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女と忠義と

登場人物

アドリアン・ルキア…伝説の聖剣”ブレイヴ・ハート”を持つ勇者、人々の為に戦うという信念を持って

ルース・ライオス…2m近い長身で屈強な戦士、一人で魔獣を倒したこともあり”魔獣殺し”の異名を持つ、兄貴肌な性格でチームの精神的支柱にもなっている

ライドン・ゾフィ…召喚魔術師の名門ライドン家の生き残りで五体ものドラゴンを操る事ができる凄腕、一族の間では”神に愛された至高の召喚魔術師”と言われていた

クルム・フリニオーラ…世界最強の魔法使いと言われたクルム・ハイドニールの弟子で師匠の仇である魔王を憎んでいた、史上最年少で”クルム”の名を継いだ天才魔法使い

羽柴藤吉郎秀吉…ルキア達の戦場での活躍を見て織田軍にスカウトした人物、後の豊臣秀吉

竹中半兵衛…秀吉の熱心な勧誘により配下に加わった天才軍師


長篠での戦いは織田・徳川の圧勝で終わった、互いに多くの戦死者を出し


特に武田軍は1万人以上の兵と信玄以来の歴戦の将を多く失い、まさに壊滅的な


ダメージを負う結果となった、戦場跡の設楽ヶ原では無数の死体が転がり


それを狙ったカラスの群れがどこからともなく現れ人がいなくなるのを


待っている様にも見えた、そんな凄惨な戦場跡で何やら調べている者達がいた


ルキア達である、特にステイメンとゾフィは真剣な表情で動き回っていた


疑問を感じたゼファーが二人に問いかける


「二人とも何をそんなに熱心に調べているんだ?


 何か気になることでもあるのか?」


ステイメンは悲しい表情を浮かべ静かに口を開く


「私は特に何かを調べているというわけではないのですが


 また死体に何か術でも施していないかを調べているのです


 ただでさえこういった凄惨な戦場跡では怨念や絶望


 恐怖といった負の感情が溜まり易く様々な呪いや


 モンスターを生み出す発生源となりやすいですから・・・」


「でもよ、それが原因で発生するモンスターなんて


 アンデッドぐらいだろ?ウチにはルキアがいるし


 アンデッドなんかどれだけ発生したところで


 鎧袖一触って感じでどうってことないんじゃね!?」


そんな気楽に考えるゼファーに対し、ゆっくり首を振るルキア


「そんな事はないさ、俺でも叶わない様なアンデッドがこの先


 現れないとも限らない、それに戦わなくていいなら


 それにこしたことはない、アンデッドというのは


 生前の人間の意思を無視し強制的に戦わせる


 といった場合が多い、それは死者に対する冒涜だ」


そこにステイメンが続けて語り始める


「死んでまで辛い思いをしなければならないのは


 あまりに不便です、せめて安らかに成仏できる様


 こうして祈りを捧げましょう」


そう言って両眼を閉じ手を合わせるステイメン、その時


ライオスがふと横に視線を向けると、地面に横たわる


馬の死体の横で真剣に何かを考えているゾフィの姿が目に入った


「どうしたゾフィ、珍しく真面目な顔をして!?」


その言葉に少しイラついたのか眉をしかめて答えるゾフィ


「何よその言い方、引っかかるわね、私だってたまには


 真剣に考え事ぐらいするわよ、私は真面目に考えて


 ちゃんとした答えを出すんだから待ってなさい


 誰かみたいに真面目に考えても、結果ネタを


 振りまいてしまうような何処かのお笑い魔法使いとは


 違うんだから」


それを聞いたフリニオーラがすかさず突っ込む


「何で急に私がディスられるのですか!?


 有り得ない角度からのとばっちりですね


 それといつ私がみなさんにネタを振りまいたのか


 その辺りを是非詳しく聞きたいものですねゾフィさん‼︎」


いつもならここから二人の口喧嘩が始まる流れか


と誰もが思った、しかしその激しいツッコミにも全く反応ぜず


真剣に考え込んでいるゾフィ


ルキアがゾフィの肩にそっと手を乗せ問いかけた


「何か引っかかることでもあるのかゾフィ?」


そしてステイメンやライオス、ゼファーも続く


「そうですね、貴方がフリニオーラの相手もせずに


 考え事なんて余程のことでしょうから」


「確かに、フリニオーラの相手をしている場合じゃ無い


 という事だからな」


「まあ相手をしてもらえないフリニオーラはかわいそうだが


事態はそこまで深刻って事か」


ゾフィは悲しい表情を浮かべ静かに頷く


「うん、かまってあげられないフリニオーラには悪いけど


 この状況は少し想定外ね・・・」


そんな会話をしている仲間達に一人納得のいっていない者がいた


もちろんフリニオーラである 


「ちょっと、なぜ私が“かまってもらえない残念な子”みたいな


 扱いになっているのですか!?言っておきますが今回私は


 100%被害者ですからね、なぜみなさんがそれほど加害者に対し


 温情溢れる対応をしているのか、わかりやすく


 理論立て説明してもらえますでしょうか!?」


しかし他のメンバー達はフリニオーラの言葉が聞こえていなか


のように会話を続けていた


「どういうことなんだゾフィ」


ルキアが改めて問いかけると少し間を開け静かに語り始めるゾフィ


「今回この武田軍の使っていた馬が実は魔獣で、スレイプニールと


 ナイトメアの混合種スレイプメアだって事は話したわよね?」


「ああ、それは聞いた、それがどうかしたのか?」


再び馬の死体に視線を移し悲しげに語るゾフィ


「スレイプメアって凄く珍しい希少種なのよ、これ程大量の


スレイプメアが自然に生まれるなんて何かおかしい


と思っていたのだけど 今調べてみてわかったわ


この子達はね、自然に生まれたのではなくて


人工的な交配で作られた魔獣なの」


ゾフィの言葉に思わず顔を見合わせるメンバー達


「それがそんなに重要な事なのかい?」


「異なる動物同士の人工交配なんてそれ程珍しい事じゃないだろ」


「確かに家畜や養殖でもそういった事はよく聞きますね」


「魔獣同士でもそういった事はあるって聞いた事あるけど


 何がそれ程問題なんだよ」


メンバー達の反応に軽くため息つくゾフィ


「あのね、この子達は凄く珍しい希少種だってさっき言ったでしょ


 そんな簡単に人工交配ができるなら珍しい希少種になんか


 なるわけないじゃない、これ程レベルの高い魔獣同士の


 人工交配となると高度な技術、専門的な知識、そして膨大な魔力が


 必要になってくるのよそれを可能とするのは、ある選ばれた


 人達だけ・・・」


その時、ルキアがようやくゾフィの懸念を理解した


「まさか、それは!?」

 

ゾフィはルキアに向かって無言で頷き、口を開いた


「この子達を作れるのはライドン家の人間だけよ」 


その言葉に驚きを隠せないメンバー達


「おい、ちょっと待てよ、確かライドン家って


 今はもうゾフィしかいないんだよな?」


「ええ、その通りよ、だからこんなに頭を抱えているんじゃない」


驚愕の事実に再び言葉を失うメンバー達


「それは難解な問題ですねえ、一体何が起こっているのか」


「しかし厄介だな、敵の首魁はフリニオーラクラスの魔法使いで


 転移魔法の札を使いこなす上にライドン一族の術も使えるのか・・・」


「とんでもない相手だねえ、正体がわからない分、もしかしたら


 魔王の時より厄介かもね」


空気が重くなりかけた時、ルキアが皆に呼びかける


「わからないことをあれこれ詮索してもしょうがないさ、いくら


 ライドン一族の術が使えるといってもゾフィより上なんて事は


 考えにくい、敵の正体がわからないからって勝手に相手の姿を


 大きく考えてしまったら心理的なプレッシャーが自分に


 のし掛かるだけだ、俺達は強い、あの魔王アドギラルロックでさえ


 倒したんだ、自信を持っていこうじゃないか‼︎」


ルキアの言葉に皆、微笑みを浮かべ心が一つになっていく


しかしたった一人、一つになれない者がいた、もちろん


フリニオーラである


「皆さん、何かいい感じで終わる雰囲気ですが


 私は納得していませんからね、なぜ被害者である私が


 完全スルーなんですか?私、空気なんですか?


 いいでしょう、みんながその気なら私にも考えがあります


 空気は空気らしく今後、場の空気を重くしたり暗くしたり


 して精一杯嫌がらせしてやりますから・・・ちょっと


 聞いてますか?皆さん、何か言ってください


 私をかまってください、お願いしますから、私はここにいま・・・」


ルキアを中心とするメンバー達は改めて心を一つにし


固い絆で結ばれている事を再認識することとなった




信長と家康の本隊は先に引き上げて行きルキア達と秀吉は戦後処理と


色々調べる為に遅れて戦場を後にした、岐阜に帰る道中で


秀吉達は不思議な集団に出会す、それは女ばかりの団体で


巫女姿の者や着物で着飾った者、武装している者と


色々な種類の人間がいるという不思議な団体であった


そしてその先頭にいた美しい女性、歳は三十手前くらいの


何処か気品を感じさせる美女が秀吉達に近づいてきて


話しかけてきたのだ


「はじめまして、私は望月千代女と申します、ここにいる


 という事はあなた方は織田の武将様達御一行ですか?」


秀吉は胸を張り精一杯威厳を出すような口調で答える


「いかにも、我らは織田家家臣、羽柴藤吉郎秀吉の軍である


 しかして其方達は一体何じゃ?」


千代女は深々と頭を下げ答える


「羽柴様でございますか、私のような世俗に疎い女子でも


 その御高名は存じ上げております、我々は各地を回りながら


 戦勝祈願やお祓いの為の巫女、酒の相手をする為の芸妓


 そして夜のお相手をする為の遊女といった者達を揃えた


 旅の一行にございます、先日の戦では織田様と徳川様が


 武田相手に大勝したとお聞き及んでおります


 勝ち戦のお祝いと今後益々羽柴様にご武運が訪れるように


 私共が少しでもお役に立てればと思うのですが


 どうでしょうか?」


秀吉は少し考えたが勝ち戦で高揚しているのと自分の事を知っている


という満足感、何より千代女を始め美女が揃っている事に惹かれていた


すかさず横にいた半兵衛と小六に確認する


「のう半兵衛、せっかくじゃ部下達の慰労も兼ねてこの者達と


 少し楽しんでいきたいのじゃがどう思う?」


半兵衛はヤレヤレといった表情を見せせるが優しく微笑みながら答えた


「よいのではないでしょうか、戦で夫を失った者達がこういった


 団体で各地を回っているという事は聞いたことがあります


 ねね殿には内密にしておきますので」


「おお、さすがじゃ半兵衛、話がわかるのう、小六はどうじゃ?」


「もちろん大歓迎だぜ、そろそろ酒が飲みたいと思ってたところだしな


 むさ苦しい男共ばかりで飲むより女が一緒なら酒も一層進むってもんだぜ


 確かこの辺に潰れた寺院があったはず、結構大きな寺だったし


 そこの本堂を使って宴会といこうや‼︎」


それらの返事に満面の笑みを浮かべる秀吉、ルキア達もそれに付き合い


潰れた寺院へと移動した、そして寺院の本堂で急遽宴会が開かれた


勝ち戦の後なので皆気分よく酒が進み秀吉などは両脇に美女をかかえ


上機嫌で笑っていた


千代女は各人に挨拶と酒を振る舞いながらふとルキア達に目を移し


優しげな笑みを浮かべながら近づいてきた


「おや、こちらの方々は異人さんでいらっしゃいますか?


 随分と男前と別嬪さんが揃っていますね、さあみんな


 この方々にもお酒をおつぎして」


千代女の呼びかけに二人の芸妓が近づいてきて皆に酒を進める


苦笑いを浮かべながら渋々受けるルキアと酒は飲めないからと


断るステイメン、デレデレになりながら芸妓に話しかけるゼファー


そんなメンバー達を白い目で見つめるゾフィとフリニオーラ


すると千代女が女性陣二人に話しかけた


「こちらのお二人は随分と別嬪さんですが、どうですか


 私たちと共に旅をするというのは?あなた方なら凄い


 人気の芸妓さんになれますよ」


二人は顔を見合わせ疲れた表情を見せる


「もう芸者はこりごりよ・・・」


「そうですね、あの時はひどい目に合いましたから・・・」


そんな二人を見てクスリと笑う千代女


「そうですか、もし気が変わったら私を訪ねてきてください」


そして千代女がふと視線を移すと本堂の端で一人立ったままの男が


目に入った、両腕を組み目を閉じたまま本堂の端で一人壁に


寄りかかっていた、見事なまでの金髪、2m近い身長と


頬の傷に象徴される武人の雰囲気、まるで“俺には近づくな”と


言わんばかりのオーラを出していた


そんな男に興味が湧いたのか優しい笑みを浮かべながら


静かに近づく千代女


「どうしました?私たちのおもてなしに何かご不快な点でも?」


ライオスは両眼を開きジッと千代女を見つめる


「俺には構わなくていい、他の奴らを相手してやってくれ」


しかし千代女は引き下がる事なく話しかけた


「つれないお人ですね、見た目は全然違うのですがあなたの雰囲気が


 どこか死んだ主人に似ていたものですから・・・ちなみに


 貴方様は何処のお国の出身ですか、南蛮の方ですか?」


再び目を閉じ静かに口を開くライオス


「俺の出身はベルドルア聖王国・・・って言ってもわかんないだろ」


少し申し訳なさげな表情を浮かべる千代女


「すいません異国のことはあまり知らないものですから・・・


 では少し厠に行ってきます失礼」


千代女はそう言って静かに本堂を出て行った、しかし本堂を出ると


急に早足になり、厠ではなく寺院の裏山へと足を運ぶ千代女


そして懐から何かを取り出しニヤリと笑った


「ここに厠はないぜ」


後ろからの声に驚き、慌てて振り向くと、そこにはさっきまで


本堂にいたはずのライオスが立っていたのだ、驚きながらも


必死で取り繕う千代女


「あら、間違えちゃったみたいね、私ったらそそっかしい」


愛想笑いを浮かべながらごまかそうとするがライオスは


ジッと冷徹な目で千代女を見つめていた


「もういい加減、本性を現したらどうだ?


 あんたあまり芝居は上手くないぜ」


すると愛想笑いを浮かべていた表情が一変し


ライオスを睨むように鋭い視線を向けた


「バレちゃあしょうがないねえ、どうしてわかった?


 今まで一度もバレたことはなかったのに・・・」


その質問に対しようやく口元をゆるませるライオス


「やっぱあんた、そっちの顔の方が似合っているぜ


 俺があの寺でずっと目を閉じていたのはあんたの声を


 聞いていたんだ、あんたは隠していたつもりだろうが


 言葉の奥に敵意や殺気がちょくちょく出ていたぜ


 そして最後に厠へ行くと本堂を出て行った時の足運びは


 完全に武人のそれだったよ、で、あんたは何者だ?


 武田の間者か?それともレスティアレ・ラドスからの刺客か?


 前者なら秀吉さんに任せるが後者なら俺が相手してやるぜ」


ライオスの問いかけにフッと笑う千代女


「私は望月千代女、これでも少しは名の知れたくノ一さ‼」


その言葉に眉を潜めるライオス


「くノ一?ああ女の忍者のことか、だったら俺が相手するまでも


 ないか・・・ちぇっ、久々に暴れられるかと思ったのによ」


明かに拍子抜けといった表情を見せるライオス


それを見た千代女は怒りの表情を見せる


「あんまり人を舐めるんじゃないよ‼︎」


懐から数本のクナイを取り出しライオスに向かって投げつける


千代女の放ったクナイは確実にライオスの急所に向かって行ったが


それを片手であっさりと受け止めるライオス、千代女の顔が驚愕に変わる


「こんな小手先の技じゃ百回やっても俺は倒せないぜ


 どんな事情があるのかは知らないが、女を斬る趣味はない


 今なら見逃してやるからとっととうせな」


ライオスのその完全に見下した態度に思わず歯軋りする千代女


「ちくしょう、でもこのままオメオメと引き下がる訳には


 いかないんだよ‼夫を戦でなくし身寄りもなかったこんな私を


 信玄様は大切に扱ってくれ仕事まで与えてくれた、いまは亡き


 信玄様の御恩に報いるためにも武田家に仇なす織田の者達を


 生かしておくわけにはいかないんだ‼︎」


そんな思いを抱きながら睨みつけるようにライオスを見つめる千代女


しかしライオスは悲しげな表情を浮かべ静かに口を開く


「アンタに引けない事情があることはわかった、しかし気持ちや


 信念で勝てるほど戦いは甘くない、悪いがアンタじゃ


 逆立ちしたって俺には勝てない、ここは引け


 自分と相手との力量差をしっかりと見極めることは


 戦いの基本だ、それができなかったから今回武田は


 敗れたのだろう?アンタまで同じ道を辿る事はない」


その時である、ライオスの後方から複数の女性のモノと


思われる声が聞こえてきた


「千代女様、ご無事ですか!?」


振り向くと巫女姿をした十人程の女性がこちらに駆けて来るのが見えた


それを見た千代女はニヤリと笑う


「みんな、すぐに玄武の陣を引け、大至急よ‼︎」


「はい‼︎」


千代女の呼びかけに巫女装束の女達が応える


そして素早く千代女の後ろに並ぶと


全員が両手で怪しげな印を結ぶ、その仕草をジッと見つめているライオス


「何のつもりだ、呪術か?それとも魔法の類か?何にしろ


 ちょっとやそっとじゃ俺には勝てないぜ」


すると目の前にいた千代女がいきなり着ていた服を脱ぎ捨て


一矢纏わぬ全裸となった


「一体何の真似だ!?」


千代女のとった奇怪な行動に思わず不信感を示すライオス


千代女はフッと不敵な笑みを浮かべた


「人の裸を見ても眉一つ動かさないなんてつれない男だねえ


 アンタが死んだ亭主に似てるってのは本当の話さ


 そのどこまでも無骨で野暮なところ本当にさ・・・


 惜しいが死んでもらうよ‼︎」


その時千代女の腹の中心にある文字が浮かび上がってきた


それはライオスには見覚えのない“梵字”と呼ばれるモノで


それが文字としてクッキリと浮かび上がると突然赤く光り始めた


それと同時に千代女は両手を高く掲げて叫んだ


「何時が主人 望月千代女の呼び掛けに応えよ 来い牛鬼‼︎」


その瞬間、地面に巨大な魔法陣が発生しそこから浮かび上がって


くるように巨大な怪物が姿を現した、それは体長3m程あり


蜘蛛のような姿の怪物で胴体から生えている六本の足の先は


鋭く尖った爪になっている、胴体は牛のように茶褐色で


顔が鬼という何とも奇怪な姿をしていた、感情のない冷徹な視線を


ライオスに向けながらよだれをダラダラと垂れ流し


完全に獲物として認識していることがわかる


そんな牛鬼を見てボソリと呟くライオス


「召喚魔術・・・いきなりゾフィの言っていた謎のヒントが


 向こうから来てくれたって訳か、面白え」


巨大な怪物、牛鬼を従え完全な優位を確信している千代女


「どうするんだい、アンタの言い草じゃないけど


 ここで逃げても追いはしないよ、私の目的はあくまで織田


 その重鎮である羽柴秀吉の首さえ頂ければ他はどうでも


 いいんだから、命が惜しければさっさと逃げな」


その言葉に口元を緩めるライオス


「冗談だろ、ようやく楽しめそうな展開になって来たっていうのに


 なんで逃げなきゃいけないんだ、てゆうかこんな面白そうな


 魔獣の相手を他の奴に譲ってやるとか、俺はそこまで


 善人じゃないんでね」


怯むどころか寧ろ喜んでいるライオスに驚きを隠せない千代女


「あんた頭がイカれているのかい!?人間がこの魔獣相手に


 勝てるとでも思っているの、コイツが何人の人間を


 食い殺してきたと思っているんだい、百人はいた


 軍隊でさえもあっという間にコイツの餌になったんだ


 人の身では魔獣には勝てないんだよ、絶対にね


 わかったらさっさと・・・」


しかし当然の如くライオスは引かない、愛剣“バーニングソウル”を構え


牛鬼に対して待ちきれないといった表情を浮かべていた


「確かに強そうな魔獣だ、だけどな一つ教えておいてやるぜ


 俺は“魔獣殺し”って言われているんだぜ・・・」


その言葉に千代女の表情が強張る


「世迷いごとを・・・そんなに死にたいなら望みを叶えてあげるよ


 行け牛鬼、骨も残らず喰らい尽くせ‼︎」


"グモォォォーーー”という唸り声をあげながら突撃してくる牛鬼


六本の足をけたたましく動かし、その巨体に似合わないスピードで


ライオスに迫って来た、しかしライオスもその動きを


予想していたかのように反応し剣を振るう、牛鬼の角と


ライオスの剣が激しく衝突し甲高い金属音と激しい火花が飛び散る


牛鬼は角と爪、そして鋭い牙でライオスを攻撃するが、それを全て


受け止めていた、その人間離れした動きと凄まじい反応速度で戦う


ライオスを見て呆気に取られてしまう千代女


「何なんだいあの男は・・・本当に人間なのか!?」


その時、後方から声が聞こえてくる


「無事かライオス‼!」


千代女がその声の方向に視線を移すと、ルキア達五人が


こちらに向かってきているのが目に入った


ルキア達は牛鬼とライオスが戦っている姿に驚くが


その近くにいる千代女のあられもない姿を見て動揺した


ルキアは顔を赤らめ思わず顔を背ける、ステイメンは両目を閉じ


ゆっくりと首を振った、ゼファーは”ヒュ~”っと口笛を鳴らし


嬉しそうに千代女の裸をマジマジと見ていた、フリニオーラは


揺れる千代女の乳房を見て思わず自分の胸元に視線を移す


皆がそれぞれの反応をしていたがゾフィだけは表情を崩すことなく


目を細めて牛鬼をジッと観察していた、そんな中、ステイメンが


凄まじい攻防を繰り広げているライオスに声をかける


「加勢しましょうか、ライオス?」


しかしライオスの返事はある意味皆の予想通りの答えであった


「今いいところなんだ、絶対に邪魔するんじゃねーぞ‼」


その言葉に軽くため息をつくステイメン、そしてすかさず


ゼファーが口をはさむ


「よしわかった、その魔獣はアンタに任せたライオス


 俺はそちらの女性を相手する、文句はないよな!?」


そんな嬉しそうなゼファーの後頭部を杖で叩くフリニオーラ


そして無言のままジッと戦いを見つめているゾフィに


ステイメンが問いかけた


「何かわかりましたかゾフィ?あの見慣れない魔獣は


召喚魔術で呼び出されたモノなのですか?」


ゾフィは視線を動かすことなく無言で頷く


「あの魔獣は私も知らない子ね、おそらくこの国にしかいない


 魔獣だと思うわ、それに動きや仕草を見ればかなり強力な


 子だっていう事がわかるわ・・・」


その説明に今度はルキアが問い掛ける


「あの千代女という女性がそれほど強力な魔獣を使役している


 というのかい!?それほどの魔力を待っている様には


 見えなかったが・・・」


コクリと頷き静かに説明を始めるゾフィ


「あの後ろに十人の巫女がいるでしょ、あの人たちが彼女に


 魔力を供給しているのよ、彼女のお腹の部分に変な文字が


 浮かび上がっているでしょ、あそこは丹田といって魔獣を使役


 する際はあそこに魔力を集中させて魔獣をコントロールするの


 でもそろそろ限界ね、後ろの巫女達の魔力が尽きかけているみたい」


ルキア達がその巫女達に視線を移すと、千代女の後ろにいる巫女達は


ダラダラと汗を流しながら小刻みに震え、歯を食いしばりながら


耐えていた、これは明らかに魔力切れの兆候である


「あの様子じゃ、もう二分も待たないわね・・・」


それを受け、ステイメンがライオスに向かって叫んだ


「あと二分耐えれば魔獣は使役できなくなるそうですよ~‼」


するとライオスが”ちっ”と舌打ちする


「あと二分しか楽しめないのかよ・・・しゃあないな


 じゃあそろそろ決着といくか」


その言葉通りライオスの動きが更に速くなり牛鬼を圧倒し始める


牛鬼の巨体が徐々に後退を始め、体中に無数の傷が刻まれていく


その光景に驚愕の表情を浮かべる千代女


「何なんだい・・・何なんだいあの男は、本当に人間なのかい!?」


その時、押されっぱなしだった牛鬼が大きく後方にジャンプする


そして着地と同時に口を大きく開け、黒い霧状の煙の様なモノを


吐き出した、千代女の顔が思わずほころぶ


「牛鬼は口から毒の息を吐く、それを浴びれば人間なんて


 一瞬で溶けてなくなるんだよ、さすがにこれなら・・・」


しかしそれすらも予想していたかのように待ち構えるライオス


剣を高く掲げ迫り来る毒息をジッと見つめている、そして


愛剣”バーニングソウル”を大上段から一気に振り下ろした


「全て飲み込めバーニングソウル、どおおおりゃぁぁぁーー‼」


振り下ろした剣から赤い衝撃波の様な波が発生し牛鬼の毒息を


飲み込むと、そのまま一気に牛鬼自体も飲み込んでしまった


”グギャアァーーー‼”悲痛な断末魔と共に赤い光に飲み込まれ


消し飛ぶ牛鬼、ライオスから牛鬼を結んだ直線上では辺りの木々さえ


バーニングソウルからの衝撃波で綺麗に消し飛んでいた


それと同時に糸が切れたかのように倒れ込む巫女達、千代女も


その場にへたり込み、虚ろな目で地面を見ていた


「そんな馬鹿な・・・牛鬼が人間に敗れるなんて・・・」


そんな千代女にゆっくりと近づき自分の服をそっと渡すライオス


それが癇に障ったのか千代女が怒りの目でライオスを見上げ睨みつけた


「情けのつもりかい、舐めるんじゃないよ、いいからさっさと殺しな‼」


軽くため息をつき口を開くライオス


「言っただろ、女を斬る趣味はないって


 アンタには聞きたいことがあるだけだ」


「武田に恩義のある私が、武田に不利になる事を


 ペラペラ喋るとでも思ったのかい、人を馬鹿にするのも


 大概にしな‼」


「俺達は武田の敵じゃない、俺達はある男を追っている


 銀の仮面を付け黒い外套(マント)を纏った男だ


 アンタも知っているんじゃないのか?」


そのライオスの言葉に体がピクリと反応する千代女


「どうやら知っているようだな、そいつはなぜか信長公を狙っている


 俺達はそいつを止める為に戦っているだけだ、そいつは


 武田を利用し信長公を潰そうとしている、そいつが手を貸している限り


 俺達は武田と戦う羽目になってしまうんだ、後ろにいる俺の仲間は


 全員が俺と同じくらいの力を持っている、そいつと手を組んでいる限り


 武田は俺達全員を敵に回すことになるんだ、何度も言うが


 そいつは武田を利用しているだけだ、だから頼む、そいつの事と


 アンタに召喚魔術を教えた奴の事を教えてくれ‼」


千代女は苦悩の表情で目線をそらす、確かにライオスの言葉には


説得力があった、この男が嘘や偽りで自分をだまして喋らせようと


しているとはとても思えなかったからだ、しかし自分が喋る事が


大恩ある武田に対して裏切り行為になるのでは!?と考えると


どうしても素直に言う事を躊躇してしまう、しかし次に


ライオスが話した内容で千代女の態度は一変する


「そいつの仕業で武田信玄も化け物に変えられちゃったんだぜ


 まあ本人もそう望んだみたいだから、この件に関しては


 そいつだけが悪い訳じゃないけどな、アンタも信玄が

 

 おかしくなったのを薄々気が付いてなかったのか?」


その言葉に両目を大きく見開きライオスを見つめる千代女


「確かに、あの銀の仮面の男が来てから信玄様は変わってしまった


 あの寛大で常に家臣や私達にも気遣いを忘れなかった信玄様が


 人が変わったように冷徹になった・・・まさか、あいつのせいで!?」


そしてステイメンが補足する様に千代女に話し掛けた


「信玄公は吸血鬼という物の怪に変えられていました


 確かに吸血鬼化しても記憶や思考に変化はありませんが


 不死の体を得る事によって感情が気薄になり

 

 人間というものにあまり関心を持たなくなります


 人類を遥かに超越した肉体を持つ彼らにとって


 人間の事なんか餌か虫けら程度にしか見えなくなります


 その影響が出ていたのでしょう」


その話を聞き、思いつめた様な表情を浮かべる千代女


「わかった・・・話すわ・・・」


その時、千代女の頭の上に自分の来ていた服を乗せるライオス


「その前に服を着ろ、まずはそれからだ」


千代女が思わず見上げるとライオスは顔を背けやや赤くなっていた


それを見て思わずクスリと笑ってしまう千代女


「なんで今更赤くなっているのさ、おかしな男だねぇ」


「うるせー、さっさと着ろ‼」


千代女は渡された服を着た後、静かに話し始めた


「私の夫は川中島の戦いで戦死してね、それ以来未亡人となった


 そんな私にも良くしてくださったのが信玄様さ、だから私は


 信玄様にご恩を返したくてくノ一となった、こんな世の中だからね


 私の様な境遇の女はいっぱいいる、そんな女達と各国を回り


 諜報活動や潜入、時には暗殺なんかもしたよ、そして信玄様


 が体調を崩され寝込みがちになった時、あの男が現れた


 そしてある時、突然お元気になられた信玄様に皆


 喜んだんだけど・・・」


千代女は悲しそうに目を伏せる


「人が変わっていたんだな?」


ライオスの言葉にコクリと頷く千代女


「それから数日後、その銀の仮面の男が別の男を連れてきた


 信玄様の命でそいつから召喚魔術を教わったのさ・・・」


そこに割り込む様に入って来たゾフィが質問をする


「その男の特徴とか教えてくれないかしら」


ゾフィの質問に目を閉じ記憶をたどる様に話し始める千代女


「何だか怪しげな雰囲気を纏った奴で山伏の様な格好をしていた


 顔を白い布で隠していたからどんな顔をしていたのか

 

 はわからない、でも声の感じと手のしわ、肌の状態から


 判断するとおそらくは60歳を過ぎた老人じゃないかな?」


顔を隠していて推定年齢以外の正体がわからないという


証言にややガッカリするルキア達、しかしゾフィだけは


態度を変えることなく続けて質問する


「あなたに召喚魔術を教えたその男、お腹の中心に


 魔力を集中することを何と呼んでいた?」


思わぬ質問に少し驚き、必死に記憶をたどる千代女


「え~っと、確かアナパーナとか何とか言ってたような・・・」


その言葉に眉をひそめるゾフィ


「わかった、もういいわ、ありがとう・・・」


そう言って千代女にクルリと背を向け、考え込みながら


歩き始めるゾフィ、そんなゾフィに近づき語り掛けるルキア


「質問はもういいのかゾフィ?」


「ええ、もういいわ、相手の素性は大体わかったから・・・」


ゾフィの言葉に思わず問いかけるステイメン


「今の質問だけでわかったのですか!?彼女に召喚魔術を


 教えたのは一体誰なんですか?」


ステイメンの問いかけにゆっくりと首を振るゾフィ


「そこまではわからないわ・・・ただそいつは


 ”アナパーナ”と言った、これはライドン家の中でも


 選ばれた人間しかしらない言葉なの、そうライドン家


 頭首だけが使う言葉・・・」


ゾフィの言葉に驚きを隠せないメンバー達


「でもライドン家はゾフィ以外は皆死んだのだろ


 それがなんで!?」


ゼファーの問いかけに再び首を振るゾフィ


「わからないわ、でも目の前の事実と今の証言から


 推察するとそれしか考えられないのよ、確かに


 お父様を始め歴代頭首は死んだと思われている


 だけど実際その現場を見た訳じゃないしね・・・


 でもライドン家じゃない素人があれ程の魔獣を使役できる


 というのはかなり深刻な問題よ、ライオスみたいな人は


 まずいないだろうから、人間じゃ一方的に蹂躙されて


 おしまいね・・・その場に私がいればアクア達で


 ボッコボコにしてやるけど」


ずっと深刻な表情で考え込んでいたゾフィに少し元気が戻って


いつもの調子が出てきたことに安心するルキア達、更なる脅威に


対し改めて戦う決意を固めるメンバー達であった。






 










 


 





















 
























 




今回で長篠の合戦編は終了です、いかがだったでしょうか?前回後書きを入れ忘れてしまいましたが

ゲーム”信長の野望”からの武田家武将達への思い入れが伝われば幸いです(なんのこっちゃ!?)

今回の話は入れようかそのまま次の展開へ移行するか迷ったのですが、伝説のくノ一”望月千代女”を

出す為に書くことにしました、おそらくくノ一としてもっとも有名なこの女性は謎が多く、武田の

為に多数の女性を引き連れ諜報活動をしていたのだろうと言われています、この物語は忍びが重要ポイントでちょくちょく出てきますので彼女を出したのですが出てきたキャラは100%私の妄想なので

望月千代女が好きな方にはご気分を害されたかもしれません、申し訳ございません、前回の分も

含めて長々と書いてしまいましたが、まだ少し続きますのでどうかお付き合いください、では。

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