ぼやけた光の中
焼け焦げた中から出てくる
形だけの物は
白い煙を纏いながら
所々
赤い印を放っていた
小雨に鳴き声を上げながら
死に切れない形を
笑っているのだ
自らの行為を
自らで笑うみたいに
何も考えつかない時は
海へと歩いて行く
勝手に雄大さを並べられて
嫌気がさしている海は
なんらかの変調をきたしている人間の話を
上手いこと聞いてくれるからだ
もしかしたら
そんな様子の人間を
見ることができるかもしれないと
歩いて行くのである
海辺のゴミ拾いみたいに
切れ目の赤は
怪しく光るから
空の中に
違う世界があるみたいだ
夕方の着初めに
必要なのは雲だ
何も纏わぬ輝きを見て
何が面白いのだろう
ただ明るいだけの物は
影を気にすることは無い
全てがあるから比べられる
故に
人は希望を望むのだろう
防波堤に腰掛ける人間が
釣り人では無いと感じた
持っている竿も無く
下を見ながら
怪音を聞いているみたいだった
激動と戦っているのか
防波堤の先端まで
ゆっくりと歩くふりをする
コンクリートと小石の擦れる足音
それにビクリとしながら
こちらを見ることは無かった
先端まで行くと
いつものように
底の石を見て
来た道を戻った
薄暗くなり
遠くにイルミネーションが見える
今年は豪勢だなんて思いながら
最後のチャンスを狙った
行きで見た人の近くを
通り過ぎようした時
「あの・・」
声をかけられた
少し予想外だったが
チャンスが拾えた
「イルミネーションを
見に行きたいのですが」
続けられた言葉に
了承しながら
近くのイルミネーションまで
一緒に行くことを提案した
首を上下に一回
動かしながら
立ち上がった
付いて来て下さいと言い
先頭を歩く
声は女性だった
裏側には何があるのか
恋愛の縺れ
旦那の浮気
姑との折り合い
家族との不仲
自己嫌悪
考えることが数々あり
彼女の歩幅に合わせながら
出来るだけ長く楽しんだ
当たり障りの無い話題を
他人行儀に話しながら
裏側を覗こうとしていた
防波堤から見えた
イルミネーションに着いた
彼女は見ている
車で見たなら
そういう時期かと
通り過ぎるほど
小さくて狭い
イルミネーションを
ひたすらに見ている
自分と重ねるようだった
もしかしたら
電球の前に居るだけで
別の何かを
見ているのかもしれない
暗くなったから
そちらの方が幻想的でもあった
彼女は田舎から都会に出て
帰ってきた人だった
見ながら喋った話で
そう言っていた
何かに疲れた声で
そう言っていた
冷えてきたから
電話番号とアドレスを
教え合って帰路に着いた
コミュニケーションアプリは
全て消したのかもしれない
考えが頭の中を移動する
帰り着く前に
彼女からメールが来た
今日はありがとう
一言のメールだった
なんだか
救ってしまったような気がして
面倒くさいと思えた
見たい物でも
やりたい事でも無かった
最後の光みたいな
あの形が見れる
その期待は裏切られた
違う期待を作れ
そう言われているようで
煙草に火を付けた
赤く光りながら
面倒くさいと
また思った