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越後の龍

登場人物

アドリアン・ルキア…伝説の聖剣”ブレイヴ・。ハート”を持つ勇者、人々の為に戦うという信念を持っている

ロット・ステイメン…主に回復や防御をおこなう僧侶、常に冷静沈着で戦術指示も出すチームの頭脳的な存在

ルース・ライオス…2m近い長身で屈強な戦士、一人で魔獣を倒したこともあり”魔獣殺し”の異名を持つ、兄貴肌な性格でチームの精神的支柱にもなっている

ギャレット・ゼファー…カードキャスターという珍しい職業だが非常に優秀、自分からチームに売り込みに来たが自分の事は話したがらない、いつも冗談を言って場を和ませるチームのムードメーカー

ライドン・ゾフィ…召喚魔術師の名門ライドン家の生き残りで五体ものドラゴンを操る事ができる凄腕、一族の間では”神に愛された至高の召喚魔術師”と言われていた

クルム・フリニオーラ…世界最強の魔法使いと言われたクルム・ハイドニールの弟子で師匠の仇である魔王を憎んでいた、史上最年少で”クルム”の名を継いだ天才魔法使い

織田信長…尾張の大名、頭が切れ行動力とカリスマ性を兼ね備えた戦国時代の風雲児

羽柴筑前守秀吉…ルキア達の戦場での活躍を見て織田軍にスカウトした人物、後の豊臣秀吉

竹中半兵衛重治…秀吉の熱心な勧誘により配下に加わった天才軍師


「今、何と申されたかー‼︎」


激しい口調で怒鳴りつける声が響く、その声の主は秀吉であった


珍しく声を荒げ睨みつける様に真っ直ぐ前を見つめる、その先には


柴田勝家がいた、こちらも怒りに満ちた表情で言い返す


「聞こえなかったのか?サルのクセに耳まで悪い様だな‼︎」


「拙者には羽柴筑前守秀吉という名前がござる、その様なことすら


 覚えられない柴田殿は頭がどうかしているのではござらんか!?」


売り言葉に買い言葉、益々ヒートアップしていく秀吉と勝家


思わず周りの者達が慌てて二人の間に割って入り、仲裁に入る


「二人とも落ち着いてくだされ」


「そうですとも、この様なところで味方同士で争っても仕方が


 ないでしょう!?」


「味方だと?この様な腰抜けサルなぞ味方と思った事一度もないわ‼︎」


「自分から援軍に来て欲しいと言っておきながらその言い草は何ですか


 コッチは中国の毛利攻めを中断してまでここに来ているのですぞ


 もう少し言い方というものがありましょう!?」


今回は一歩も引かない秀吉、事の発端は数日前に遡る


”越後の上杉謙信動く“の報を受けた信長は、家臣達に援軍として


柴田勝家を助ける様に命じた、先日、中国の毛利攻めを言い渡された


秀吉であったが、播磨を平定した後、兵を引かされ、越後に


援軍として駆り出されたのである、ただでさえイラついているのに


柴田勝家と意見が合わずこの様な事態となってしまったのだ


勝家と秀吉の意見の相違とは、七尾城に向かう道中での軍議の際に


起きた、向かっている能登国は治めていた畠山義隆が死去し


まだ幼児である春王丸が後を継いだ、その隙をついて


越後の上杉謙信が能登へと侵攻してきたのである


畠山家は家臣である長続連、長綱連親子が実権を握り


七尾城に篭城した、七尾城は堅固であり何とか上杉軍の攻撃を


凌いでいたが何せ相手は越後の龍と呼ばれる名将上杉謙信である


いつまで持ち堪えられるかわからないと感じた長続連、長綱連親子は


信長に援軍を要請したのだ、上杉謙信の勢力拡大に危機感を感じた


信長は柴田勝家を総司令官に命じ丹羽長秀、滝川一益、羽柴秀吉


などの錚々たる面子で畠山軍の援軍へと向かわせた、そんな七尾城へと


向かう途中での軍議で秀吉がある事に疑問を感じ意見した


「連絡の為に七尾城に放った者が誰一人帰ってこないのは


 変ではござらんか?ここは一旦進軍を止め、七尾城の様子が


 わかるまで待機するのが上策と思います」


それを聞いた勝家は顔を赤くしながら反論した


「何を言うか、今七尾城は城内で病気が蔓延し兵が次々と


 倒れているという危機的状況にある、一刻も早く


 援軍に駆けつけなければ七尾城が危ないのだ、モタモタして


 いる間に落城したら何とする!?」


「しかし既に七尾城が落城していた場合、これ以上進軍すれば


 我々が危ない、上杉謙信は名うての戦上手、待ち伏せに合い


 下手をすれば全滅しますぞ!?ここは七尾城の状況を確認


 する事こそ先決でござる‼︎」


「貴様臆病風に吹かれたか、たまたま幸運で手柄を立てただけの


 サルが偉そうに、異国の者達の力や竹中半兵衛の知恵で


 勝ってきただけの成り上がり者が、このワシに偉そうに語るな‼︎」


「今、何と申されたかー‼︎」


普段から秀吉の事を疎ましく思っていた勝家の不満が爆発した、そして


秀吉も事あるごとに自分を目の敵にする勝家には不満があった


それが今回この様な形で爆発したのである、両者を必死で止める


周りの者達、それを振り払うかの様に勝家が言い放った


「帰れ、貴様の様な臆病者がいると全軍の士気に関わる


 さっさと帰れ‼︎」


「言われなくとも帰りまする、貴公の様な頭の固い指揮官の


 元では働けませぬ、これにて御免‼︎」


秀吉は背中を向けて帰ろうとした、それを見て慌てて引き止めたのは


前田利家であった


「羽柴殿、お館様の命に背き勝手に軍を引いてしまったと知れば


 お館様がどれ程お怒りになるか、考え直してくだされ


 秀吉殿らしくないでござるぞ‼︎」


「その通りじゃ、勝手に軍を引いたとあれば死罪も免れん


 考え直せ秀吉殿」


丹羽長秀も懸命に説得するが完全に頭に血が上っている秀吉の


耳には入らなかった、秀吉はその日のうちに自軍の兵を


率いてさっさと岐阜へと帰ってしまったのである、その事を


早馬の連絡で聞いた信長は当然激怒した


「何をやっておるのじゃあの馬鹿は、ワシの命令を無視して


 勝手に兵を引きおって、秀吉に伝えよ、追って沙汰する


 自分の屋敷にて謹慎しておれと‼︎」


その連絡はすぐさま秀吉の元に届く、それを聞いて


大きくため息をつく秀吉、そんな秀吉に官兵衛が近づいてきた


「大変なことになりましたな、ここはせめて反省しているという


 態度を見せる為にも、屋敷にて粛々と過ごし、どなたかに


 取り持ってもらってお館様に謝罪を・・・」


しかし秀吉はサバサバとした表情で空を見上げた


「まあやってしまったものは仕方がない、家に帰って大宴会でもするか


 小六、酒を用意させよ、あと芸者も呼んで派手にやるぞ‼︎」


小六はニヤリと笑う


「いいねえ、それでこそ秀吉の旦那だ、最近はどうにも


 堅苦しくていけねえ、もし信長公から追放されて


 露頭に迷うことになったら、俺と一緒に盗賊やるか?


 ガッハッハッハ〜〜‼︎」


大変な事態だというのに秀吉や小六を始め、どこか嬉しそうな秀吉軍


その光景を見て呆気にとられる官兵衛は思わず半兵衛に問いかけた


「あの・・・半兵衛殿、こんなことで良いのでしょうか?


 これでは益々お館様の怒りを買うことになるのでは?」


クスリと笑い首を振る半兵衛


「そんなことはありません、むしろ逆ですよ、お館様も


 若い頃は歌舞伎者として有名でした、反省の色を見せて


 静かにしていれば“今更反省するぐらいなら最初からするな‼︎”


 と考えるお人なのです、奇抜で派手好きなのはお館様も


 秀吉殿も同じ、寧ろこの方がお館様には良い印象を与えるでしょう


 秀吉殿はそれを本能でわかっているのです、それが人たらしと


 呼ばれる秀吉殿の真骨頂なのですよ、心配はいりません」


優しげに秀吉を見つめる半兵衛、それを聞いた官兵衛は益々秀吉という


男に興味を持ち惹かれていくのであった、そんな時、秀吉と共に


同行していたルキア達はヤレヤレといった表情で秀吉を見ていた


「おいおい大丈夫なのか?信長公を怒らせると怖いぜ!?」


「そうですねえ、信長公は軍規に非常に厳しいお方ですから


 どんな沙汰が待っていても不思議ではありませんが・・・」


「大丈夫じゃないの?なんだかんだ言っても信長公って


 結構秀吉さんのこと気にいっているわよね?結局お咎めなし


 って形で収まると思うわ」


「だといいのですけどね、我々は一応秀吉さんの直属部隊


 ということになっていますから、秀吉さんがクビになると


 我々は所属変更となってしまいます・・・正直言って


 他の方々ではあまり気が合うとも思えません、派手に魔法を


 ぶっ放していいというのであれば、誰でもいいのですが」


皆がそれぞれ好き勝手な事を言っていると、ルキアがそれを


まとめる様に総括した


「大丈夫だとは思うが、もし秀吉さんに更迭や追放、死罪などという


 重い罰が下されたら俺の方からも信長公に言ってみるよ


 なんだかんだ言ってあの人には世話になっているしね」


屈託のない笑顔でそう口にするルキア、思わずホッコリとした


空気が流れる、するとそれを打ち壊すかの様な真剣な表情で


口を挟むライオス


「秀吉さんの事はそれでいいとしても、俺たち全員で引き返してきて


 良かったのか?これまでのパターンだと越後の上杉謙信にも


 おそらくレスティアレ・ラドスから何らかの関与があるはず


 その時、残ったメンバー達で対処できるとは思えないがな」


ルキアも同じ事を考えていた様で、真剣な表情でうなずいた


そしてゾフィが口を挟む


「でもあの雰囲気で私達だけ残るのは無理じゃない?


 秀吉さんがダメって言うしだろうし勝家さんも絶対に


 拒絶するはずよね?」


「確かに、男同士のプライドのぶつかり合いみたいな


 感じでしたからね、意地の張り合いとでも言いますか」


「その辺の事は女である私にはよくわかりませんが


 どうしてその様な馬鹿げた事にムキになるのでしょうか?


 男という生物は本当に理解に苦しみます」


そしてルキアが静かに語り始めた


「確かに男っていうのはどうしても捨てられない何かを持っている


 生き物だからな、女性にとってはバカバカしいものでも


 それの為に生きていると言っても過言じゃないしね、


 しかしこうなると上杉謙信の事はゼファーに任せるしかないな


 偶然とはいえ、ゼファーが越後に向かっていてくれて良かった


 と思えるよ・・・」


ルキアは越後の方向を向き遠い目で呟いた、今回最初から


ゼファーとメンバー達は別行動を取っていた、それは一週間


ほど前の出来事である、ゼファーが信長に折り入ってお願いがあると


話を持ちかけたのがきっかけである


「お主がワシに話とは、珍しいではないかゼファー


 で、どの様な用件じゃ?」


ゼファーは珍しく真剣な表情で信長と対峙している、そして


軽く頭を下げると神妙な面持ちで語り始めた


「実は信長公にお願いしたいのは、しばらくの間、徳川家康公の


 力を借りたいのです、それを正式に書面として家康公に


 要請してほしいのです」


「ほう、家康殿の・・・それはどの様な事であるか?」


「はい、先日信長公が話された通り、今や織田に対抗できる


 勢力は越後の上杉、相模国の北条、そして中国の毛利の三勢力


 です、しかしこういった大勢力には必ずと言っていい程


 レスティアレ・ラドスからの関与が見受けられていました


 中国の毛利には秀吉さんが当たるとの事ですから


 ルキアを始め我らが付き従っていますので問題はありませんが


 越後の上杉や相模国の北条に対してはそうもいきません


 後手後手となる前に調べておきたいのです、その為家康公の


 力が必要です、何でも家康公の配下には隠密行動に長けた


 日の本一の忍び集団が存在しているとの事、その力を


 借りたいのです」


ゼファーの言葉に目を細める信長


「服部半蔵率いる伊賀忍集か・・・確かに情報を集めると


 いうのであれば最適ともいえるな、そうであれば家康殿に


 紹介状を書くこともやぶさかではない、そこで一つ


 聞いておきたい事がある、ゼファーお主上杉と北条を調べる


 と言っておるがどちらから手をつけるつもりじゃ?」


その質問に目をとじしばらく考えるゼファーだったが


ニコリと微笑み逆に問いかけてきた


「正直言いまして決めかねていたところです、ですから信長公に


 お聞きしたいのですが、どちらが良いと思いますか?」


問われた信長は一瞬天井を見上げ、考える様な仕草話見せたが


すぐにゼファーの方を向き口を開いた


「上杉じゃ」


「越後の上杉謙信ですね?」


信長はコクリと頷いた


「上杉謙信はあの信玄坊主でさえ何度も戦いながら一度も


 決着を付けられなかったという戦上手じゃ、信玄亡き後


 今一番警戒すべき相手と言える、それに今まで謙信が


 上洛を試みなかった理由が三つある、まず一つは越後を


 空けると宿敵武田から攻められるという心配、そして


 二つ目が加賀の一向一揆の鎮圧にてこずっていたという事


 三つめは謙信の兵は農民を兼ねておる、だから収穫のある


 秋には出兵できないし越後の冬は豪雪で身動きが取れん


 つまり一年のうちで動ける期間が限られておるという事じゃ


 しかし今や武田は死に体、加賀の一向一揆も鎮圧され


 謙信を縛るモノは無くなった、雪解けの時期には動き出す


 可能性も少なくない、それが理由じゃ」


ゼファーは深く頷いた


「わかりました、では越後の方から調べてくると致します


 越後の情報が集まり次第、俺の魔獣でルキア達に知らせます


 その後相模国の北条へと向かいます」


「うむ、家康殿への紹介状は今すぐしたためる、少し待っておれ


 それとゼファー、上杉と北条を探る際に忠告しておく、まずは


 上杉謙信じゃが奴には非常に謎が多い、その姿を見たものは


 六尺(180cm)を超える大男じゃと言う者もおれば小柄な


 男だったという者もいる、奴には息子が四人いるがその全てが


 養子であり血は繋がっていない、女子と交わらぬのか交われぬのかは


 知らぬが、本当は女子なのではないか?などという噂までで出るほどじゃ


 そして北条じゃがあそこには風魔という強力な忍び集団が付いておる


 中でも風魔の首領、風魔小太郎は怪しげな術を使うと聞いておる」


ゼファーは目を細めニヤリと笑った


「それは怪しいですね・・・」


「うむ、くれぐれも注意を怠らず当たるがよい」


信長の話を聞いたゼファーはどこか嬉しそうな表情を見せる


家康への紹介状を受け取ったゼファーはその日の内に家康の元へと


向かった、信長からの書状を見た家康は一瞬険しい表情を見せるが


すぐにゼファーに向かって語り掛けた


「要件はわかりもうした、正成〈半蔵)ゼファー殿に手を貸し


 上杉と北条を探るための手助けをせよ‼」


「御意」


半蔵は家康の命を受け、部下にゼファーと共に動くことを命じる


ゼファーは半蔵から数人の伊賀忍者を借り受け、越後へと向かった


森の中をひた走る忍び集団、その中の一人がゼファーに話しかけた


「ゼファー殿、越後には軒猿のきざると呼ばれる上杉謙信


 子飼いの忍び衆がおりますが我ら伊賀忍の敵ではございません


 ご安心を」


ゼファーは二コリと微笑み言葉を返した


「それは心強いね、俺は忍びに関しては素人だからね


 アテにしているよ、それで今上杉はどういう状況なの?」


「はい、先日、能登を治めていた畠山義弘の死去に伴い


 上杉軍は兵を動かし能登国に進軍を開始、畠山家は嫡子の


 春王丸を立て七尾城に籠城、抵抗を続けています


 畠山家は信長公に援軍を要請しまして、柴田勝家殿を筆頭に


 丹羽長秀殿、滝川一益殿、羽柴秀吉殿を始めとする


 約五万の援軍を差し向けて上杉軍を迎え撃つ構えを


 見せています」


その報告に驚きの表情を見せるゼファー


「あれま、じゃあこの越後の地でルキア達と再会かよ!?

 

 皆には結構仰々しく別れの挨拶したんだけど案外


 早いご対面だね、まあゾフィやフリニオーラは

 

 喜んでくれるだろうけど」


すると伊賀忍の一人が言いにくそうに口を開いた


「それがですね、まだ未確認情報なので完全では無いのですが


 どうやら柴田勝家殿と羽柴秀吉殿が道中でいさかいを起こし


 羽柴殿は自軍を率いて帰ってしまったとの事で・・・」


「げっマジかよ!?まぁあの二人は日ごろからあまり気が合わなかったし


 こうなることも予想はしてたけど、まさかこのタイミングで


 とはね・・・結局俺一人かよ、ゾフィかフリニオーラだけ残った


 とか聞いてないかい?」


その問いかけに困った顔を見せて申し訳なさげに答える伊賀忍


「いえ、その様な情報は入っておりませぬが・・・


 ゼファー殿ならお一人で大丈夫と判断されたのでは?」


空を見上げて軽くため息をつくゼファー


「ありがとう、何か気を使わせちゃったね、まあ戦いならともかく


 調べるだけなら俺一人でも十分だとは思うけどね・・・」


ゼファーがそう口にした瞬間、周りの森の木々か激しく揺れた


風もないのにガサガサと揺れ動く木々を見て慌てて立ち止まり


周りを見渡す伊賀忍衆とゼファー、するとどこからともなく


低く不気味な声が聞こえてきたのだ


「一人でも十分とは、我ら軒猿もナメられたものよの・・・」


そしてゼファーたちを取り囲むように一人また一人と


忍びと思われる人間が姿を現した、それはまるで


空間から浮き出てきたかのように突然現れたのである


「ば、馬鹿な、我らが気配を感じぬとは!?」


「軒猿ごときに後れを取るとは、何たる不覚‼」


「これでは半蔵様に顔向けできぬ、せめてこ奴等をせん滅して・・・」


いきり立つ伊賀忍衆を制するように言葉をかけるゼファー


「いや、この連中の気配は俺でも感じなかった、これは


 特殊な魔法かアイテムによる効果としか考えられない


 越後に来ていきなりお目当てのモノにぶち当たったかな?


 昔からくじ運はいいけど、こんな所でアタリを引くのは


 勿体ないねえ~ で、アンタたちはもう一本アイスでも


 くれるのかな?」


おちゃらけ気味にそう話しかけるゼファーだったが


視線だけを左右に動かし周りの敵を観察していた


『人数は十二・・・いや十三人か、闇の波動を感じないところを見ると


 魔法は使われていないようだな・・・だとすれば気配を消す


 アイテム〈心だましのランタン〉を使用したといったところか


 あれはそれなりに高価なアイテムなんだけど・・・』


手に刀を持ちながらジリジリと近づいてくる軒猿達、先手を取られ


気圧され気味の伊賀忍衆であったが刀を構えながら戦う姿勢を見せていた


『マズいな、高価なアイテムまで使ってくる相手だ、何を仕掛けてくるか


 わからない、俺一人なら何とでもなるが半蔵さんから借りた


 伊賀忍衆を失う訳にはいかない、ここは・・・』


その瞬間、満面の笑みで笑うゼファー、その表情に驚きを隠せない


軒猿の者達、それをあざ笑うかのようにゼファーが叫んだ


「デュエル スタート‼」


ゼファーの目の前にカードが展開する、すかさず右端のカード二枚を


手にして投げつけた、するとその投げられたカードは光を放ち


〈ボンッ〉という音と共に煙に包まれた、そして次の瞬間


ゼファーが何人も現れ軒猿の前に立ち塞がったのだ


「分身の術だと!?小癪な‼」


しかし軒猿達は突然の現象に戸惑う素振りもなく


数人のゼファーに向かって躊躇なく斬りかかる軒猿達


しかし斬った瞬間、煙に変わるゼファー、次々と斬られるゼファーが


全て煙に変わり目の前の視界がドンドン悪くなっていく


「しまった、変わり身の術か!?しかもこの煙は・・・ゲホゲホ」


催涙ガスの煙を浴び困惑している軒猿達、皆涙を流しながら


咳き込んでいた、そんな軒猿達を尻目に伊賀忍衆に声をかけるゼファー


「今の内だ、逃げるぜ」


何が何だかわからないままゼファーの指示に従う伊賀忍達


軒猿達の周りには白い煙がモウモウとまとわりついているのに


何故か自分たちの周りだけ煙が無かったのだ、不思議に感じた


伊賀忍の一人が思わずゼファーに問いかけた


「今のは何ですか?分身や移し身の術にしては変わったモノですし


 まるで煙が生きているかのように奴らにだけまとわりついて・・・


 なぜ奴らの周りにだけ煙があったのでしょうか?」


ゼファーはニヤリと笑って答えた


「ああ、あれはスモークエンボディと言って催涙ガスの塊を


 人の姿に見せるという幻惑魔法の一種でね、攻撃を加えれば


 術が解けて催涙ガスがまき散らされるという代物だよ、一種の


 トラップなんだけど、攻撃を加えないと何も起こらない


 っていうリスキーな術でね、知っている相手には通じないから


 単なる魔力の無駄遣いにしかならないんだ、それと奴らの


 周りにだけ催涙ガスがまとわりついたのは低級風魔法


 エアストリームという魔法でね、単に俺の周りにだけぐるぐる回る


 気流を発生させただけなんだ、ガスはそれに乗って俺たちの周りを


 ぐるぐる回っていたから奴らにだけまとわりついたように見えただけ


 なんだよ、種明かしをすれば何て事ない手品だろ!?」


説明するゼファーの顔を不思議そうな表情で見つめる伊賀忍衆


何を言っているのかさっぱり理解できなかったが、頼もしい


味方であることには変わりない為、あまり深くは追及しなかった


そんなゼファーたちを遠目でジッと見つめる男がいた


「軒猿どもめ、私が〈心だましのランタン〉まで貸し与えて


 やったというのに、使えない奴等じゃ、まあ良い久々に


 面白そうな相手じゃ、やっと全力で戦える日が来たのかな


 クックック・・・」


不気味に笑うその男の事を誰も気づいてはいなかった




一方その頃、七尾城を目指して進軍していた柴田勝家の元に


連絡兵から緊急の報告が入った


「申し上げます、七尾城は既に上杉の手によって落城している


 との事です‼」


勝家を始め織田軍の皆に衝撃が走った


「馬鹿な・・・七尾城は堅固な城、いくら謙信と言えど


 そう簡単に落ちるとは!?」


その質問に答えるかのように連絡兵が話をつづけた


「それが、畠山義弘の跡を継いだ春王丸も病死、実権を握った


 長続連、長綱連親子の事を良く思っていなかった者たちが


 上杉側へと寝返り、二人と一族を皆殺しにして七尾城を


 上杉側に明け渡したそうです‼」


衝撃的な内容に信じられないといった表情で呆然と立ちすくむ勝家


その時、前田利家がボソリと呟いた


「秀吉殿の言った通りになった・・・」


その瞬間、勝家が利家を睨みつけた、慌てて口をふさぐ利家


すると丹羽長秀が思わず口をはさんだ


「七尾城が敵側に落ちた以上、ここに留まっていては危ない


 すぐに撤退の準備を!?」


ハッと我に返る勝家


「これより全軍撤退する、各自秩序ある行動を心掛けよ


 前田利家、佐々成正を殿にワシの本体、それに長秀、一益の


 兵の順に撤退させる、急げ‼」


そこに滝川一益が口をはさんだ


「今から撤退など無理でござる、既に辺りは暗くなり


 足元もおぼつかない状態で手取川を越えるのは無理で


 ござろう、撤退は明日の朝にするべきだと進言します‼」


一益の言う通り至急の撤退には大きな問題があった、勝家率いる織田軍は


七尾城を目指し急いで進軍していた為、既に日は暮れており、しかも


織田軍はこの日、手取川を越えてきたばかりなのだ、この時期


手取川は長雨の影響で増水し四万もの大軍で手取川を越えるのは


困難を極めた、そんな苦労をして越えてきたばかりなのである


足元も見えない状態で増水した手取川を越えるのはあまりに危険な為


勝家は一益の意見を取り入れ、撤退は明日の朝と決めて、今晩は


ここに野営することとなった、自軍の後ろに川を背負い、奇しくも


〈背水の陣〉を取る羽目になった織田軍、敵襲が来ないことを


祈りつつ眠りについた、そして夜も更けたころ一頭の白馬にまたがった


武将が織田軍に近づいていた、その後ろには一万五千もの兵が付き従い


虎視眈々と仕掛けるタイミングを狙っていたのだ


「勝利は我にあり、仏敵であり逆賊でもある大罪人 織田信長に


 正義の鉄槌を、我が毘沙門天に変わり成敗してくれる、皆の者


 我に続け‼」


怒涛の勢いで織田軍に迫る上杉軍、その先頭には”越後の龍”と呼ばれ


軍神と恐れられた武将 上杉謙信がいた,突然の夜襲に慌てふためく


織田軍、総司令官である勝家は”何事か!?”と兵に尋ねた


「申し上げます、松任城より敵軍が来襲、その数約一万五千‼


 それを率いているのは敵軍大将 上杉謙信との事です‼」


その知らせを受けた織田軍はざわついた、兵は浮足立ち動揺を


隠しきれなかった、勝家でさえ、その報告が信じられなかったのだ


「馬鹿な、松任城といえばこことは目と鼻の先ではないか?


 そんなところまで敵の手が伸びていたとは、しかも謙信が


 松任城に居ただと!?そんな馬鹿な・・・」


唖然とする勝家であったが、指揮官の動揺が兵たちにも伝わり


益々パニック状態になってしまう織田軍、そんな兵たちの


様子を見た勝家は声高に叫んだ


「慌てるな皆の者、いくら謙信が戦上手とはいえ敵は一万五千


 それに対し我が軍は四万、慌てず対処すれば負ける道理が無い


 落ち着くのじゃ‼」


何とか立て直しを図る勝家、しかし上杉軍の進撃は速い


態勢を立て直す暇もなく織田軍に襲い掛かった、謙信により


統率された上杉軍とパニック状態でまともな陣形も取れない


織田軍、最初から勝敗は見えていた、暗い戦場で織田兵の叫び声だけが


こだまする、しかし勝家らの必死の立て直しにより


徐々に態勢を立て直しつつある織田軍、それをみた謙信は


右手を高々と上げた


「魔道部隊を前面に押し出せ‼」


すると暗い戦場に”ズシン、ズシン”という巨大な足音が勝家達の


耳に届き徐々にこちらに近づいてきていたのだ


「何だあの音は?」


勝家は胸騒ぎが治まらなかった、周りの兵たちもざわつき始める


そしてついにその謎の正体が目の前に現れた、その姿は人型ではあるが


身長5mはあるかという巨体に緑色の肌、右手には巨大な棍棒を持ち


醜悪な姿をした怪物であった、それが30体程の群れとなって


襲ってきたのである


「な、なんだアレは!?」


「妖怪変化か!?あんなのに勝てるわけないだろ‼」


「嫌だ、死にたくない、逃げろー‼」


ようやく立て直しかかった織田軍が再びパニックに陥る


巨大な怪物は棍棒を振り回し織田兵を次々と吹き飛ばしていく


「何だあの面妖な化け物は!?おのれ~皆の者落ち着け


 いくら巨大な怪物とはいえ生物であることには変わりない


 数は高々30程じゃ、鉄砲隊、弓隊、あの化け物を


 討て、織田軍の強さを思い知らせてやれ‼」


勝家の号令で鉄砲隊と弓隊が配置に付き怪物に狙いを定める


「討て‼」


暗い戦場に鉄砲の轟音が鳴り響き、無数の矢が雨の様に


降り注いだ


「グモオオオォォォーーー‼」


怪物は苦悶の表情を浮かべ叫び声をあげた、なにせ怪物は


巨体であるが故に的が大きい、鉄砲と弓が次々と当たり


一二歩後ずさりした


「やったか!?」


勝家は”手ごたえアリ”とばかりに前のめりになって怪物を見つめた


しかし次に瞬間その表情は絶望に変わった、何とその怪物は鉄砲と矢で


討ちぬかれた箇所から鉄砲の弾と矢が体から勝手に弾き出されていったのだ


体内から弾き出された弾と矢はボトボトと地面に落ちていく、そして


討ちぬかれたはずの体の傷が見る見るうちに回復していったのである


勝家にとっては正に悪夢を見ている様であった、兵たちは完全に


戦意を失い、我先にと逃げ出した、統率も秩序もなく只々恐怖に


縛られた兵たちはその場から逃げたい一心で各自逃走を始めたのである


「馬鹿者、逃げるな、戦えー‼」


勝家の声が虚しく響く、しかしその命令を聞く者は誰もいなかった


そんな織田軍の様子を見てほくそ笑む謙信


「もろいモノよ、これが織田軍か、噂程ではないな・・・


 よし魔道部隊を前面に押し立てつつ織田軍を半包囲し


 手取川に追い込め‼」


上杉軍は織田軍を半包囲し後方へと追いやった、兵たちは敵のいない


後方へと逃げ出し始める、それこそが謙信の狙いであった


織田軍の後方には増水した手取川がある、織田兵たちは次々と


手取川に落ちていった、足元も見えにくい暗い中で


甲冑を身に着けたまま次々と川に落ちていく兵たち


「ゴボッ、た、助けて・・・」


激しい流れの手取川が織田兵たちを飲み込んでいく、それでも


恐怖に支配された織田兵はまるで自殺志願者の様に次々と手取川に


落ちていく、それはもう地獄絵図ともいえる悲惨な光景だった


こうして手取川の戦いは上杉謙信の圧勝、織田軍の


大敗北で終わった、戦闘で死んだ兵より溺死者の方がはるかに


多いという珍しい戦いでもあった、そしてこの戦いが終盤に


なって完全に決着がついた頃、ゼファーと伊賀忍衆が


手取川に到着した、夜目の利くゼファーと伊賀忍衆は少し離れた


所から織田軍が壊滅した悲惨な戦場をジッと見つめる


横にいた伊賀忍衆は驚きの表情で問いかけた


「何ですかあの巨大な物の怪は!?」


ゼファーは視線を動かすことなく戦場を見つめたまま答えた


「あれはトロールだよ、知能は低いけど怪力と再生能力がある


 魔獣さ、トロール相手に通常兵器じゃ勝負にならない、あっという間に


 再生しちゃうからね・・・それよりあんな魔獣を使役している


 上杉謙信って男、あの先頭にいる白い頭巾をかぶった武将だよね?


 あれはトロールなんて問題にならない化け物だ・・・」


ゼファーが珍しく真剣な顔で謙信を見つめる


「化け物?上杉謙信は一体どんな化け物だというのですか!?」


問われたゼファーはすぐには答えずジッと謙信を見つめていたが


ようやく静かに口を開いた


「あれはリッチだよ、ヴァンパイアと並ぶ最上級のアンデッドさ


 本来リッチは魔道や知識を追求するため魔法使いや僧侶といった


 人間が不老不死の術や儀式を駆使してアンデッド化し


 人間の寿命を遥かに超えた肉体を持つことでどこまでも


 魔道や知識を追求する目的でなる、だがそれと引き替えにリッチは


 全ての欲が無くなると言われている、上杉謙信が子供を作らなかった


 のも他国へ侵略しなかったのもこれで判明したよ、リッチは性欲も


 征服欲もないんだから、当然だよね、しかし武田信玄と上杉謙信は


 宿命のライバルと聞いていたけど、ヴァンパイアとリッチの


 争いだったと思うと不毛だね~」


そんな軽口を叩きながらも眼差しは真剣なまま


上杉謙信を見つめるゼファー、戦いが終わり完全勝利を収めた謙信は


ふと視線を感じゼファーたちのいる方向へと視線を向けた


「何やらネズミが紛れ込んでおるようだの、キッチリ始末せよ」


「はいわかりました、お任せを」


謙信が話しかけた所には誰もいなかったが何故か声だけが返事をした


その声は森でゼファー達と軒猿の戦いを見ていたモノと同じであった


そしてここからゼファーの厳しい戦いが始まるのである。










 




 




今回は手取川の戦いをメインにしたお話でしたがいかがだったでしょうか?今回は上杉謙信を

リッチにしてしまいました(笑)お気を悪くされた謙信ファンの方には謝罪しますスミマセン

話は変わりますがこの話を考えているときに偶然仕事で手取川の付近に行ってきました

初めて見る手取川がこの話を考えている時って何か運命を感じかんどうしてしまいました

(多分気のせいですが)、物語も終盤に入りましたので頑張って書いていきたいと思っております

生暖かく見守ってくれると幸いです、では。


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