外伝 忍び寄る罠
アドリアン・ルキア…母と共に難民として流れ着いた少年、母の厳しい教えの元強く正しくあろうとする。
アドリアン・メルダ…ルキアの母、非常に厳しくルキアを育てている、子持ちとは思えない程若く美人
メッサーオルランド…聖剣ヴレイヴハートの持ち主”光の英雄”と呼ばれることとなる
レインヘル・ベルフォード…ベルドルア聖王国の若き”覇剣鬼”オルランドとはライバルであり友人
マウリシア・ベッツ…オルランドが素質を見込んで鍛えていた弟分、技術はあるが精神が弱い
現代の英雄と呼ばれるマウリシア・ベッツがパッシュメア公国
に向かっていた頃、ある魔族の集団が時を同じくして
パッシュメア公国に向かっていた
「ヒ〜ヒッヒ、愚かな人間どもよ今日こそお前らの息の根を
止めてやる、この天才策略家フェルジャモ様の頭脳の前に
平伏すが良いわ」
魔族の指揮官フェルジャモはニヤつきながら人間達の街へと
近づいていた
その頃オストフ邸では先日の舞踏会を上回る人で溢れていた
何せ伝説の聖剣ヴレイヴハートが発見されたというのである
それを現代の英雄マウリシア・ベッツが見極めるというのだから
その歴史的瞬間に立ち会いたいという人が続々と押し寄せた
そして先日の剣術大会の優勝者であるルキアをオストフ伯爵が
取り込みにかかっている事は誰もが知っていた、それに
ルキアの母であるメルダの素性も調べさせていた、メルダが
何処かの王族もしくは貴族出身である事を確信していた
オストフは込み上げる笑いを抑えきれずにいた
『いいぞいいぞ、今私に最高の風が吹いている、順風満帆と
いうのはこの事か、このまま一気に駆け上がりこの私が
国を動かし未来永劫語り継がれる様な世界を救う英雄と
なるのだ、考えただけで笑いが止まらんわ』
そんな事を考えてながらニヤつくオストフの横でメルダと
ルキアは聖剣ヴレイブハートと現代の英雄マウリシア・ベッツ
の到着を待っていた、ルキアは聖剣と勇者の到着を今か今かと
興奮気味に待ちわびている、しかしメルダはどこか複雑な表情で
到着を待っていた、その時連絡を伝えるものがオストフの
元へ近づき耳元で囁くと、それに大きく頷くオストフ
「皆さんお待たせしました、今聖剣ヴレイヴハートがこの街の
近くまで来ているそうです、あと2時間もすればここに
到着するでしょう、ですから食事や飲み物でも口にしながら
もう暫くお待ち下さい‼︎」
そう声高に発表すると後ろにいる執事に顎で合図する
執事は軽く頷き右手を上げると控えていた楽団が一斉に
演奏を始めた、先日の舞踏会を上回る総勢50人程の演奏家達が
美しい音色を奏で始める、オストフは自身の一世一代の
晴れ舞台とばかりに過剰なまでの演出を駆使して盛り上げた
その効果は覿面であった、この会場にいる皆が“これからは
オストフの時代が来る”と感じていたのだ、この国では貴族が
大きな力を持っている、それ故に貴族同士の権力闘争も激しく
一部の有力貴族を除く中小貴族達はいずれかの大貴族の派閥に
属していた、これらの貴族達にとって誰に付くかを誤れば
それこそ死活問題であり、一族の存亡に関わるのである
今までは国内でも精々6、7番手だったオストフが一気に
トップへと駆け上がろうとしているこの現実を見て心を
動かされる貴族達も少なくなかった、そんな光景を見て一人で
ほくそ笑むオストフ、その時である一人の兵隊が慌てて会場に
駆け込んできた
「申し上げます、今魔族の大軍がこの国に向かって進軍中
との事、至急避難してください‼︎」
その報告に一気に騒めく一同、思わず顔をしかめたオストフが
騒然としている皆に向かって大声で呼びかけた
「皆様ご安心ください、いくら魔族共が大群で押し寄せて
来ようとも、今日の我々には聖剣ヴレイヴハートと
英雄マウリシア・ベッツがいるのです、下劣な魔族共なぞ
何するものぞ‼︎今日この時に現れた愚かで運の悪い魔族に
同情を禁じ得ません、ですからどうか落ち着いてください
皆様の安全はこのオストフが命をかけて保証いたしますので
どうか冷静に行動してください」
丁寧に頭を下げるオストフ、これは“この騒ぎを収めて見せる
から我が陣営に入りなさい”というメッセージでもあった
こんな緊急の事態でも自分の勢力争いに利用しようとする
したたかなオストフ、そんな姿を見て嫌悪感をあらわにする
メルダだったが、会場の貴族達の心は大きく傾いた、何が
起こっているのかわからないルキアは不安げに母メルダを
見上げた、するとメルダの表情は険しいものから優しい母の
顔になる
「安心しなさい、ベッツが必ず魔族をやっつけて
くれますから・・・」
母の言葉に大きく頷くルキア、愛する息子の頭を優しく
撫でながら横目でオストフの動向を見守るメルダ、オストフは
後ろの執事に小声で問いかけていた
「魔族の襲来とベッツの到着時間はどれぐらいになりそう
なんだ?」
「魔族の軍がここに来る時間はおそらく一時間半後といった
ところでしょう、ベッツ殿の到着予定は約1時間後、聖剣の
到着があと2時間です」
その報告を聞いて口に手を当て考え込むオストフ
「う〜む、魔族の襲来に勇者は間に合うが聖剣は間に合わない
という事か・・・まあ剣だけ来て勇者が間に合わないよりは
百倍マシだが・・・まあよい、しばらくの間勇者には自分の
剣で魔族の攻撃を防いでもらって後から到着した聖剣で
魔族を蹴散らす、演出としては悪くないシナリオだ、大衆は
劇的なことに弱い、精々魔族と勇者には私の株を上げて
もらうとするか」
そんな事を呟きながらほくそ笑むオストフ、執事は頷き
再びオストフに問いかけた
「では私は国王陛下に魔族襲来の事実を伝え国軍の出撃を要請
してまいります、それと隣国であるベルドルア聖王国にも
魔族の襲来を知らせてまいりますので・・・」
オストフは執事に対し急に冷たい視線を向ける
「無用だ」
「はっ?」
「無用だと言っておるのだ、国王陛下にベルドルアにも
知らせる事はまかりならん」
信じられないと言った表情でオストフを見つめ返す執事
「し、しかし魔族は大軍で迫って来ているという話です
我が国の軍を総動員しても退けるかどうかわからない状況で
国軍の出撃要請もベルドルアへ援軍要請もしないとは
一体どういうおつもりですかオストフ様!?」
思わず口元を緩ませるオストフ
「馬鹿かお前は、ここは私の力で魔族を退け他の貴族共に
私の力を見せつける絶交の機会ではないか、そんな好機に
国軍とか、ましてや他国の軍人に花を持たせる様な
真似をするのは愚か者のする事よ、私には勇者と聖剣が
あるのだ、魔王が来るというならともかく、ザコ魔族共が
何千何万と押し寄せて来ようと所詮烏合の衆でしかなかろう
私の引き立て役として精々踊ってもらおうか、クックック」
完全に自分の描いたシナリオに酔ってしまっているオストフ
もはや何を言っても聞き入れてもらえないと感じた執事は
ある提案をする
「では勇者様と聖剣を運んでいる者達に連絡の為の早馬を
出し、一秒でも早くここに来ていただける様手配します
よろしいですね?」
オストフは面倒くさそうに軽く頷く
「まあそれぐらいなら許す、さっさと手配しろ」
オストフの許可を得た執事は急いで早馬の手配をする
執事に指示された伝令のための早馬は急いでベッツの元に走る
しばらくすると伝令の早馬がベッツ達を見つけ魔族襲来を伝えた
今回は聖剣の見極めだけだと思っていたベッツの表情が急に
険しいものに変わる
「それは本当ですか!?よし急ぐぞ‼︎」
ベッツと連れの部下達数名が馬に鞭を入れ急いで街に向かう
魔族達が来るはずの北の国境で魔族を待ち構える、そして
隣にいる部下に指示を出す
「街の人の避難誘導がうまくいっているか、逃げ遅れている
人はいないか確認に行ってくれ、それと国軍がいつ到着する
のか、それとベルドルア聖王国の援軍の到着予想時刻を
聞いてくれ、そして魔族に聖剣が奪われては一大事だ
オストフ伯爵にいつ聖剣が来るのか確認をとって来てくれ」
「わかりました、大至急確認してまいります‼︎」
部下の一人がクルリと背中を向け踵を返し馬を走らせる
「国軍とベルドルアの援軍が来るまで私達だけで
食い止められればよいのだが・・・」
まさかオストフが国軍の出撃要請もベルドルアへの援軍要請も
一切手配していないとは思ってもいない、しばらく
数人の部下達と魔族が来るのを待ち構えるベッツ、すると
目の前に広がる高原の先にポツポツと黒い物体が視界に入ってくる
そしてそれらは時間と共にどんどん増え始め地面を覆い尽くす
かの様な魔族の大軍がこちらに向かってくるのがわかった
「何だあの数は、あんなの俺たちだけでは防ぎ切れません
一時撤退して国軍やベルドルアの援軍と合流し迎え撃ち
ましょうベッツ様‼︎」
部下の言うことは全く持って正論だった、しかしここで
逃げるわけにはいかないのだ
「国軍や援軍がすぐに駆けつけてくれるとは限らない、その間
一般市民達が犠牲になるかもしれないのだ、どこまで市民の
避難誘導が進んでいるのかは知らないが、いざとなったら
俺たちだけで時間を稼がなくてはならない、それまで
は何としても・・・」
ベッツがそんな悲壮な決意をしていた時、様子見と確認に
行っていたはずの部下が血相を変えて戻ってきた
「ベッツ様、大変です、市民の避難誘導が全く行われて
おりません、それどころか国軍や隣国への援軍要請も
していないとの事です‼︎」
驚くべき報告に思わず耳を疑うベッツ
「そんな馬鹿な、何を言っているのだ・・・何かの間違い
であろう!?」
「本当です、この領地を治めるオストフ伯爵は市民の
避難誘導も国軍、援軍の要請も必要ないと、私がどれだけ
言っても聞かぬのです」
「そんな馬鹿な、貴族は自分の領地に住む人々の安全を守る
義務があるはずだ、一体何を考えてそんな指示を!?」
報告した部下はやや言いにくそうに少し間を開けて話し始めた
「それが、その・・・勇者と聖剣があれば魔族など即座に
蹴散らし退けるのだから避難誘導も援軍の要請も必要ないと
・・・」
その言葉を聞いて呆気にとられるベッツ、今まであまりの
過大評価に苦しんでいたことはあったが、これほどまでの
自体は想定外であった、ベッツの心に今までにない怒りが
こみ上げてくる、もちろんそんな指示を出したオストフに
対してもそうたが、その様な事態を招いた自分自身にも無償に
腹が立ったのだ
「わかった、俺が直接オストフ伯爵と話す、お前らは少しでも
いい、とにかく時間を稼いでくれ、頼む‼︎」
一人急いでオストフの屋敷に向かうベッツ
『間に合うのか、俺が言って説得できたとしても魔族達は
すぐそこまで来ている、市民が逃げる速度ではあっという間に
追いつかれ皆殺しにされてしまう、クソっ本当に俺が
魔族達を全て倒すしか無いのかよ!?唯一希望があると
するならば、聖剣ヴレイヴハート、あの剣がもし俺に使える
のであれば、あるいは・・・』
そんな一縷の望みを持ちながらオストフのいる大邸宅に向かう
無糖会の会場に着いたベッツは勢い良く入口のドアを開け
中の光景を見て言葉を失う、美しいドレスや立派なタキシード
を身につけた男女が特に緊張感もなくグラスを片手に談笑
しているのである、今の状況にあまりに似つかわしく無い
その人々の態度を見て唖然とするベッツ、そこに両手を広げ
ながら、にこやかに近づいてくる人物がいた
「やあこれはベッツ殿ですな、此度は遥々お越し頂いて
大変恐縮です、このオストフ、感謝の言葉もございません」
そう言ってにこやかに微笑みながら丁寧に頭を下げる
いつの間にか戦装束に着替えていたオストフは金と数々の
宝石で装飾された銀色の鎧を身につけ、赤、青、緑の宝石が
これでもかと散りばめられた剣を腰に付けていた、もちろん
オストフ自身は決して強くない、何なら仕えている執事の方が
何倍も強い、しかしあくまで権威を見せつけるために
大金を払って作らせた代物である、そんなオストフを
目の当たりにして、我に帰るベッツ
「オストフ伯爵、どうして一般市民の避難が行われて
いないのですか!?」
「だって“現代の英雄”と呼ばれる貴方がいらっしゃるでは
ありませんか、そして聖剣ヴレイヴハートもある
そんな状態でなぜ逃げなければならないのです?
魔族の害虫共をサッサと片付けてください勇者様
貴方の為に国軍も援軍も要請していないんですから」
さもそれが当然という感じであっけらかんと話し始めた
オストフに対し怒りの治らないベッツ、しかし言い争いを
している猶予はない、もうすぐそこまで魔族は来ているのだ
怒りを押し殺し、気を取り直しオストフに問いかけた
「で、その聖剣はどこにあるのですか?ヴレイヴハートは
今どこに!?」
「まだ到着していません、後30分もすれば届くと思いますので
それまでは勇者様のお力で魔族を防いでください、そして
聖剣が届いた時が魔族共の最後です、精々派手にカッコよく
魔族共をぶちのめしてください‼︎」
あまりに勝手な言い分に怒りを通り越し呆れ果てるベッツ
しかし市民を何とか安全に逃がさなければならない
どうにか話して説得にかかる
「いいですかオストフ侯、我々の人数ではあの魔族の大軍は
防げません、至急ここの皆さんと街の市民を完全な場所まで
避難誘導をしてください、一刻を争うのです
そして国軍の出撃要請とベルドルアへの援軍要請を
大至急お願いします‼︎」
「ですからそれは貴方が魔族をけちらして・・・」
二人が噛み合わない会話を繰り広げている時屋敷の扉が乱暴に
開き、慌てた様子の男が一人入ってきた
「申し訳ありませんベッツ様、魔族共が・・・」
その言葉を言い終わる前に扉を壊しながら三体の魔族が屋敷に
侵入してきたのだ
「キャアアアアーーー‼︎」
屋敷全体に女性達の悲鳴が響き渡る、会場は一瞬でパニックに
なり、ドレスやタキシードを着込んだ男女が右往左往しながら
慌てふためく
「もう来たのか、しかし三体ならば・・・」
入り口を破壊しながら入ってきた三体の魔族に猛然と突っ込む
ベッツ、逃げ惑う人々の流れに逆らう等に魔族達との間合いを
詰めるとあっという間に三体の魔族を斬り伏せた、会場からは
”おお〜〜“という歓声が上がる、そしてなぜか得意げな
オストフがニヤつきながらベッツに話しかけた
「勇者様も人が悪い、やっぱり魔族なんか物の数ではない
ではないですか、その調子でお願いしますよ」
ベッツはもはや怒りの感情を隠そうともせず怒鳴る様に
言い返す
「今のは三体だげだったから倒せたに過ぎない、本隊がきたら
私一人では防ぎ切れないと何度言えば、・・」
ベッツが吐き捨てる様に口を開いた時、再び魔族が侵入してくる
今度は5体の魔族であった、再びその魔族に向かって突撃する
ベッツ、しかし今回は反対側からも魔族が現れたのだ
屋敷の壁をぶち壊し、瓦礫となった壁を踏みつけながら
無理やり侵入してくる魔族達、左右別方向から同時に侵入
してきたのだ、完全に意表を突かれたベッツとオストフ
ベッツとその部下達も一方の魔族を相手にすることで
手一杯である、無防備な人間達に向かってゆっくりと
近づいてくる魔族達、ダラダラとよだれを垂らし
“どうやって殺してやろうか”とでもいいたげな愉悦混じりの
表情で、実にゆっくりと歩み寄る魔族達、そんな魔族達に
大パニックを起こす会場の人達、オストフの表情からも
余裕が消え顔面蒼白で口をアワアワさせながら狼狽えている
そんなオストフの耳元にそっと問いかける声があった
「オストフ侯、聖剣ヴレイヴハートはどこにあるのですか?」
オストフは目の前の魔族達から視線を移せないでいた
ガタガタと震えながら何とか答える
「この街の西門から来る、もう着いてもいい頃だ・・・」
「そうですか、ではお腰の物を少しお借りしますね・・・」
そう言ってオストフノ腰に下げている剣をスッと抜きった
一方ベッツ島とその部下達は扉から入ってきた魔族達を相手に
するので精一杯であり、反対側の魔族達にまで手が回らない
状態であった、ようやく目の前の魔族を打ち倒し反対側に
回ろうとした時、魔族達は今にも人々に襲い掛かろうとしていた
「クソっ間に合わない、やはり俺では守れないのか!?
オルランド様の様には・・・」
思わず目を伏せ落胆のあまり膝をついてしまうベッツ
その瞬間、ベッツの耳にある声が入ってきた
「何をしているのですかベッツ、立ちなさい、貴方は
それでも英雄と呼ばれる者ですか‼︎」
ベッツは愕いて顔を上げる、するとそこにはバラバラに
切り刻まれた魔族達の前に見た立ち塞がる黒いドレスの
女性の後ろ姿、魔族の肉片がボトボトと落下し血飛沫が舞う
凄惨な場面のはずなのにどこか美しくまるで絵画の一部の様な
光景に見えた、右手に剣を持ちながら振り向き呆然と見ている
ベッツに厳しい言葉を投げかける
「さっさと立ちなさい、貴方はそれでもオルランドの
意志を継ぐ者ですか‼︎」
「メルダ様・・・生きていたのですか!?」
黒いドレスを身に纏い気高く凛々しいその姿に思わず
懐かしさと嬉しさがこみ上げてくる、その高貴な美しさは
少し歳を重ねてはいたもののベッツの目にはあの頃と何も
変わっていない様に見えた
「メルダ様・・・一体今までどこにおられたのですか!?」
「悠長に話をしている暇はありません、とりあえずこの
魔族達を片付けますよ、貴方がどれほど強くなったのか
私に見せてみなさい」
「はい‼︎」
ベッツは嬉しそうに返事をする、そして続々と屋敷内に
侵入してくる魔族達を次々と撃退していった、すると魔族達は
勝てないことを悟ったのか我先にと逃げ出し始めたのだ
その光景に歓喜する人々、しかしメルダの表情は依然厳しい
ものだった
「ベッツ、わかっていると思いますがこの撤退は一時的な
ものです、次期に本隊が来るでしょう、もうすぐこの街の
西門に聖剣が届くそうです、ここは私が食い止めますから
貴方はそちらに行ってください、ヴレイヴハートが魔族の
手に渡ったら一大事です、さあ早く行きなさい‼︎」
「しかしいくらメルダ様とはいえ魔族の本隊を相手にお一人
では、私も残ります」
するとメルダは少し微笑み優しい視線をベッツに向けた
「貴方が私の心配など十年早いですよ、さっさと行きなさい
それとあの子を一緒に連れていってください」
メルダは一人の少年を指差す
「あの少年は一体誰なのですか?」
メルダの意外な言葉に思わず問いかけるベッツ
「あの子は私の息子ルキアです」
あっさりと言い放ったメルダの言葉に飛び上がる程驚くベッツ
「メルダ様の!?本当ですか!?」
あまりに驚きに目を丸くして少年をジッと見つめる、その時
ベッツの脳裏に稲妻の様な衝撃が走った
「この少年の面影、そして何よりこの目・・・ハッまさか
この子の父親は!?」
思わずメルダを見つめるベッツに対し言葉では答えなかったが
再び優しく微笑むメルダ、その表情が全てを物語っていた
全てを悟ったベッツは力強く頷く
「わかりましたルキア君はこのベッツが命をかけても守ります
聖剣を持ってすぐに戻って参りますので、それまでどうか
持ち堪えてください、ご武運を」
そう言ってベッツが立ち去ろうとした時、メルダがベッツに
だけ聞こえる様な小声でボソリと告げた
「私に何かあったらルキアを頼みます・・・」
ベッツは唇を噛みしめコクリと頷く、そしてルキアを連れ
聖剣の元に急いだ、部下達も慌ててそれに続く、そしてベッツに
問いかけた
「よろしいのですかベッツ様、あの女性が何者なのかは
知りませんが、たった一人で魔族の本隊に立ち向かうなど
いくら何でも・・・あのご婦人は一体どこの誰なの
ですか?」
部かの質問にフッと笑うベッツ
「あのお方こそリストランド共和国の元王女メルダ様だ
あの剣術大会でオルランド様と互角に戦った女性だ」
それを聞いて驚きを隠せない部下達
「あのお方がそうなのですか!?“リストランドの黒薔薇”
と呼ばれた天才女性剣士!?」
コクリと頷くベッツ、しかしその表情は厳しかった
『いくらメルダ様とはいえ魔族の本隊相手にお一人では・・・
急がねば‼︎』
しかしベッツの心配をいい意味で裏切るメルダ、魔族の本隊が
屋敷に押し寄せメルダの前に現れた
「ゲヘヘヘヘ、女一人か、じっくりなぶり殺しにしてやるぜ」
「人間の女を殺すのは最高に楽しいからなゲヘヘヘヘ」
残忍な笑みを浮かべてメルダを見つめる魔族達、そんな魔族
を目の当たりにしているのにもかかわらず、どこか嬉しそうな
メルダ
「ゲス共が、さっさとかかってきなさい、ただし黒薔薇の
トゲは少々痛いですよ」
挑発とも取れるその発言を発端に一斉に襲いかかる魔族達
しかし次の瞬間には魔族の死体が床を埋め尽くすこととなった
魔族達の腕や首が次々と宙に舞い、飛び散る血飛沫が床は
おろか壁すらも真っ赤に染めて行く、まるで多勢の魔族相手に
ダンスでも踊っている様に美しく舞うメルダ、今日この瞬間だ
けはルキアの母親ではなく“リストランドの黒薔薇”と
呼ばれていた一介の剣士に戻っていた、あまりの一方的な
展開に魔族達の攻勢が止まり攻撃を躊躇する魔賊達
思わぬ強敵の出現に戸惑い、睨みつける様に対峙する
「どうしました、もうおしまいですか‼︎」
挑発とも取れるメルダの発言であったが、メルダ自身
かなり体力を消耗しており、肩で息をしている状態であった
『これぐらいの立ち回りで息が切れるとは情けない
年はとりたくないものですね、奴らがこうして攻めて
こないのは正直ありがたい、時間も稼げるし今のうちに
少しでも体力の回復を・・・』
メルダがそんなことを考えていた時、魔族達の後方から
甲高い声が聞こえて来る
「何をやっておるか、たかだか人間ひとりに情けない‼︎」
手下共を叱咤しながら魔族の群れをかき分ける様に出てきた
この魔族こそ、今回の指揮官フェルジャモである、他の魔族
より一回り程大きい体、そして異常に大きい後頭部が特長的な
姿をしている
「お前か、我ら魔族に一人で抵抗しているという愚かな
人間は?」
そんなフェルジャモの姿を見ても臆することなく堂々と
立ち塞がるメルダ、着ているドレスや髪、手に持っている
オストフから借りた剣も既に返り血で真っ赤になっている
しかしそんなことを気にする様子もなくフッと笑いながら
フェルジャモに語りかけた
「貴方が魔族軍の首魁ですか、あまり強そうではありませんが
精々頑張って見せてください、今までは相手が弱すぎて
物足りなかったところですので」
あえて挑発的な言動でフェルジャモの精神を揺さぶりにかかる
メルダ、しかしそんな挑発に乗ることなくいたって冷静な
フェルジャモ
「人間の女風情が、吠えるではないか、そう慌てることも
あるまい、じっくりなぶり殺しにしてやるから楽しみに
していろ、散々我が同胞を殺した報いをしっかりと
その身に刻んでやるからなクックック」
目を細め残忍な笑みを浮かべるフェルジャモ、その時メルダは
何か違和感を感じた、どうして一気に攻めてこないのか?
メルダ達にしてみれば時間が稼げるのはありがたいのだが
時間が経つことによるメリットというものが魔族達にあるとは
思えなかったからだ、しかもこの魔族の指揮官フェルジャモは
どう見ても猪突猛進タイプというより狡猾に事を進めるタイプ
に見えたからだ、メルダは探りを入れるためにある質問を
投げかけた
「そんなに悠長にしていていいのですか?もうすぐ
聖剣ヴレイヴハートがここに届きます、ベッツがそれを
手にした時、それが貴方達魔族の最後です、魔王すらも
退けた聖剣の力を知らないわけではないでしょう?」
そんなメルダの質問に対し、フェルジャモは目を細め
愉悦交じりの笑みを浮かべた、その瞬間メルダの脳裏に
衝撃が走る
「まさか・・・あの聖剣は、罠⁉︎」
敵の意図に気がついたメルダ、その反応を見て嬉しそうに
答えるフェルジャモ
「ほう、よくわかったな、その通りあの聖剣は私が用意した
偽物よ、勇者がそれを手にした途端、呪いが発動し
勇者の全身を叙々に飲み込み、そしていずれ死に至るという
代物だ、魔王様に仇なす恐れのある勇者は早めに排除せねば
ならん、だからこそ今回の作戦を実行したのだ、わかったか
人間、下等な生物である人間風情が我々魔族に勝とうなんて
身の程知らずだということがな、クックック」
勝ち誇る様に笑うフェルジャモ、それに対し初めて焦りの
表情を見せるメルダ
「何てこと、魔族の今回の目的はこの街ではなくベッツ
だったなんて・・・はっ、ルキアが危ない!?」
魔族の指揮官フェルジャモの罠に気が付いたメルダ、しかし
すでに事はフェルジャモの思い通りに進んでいた、目の前に
魔族の大軍と指揮官、メルダは意を決したかのように思いきった
行動に出るのであった。
ルキア編の四話ですいかがだったでしょうか?今回で最終のつもりでしたが、予想以上に長くなってしまい
二話に分けました、盛り上がる直前で切れてしまった感じなので物足りなさを感じた方はすみません
次話で確実に終わりますのでそれまでお付き合いいただけると幸いです、では。




