忍び寄る闇
登場人物
アドリアン・ルキア…伝説の聖剣”ブレイヴ・ハート”を持つ勇者、人々の為に戦うという信念を持って
ルース・ライオス…2m近い長身で屈強な戦士、一人で魔獣を倒したこともあり”魔獣殺し”の異名を持つ、兄貴肌な性格でチームの精神的支柱にもなっている
ライドン・ゾフィ…召喚魔術師の名門ライドン家の生き残りで五体ものドラゴンを操る事ができる凄腕、一族の間では”神に愛された至高の召喚魔術師”と言われていた
クルム・フリニオーラ…世界最強の魔法使いと言われたクルム・ハイドニールの弟子で師匠の仇である魔王を憎んでいた、史上最年少で”クルム”の名を継いだ天才魔法使い
織田信長…尾張の大名、頭が切れ行動力とカリスマ性を兼ね備えた戦国時代の風雲児
羽柴藤吉郎秀吉…ルキア達の戦場での活躍を見て織田軍にスカウトした人物、後の豊臣秀吉
浅井・朝倉を破った織田信長はいよいよ本願寺との全面対決に
乗り出す決意を固める
「よいか、今度こそあの一向宗門徒共の息の根を止め本願寺の
腐れ坊主共に思い知らせてやるのじゃ、わかっておるとは
思うがあやつらは死ねば極楽浄土に行けると思うておる
狂信者共じゃ、ならば望み通りに死なせてやる、女子供とて
手加減は無用じゃ一人残らず皆殺しにせい、わかったな!!」
「御意!!」
信長の有無を言わせぬ命令に平伏し従う家臣達、信長がこれ程
激しく怒りを示しているのには理由があった、本願寺からの
檄文により長島では一向門徒が一斉蜂起、これに呼応して
”北勢四十八家“と呼ばれる北伊勢の小豪族も一部が信長に
反旗を翻し一揆に加担したのだ、数万に及ぶ一揆衆は長島城を
攻め落とし城を奪うと、続けて小木江城を攻め落とした、この
小木江城の城主は信長の弟である信興であり、一揆勢の
猛攻の前に信興は自刃した、そして桑名城の滝川一益も撤退
させられているのだ、しかしこの頃、信長はまだ浅井・朝倉と
対峙しており援軍を送る事が出来なかった為、忸怩たる思いで
長島奪還を諦めたのである、浅井・朝倉と仮の和睦をした後
信長は5万の兵力をもって長島に侵攻した、世に言う
”第一次長島侵攻“である、だがこの時期、浅井・朝倉はまだ
健在であり京都では足利義昭もいて何やら不穏な動きを
見せていたので、信長は秀吉とルキア達を残して自軍だけで
出陣する、しかし一揆衆はは10万を超える兵を有しており
地の利も生かした戦術で織田軍を苦しめた、その結果
長島の攻略はできないまま撤退を余儀なくされてしまった
しかも撤退の際に敵の伏兵に待ち伏せされ
殿を務めた柴田勝家が負傷、代わりに殿を務めた美濃三人衆の
一人、氏家卜全が討死するという惨憺たる結果に終わった
長島とは木曽川、揖斐川、長良川の河口付近の輪中地帯を指す
いく筋にも枝分かれした木曽川の流れによって陸地から
隔離された地域である為、通常の侵攻作戦では対応が難しく
一揆側は海路を使った船による補給で食料や武器そして
雑賀衆などの人員補給をして戦いを有利に進めたのである
この時の反省を生かし、信長は海路を封鎖し制海権を得る為
伊勢大湊での船の調達を命じていたが、地元の商人達がその
要求を渋り、船の調達は難航した
「なんじゃと、大湊の会合衆が船を出さないじゃと!?
あの腐れ商人共が、一体何を考えておるのじゃ!!」
中々計画通りにいかない信長は苛立ちを隠せなかった、
伊勢の地を治めていた北畠具房を使い会合衆に働きかけたが
それも不調に終わり、痺れを切らせた信長は船の調達が不十分
なまま二度目の長島侵攻を開始した、浅井・朝倉を滅ぼし将軍
足利義昭を追放した今、後顧の憂いなく主力を長島に投入した
信長は今度こそ、という気持ちであった、今回の長島侵攻には
秀吉を始めルキア達も同行しており、そして徳川家康の援軍
として遠江に行っていたステイメンとゼファーも合流して
久々のフルメンバーでの作戦参加だった
「それにしても、随分と家康公の所にいたもんだな、同じく
援軍に行っていた佐久間信盛殿や滝川一益殿はすぐに
帰ってきたってのによ」
「いや〜向こうの女性達に囲まれちゃってね、中々帰して
くれなかった訳よ、モテる男は辛いよ、ライオスの旦那には
わかってもらえない苦労だとは思うけどさ」
「ハイハイ、そういうのもういいいから、ゼファーに聞いた
のが間違いよ、でどうなのステイメン?」
「いえ、それが調べたい事があるって居残りを希望して
いたのはゼファーでしてね、何やら家康公の家臣である
服部半蔵殿となにやらヒソヒソやっていましたが・・・」
「わかってはいましたがゼファーさんがそんなにモテる訳
ありませんからね、で何をやっていたのですか?
貴方は余計な事はベラベラ喋るくせに肝心な事は秘密主義
っていう傍迷惑な性格をしていますから困ります」
半ば呆れ気味にゼファーに問いかけるフリニオーラ
「ちょっと長く留守をしていて寂しかったのは謝るよ
これからはずっと君のそばにいるからさ、それで
勘弁してくれよ、ね、フリニオーラ」
にこやかにウインクするゼファーにガン無視を決め込む
フリニオーラ、いつもの光景に思わず苦笑いのルキアと秀吉
「で、真面目な話、何を調べていたんだゼファー?」
ルキアの真面目な問いかけに答え辛そうに顔をしかめる
「う〜ん、まだ確証を得るまで言うつもりは無かったんだが
今回武田信玄がヴァンパイアだったって事は話したろ!?」
「ああ、それは聞いたぜ、しかも真祖、トゥルーヴァンパイア
だったらしいじゃねーか!?よく勝てたなステイメン
俺はヴァンパイアとは戦った事ないから、一度ガッツリ
やってみたいぜ、こっちは鬼は鬼でも赤鬼、青鬼
ばっかでな」
「たまたまですよ、信玄公は本当に強かったですから・・・
しかしふに落ちない事があります、吸血鬼の真祖になるって
いうのは並大抵の知識じゃできませんし、儀式に使用する
為の触媒を揃えるのでさえ至難の技です、信玄公にそれを
教え、必要なものを全て揃えたという、黒いマントに
銀の仮面をしているという謎の人物は一体何者なの
でしょう?」
その話を聞いていた秀吉が”あっ“と叫んだ
「そういえば足利義昭公がお館様に反旗を翻した時
“なぜそんなことをしたのか?”と尋ねたら
黒マントに銀の仮面を被った男にそそのかされた・・・
と言っておった、取って付けた言い訳じゃろうと
思うておったが、今の話だとどうやら本当のこと
みたいじゃな!?」
ルキアが口に手を当てて考え込む
「銀の仮面に黒マントの謎の男・・・我々や信長公に
仕掛けて来ている本人か、それとも組織の1人なのか
か・・・」
先程までおちゃらけ気味だったゼファーが真面目な表情で
語り始める
「俺はそいつ自体が黒幕だと思っている、誰にも気づかれず
信玄公や義昭公の寝所に侵入し刀で刺されても死なない
なんてぶっ飛んだ奴が何人もいるとは思えないしな
まだ誰が何の為にそんなことをしているのかは
わからないが、どんな奴でどういう手段を使って
こちらに刺客を送り込んでくるのか?というのを
考えていたんだ、まだあくまで仮説の段階だけどな」
ゼファーの言葉に皆の注目が集まる
「それ本当?一体どんな奴がどうやってコッチに送り込んで
来るのよ、勿体つけずに早く教えなさいよ!!」
ゾフィーが待ち切れず急かし気味に催促すると
ヤレヤレとばかりに目を閉じ首を振るゼファー、そして
少し間を置いて口を開いた
「どんな奴か?というのは年齢や性格、思想といったもの
ではなく職業だ、君なら薄々気が付いているんじゃ
ないのかいフリニオーラ?」
振られたフリニオーラは険しい表情を見せ目を細めた
「やはりそうですか・・・相手は私と同じ魔法使いですね
しかも暗黒魔法のエキスパートといっても過言じゃない
でしょう、こと暗黒魔法に限っていえば私より上かも
しれません・・・」
その言葉に驚きを隠せないメンバー達、フリニオーラの力は
皆よく知っている、魔法に関しては絶対の自信と
プライドを持っているフリニオーラが暗黒魔法限定とはいえ
“自分より上”と言うとは信じられなかった
「これは驚きましたね、暗黒魔法限定とはいえフリニオーラ
より上の魔法使いなんて・・・正直想像もつかないです」
「それだけ厄介な敵ってことか、あんまり舐めてると
ヤバイかもな、ただそんな強い敵なら是非やりあって
みたいもんだが!?」
「という事は、私達全員ならともかく一人で対峙したら
負ける可能性もあるって事ね、面白いじゃない
いくらその暗黒魔法が凄くても私のドラゴン達で
ケチョンケチョンにしてやるわよ」
警戒を強めるとともに闘志を燃やす者もチラホラ、そんな中で
ルキアが冷静に問いかけた
「相手の職業は何となくわかった、しかしそれでは
家康公の所に残っていた理由がつかない、つまり
どういう手段でこちらの世界に来ているか?を調べる為に
家康公の所に残っていたんだろ!?」
「さすがルキア、その通りだ、もちろん方法や理屈が
判明した訳じゃないし、誰がやっているのかもわからない
だが何か手掛かりを掴んだような気がしたんだ・・・」
皆がゼファーの言葉に息を飲む
「レスティアレ・ラドスからコチラの世界に来る際に
手掛かりとなるモノ、それは忍び、いわいる忍者が
関係していると俺は考えている」
驚いて立ち上がったのは秀吉である
「忍び、だからゼファー殿は服部半蔵殿と話を!?」
その問いかけにコクリと頷くゼファー
「まだ確証はないしあくまで仮説だが、それだと話が繋がり
やすい、だから俺たちが遠江を離れる時も服部半蔵殿には
色々と調べてくれるよう頼んでおいた、その結果次第では
もっと相手に近づけるかもな・・・」
わずかではあるがようやく敵の尻尾を掴んだルキア達、今後も
警戒を強めながら敵に対処することを決意した
長島に着くと信長より秀吉に命令が下る
「よいかサル、一向一揆勢が立て篭る西別所城と坂井城を
攻め落とせ、生死は問わぬ、一行門徒どもを皆殺しに
せよ!!」
「御意!!」
信長に平伏し命令を受け取る秀吉、しかし信長が去った後
大きくため息をついた
「どうしました秀吉殿?」
「おお半兵衛、実はお館様より西別所城と坂井城の攻略を
仰せつかったのじゃが”一向門徒は皆殺しにしろ“と
言われてな、羽柴秀吉として初の仕事じゃ、キッチリ
こなしてお館様にも認めてもらいたいのじゃが・・・
両城には武装している男だけではなく女子供もいる
はずじゃ、はてさてどうしたものかと思ってな・・・」
途方に暮れ遠くを見つめるように思いにふける秀吉を見て
ついつい笑みが溢れる半兵衛
「お館様は一向門徒に弟君や部下達を殺されていますからね
・・・ならば力攻めではなく搦め手で攻略すればよいのでは
ないでしょうか?それならば被害も最小限度に収まるかと」
その提案に”う~ん”とうなりながら腕を組んで考え込む秀吉
「絡め手のう・・・一向門徒達は一向宗を信じ切っておる
信者じゃ、謀略や調略が通じるとも思えんが・・・」
クスリと笑いゆっくりと首を振る半兵衛
「力攻めではなく調略でもない搦め手を使うのです
真正面からの攻撃や人の心を攻めるのではなく
下からというのはどうでしょうか?」
「下?それは一体・・・あっ!?なるほどそういう事か!?
しかしお主は色々と悪知恵が働くのう、敵に回さずに
本当によかったと思うわい、よし早速金掘り衆を呼べ!!」
善は急げとばかりに部下達に次々と命令を下す秀吉
そんな背中を見つめながら半兵衛はボソリと呟く
「敵に回さずに良かったと思っているのは私も同じですよ」
そう言って微笑む半兵衛だった
金堀り衆というのは地面に穴を掘り、トンネルを作って
敵の城の中へと掘り進み、敵城に火を放つか爆破するという
役目をおこなう者達のことである、そして秀吉はルキア達にも
相談していた
「という訳でござる、なるべく女子供までは殺しくはない
のでござるよ、両城とも小城ではありますが抵抗されれば
お互いそれなりの損害が出ます、ですから両城にまた
怪しげな術が施されていないか?を見て欲しいのと
抗道戦の支援をおねがいしたいのでござるよ」
秀吉の申し出を快く引き受けるルキア
「そういう事でしたら我々も協力します、敵城に魔力的な
効果が付与されているか、調べてみましょう
ステイメン、フリニオーラ頼むよ」
ステイメンとフリニオーラは大きく頷く
「わかりました、調べてみましょう」
「了解です、何でしたら私の魔法で城ごと吹き飛ばしても
いいですよ!?」
目をキラキラさせながらそんな提案をするフリニオーラに
苦笑いの秀吉、ライオスやゼファーは呆れて口を挟まない
いつもの見慣れた光景である、西別所城と坂井城を見た
ステイメンとフリニオーラは思わず目を細める
「結界が張られていますね・・・見たところ地上だけの
ようですから地下は大丈夫そうですが・・・」
「それほど強力な結界ではなさそうですが
結界を破壊しようとすれば城にも多大な損害が出ますね
下手をすれば本当に城が消し飛びます、それでも良ければ
私がやりますが!?」
半分冗談、半分本気とも取れるフリニオーラの提案を
やんわりと断る半兵衛
「いや、それは最後の手段という事で・・・では抗道戦を
開始するにあたってゾフィー殿にも支援をお願いしたい
のですが!?」
思いもよらなかった半兵衛の言葉に驚くゾフィ
「えっ、私!?でも私の魔獣でもあの結界を破ろうとすれば
結界ごと城にも大被害が及ぶわよ、それはまずいんじゃ
ないの!?」
半兵衛は優しげに微笑み説明を始めた
「いえゾフィ殿に手伝っていただきたいのは別の事です
それは・・・」
それから数分後のこと、西別所城と坂井城の上空に数十羽の
鳥が群れをなして飛んでいた、それは赤、青、紫、オレンジ
といった鮮やかな色彩の体を持ち七色のトサカが特長的な
オウムであった、あまりに珍しい鳥の出現に城の者はおろか
織田軍の兵達も頭上を見上げその姿を目で追っていた
「半兵衛さん、目立つ鳥を出してくれとの要望だったから
レインボーパロットを出せるだけ出したけど、これで
良かったの?この子達、主に偵察用の魔獣だから戦闘とか
できないわよ!?」
ゾフィの質問に対し、満足げに頷く半兵衛
「十分です、人間頭上に意識がいっている内は下には
意識がいかないものです、これで抗道戦は成功したも
同然です」
そう言ってニコリと笑う半兵衛、その言葉通り地下トンネル
を掘り、西別所城と坂井城に侵入した秀吉軍は完全に相手の
意表をつく形となり、あっという間に両城を落とした
その後も近藤城を攻略し赤堀城、桑部南城、千種城、長深城と
次々と落城させたものの、未だに大湊の船の調達が思うように
いかず、長島への直接攻撃をおこなうことができなかった
「何ということじゃ、ここまで来てまだ船が調達できんだと
信雄や北畠親子は何をやっておるのじゃ!?」
怒りの態度を隠そうともせず家臣に対し声を荒げる信長
「信雄様や北畠殿も懸命に船の調達をしているようですが
大湊の会合衆が未だに協力を渋っているようでして・・・」
家臣達の苦しい言い訳に、思わず手元の湯飲みを投げつけると
立ち上がり睨みつけるように部下達を見した
「いくら周りの支城を落としても肝心の長島城に攻め込めぬ
のであれば無意味ではないか、わかっておるのか
貴様らは、このたわけ者どもが!!」
怒り狂う信長ではあったがそれで事態が好転する訳でもなく
船の調達が無理とあっては長島城の攻略は不可能と判断し
今回の遠征も長島城攻略を諦め、撤退する箏となった
矢田城に滝川一益を残して撤退の準備を始める織田軍
しかし皆の表情は険しく、未だにピリつくような空気の中
軍全体に緊張感が漂っていた
「秀吉さん、敵の本城を攻め込むことなく撤退するのだから
空気が重いのは仕方がないと思いますが、妙に空気が
ピリピリしているように感じるのですが・・・」
「気がつきましたかルキア殿、実は前回の長島侵攻の
撤退時に敵の伏兵による待ち伏せを喰らいまして
手痛い損害を被ったのでござる、それで皆が緊張して
いるのでござるよ、しかし心配御無用、今回は
それも想定して鉄砲隊による伏兵対策も万全でござる
こういうところはさすがお館様といったところです!!」
まるで自分の事を自慢しているかの如く信長を褒め称える秀吉
織田軍は警戒を強め撤退を開始する、今までの一向宗門徒達は
圧倒的な数に任せての力押しという戦術がほとんどだったのだが
道が狭くなる所で砲隊や弓兵の伏兵による待ち伏せという
新たな戦略を用いだしたのだ、織田軍は林通政を殿とし美濃への
帰還を目指していた、多芸山に差し掛かった時、ライオスが
急に厳しい目つきで辺りを見回すと大声で叫んだ
「秀吉さんよ、この周辺に凄い殺気を感じる、敵がいるぞ!!」
その瞬間、”パーン”という銃声が多芸山に鳴り響く、四方から
の銃撃で数人の織田兵がバタバタと倒れ込んだ
「敵の伏兵だ、各自隊列を乱すな、鉄砲隊は前へ出て
迎撃の準備を!!」
突然の奇襲で兵達が混乱する中、林通政の声が響く
続いて無数の弓が織田軍の頭上から降り注ぐ、ルキア達の
周りにいた兵数名にも弓が刺さりバタバタと倒れていく
「ステイメン、負傷した兵達に回復魔法を!!」
「了解です!!」
ルキアの指示でステイメンが負傷兵に回復魔法を施す、体勢を立て直した
織田軍は鉄砲隊を前面に配置し敵襲に備えた、殿を任された林通政は
一向宗門徒達を手ぐすねを引いて待ち構える、前回の長嶋遠征の際にも
伏兵による奇襲を受けた、その時は今回と同じように鉄砲と弓による
攻撃を受けた後、一向宗門徒達が一斉に押し寄せてくるという戦術だった
それを考慮し、今回信長は迫り来る一向宗門徒達を鉄砲で迎え撃つという
作戦を立てたのだ
「何度も同じ手は食わぬ、来るなら来い一向宗の狂信者どもめ!!」
その時である、晴天だった空に突如暗雲が立ち込め、上空を暗く染めていく
そして次の瞬間、大量の雨が織田軍に降り注いだのである、その豪雨は
織田兵と地面を激しく叩きつけた、その雨音は他の音を全てをかき消し
必死で叫ぶ林通政の声を遮る、その時である一向宗門徒達がバシャバシャと
足音を立てながら一斉に襲い掛かって来たのだ、急な豪雨により鉄砲が
使用不能になった織田軍は困惑し押し寄せた一向宗門徒達に押され始める
その時ステイメンが豪雨の音に負けないよう叫んだ
「気が付いていますかフリニオーラ!?」
「はい、この豪雨は自然現象ではありませんね、魔法によるものです
凄まじい魔力を感じます!!」
驚いたゾフィが問い掛けた
「えっ!?この豪雨、魔法なの、そんなことできるの?」
その質問にコクリとうなずくフリニオーラ
「はい、これは気象魔法によるものです、気象魔法は膨大な魔力を
消費しますから私はあまり使ったことはありませんが、これは
間違いなく魔法によるものです、しかも今この現象は豪雨を呼ぶ
”コントロール クラウドバースト”ではなくその上位魔法
”アドミニストレータ ウェザー”ですね・・・」
その時ゼファーが顔をしかめて問いかけた
「おいおい、それってまさか・・・」
コクリとうなずくフリニオーラ
「ええ、来てますねここに、例の魔法使いが」
全員が驚きの表情を浮かべ息を飲む
「マジかよ、いよいよお出ましって訳か」
「どこにいるっていうのよ、私が直接ぶちのめしてやるわ!!」
やる気を見せるライオスとゾフィだったが、ルキアはすかさず
別の指示を出した
「まずはこの天気を何とかしないと織田軍の被害が広まる一方だ
ステイメン、この気象魔法を解除できるか?」
「ええ、任せてください、解呪!!」
ステイメンの周りに巨大な魔法陣が発生し天に向かって光の柱が
立ち上ると、空を覆っていた暗雲は一気に霧散し元の晴れ間が顔を見せた
それと同時に混乱していた織田軍がようやく体勢を立て直し一向宗門徒達
を押し返し始めた、それを見たルキアは軽くうなづきフリニオーラに
問い掛ける
「フリニオーラ、敵魔法使いの位置はわかるか?」
「やってみます、必ず見つけ出してボッコボコにしてやりますよ!!」
フリニオーラは手に持っている杖を地面に”コン”と付けると
そこから波紋状に光が広がり、一気に地面を駆け抜けて行った
しかし次の瞬間フリニオーラは”あっ”という声を上げて歯ぎしりした
「どうしたんだフリニオーラ?」
思わず問いかけるライオスに視線を向けることなく怒りで唇を
震せながら答えた
「私の魔力ソナーを”スペルジャミング”で阻止されました・・・
おのれ小癪な真似を!?」
「では敵魔法使いの位置はわからなかったという訳か・・・」
少しガッカリしたような口ぶりで独り言のようにつぶやくルキア
しかしそれに激しく首を振るフリニオーラ
「正確な位置まではわかりませんでしたが大体の位置は判明しました
10時の方向、ここから西北西の約4km地点ですね」
「そこが一向一揆衆の本陣か・・・そんな近くにいやがるのか」
「しかし今更戻るのかい?・・・どうするルキア」
ゼファーに問われたルキアは少し考えるが、次の瞬間、何か嫌な気配を感じる
それと同時にフリニオーラが叫んだ
「魔法が来ます、まさかもう仕掛けて来るとは・・・
グレーターボルケーノ!!」
織田軍の頭上に白い霧状の物体が発生し弾けるように一気に広がった
それをフリニオーラの爆炎魔法が迎え撃つ、上空から降り注ぐ冷凍波を
爆炎が押し返していくという図式でお互いを飲み込んでいくが
爆炎から漏れた冷気の余波が織田軍の兵数人に降りかかり一瞬で凍り付いた
「意表を突かれカウンターマジックが遅れました、それと私の魔力ソナーを
逆探知されここの位置を割り出されたようです、すみません
これは私の失態です!!」
「いや指示を出したのは俺だ、フリニオーラのせいじゃない
ステイメン、敵からの攻撃に備えて防御結界を・・・」
ルキアがステイメンに防御魔法の指示を出そうとした時
「待ってください、相手は間違いなく魔法使いです、攻撃魔法の
打ち合いで私が負ける訳にはいかないんです、私にやらせてください!!」
フリニオーラの強い意志に、どうするべきか少し迷ったルキアは
思わず仲間を見渡す
「いいんじゃねーか、俺も相手が強い剣士だったら絶対戦うしな」
「いいと思うわ、でも負けるんじゃないわよケチョンケチョンに
やっちゃえ!!」
「うん、強気の女性って嫌いじゃないよ、がんばれ!!」
「そうですね、人間誰しも譲れない事はあるものです
フリニオーラに任せましょう」
皆の意思を確認すると無言で力強く頷くルキア、フリニオーラは
瞳をギラつかせニヤリと笑う
「ありがとうございます、必ず勝って見せますからご安心を
この私に喧嘩を売った事を死ぬほど後悔させてやり、相手に
クルムの名は伊達ではないという事を思い知らせてあげますよ!!」
そう言って上空を見上げた、すると空には突然、炎の球体が発生し
それがどんどん巨大化していった
「今度は火炎魔法ですか、小癪な エクスプロードフレイム!!」
フリニオーラの放った炎の球体は増殖する様にみるみる巨大化し
まるで意志を持っているかのように上空の炎の球体に向かって行った
「行け、エクスプロードフレイム、そんな炎、圧し潰せ!!」
巨大な二つの炎の球体はどんどん大きさを増しながら、お互い吸い寄せられる
ようにぶつかった、炎の球体は衝突の衝撃で膨らみ切った水風船が破裂した
かの様にはじけ飛ぶ、上空は真っ赤に染まり、見ている者達の顔を赤く照らす
そしてはじけ飛んだ際の火の粉が辺り一面降り注いだ
「熱ちぃ~アチアチ~!!」
空から降り注ぐ火の粉の雨に織田兵も一向宗門徒達も熱さで混乱していた
そんな中、上空を見つめながら一切動かないフリニオーラ
しかし空を見つめるその表情は非常に険しいモノであった
「なっ、互角!?」
「嘘でしょ、炎の魔法でもフリニオーラと互角だったの!?」
「うわ~思った以上に敵はやり手だねぇ~」
「信じられません、あのフリニオーラと互角の魔法が放てる者が
他にもいるとは・・・」
「世の中は広いな、しかし敵に感心ばかりもしていられない
フリニオーラ、一旦下がって・・・」
しかしルキアを始め皆の声はフリニオーラの耳には入っていなかった
「おのれ、おのれ~ 小賢しい真似を・・・はっ!?」
何かを感じたフリニオーラの表情が更に険しくなる、ブルブルと肩を震わせ
ながら、それはもう激怒しているといっても過言ではなかった
「雷の精霊が騒いでる・・・雷撃系の魔法は私の最も得意とするところ
何者かは知りませんが図に乗って、格の違いって奴を
思い知らせてやりますよ、アークギガサンダー!!」
瞬間的に発生した二つの稲妻が凄まじい光と轟音を伴い激突した
それはもう爆発と言ってもよい現象で発生した光と轟音により
辺りにいた者達の目も耳も役に立たなくなり、衝突の際に起こった
爆風に飛ばされないようにするだけで精一杯だった
「なんじゃ、一体何が起こったというのじゃ!?」
正体不明の現象に事情を知らない信長も困惑している
しばらくすると、ようやく視界が開けてきて耳も聞こえるように
なった秀吉が、ルキアに近づきそっと問いかけた
「一体どうなったのでござるか?」
ニコリと微笑み優しく説明するルキア
「勝ちましたよ、今回の魔法の打ち合いは完全にフリニオーラの勝ちでした」
秀吉がふと視線を移すと、そこには正体不明の相手に対し両手を腰に当て
目いっぱい仰け反りながら高らかに勝ち誇るフリニオーラがいた
「見ましたか、愚か者、何処の誰かは知りませんがこの私に喧嘩を売るのは
百年早かったようですね、はっはっは!!」
ライオスやゼファーはヤレヤレとばかりに両手を広げゆっくりと首を振る
ゾフィは苦笑いを浮かべ呆れたようにフリニオーラを見つめている
ステイメンは目を閉じ微笑みながらため息をついた
「さすがだなフリニオーラ、それでこれからどうする?」
「あ、ルキアさん、今度はこっちから仕掛けようと思っています
今の魔法攻撃であちらの位置も完全に把握できました
なかなかの手練れですが私に喧嘩を売った事、死ぬ程
後悔させてやりますよ!!」
半分嬉しそうに半分呆れ気味に微笑むルキア、フリニオーラの行動を
そのまま黙って見つめていたが、フリニオーラが魔法の杖を前に構えた
瞬間、再び”あっ”と叫んだ
「どうしたんだフリニオーラ?」
思わず問いかけるルキアに対し、再び険しい表情を見せているフリニオーラ
「気配が消えました・・・あれほど感じられた魔力が一瞬で
かき消えるように・・・あり得ないですよ、こんな事」
理解不能な現状に困惑気味のフリニオーラ
「もしかして転移魔法というやつで瞬間的に移動したってことは無いのか?」
ルキアの言葉に首を振るフリニオーラ
「転移魔法というのは”理論上可能である”と言うだけで実際に成功した
例はありません、空間と空間を連結しそこを生身の体で通るのですから
途方もない演算能力と凄まじい魔力消費、そして目標座標を1mmでも
間違えたら肉体ごと原子レベルで崩壊してしまうというハイリスクを
抱えているのです、私はもちろん師匠でさえも実践した事がない
超絶魔法なんですよ、もし仮に今回の敵がそれを可能とする能力を
持っていたとしても、あれほどの巨大魔法を連発した直後に
膨大な魔力消費を必要とする転移魔法なんてできるはずありません!!」
その説明に納得するメンバー達だったが、ではどうやって敵が一瞬で
いなくなったのかは結局誰にもわからなかった
「なあフリニオーラ、敵がどうやって瞬間的にいなくなったのかは
保留するとして、今回の敵の正体に心当たりはないのかい?
あれ程の魔法の使い手が無名であるはずはないと思うんだが?」
フリニオーラは目を閉じゆっくりと首を振る
「全く見当もつきません、あれほどの魔力を持ち、数々の高度な術を
使いこなす魔法使いなんて、私は師匠以外知りません」
そこにゼファーが割り込むように口をはさむ
「なあフリニオーラ、今の敵の正体が君の師匠だって事はないのかな?
俺は最近、死んだはずの人間が蘇って来た・・・なんて話を
やたら目の当たりにしていてな、もしかしたら・・・と思ったんだが」
その疑問にも激しく首を振るフリニオーラ
「それは有り得ません、魔法というのはどこか癖と言いますか
個人差が出るモノなんです、巨大魔法であればなおさらの事
術式を組む時の個性と言いますか特徴が出やすいんです
私が師匠の魔法を受けてもわからない、なんて事は絶対にありません
それは断言できます、あの相手は師匠ではありません!!」
その言葉にライオスが大きくため息をついた
「また振り出しみたいなもんか・・・ようやく尻尾を掴んだと思ったのにな」
その時フリニオーラが独り言のようにボソリとつぶやく
「ただ・・・でも・・・」
「どうしたフリニオーラ、何か手掛かりでも?」
「いえ、あの魔法、何処かで見たことがあるような・・・
と思ったのですが、気のせいです、すみません」
正体不明の敵と初めて相対したルキア達だったが、その正体は一向に
わからず手掛かりすらつかめなかった、しかしこの先この敵と更に激しい
戦いが待っている事に、この時点では誰も気が付いてはいなかった。
今回から長島の一向一揆編です、信長の歴史的にも中盤から佳境に入ってくるあたりでしょうか?
物語もようやく本題に入ってくるところです、話の流れがコロコロ変わって読み辛いかもしれませんが
お付き合いただけると幸です、では。




