魔法の力
登場人物
ロット・ステイメン…主に回復や防御をおこなう僧侶、常に冷静沈着で戦術指示も出すチームの頭脳的な存在
クルム・フリニオーラ…世界最強の魔法使いと言われたクルム・ハイドニールの弟子で師匠の仇である魔王を憎んでいた、史上最年少で”クルム”の名を継いだ天才魔法使い
前田利家…信長の側近〈赤母衣衆〉として活躍し〈槍の又左〉の異名をとる、秀吉の親友
上杉謙信…越後の戦国大名、武田信玄のライバルであり〈軍神〉の異名をとる
徳川家康が信長からの要求を飲む形で、正室築山と嫡男信康を切腹させた
苦渋の決断をせざるを得なかった家康は何も言わず、ただ黙って妻と息子の
冥福を祈ったという、それを聞いた信長は思わず目を閉じた
「で、あるか・・・大した男よ・・・」
静かにそう語る信長、こうして織田、徳川の同盟は一層強きモノへと
なっていった。
一方で越後の地に足を踏み入れた柴田勝家軍とそれに付きそう
ステイメン、フリニオーラの二人、チームが誇る魔法のエキスパート
二人がこの越後へ来たのは、それだけ上杉謙信という男を警戒している
証拠でもあった、しかし柴田勝家からあまりよく思われておらず
肩身の狭い思いをしていた二人は、この軍に同行している前田利家に
話しかけることが自然と多くなっていた、利家は元々槍の名手であり
信長の側近だったのだが、その信長直々の命令で柴田勝家の与力として
帯同しているのである。
「大変でござるなお二方は、柴田殿と秀吉殿の間に挟まれて
あの二人は最近特に仲が悪いからのう、困ったものじゃ」
呆れ顔でため息をつく利家。
「しかしその二人の仲を取り持とうと、利家殿は必死で
駆けずり回っていると聞いています、何でも利家殿と
秀吉さんは若いころから仲が良かったとか?苦労されて」
いるのは寧ろ利家殿なのではないですか?」
ステイメンのその言葉に嬉しそうな表情を浮かべる利家。
「そう、そうなのでござるよ‼いや~そこをわかってくれるとは!?
秀吉の奴は昔から本当にお調子者でな、拙者の苦労など微々たるモノ
と思うておる、だがあの笑顔で〔いつもスマンな〕と言われると
つい許してしまうのじゃ、今では拙者より遥かに偉い身分
だというのに、本当にズルい奴じゃ‼
柴田様は柴田様で拙者を完全な自分の部下扱いしてくるのじゃ
元々拙者はお館様の側近であり柴田様の部下ではないのだ
まあ、家臣筆頭である柴田様の命に従うのは当然なのだが
それにしても常に拙者を手下扱いして・・・人使いが
荒すぎるのじゃ、そんな二人が仲が悪いとか・・・
もう勘弁してくれ、というのが偽らざる気持じゃ・・・」
奇しくも上司と親友の板挟みになっているような状態の利家
話しながら疲れた表情を見せガクンと肩を落とす、そんな利家に
思わず同情してしまうステイメンであった。
この数年後、柴田勝家と羽柴秀吉が天下分け目の戦い〔賤ケ岳の合戦〕
で対峙した際には、柴田軍だった利家は秀吉と戦いたくないという理由で
戦わずして撤退した、しかし世話になった勝家に反旗を翻すことはできぬと
秀吉軍に寝返る事はしなかったという逸話が残っている、秀吉が天下人に
なった後でも利家のいう事だけはよく聞き、何度もお互いを叱咤しながら
肩を抱き合い涙を流したとも言われている。
「ところで利家さん、私はよく知らないのですが今回の相手
上杉謙信という人はどのような人物なのですか?」
フリニオーラが利家に問いかけた。
「そうですな・・・稀代の戦略家であり、あの武田信玄と
何度も渡り合った武将で〈軍神〉とか〈越後の龍〉と
呼ばれております、同時に謎多き人物でして知られており
昔から正室を持たず息子は全て養子であり
本当は女子ではないのか?という噂まで
出たほどでござる、私利私欲の為の侵略戦争はしないと
公言するような、今の乱世では随分と変わった武将と言えますな
だが上杉謙信で一番有名な話と言えば、やはり武田信玄に
塩を送った話ですな・・・」
「何ですかそれは?」
「少し前の話になりますが上杉謙信の宿敵、武田信玄とは
何度も戦場でやり合った仲で、不倶戴天の敵と言っても
過言ではないのですが、その武田と今川との仲が悪くなり
今川に塩を止められてしまったのでござるよ、武田の治める
甲斐は内陸であるが故に塩が取れませぬ、今川に塩を止められたら
それこそ死活問題なのでござる、しかしそれを聞いた上杉謙信は
〈今川のやり方は卑怯だ‼〉と非難し越後の塩を武田に送ったのでござる」
「は、何ですかそれは!?」
「それはまた凄い話ですね」
利家の話に驚きを隠せないフリニオーラとステイメン
「その際に謙信は〈貴殿とは何度も戦った間柄ではあるが
決着は戦場でと思っている、だからこの塩を受け取って欲しい〉
という手紙を添えたというのでござるよ、武田信玄はその
感謝のしるしに名刀を送ったと聞いています、その刀は
〈塩留めの太刀〉と呼ばれ人々の間では語り草になっている
のでござる、まるで作り話か物語の様な内容の話ですが
事実のようでござる、それにしても〈敵に塩を送る〉とは
いやはや何とも変わった人物と言わざるを得ませんな」
利家から上杉謙信のエピソードを聞いてどこか納得してしまう
ステイメンとフリニオーラ
「なるほど、その様な人物だからリッチになったんですね・・・」
「リッチは本来、魔法使いや僧侶が魔道の追及の為に自らを
アンデッド化し、人間を遥かに超える寿命を手に入れる為の
モノですからね、それと引き替えに人間の持つ欲が無くなり
俗世には全く興味が無くなると聞いています、その様な
人物がリッチとなったのであれば、中々手強そうですね」
そんな事を話しながら敵領地へと進んでいく柴田軍
そして夜になり野営の準備に入ると周りの空気が重く
兵達が妙にピリピリしている事に気が付く二人
「何でしょうか?妙にピりついていますね!?」
フリニオーラがキョロキョロと周りを見渡し呟いた
「どうやら前回の遠征では上杉軍の夜襲で手痛い損害を受けた
らしいですからね、トロールの襲撃により、かなりの兵達が
嵐で増水した川に追い落とされたと聞いています、今回も
警戒するのも無理からぬことでしょう」
ステイメンの説明に苦笑するフリニオーラ
「トロールごとき私の魔法にかかれば物の数ではありません
確かにトロールには再生能力がありますから、普通に
剣や弓などの通常武器で戦うのでは倒せないでしょうからね」
「まあライオスでしたら件で簡単に倒しそうですが・・・」
「あの人は普通じゃありませんから」
そんな事を言っている時、上杉軍はどんどん近づいてきていた
「性懲りもなく我らが領土に足を踏み入れおって・・・
前回同様、無数の屍を積み上げるがよいわ‼」
謙信から預かったトロールの群れを率い、上杉軍指揮官の甘粕景持が
思わずほくそ笑んだ、謙信からは”追い返すだけで良い”と言われて
いたのだが、織田軍がもう越後の地を侵略しようなどど考えない様に
完膚なきまで叩きのめし、いっそ今回で織田軍を壊滅させてやろう
とまで考えていて、自分の配下の兵二千も連れてきていたのだ。
それから一時間ほど経った頃、柴田軍では上杉軍と戦う為の
作戦会議が開かれていた、日もすっかり暮れ、松明の明かりの中
このあたりの地図を広げて作戦行動を支持する勝家、その会議には
ステイメンとフリニオーラも一応参加していたが、〈口出し無用〉
という無言の圧力を感じていた二人はただ黙って参加しているだけであった
そんな時である、勝家が作戦の説明をしている中、急に立ち上がる
フリニオーラ、そして眉をひそめ東の方角を睨みつけた
そんな彼女に話しかけるステイメン。
「やはり貴方も気が付きましたか?」
「はい、東の方角で精霊たちが騒いでいます、ステイメンさんも
感じましたか!?」
「ええ、東の方から複数体の邪悪な気配を感じた所です
どうやら間違いないようですね」
そんな二人の態度に織田陣営全体が嫌な予感に包まれる。
「どうかしたのですか、お二方!?」
堪らず利家が二人に問いかけた。
「ええ、どうやら敵が来たようです、この気配と数からいって
前回来たというトロールで間違いないでしょう。」
その言葉にざわつく柴田軍、何しろ前の戦いでトロールには
散々ひどい目に合っている、しかも前回の戦闘でトロールには
槍や刀、鉄砲ですらほとんど効かないと聞いていたのだ
そんな相手にどう戦えばいいのか!?と不安げな表情を
浮かべる兵士たち、そんな不安は必ず動揺へと変わり
やがては恐怖として兵達に襲い掛かる、恐怖に支配された兵は
もう使い物にならない、それは兵法を知っている者であれば
常識と言っていい事実だ、つまりこのまま戦闘が始まれば
トロールどころか通常の上杉兵相手にも勝ち目はない
数とか戦略以前の問題なのだ、勝家の側近達も含め皆が一斉に
勝家に視線を向けた、〈これからどうするのか?〉という
無言の問いかけである、しかし勝家自身にも明確な答えが
あるはずもなく、戸惑いながら固まってしまう、まさか
〈化け物は全てサルの関係者である二人に丸投げするつもりだった〉
とも言えず、どう答えてよいか言葉を選んでいた、そんな時である。
「もう少し待ってくだださい、もう少しだけ引き付けて
射程距離に入ったら全部片付けますから・・・」
そう言い放ったのはフリニオーラである、目を閉じながら
両手で持った杖の先で何度も地面を突きながら
敵の位置と数を探っていた、杖の先から放射線状に広がる
波紋は魔力探知の一つである魔術ソナーである、まるで
リズムを刻むように定期的にトントンと地面を叩く音が
息を殺しながら事の行く末を見守っている柴田陣営に響き渡る
重苦しい空気の中、柴田軍の全員がフリニオーラの一挙手一投足に
注目していた、そしてそのリズミカルな音が止み、動きを止めた
フリニオーラが両目を大きく見開いた。
「敵トロール全てを捕捉、有効射程距離に入りましたので
遠距離範囲魔法により迎撃を開始、掃討します」
フリニオーラが杖を高々と掲げ、空に向かって叫んだ。
「ミーティアレイン‼」
その声と同時に夜空を駆ける様な流れ星が舞い降りた
静寂の空を美しく彩る流れ星、しかしそれが通常の流れ星と
違っているのは、地上に向かって真っすぐに落ちるのではなく
徐々に軌道を変えながら飛来しているのだ、まるでそれぞれが
別々の意思を持っているかのような不思議な動き、それは
美しく幻想的な自然現象ではなく、人の意思が介入した不自然で
人工的な兵器としての現象であることを皆が理解しているからである
そしてその流れ星が落ちる度、遠くで恐ろし気な断末魔が聞こえてきた
そこにいる全員が、今、何が起こっているのか、大体想像できていた
この目の前の小柄な少女が、皆が理解できない事をやっている
しかもとてつもない事を・・・何をどうやってしているのか?
それを理解できているのはこの場でステイメンしかいない
しかしこれだけはわかる、こんな視界も効かない夜に
見えないほど遠くにいる怪物を、この少女は次々と殺しているのだ
槍も鉄砲も効かないようなとんでもない妖怪変化を
まるでハエでも殺すかのように・・・
見た目の可愛らしさが吹き飛ぶほどの違和感、尊敬を通り越して
畏怖すら覚える圧倒的な力、そしてこの力がもし自分達に
向けられたら・・・と考えただけで恐ろしくなる脅威
その可憐さと裏腹に、というより見た目が可憐だからこそ
逆により恐ろしく感じてしまうのであった、そんな事を
思われているとは露にも感じていないフリニオーラは
流れ作業の様に次々とトロールを撃退していく、そして最後の流れ星が
地に落ちた時、振り向いたフリニオーラがニコリと笑った
「トロールは全て撃滅しました、敵兵はまだ二千ばかりいますが
そちらはあなた方にお任せします、では」
そういってペコリと頭を下げるフリニオーラ、呆然として言葉も出ない
勝家とその側近たち、それは僅か五分弱の出来事だった
前回あれ程苦しめられた化け物共をこの短時間でいとも簡単に
掃討してしまったのである、その気になれば残りの敵兵二千人も
簡単に蹴散らすことは可能だろう、それを思うと
何だか自分たちのやっている事が馬鹿馬鹿しく思えてくる
そんな考えを頭の中で必死に打ち消し、兵達に号令をかける勝家
「皆の者、戦闘準備を怠るな、上杉軍二千がすぐそこまで来ている
との事だ、決して気を緩めるでないぞ‼」
しかし上杉軍が攻めてくることは無かった、上杉軍を率いていた
甘粕景持は突然の出来事に困惑していた、謙信から預かっていた
トロールの群れが突如として全滅してしまったからである
夜空から光が落ちてきたかと思えばトロール達に次々と命中し
あれよあれよという間に全員消滅してしまったのだ。
「何だったのだアレは・・・」
いくら考えてもわからない甘粕景持、それもそのはずで
魔法という存在を知らない彼にとって、その現象が何なのか
わかるはずもなかった、しかし唯一わかっている事がある
それは謙信から預かっていた大事な戦力であるトロールが
敵の攻撃により一瞬で壊滅したという動かしがたい事実
甘粕景持は戦場で無双状態で暴れまわるトロールを始めて見た時
心強さと共に、恐ろしさと後ろめたさも同時に感じていた
どう考えても人ではない妖怪変化の類であるトロールが見せた
恐るべき戦闘力、槍や鉄砲を食らっても平気で暴れる異形の姿を見て
心が震えた”こいつらがいれば殿が天下をとれる‼”と確信したからである
しかし”こんな化け物を使って戦をすることが果たして
正義に戦いと言えるのであろうか?”という疑問、そして
敵に対して、”この様な規格外の戦力を使って一方的な戦いをする
ことは武士として卑怯なのではないだろうか?”という
後ろめたさを感じていたのだ、しかしそんな疑問も不安も
今この瞬間、全て吹き飛んだ、相手にはもっとぶっ飛んだ桁違いの
化け物がいる事をまざまざと見せつけられたのである。
ハッと我に返り後ろの兵達に視線を移すと、兵達は皆怯えていた
謙信と共に、幾度も共に死線を乗り越えてきた百戦錬磨の
上杉軍の兵達が恐れを抱いているのだ、考えてみればそれも当然で
あれだけ強靭な肉体を持っているトロールが五分も持たずに
全滅したのだ、しかも空から光が降ってくるといった不可思議な
現象によってである、それは神による天誅、仏による天罰とも
思える摩訶不思議な出来事、信心深い者が多かったこの時代の人間にとって
”神仏の怒りを買ったのでは?”と思う者が多くいても致し方ない
事でもあった、それを感じ取った甘粕景持はこの状態では戦にならぬ
と判断し戦わずして撤退を決意する、織田軍と矛を交えずして
撤退を余儀なくされた甘粕景持は唇を噛みしめ、上杉家の居城
春日山城へと帰って行った。
「申し訳ございません、殿より預かりし貴重な戦力を失ってしまいました」
甘粕景持は謙信の前でそう報告し、平伏した、その報告に動揺する一同
「何と、あの化け物がやられたと申すのか!?」
「槍や鉄砲を食らっても平気な”とろる”が全滅しただと!?
にわかには信じられぬ・・・」
「いったい何があったのじゃ、敵は何をした!?」
皆が動揺を隠せない中、一人だけ動じることなく冷静な謙信が
目を細め、静かに口を開く
「景持、一体何があった?」
「はっ、急に空から流れ星の様な光が落ちてきまして、次々と
”とろる”に命中、それを受けた”とろる”は断末魔を上げながら
次々と消滅、一体残らず全滅した次第にございます・・・」
その報告に城内は更にざわつくが、特に驚くことなく平静な謙信
「敵の織田側にも魔術の使い手がおるとは聞いていたが・・・
どうやら魔法を使う者がおるようじゃな、面白い」
そう言ってニヤリと笑う謙信、その笑顔に家臣一同が思わずゾッとする
「此度は殿が天下を治める為の貴重な戦力を失った事、弁明の余地なく
誠に申し訳ございません、この甘粕景持、どのような罰でも
受けまする故、もう一度名誉挽回の機会をいただければ
必ずや織田軍を打ち滅ぼしてごらんに入れまする、此度の失態
何卒平にご容赦のほどを・・・」
頭を床にこすりつける様に平伏し謝罪する甘粕景持
そんな部下の態度とは裏腹に、いたって冷静な謙信
「トロールなどいくら失っても大した痛手ではない
ご苦労であったな景持、下がってよい」
「はっ‼」
再び頭を下げた景持であったが、何とも複雑な気持ちであった
そんな部下の気持ちなどお構いなしとばかりにほくそ笑む謙信
「ならばこのワシ自ら出向いて織田側にいる魔道の使い手を
この目で確認してやるとするか・・・」
どことなく嬉しそうな謙信の表情に再びゾッとする家臣たち
謙信は早急に戦準備を整え軍を率いて春日城を出た。
昨夜のトロール襲撃未遂から翌日の夕方まで、敵の攻撃を受けることなく
進軍を進める柴田軍、しかし依然として危険な敵地である事には
変わりなく、皆が警戒心を緩めることなく敵地へと深く進んでいく
「しかしこれで良かったのでしょうか?どんどん敵地深くへと
進んでいる様ですが・・・たしか信長公からは上杉謙信を
上洛させない様に牽制するだけでいいと言われているのですよね!?」
フリニオーラは隣にいるステイメンと利家に話しかけた。
「その通りなのでござるが、あの”とろる”とかいう化け物や
フリニオーラ殿の怪しげな術を見て不安になったのでしょう」
「怪しげな術って・・・随分な言われようですね利家さん
あれは魔法です、精霊の力や自然の摂理などを利用し
膨大な演算と緻密な術式を組み合わせる事で初めて発動する
れっきとした正統派魔術なのです、しかも私の魔法は
史上最強の魔法使いと言われている私の師匠
”クルム・ハイドニール”から受け継いだ由緒正しきモノなのですよ
そんじょそこらのまがい物と一緒にしないでください」
利家にはフリニオーラが何を言っているのかサッパリわからなかった
そもそも魔術という聞きなれない言葉が全く理解できないのに
正統派とまがい物の差などわかるはずもなかった。
そんなやり取りを聞いていたステイメンがクスリと笑う。
「人間は未知の物には恐怖を感じるモノなのです、だからこそ
その不安を解消するために未知のモノはさっさと排除したいと
考えるのは至って普通の感覚です、トロールの様なモンスターや
あなたが使った様な魔法がいつ自分達を襲うかもしれないと
考えた場合、ただ黙って待っているのは大変なプレッシャー
でしょうからね、だからこそ、柴田殿は動いたのでしょう」
ステイメンの説明に大きく頷く利家と、それとは対照的に
首をかしげるフリニオーラ。
「そんなものですか・・・私にはいまいちピンときませんが」
「アナタも真っ暗な部屋でいきなり大量の虫に襲われたことが
あったでしょう、それを思い出してみてください」
その時フリニオーラの表情が嫌悪感で歪む。
「嫌な事を思い出させないでください、確かにアレは最悪でした
思い出すといまだに背筋が寒くなり、またむかっ腹が立ってきます
今度またゾフィさんに嫌味の一つも言ってやらないと
気が済まないですね」
利家が不思議そうな顔でフリニオーラを見つめた。
「フリニオーラ殿は虫が苦手なのですか?あれ程の力を持っている
のに虫が嫌いとは意外ですね、以前ゾフィ殿に何かされたのですか?」
その質問には、ゲンナリした表情で答える気も起きないフリニオーラ
代わりにステイメンが説明を始めた。
「以前、フリニオーラとゾフィが些細な事でいさかいを起こしまして
その腹いせにゾフィがドッキリの様な事を仕掛けたのです
その内容が、暗い部屋に大量の虫を用意しておいて
そこにフリニオーラをおびき寄せるというモノだったのですよ
見事に引っ掛かったフリニオーラは全裸のまま気絶するという
何とも残念な結末を迎えまして、皆の笑いものになったという
次第なのですよ」
その話を聞いた利家は驚きの表情を見せた。
「えっ!?なんですかなそれは、しかしゾフィ殿も
何とも惨いことを・・・しかし全裸で気絶とは!?」
するとフリニオーラの顔が見る見るうちに真っ赤になり凄い表情で
ステイメンを睨みつけた。
「何ですか今の説明は!?所々に悪意を感じますが‼」
「えっ、でも嘘は行っていませんよ」
「”残念な結果”とか”皆の笑いもの”とか余計な慣用句が付いているのは
ワザとですか!?そもそも私は被害者ですよ、それにあなたは
女性に対してもう少しデリカシーというモノがあってしかるべき
だと思いますけどね‼」
今度はステイメンが何を言われているのか理解できないといった
表情を浮かべ首をかしげる、するとまた利家が大きく頷いた。
「確かに、ステイメン殿、我ら男子にとって、女子というのは
いつまでたっても理不尽で理解しがたい生き物なのでござるよ
拙者も妻のまつにはいつも怒られれておりますが、拙者には
なぜまつが怒っているのか?わからぬ事も多々あります
確かに ”もっと気を使ってくれ”という事もよく言われまする
全く、女子というのは何とも・・・」
そう言って大きくため息をつく利家。
「しかし私はフリニオーラに対して、その様な配慮に欠ける
発言をした覚えはありませんよ、そもそもあなたの全裸などに
全く興味ありませんし」
さらに顔を赤くし、耳まで真っ赤にしたフリニオーラが
ステイメンの胸ぐらを掴んで激しく食って掛かった。
「そういうところですよ、そういうところ‼どうしてあなたは
言っていい事と悪い事の区別がつかないんですか!?
それでも人々に癒しと安らぎを与える僧侶ですか!?」
「ええ、私は嘘をつかない事を信条としている聖職者ですよ
ですから、19歳という年齢にそぐわず、一般の成人女子にくらべ
身体の成熟度が著しく劣っているあなたの肉体に、男性としての
情欲や劣情といったモノが全くなく、興味もわかないという
事実を述べたに過ぎません、それが何か?」
「〇*▲※◇×+◎▽ーー‼」
ステイメンの胸ぐらを掴みながら激しく揺さぶり、涙目で何か
わからない事を喚き散らすフリニオーラ、何故そんな事になっているのか
理解できないステイメンはキョトンとしている、そんなステイメンの肩に
そっと手を乗せた利家、ステイメンがふと振り向くと
利家は目を閉じたまま静かに口を開いた
「今のは、ステイメン殿が悪い・・・」
越後の地に一人の少女の悲痛な叫びがいつまでも響き渡った。
軍を率いて春日山城を出た謙信はある地点に差し掛かった時
進軍を止めた、馬上から何かを探る様に両目を閉じジッとしたまま
動かない、そんな様子を見た柿崎景家が不思議そうに問いかけた。
「殿、どうかなさいましたか?」
そんな景家の質問にも答えず、不動のまま何かを考えている謙信に
皆が思わず息を飲む、今度は甘粕景持が声をかける。
「あの~、殿、一体どうなされたのですか・・・」
その瞬間、両目を見開き、口元を緩める謙信
「魔力探知か・・・小癪な真似を」
独り言の様にボソリと呟いた謙信の言葉が理解できない景持と景家
すると謙信が二人の方を向き口を開いた。
「ここから先はワシ一人で行く、供は無用じゃ」
その突拍子もない言葉に驚愕の表情を見せる景持と景家
「何を馬鹿な事を、正気ですか殿!?」
「大将自ら単身で敵軍に向かうなど聞いたこともありませぬ
どうかお考え直しくだされ‼」
激しく動揺し必死にいさめる二人を尻目に淡々と説明を始める謙信。
「ここから先は敵の魔力探知の範囲内だ、この様な大軍で
ゾロゾロと進んでいけば敵の格好の的になる、景持
貴様も見たであろう、トロールが敵の魔法によって全滅したのを
このまま軍を進めれば同じことになる可能性が高いのじゃ
ワシ一人であれば魔力探知に引っかかることなく敵に近づく
事もできる、見つかるようなヘマはせぬ、安心せい」
「しかし殿、いくら何でもお一人で行かれるなどとても
容認できませぬ、お考え直しを‼」
「景持の言う通りにございます、せめて我々二人だけでも供として
お連れください、この身に代えましても殿のご命、守ってみせます
何卒、我らを供回りとしてお連れください‼」
主君の身を案じ、二人が必死に懇願するが、謙信は特に感情を
表に出すことなく聞いていた。
「わかった、貴様ら二人のみワシの供としてついてくる事を許す」
「ありがとうございます‼」
「必ずや殿のご命、守ってみせまする‼」
深々と頭を下げる二人の姿に、感激どころかむしろめんどくさそうな
表情を浮かべる謙信。
「貴様らの殺気だった気配は、敵に見つけてくれと
言わんばかりではないか・・・仕方がないのう」
謙信は右手の人差し指と中指を立て額の辺りに持ってくる
二人は何が始まるのか?と不思議な表情で謙信の一挙手一投足
を見守っている、すると右手の人差し指と中指を使って
二人に向かって空中に五芒星を描く謙信。
「東に青龍、南に朱雀、西に白虎、北に玄武、四聖の力を持って
かの者に面隠の力、授けん オン サンザン サンザク ソワカ」
謙信がそう唱えると二人の周りに光の粒が舞い降りてきた
キラキラと光る無数の光が降り注ぐその幻想的な光景は
戦の事を一瞬忘れさせた、呆然としながらそれを見守る
景持と景家。
「殿、今のは何ですか、陰陽師ですか?」
「何とも摩訶不思議な祈祷でしたが、一体殿はこのような
術を誰に教わったのですか?」
二人の質問にニヤリと笑みを浮かべる謙信。
「銀の面を付けたあ奴に指南された魔術に、我が国の陰陽道と
大陸の術を組み合わせた、ワシ独自の術よ、これで敵の
魔力探知に引っかかる事はなかろう、さあ急ぐぞ」
そう言って再び馬を走らせる謙信、景持と景家は慌てて謙信の後を追う
そしてここから上杉謙信とステイメン、フリニオーラといった
魔術のエキスパート同士の壮絶な戦いが始まろうとしていた。
今回の話はとりとめのない会話が中心で長くなってしまい、予定していたバトルまでいけませんでした
申し訳ありません、この越後編は(おそらく)次話で完結するはずですので長い目で見てください、では。




