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牛の歩みも千里3

 バレー部。

 部員は松井翔子、十亀ななみ、源田千春、多和田心の四人。いずれも一年生である。


 実は部員はこれだけではない。本来ならば部員は十名強いるのだが、()()()()()()()()()()()部員はこの一年生部員四人しかいないのだ。


 あの北高が封印された五月九日土曜日。バレー部の練習は休みだった。


 それほど熱心な部でも、強豪でもなかったバレー部は普段から土曜日は休みだったし、平日も何かにつけて練習がない日が多かった。部というよりは同好会に近いノリだったのだ。

 しかし、入学間もなく、意欲も高い一年生の四人は、これではいけないと思い、一年生だけで毎週土曜日に集まって練習していたのだ。二年後、彼女たちが三年生になったときの全国大会出場を目指して。


 それが(あだ)となった。


 バレー部は本来、封印騒ぎに巻き込まれないはずだったのに、熱心な一年生の四人だけが巻き込まれてしまう結果となった。

 封印以降、バレー部は生徒会の役割分担に従って園芸部の手伝いで作物を育てていたが、〈北高円〉の導入とともに持ち前のやる気を発揮して園芸部から独立、独自に作物(フルーツ)を育てていた。


 六月下旬、育てたフルーツと魔法の力で凍らせた氷を使ってかき氷屋をオープン、女子生徒を中心に人気を博していく。


 そして七月六日。夏のスイーツ第二弾としてアイスクリームの販売を開始。これが本人達も驚くレベルでの大ヒット商品となり、風紀委員会の介入をも巻き起こす大騒ぎとなった。


 それから一週間後、バレー部は突如として大ヒット商品、“アイスクリーム”の販売を終了した。直接的な騒ぎはなくなったが、アイス販売の再開を懇願する声は非常に大きい。


 これに対してバレー部は沈黙を守っている。




聖歴2026年7月15日(水)


 その日の探索を終え、姫子の〈転移ゲート〉の魔法で外へ出たのは、裏庭にある焼却場の隣、鍛冶部の炉の前だった。

 午後七時だというのにまだ明るい裏庭に姫子が鉄を叩く音が響く。鍛冶の作業中に結希奈からの連絡があって〈転移門ゲート〉を開けてくれたのだろう。

 慎一郎がそのことについて礼を言ったら姫子は作業をしながらこくんと頷いた。


「外崎ちゃん、何作ってるの?」

 徹が興味深そうに姫子の作業の様子をのぞきこむ。姫子はそれに振り返ることはなかったが、徹の声は聞こえていたのだろう。ぼそりとつぶやくような声で答えた。


「カマ」

「カマ?」

「そう……」

 姫子は半身を起こして徹達が見えるようにしてくれた。


 姫子が叩く鉄の塊はゆるくカーブがかかっていて、円弧の内側に刃がある。取っ手を付ければ草を刈る鎌だ。

「え、園芸部に頼まれた……の、です……」


 どういう理屈か不明だが、今の北高は作物の生育が異常に早く、一年草などはおよそ三日で収獲が可能になる。当然、それらを刈り取る道具類もそのペースで使用するわけで消耗が激しい。それで姫子は鍛冶部として二十個の鎌を受注したらしい。


「外崎さん、もうすぐ暗くなるので、適当なところで切り上げてくださいね」

「わか……りました。これで終わる。……おわります」

 一行は作業中の姫子を残して部室へと戻っていった。




 この季節は一年でもっとも日の長い季節だが、それでもこの時間の、しかも廊下側となるとかなり暗い。

 それでも明かりを付けるほどではないので、薄暗い廊下を皆で進んでいく。

 こういう時に旧校舎四階隅というのは遠く感じる。一日探索をして身体は休息を求めている。荷物が肩に食い込んで痛い。荷物を置いてゆっくりしたい。


 そんな気持ちで言葉少なに階段を上り、四階の廊下を歩いていくと、部室の前に人影があるのに気がついた。

 向こうもこちらに気がついたらしく、壁により掛かっていたその人物はこちらを向いてぺこりとお辞儀をした。背の高い、ジャージ姿だ。細い身体から女子生徒とわかる。


「あれぇ? 松井ちゃんじゃん! どうしたの? もしかして、デートのお誘い?」

 徹が色めき立つ。とうやら部室の前で待ち構えていた生徒は松井というらしい。


 部室の前まで来た部員達を前に、松井は心持ち緊張したような様子で、しかし、意を決したように口を開いた。


「〈竜王部〉のみんな、お願い。私たちを――ううん、バレー部のアイスを救って!」


「……は?」

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