土のゴーレムが三体、待機している。

 上から覗いても何もわからないのだから、ならば中に入ってみようとなるのは当然の流れだ。それで白羽の矢が立ったのは男子の中でもっとも体重の軽い徹というわけだ。言い出しっぺでもある。


 何かあったときのためにすぐ引っ張り上げられるよう、徹には過剰なほど厳重に縄がくくりつけられている。合図があったら慎一郎と斉彬、それにこよりのゴーレム達で一気に引っ張り上げる計画だ。


「護りの魔法、かけておいたわ。引っ張り上げるときに壁にぶつかっても痛くないはずだから」

「へいへい。結希奈さんの心遣いに感謝ですよー」

 結希奈に魔法をかけられて淡く光っている徹はぶっきらぼうに答えた。だが本気で憮然としているわけではないだろう。


「それじゃ、行くぞ。栗山、いいな?」

「お、お手柔らかに……」

 と、徹に言われたのもかかわらず、斉彬は勢いよく徹を井戸の中に投げ込んだ。


「そりゃぁぁぁ……!」

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 悲鳴を上げる徹の声が少しずつ小さくなっていく。それでも壁にぶつかった音はしていないから、結希奈の魔法が効果を発揮しているのだろう。


「どうだ、徹? 大丈夫か?」

 慎一郎が井戸をのぞき込んで声をかけた。しばらくして返事が返ってきた。


「くそう……斉彬さんめ。あとで覚えてろよ!」

 悪態をつけるということは大丈夫だろうと判断して、慎一郎は徹に指示を送る。


「まだ底には着いてないな? もっと下ろすぞ」

「待ってくれ。明かりを付ける。……〈光よ〉! よし。オッケー。ゆっくり下ろしてくれ」

 斉彬に伝え、さらに徹を下ろしてもらう。さすがに今度は斉彬も悪ふざけはしない。


 しばらくすると徹の声が聞こえてきた。

「下が明るくなってきた」

「明るく……? どういうことだ?」

「わからん。だが、井戸の底が見えるな」

「どうなってる?」

「何もない。ただ井戸の底の土が見えるだけだ。……いや、ちょっと待ってくれ。井戸の底に横穴があるな。もうちょっと下ろしてくれ」


 さらに下ろしていくと、やがてロープ越しに感じられた徹の体重がふっとなくなった。ロープも緩んでいる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ