8.悪魔の王子様
最悪だ。微かに信じていた私の王子様は悪魔だった。悪役が可哀想になるくらいの雰囲気で、颯爽と遊牧民族と正規兵を倒しその流れで私達の次の主人になった。
「出発だ。今日からお前らは俺の奴隷だ」
そう告げた新しい主人はどうやら遊牧民族の置いていったジャケットを来たようで血の匂いはかすかにしたものの、見た目はどこからどう見ても遊牧民族である。
「おいそこの誰か、誰でも良い」
「は、はい」
奴隷の仲間で1番前に座っている人が答える。
「馬車ってどうやって進ませるんだ?」
「ええと、私も見ただけなのであまり詳しく無いのですが...」
「それでいい、早く言え」
「ええと、確か手綱を弾くと進め、引くと止まれだった気がします」
「分かった」
そう言うと主人は手綱を弾いて馬車を進ませた。
ガラガラガラガラと足場が悪い中、30分ちょっとで着いた。
「1人で走った方が速いな」
主人ならそうだろう。この場では私たちが足でまといだ。
「おい、そこの馬車!止まれ!」
門番の兵士が、槍を構えて警告する。
「見たところ遊牧民族の様だが奴隷を輸送中、何か怪しい」
「いえいえ、私は交易で手に入れた民族衣装を着ているだけですよ」
良くもまあ口から出任せが出るもんだ。もちろん、奴隷たちはそれが嘘などと指摘はしない。この場の強者が誰かは分かっている。特に奴隷はそれが敏感だ。
「ほう?交易で民族衣装ねぇ」
「まあ、そう言われた所で証明出来ないのは分かります。まあ、この都市には通り抜けと少しの補給出来ただけですよ。街の皆さんには、害を加えないので、ね?」
そう言って主人は何かを渡した。あれは賄賂だろうか。まあ、この世界ではこんな光景どこでも見られる。第一、あの兵士だってそれ目当てで難癖付けたのだろう。
そして、主人は門を通り抜け、【イースタンシティ】へと入った。
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やあ、ビビったぜ。怪しい(直球)と言われた時は内心慌てたがポーカーフェイスで、賄賂渡しておいたら何とかなった。賄賂はざっと300ビット。あのサングラスシャインという雑魚敵でさえ近距離武器はほぼ不可能のため意外とそのドロップの45ビットは意外と価値があると 判断し、300ビットで勝負に出たがあの兵士はお気に召した様だ。
とりあえず中に入ったが馬車は街では人目に着く。とっとと寝床、拠点を手に入れるぞ。
マップを開くと、こんなに広い都市なのに宿屋や、武器屋などが1件しかないのはとても不自然だな。もしかしたら、それ以外はプレイヤーのために空いて置いてくれているのか。
うん。とりあえず奴隷の処置や、今夜の寝床は決まった。
とりあえず門近くの建物もしくは土地を確保する為に不動産屋へ行く。しかし、マップには不動産屋の文字はない。
「おい、奴隷、土地や建物を買う時はどこ行けば良い?」
「それは恐らくこの街の商会だと思い...ま...す」
さっきの馬車の動かし方を教えてくれた奴が答える。何だコイツ。有能か?とりあえずマップで【イースタンシティ・商会】の文字を見つけた。とりあえずそこへ行ってみるか。
そして、裏道を通り、なるべく人目を避けて【イースタンシティ・商会】までやってきた。俺は路地裏に馬車を降りて商会へと降りた。
「ガハハハハハ!」「おめぇ値引きしろやこんちくしょう!」「俺の商品にケチつけんな!」「1が3つってお前出目雑魚すぎだべや!」
えーと。商会の中は熱気に溢れ、本気で商売しに来た人、面白がりに来た人、ただ、遊び相手を見つけに来た人など様々である。俺は色々な商品を見ながら、不動産を釣り看板を見つけて向かった。
「あの、建物を買いたいんだが」
「ほう...予算は?」
こちらを推し量るような目で見ている。多分額によっては追い出される。しかし、ここでハッタリかましたところで嘘がバレてはダメだ。今、俺はPKで4000ビット稼ぎ、その前の狩りでは300ビットほど。そして兵士と野人を剥ぎ取って1000ビットある。正直運営が馬鹿高い設定をして無いのを期待するが、10000あれば買えそうな気がする。そう考えると、初期に持っているお金5000は相当な額だが、武器や防具回復アイテムなど買えばほぼ無くなる。
俺は武器にハンドガン、その弾、短めの刀、片手直剣の3つで1000ビット。だが、俺は防具、回復アイテムは買っていないのでその分安く済んだ。今の手持ちは9300ビットほど。10000ビットには及ばないがそれを買ってなお一応生活出来るよアピールのため20000に盛る。
「まあ大体手持ちが20000ほどだからな、10000程度でどうだ?」
「ふむ、条件を聞こう。」
何とかこの商人のお眼鏡にかなったようだ。とりあえず門近く、そして、まあ安ければ安いでいい。どうせリフォームとかすんだろ。
「土地でも建物でもいい、門にできる限り近い、うーんと平野近くの北門、いや、森近くの東門の近く。そして安い奴だ」
「良いんですか?東門はモンスターが出やすい森の近くだ。だから1番安いとこではあるんだが...」
「丁度いい、それが良いんだ」
「うーむ、建物、何だかこれは流石に無理だろう?」
「何だこれは」
そこには、何と破格の2000ビットで建物&土地が買えるという好条件。しかも門の通りで、1番門に近い。
「良いのかこんないい所」
「馬鹿言え、この建物はほぼ壊れかけ。一応住めるは住めるが、窓もドアもねぇ。防げるのは雨くらいだ。しかも、立地は最悪も最悪。門の近くはモンスターの襲撃を受けやすい。こんなゴミ物件だぞ?」
「いいじゃないか、買った」
門近くは最高だし、結局壊す前提なのでオンボロは関係無い。モンスターの襲撃はレベル稼ぎにもなるし最高だな。
「とんだ物好きが居たもんだ」
まあ、この世界の住人、NPCからはそう見えるか。とりあえず安全第一。なんたって命が1つしかないんだもんな。
そして、何だか腑に落ちない顔の商人から土地の権利書とオンボロで壊れたという玄関扉の鍵を手に入れた。
そして、俺はその日の夕暮れ、奴隷共にその場所へと着いた。
『この場所の権利書、及び建物の鍵を所有しています。貴方がこの場所の所有者となりますか?』
着いて早々、このような画面が表示されたので、『YES』を押して所有者になった。押すと同時に権利書と鍵がインベントリから消えてしまった。
そして、俺は奴隷に全員中に入るよう指示、乗っていた馬車も解体する事にした。骨組み事バラバラにし、木材として使うように加工するがとりあえず今日は俺のインベントリにそれらをしまった。俺は一応2階の小汚いベットで寝る事にしたが、奴隷はコンクリートの上や、壁に寄りかかったりして寝ている。幸い今は、別段寒くも暑くもないので大丈夫そうだ。
そして、俺は少し隙間の空いた天井から星空を眺めがなら眠りに着いた。
まだ他の人は来ないみたいです。奴隷とも少しは喋って欲しいぞ主人公。誰だこんな性格にしたのは。
進みが早そうに見えて遅い。この街にはまだ留まりそうです。