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名門朝倉家の滅亡

登場人物

アドリアン・ルキア…伝説の聖剣”ブレイヴ・ハート”を持つ勇者、人々の為に戦うという信念を持って

ルース・ライオス…2m近い長身で屈強な戦士、一人で魔獣を倒したこともあり”魔獣殺し”の異名を持つ、兄貴肌な性格でチームの精神的支柱にもなっている

ライドン・ゾフィ…召喚魔術師の名門ライドン家の生き残りで五体ものドラゴンを操る事ができる凄腕、一族の間では”神に愛された至高の召喚魔術師”と言われていた

クルム・フリニオーラ…世界最強の魔法使いと言われたクルム・ハイドニールの弟子で師匠の仇である魔王を憎んでいた、史上最年少で”クルム”の名を継いだ天才魔法使い

織田信長…尾張の大名、頭が切れ行動力とカリスマ性を兼ね備えた戦国時代の風雲児

木下藤吉郎秀吉…ルキア達の戦場での活躍を見て織田軍にスカウトした人物、後の豊臣秀吉

竹中半兵衛重治…秀吉の熱心な勧誘により配下に加わった天才軍師

明智十兵衛光秀…元は足利義昭に仕えていた、鉄砲の名手であり博学の切れ者



武田信玄が死に将軍足利義昭を京都から追放した織田信長


義昭が築いた“信長包囲網”は確実に弱まっていた


「よいか、信玄坊主は既になく、足利義昭は将軍職を解かれ京から


追放した、残るは浅井、朝倉に本願寺の一向一揆門徒と


三好三人衆じゃが、三好などもはやワシの敵ではない


死にぞこないの浅井、朝倉にとどめを刺し一向門徒どもを


皆殺しにしてくれる、わかったな!!」


「御意!!」


信長の言葉に家臣達が平伏する、そして信長は3万の兵を率いて


岐阜を発し近江に進軍を開始した、ルキアたちもそれに同行したが


ステイメンとゼファーはまだ念のために家康のところに残っていた為


ルキアとライオス、ゾフィ、フリニオーラの四人での同行だった


「今回の遠征ではレスティアレ・ラドスからの妨害が


 ありますでしょうかね?」


「う~ん、あると考えた方がいいんじゃないか?ここのところ


 必ずといっていいほどちょっかいかけて来るしな


 まあ何が来てもぶちのめせばいいだけだ」


「相変わらずライオスは簡単に考えるわね、まあその考え方は


 嫌いじゃないけどさ」


「何にしても俺達の基本姿勢は変わらない、レスティアレ・ラドス


 がらみの攻撃であれば我等が全力で相手するのみ、どこの誰が


 仕掛けてきて、なぜ信長公を狙うのかは不明だが警戒を怠らず


 相手の正体と目的がわかるまで全力で戦うまでだよ」


ルキアらしい言葉に皆微笑みながらうなづいた


 


織田軍3万が浅井の領地近江に進軍してきているという知らせは


浅井家の居城である小谷城に届いた、その報告を聞いた


浅井長政の顔から血の気が引き険しい表情を見せた


「3万だと!?今わが軍には5千の兵しかいない、いくら小谷城が


 難攻不落とはいえとても持ちこたえることはできぬ、朝倉に


 援軍を要請しろ、”火急の事態にて速やかに援軍を”と早馬で


 知らせよ、急げ!!」


「御意!!」


長政の命に家臣たちがひれ伏し、戦の準備で場内が一気に慌ただしくなる


早速朝倉への使者が送られ長政の書状を持って越前へと走った


それを受け取った朝倉家当主朝倉義景はすかさず家臣たちに


命令を下した


「おのれ信長、浅井家の危機じゃ、我ら朝倉軍は全軍を率いて


 浅井を援護する、よいな!!」


その言葉を聞いた朝倉家家臣たちは驚いたような表情を浮かべる


「殿、おやめくだされ、織田軍3万に対しわが軍は2万


 籠城戦ならともかく戦上手の織田相手では勝ち目は


 ありませぬ、ここは自国の守りを最優先とし出兵は


 ご自重なさりますよう、何卒!!」


「黙れ、我が同胞の浅井の危機を見過ごせと申すか!?


 そのような義に反する事できるはずもなかろう、出陣じゃ!!」


義景は珍しく声を荒げ家臣の反対も押し切って出陣を決意する


しかし全軍の総指揮を任せようと思っていた家臣筆頭格の


朝倉景鏡は病を理由に出陣を拒否、重鎮の魚住景固を含む数名の


家臣達も軍事疲弊という理由で出兵を拒否したのだ、止むを得ず


自分自身で兵を率いて出陣することを決めた朝倉義景、士気も低く


足並みもそろわないまま浅井の救出のため越前を立った


その頃、信長はある報告をじっと待っていた


「サル、例の件はどうなっておる!?」


「はっ、万事上手くいっていると報告を受けておりますれば


 もうすぐ朗報が来るものと思われます、そうじゃな半兵衛」


秀吉に振られた半兵衛はコクリとうなずく


「はい、越前の朝倉には内通者を通じて内部工作をおこなっております


 その報告によりますとわが軍に寝返った武将数名が出兵を拒否し


 朝倉景鏡も病気を理由に出陣を拒否、義景自ら2万の兵を率いて


 越前を出たとの事です」


それに秀吉が続いた


「浅井長政の家臣である山本山城主、阿閉貞征もわが軍への


 寝返りを約束しておりますれば、もうそろそろ・・・」


そこに甲冑を身に着けた伝令兵が信長の前に現れ膝まづく


「お館様に申し上げます、山本山城主、阿閉貞征殿が


 わが軍への参加を約束し月ヶ瀬城の攻撃に協力すると


 の連絡が入っております!!」


その報告にニヤリと笑う信長


「よし、山本山城主、阿閉貞征に伝えよ、我が軍は今から


 月ヶ瀬城に攻撃を仕掛ける、そちらからも兵を出し


 同時に月ヶ瀬城を攻めよと!!」


「御意!!」


伝令兵が去った後の信長の行動は早かった、山本山城からの兵と


共闘し月ヶ瀬城を攻めるとあっという間に落城させここを橋頭堡


とした、朝倉軍は小谷城の背後に陣取る様に軍を展開、田上山に


本陣を置き、大獄砦などからなる小谷城守備の城砦群を築き


これに対抗した、織田軍は朝倉軍を挑発し戦端を開こうとしたが


朝倉軍はこの挑発に乗らず戦局は一時膠着する、それから二日後


両軍を強烈な暴風雨が襲った、激しい雨と風の中、織田軍は陣営が


吹き飛ばされないようにする為、必死の補強作業をおこなっていた


ルキア達四人はフリニオーラによる魔法の結界で雨風をしのいでいた


テント程のドーム型半球体状の結界の中で空を見上げるゾフィ


「すごい雨と風ね、ねえフリニオーラ、この嵐って魔法による


 現象ってことは無いの?」


「それは無いと思います、この嵐には魔力の働いた形跡が


 見受けられませんから単に自然現象だと思われます、それに


 これほどの嵐を魔法で維持しようと思った場合、凄まじい


 魔力消費が必要となりますからね、そんな非効率な事


 私ならやりませんから」


「今回俺達の出番はなさそうかな?この嵐じゃ両軍ともしばらく


 動けないだろうしな・・・」


しかしルキアは皆とは違う事を感じていた


「いや、そうでもないみたいだぞ・・・」


不思議そうにルキアを見つめる三人だったが、その答えはすぐに


判明することとなる、猛烈な雨と風が兵達を責め立てる中で


大量の雨に打たれながら信長はジッと空を見つめていた


そしておもむろに振り向くと全員に聞こえるような大声で叫ぶ


「これは好機じゃ、朝倉軍はこんな嵐の夜によもや我等が


 攻めて来るとは思うまい、行くぞ皆の者、この機に乗じて


 一気に大獄砦を落とす、我に続け!!」


信長はそう言い放つと自ら先頭に立ち、馬廻り(親衛隊)を含む


1000人程の兵を連れ大獄砦を急襲した、こんな嵐の夜に攻撃が


来る事など予想もしていなかった朝倉軍は完全に意表を突かれ


大混乱を起こし、まともな抵抗も出来ないまま早々に降伏した


この大獄砦は小谷城より上にあり、小谷城の全貌を見下ろす


事ができる場所にあった、城の中の動きが全て筒抜けという状況は


浅井にとって正に首根っこを押さえられたのと同じ事である


柴田勝家や丹羽長秀が満足げに信長に近づき声をかける


「お館様やりましたな、これで浅井は死に体も同然、もはや


 勝敗は誰の目にも明らかですな」


「さすがはお館様、このような嵐の夜に仕掛けるなど


 かの孫子、孔子でも思いつきませぬ、この長秀


 感服いたしました」


信長はそんな部下達の言葉にも厳しい顔を崩さず静かに口を開いた


そしてそれは聞いていた者達が耳を疑い驚愕する一言であった


「捕えている大獄砦の朝倉兵を全て解き放て」


「今なんとおっしゃいましたか?」


その言葉に唖然として思わず聞き返す柴田勝家


「聞こえなかったのか権六、捕えている大獄砦の朝倉兵を全て解き放て


 と言うたのじゃ、早くせい!!」


「お館様、それは一体どういうことなのでしょうか!?」


今度は丹羽長秀が信長に問いかけた、信長の意図が皆目わからず


困惑する家臣達


「さっさとやるのじゃ、そして解放する朝倉兵達には


 ”わが軍が攻めたら味方せよ”と伝えておけ、よいな」


有無を言わさぬ信長の態度にその意図を理解できないまま


従う家臣達、秀吉もその一人であった


「お館様は一体どういうおつもりなのであろうか?


 捕えた兵をワザワザ敵に返すような真似をして


 敵の数が増えてしまうだけではないのか!?」


腕組みをしながら首をかしげる秀吉、すると半兵衛が笑みを浮かべ


ボソリとつぶやいた


「お館様は本当に人心というモノをよく理解しておられる」


秀吉は驚いて後ろを振り向き思わず質問する


「半兵衛、お主お館様の考えがわかるのか!?」


秀吉の問いかけに無言でうなづく半兵衛


「お館様の目的のまず一つ目はこの大獄砦が落ちたことを


 早急に朝倉義景に伝える事です、知っての通り今朝倉軍は


 我々の内部工作もあり士気も低く決して一枚岩ではありません


 そして兵の数も劣り勝ち目が薄い、そんな中で大獄砦が落ちた


 と聞いたらどうでしょうか?朝倉義景の性格も加味すると


 ”戦闘継続は無理”と考え撤退するだろうと予想できます


 そこを追撃し朝倉軍を壊滅しようと考えているのですよ」


感心しながら聞いている秀吉


「なるほどのう、しかしそれなら敵兵を全員解放する必要は


 なかろう、数人逃がしてこの大獄砦が落ちた事を知らせれば


 済む話ではないか!?」


クスリと笑う半兵衛


「そこがお館様の凄いところなんですよ、秀吉様は”金ケ崎”での


 撤退戦を覚えておいででしょう?」


秀吉の表情が思わず曇る


「忘れるはずなかろうて、あれは酷い戦いであった・・・


 で、それがどうしたというのじゃ!?」


「ご存じ通り撤退戦というのは非常に困難で厳しいモノです


 もしそんな中で味方に裏切者がいたら・・・」


秀吉は”あっ”っと声を上げる


「そんなの撤退戦どころではない、下手をせんでも全滅するわ


 しかし解放してやっただけの兵達がそんなに簡単に寝返るかのう?」


目を閉じゆっくりと首を振る半兵衛


「本当に寝返らなくともよいのです、しかし解放する兵達には全て


 ”わが軍が攻めたら味方せよ”と伝えてあります、つまり自分が

 

 寝返らなくともいつ誰が寝返るかわからないという心理が


 頭をよぎります、ただでさえ士気が低く数の上でも劣勢な朝倉軍が


 疑心暗鬼のまま全力で戦えると思いますか?」


秀吉はゴクリと息を飲んだ


「それは無理じゃの・・・我先にと逃げ出すのが目に見えるようじゃ」


「そうなんです、朝倉軍は総勢で2万、一人や二人が逃げ出したところで


 大勢に影響はないでしょうが、1000人もの兵が逃げ出したら


 どうなると思いますか?恐怖というモノは伝染します


 逃げ出す兵につられて連鎖的に逃走する兵が続出するでしょう


 そうなれば朝倉軍の統制はアッという間に瓦解しもはや


 烏合の衆と化します、そうなればわが軍は損害を


 ほぼ受けることなく朝倉軍を壊滅できるという寸法です」


半兵衛の説明を聞いて背筋が寒くなる秀吉


「お館様というのは本当に恐ろしい御方じゃのう・・・


 敵でなくて本当に良かったと思うぞい」


「全くですね・・・」


秀吉と半兵衛は顔を見合わせ微笑んだ



数時間後、大獄砦から解放された朝倉兵が朝倉軍の本陣に合流した


「大獄砦が落ちただと!?」


その報告を聞いた義景は驚きを隠せなかった


「はい、織田軍は嵐の間隙を縫って大獄砦に奇襲をかけ


 意表を突かれた守備隊はあえなく降伏、大獄砦は落ちました・・・」


「ぐぬぬぬ・・・おのれ信長これでは戦えぬ、こうなればやむを得ぬ


 越前に撤退する、皆の者至急撤退の準備じゃ!!」


田上山の陣から早々に撤退準備を始める義景、その報告を聞いた信長は


直ちに家臣たちに檄を飛ばした


「朝倉義景を逃がすな、生死は問わぬ、必ずここで息の根を止めよ


 生きて越前の地を踏ませるな、行くぞ我に続け!!」


そう言って馬にまたがると誰よりも早く先陣をかけていった


馬廻りの者達も慌てて付き従った、この時事前に聞いていたにも


かからわず信長の迅速な行動についていけず置いてきぼりを


食った者も多数いて後で信長よりきつい叱責を受けたと伝えられている


それほどまでに信長の行動は早かった、それに佐久間信盛、柴田勝家


丹羽長秀、滝川一益、木下藤吉郎秀吉といった織田家の重鎮が


続く、もちろんルキア達も付いていった、そしてついに朝倉軍に追いつく


信長率いる織田軍の士気は高く、朝倉軍を一気に蹴散らしていく


織田軍は信長包囲網により連戦に次ぐ連戦を経験していることもあり


恐ろしく強くなっており以前、弱小といわれていた織田兵の


姿はそこにはなかった、元々士気も低く数の上でも劣る朝倉軍は


成すすべなく蹴散らされ、逃走し始める兵も次々と出始めた


「殿、織田軍による攻撃で後続は壊滅状態にあります


 このままでは越前に到着する前に全滅です


 いかがいたしましょうか!?」


唇を噛みしめ手綱を強く握る義景


「やむを得ん、目的地を疋田城へと変更しそこで体勢を立て直す


 皆の者急げ、我に続け!!」


朝倉軍は疋田城を目指し刀根坂方面へと進路を変更した、しかし


信長による追撃は苛烈を極め朝倉軍を蹂躙していく、そんな中でも


途中で踏みとどまり織田軍に対して必死の抵抗を見せ奮闘する者も


いたが、織田軍の勢いの前には焼け石に水であった


そんな光景を悲しげな表情で見守るルキア達


「もうこれは戦いじゃない、一方的な虐殺に近いな・・・」


「戦とは本来そういうモノだ、一般市民が巻き込まれていない


 だけまだマシだと言えるぜ」


「そうね、私達は魔族とばかり戦ってきたから


 あまり意識しなかったけど・・・」


「人が人を殺す、人が人である以上そこには対立が生まれますし


 高い志や思想がある程、人は戦いを選択する・・・


 矛盾している様ですがある意味真理ともいえる事ですね」


そんなルキア達の思いとは裏腹に織田軍による攻撃は激しさを増していく


馬にまたがり必死で逃げる義景のもとに次々と悲報が舞い込んでくる


「申し上げます、北庄城主 朝倉景行殿、朝倉道景殿、山崎吉家殿


 河合吉統殿、斎藤龍興殿、討ち死にいたしましてございます!!」


ぐっと唇を噛みしめ吐き捨てるようにつぶやく義景


「景行も山崎も死んだのか!?道景はまだ17になったばかり


 だというのに・・・おのれ、おのれ~信長め・・・

 

 この恨み必ず晴らしてくれようぞ!!」


数多くの犠牲を出しながらようやく疋田城へ着いた義景であったが


疋田城には既に火が放たれていた、炎上する疋田城を呆然と見つめる


義景と朝倉兵達


「だ、ダメだ・・・もう俺達は殺されるしかないんだ・・・」


「嫌だ、死にたくねえ、死にたくねえよ・・・」


絶望する兵達を前に、気を取り直した義景が鼓舞する様に叫ぶ


「まだだ、まだ諦めるのは早い、一乗谷へ向かうぞ


 あの城ならばまだ落ちておらんはずだ、急げ織田軍は


 待ってはくれないぞ!!」


もはや兵達に戦う意思は残っていなかった、極度の疲労と


死の恐怖が襲ってくる中で、生き残る為だけに必死で


一乗谷を目指す朝倉軍、何とか一乗谷城に着いた頃には義景の


周りには手勢の者500人しか残っていなかった


「皆の者疲れたであろう、ここまで来れば安心だ


 もうすぐ越前からの援軍が駆けつけてくれるはずだ


 もう少しの辛抱だ!!」


しかしそんな義景の希望もむなしく越前からの援軍はどれほど待っても


来ることは無かった、イラつきながら家臣達に何度も尋ねる義景


「まだ来ぬのか?越前からの援軍は、どうなっておるのだ


 ちゃんと使いを出したのであろうな!?」


「はい、数名の早馬を越前に向け出しました、もう時期


 来ると思いますので・・・」


しかしどれほど待っても援軍が来ることは無く数日が過ぎた




その頃、信長は強行軍で行動していた兵達の労をねぎらい二日ほどの


つかの間の休息を取らせていた、そして信長に呼ばれた秀吉が


信長の前で跪く


「お呼びと伺いましたが、一体どのような要件でありましょうか?」


信長は目を細めニヤリと笑う


「小賢しいぞサル、わかっておるであろう・・・」


秀吉は嬉しそうに口元を緩めうなづくと報告を始めた


「朝倉家の家臣の大半はわが軍の配下に加わることを


 確約しております、もはや越前に義景の味方はおりませぬ


 奴は既にかごの中の鳥であります」


「そうか、ならば一乗谷城に攻撃を加える頃合いじゃな


 全軍出撃じゃ!!」


信長率いる織田軍が朝倉軍にとどめを刺すべく一乗谷城を目指した




その頃、援軍を待ちわびていた義景の元に一通の書状が届く


それは家臣筆頭格の朝倉景鏡からのモノであった


”一乗谷では織田軍の攻撃を防ぎきれないと思われる為


 大野郡に来られたし”という内容であった


義景を含む家臣達もその書状を見て納得していた


「確かに、この一乗谷城では織田の攻撃を守り切れぬかもしれぬな」


「大野郡は盆地で守るに固い、そして何より平泉寺がある


 あそこを頼れば再起も夢ではないですぞ」


「確かに平泉寺の僧兵は一騎当千で勇猛果敢、とてつもなく


 強いですからな、ここに留まるよりはその方が良いかもしれませんな」


朝倉家の家臣たちの意見は既に決まっている様であった


その時である、義景の元に連絡兵が現れ跪いた


「申し上げます、織田軍がこちらに迫ってきているとの報告が

 

 ありました、その数約2万!!」


その報告にざわつく一同


「2万だと!?そんな数ではとても防ぎきれん・・・」


「殿、早く逃げてくだされ、景鏡様の待っておられる大野郡へ


 ここは我等が何とか時間を稼ぎますので、早く!!」


義景は両こぶしを握り締め震えながら言葉を縛りだした


「すまぬ・・・」


義景は数名の部下を連れ一乗谷城を脱出した、数時間後織田軍が


一乗谷に現れ、市街地を強襲制圧しその全てを焼き払った


最後まで朝倉家に忠義を尽くす家臣達は必死で抵抗したが


圧倒的な織田軍の前に数百名の兵達では相手にならず


皆壮絶な最期を迎えた、一方大野郡を目指していた義景達は


後方で上がる火の手を見ながら険しい表情を見せていた


「すまぬ、お主たちの犠牲は決して無駄にはせんぞ


 必ず再起を果たし信長を打ち倒す、必ずだ!!」


義景は部下たちの思いを胸に懸命に馬を走らせた


ようやく大野郡に着き待ち合わせ場所である六坊賢松寺が見えて来た


朝倉の旗印と共に数百名の兵と平泉寺の僧兵と思われる武装兵が


数十人で迎えるように待っていた、思わず笑みを浮かべる義景


「おぉ~ようやく着いたぞ、まだ終わりではない必ず朝倉家を


 再興し憎っくき織田信長を打ち倒してくれるぞ!!」


更に近づいて行くと朝倉景鏡の姿を確認できた、義景とその一行は


緊張感が解けてようやく安堵の表情を見せる


「よく来てくれた景鏡、此度の戦いで数多くの家臣たちが命を


 落としてしまった、私はあ奴らの思いを無駄にはせん


 必ず朝倉家を再興し織田信長を討つ、景鏡これからも


 私の力になってくれ!!」


馬を降り景鏡の元へと近づこうとしたその時、周りの兵と


武装僧が槍と弓を義景達に向けたのだ


「な、一体何の真似だ!?」


驚愕の表情を浮かべ驚きを隠せない義景とその一行


「従兄上《あにうえ》残念ながら織田への復讐は果たせません


 なぜなら貴方はここで終わるのですから」


ニヤリと笑う景鏡、何が起こっているのか全く理解できない義景は


呆然としたまま言葉が出ない、すると景鏡の後ろから一人の


見知らぬ男が出てきた、およそ武人とは思えぬ色白で細身の体


整った顔立ちと知的な眼差し、その男はペコリと頭を下げた


「朝倉義景殿ですね、お初にお目にかかります、私は織田軍


 木下藤吉郎秀吉が配下、竹中半兵衛重治と申します


 主君の命によりあなたの首をいただきにまいりました


 わが軍の策略によりもう朝倉家に貴方の味方は一人もおりません


 ここは武士らしく潔く腹をめされることをお勧めしますが」


200人ばかりの兵に完全に囲まれてしまった義景達、絶望感で


崩れそうになっていた時、家臣達が義景を守る様に取り囲んだ


「おのれ景鏡、殿から受けた恩を仇で返しおって、それでも


 朝倉家の筆頭家臣か、恥を知れ!!」


「義景様、ここは我等が食い止めまする、何とか落ち延びてくだされ!!」


「我等の命に代えても殿は守る、そして貴様だけは


 絶対に許さんぞ景鏡!!」


叫びながら敵に突撃していく家臣達、しかし相手は多数であり


選りすぐりの精鋭、連日の逃走劇で体力も限界を迎えていた


彼らに抗う力は無かった、数人がかりで囲まれ次々と


壮絶な憤死を遂げて討ち取られていく家臣達、そんな光景を


目の前で見せられた義景はブルブルと怒りに震えながらつぶやいた


「止めろ・・・止めてくれ、もう殺すな、許さん、許さんぞ!!」


その瞬間義景は懐から一枚の紙を取り出した、それは以前姉川の戦いで


真柄十郎左衛門が使った呪符であった、義景は自分の指を刀で傷つけると


一筋の血が流れ落ちる、それを見た半兵衛の表情が変わった


「いかん、義景にあの呪符を使わせるな、誰か止めろ!!」


半兵衛の号令を聞き数人の武装僧が義景に向かっていく、しかし


身を挺して間に入る家臣達、武装僧の薙刀が盾となった家臣達の


体を貫く、口から大量の血を吐きながらまだ塞がった


「ゴボッ、殿・・・ご無事ですか?、すみません先に行きます・・・」


そう言い残しバタリとその場で倒れ動かなくなった


その隙に呪符に血文字を書き自分の胸に張り付ける義景


するとその呪符が体に溶け込むように入っていき義景の体が


みるみるうちに変化していった、これは古の邪法と人の執念が


合わさることによって人を鬼人化する”鬼魂喰い《デーモンチャウダウン》という


飛び切り邪悪な古式魔法である


「ぐああぁぁぁぁ~~~!!」


義景は天を仰ぎ叫びながら変化していく、全身の筋肉が異常なほどに


隆起していくのと同時に手の爪と歯がぐんぐん伸びていった


表情は険しく変わり額には血管が浮き出てきた、その姿はもう既に


人のそれではなかった、そして最後に頭からメキメキと二本の角が


生えてきて義景は完全な鬼となってしまった、真柄十郎左衛門と


違うのは全身が赤く染まっていることである、真柄十郎左衛門の


青鬼に対し義景は赤鬼になってしまったのである


フゥーフゥーと大きく白い息を吐き、感情のない冷徹な瞳で


景鏡の方をジロリと見つめる、それはまるで獲物を狙う獣の様な


目であった、もはや景鏡の事をちゃんと理解できているのかすら


怪しい、大きく開けた口からはダラダラとよだれを垂れ流し


前傾姿勢のままゆっくりと狙いを定めた、その時、武装僧の背後から


一人の男が現れた、2m近い大柄な体に金髪の髪、肩に剣を担いで


ゆっくりと現れたのはライオスであった


「今回は本当に気が進まなかったんだが、秀吉さんに頼まれてな


 念のため半兵衛さんの護衛の為に来てよかったぜ


 アンタにも言いたいことがあるとは思うけどよ


 それは諦めてくれ、てゆうか俺の言葉ももう耳に入って


 ないんだろうけどな・・・」


「ガアァァァァァ~~~!!」


ライオスを見た瞬間赤鬼は何かを感じたのか、威嚇するような仕草で


雄たけびをあげる、しかしライオスは気にする様子もなくゆっくりと


剣を構え静かに語り始めた


「鬼に変わった人間はもう人には戻れないし三時間もすれば


 全ての力を使いつくし動けなくなると聞いてる、だからアンタ


 もう信長公には届かない、誰かを殺したいほど憎いと思った時


 人は赤鬼に変わるんだってな、それほどの執念と憎悪、そして無念


 せめて俺にぶつけな、せめてもの情けだ俺が信長公の代わりに


 受け止めてやんぜ、来な!!」


赤鬼とライオスが一定の距離を保ったまま対峙する、前傾姿勢のまま


いつ襲い掛かろうかと虎視眈々と狙う赤鬼に対し中段に剣を構え


静かに迎え撃つ構えのライオス、ピンと張りつめた空気が肌に


突き刺さる様に痛く感じ、見ている者達を否が応でも緊張感の


重い空気に巻き込んでいく、ほんの僅かな静寂だったが見ている者


達は永遠に続くのではないかと思えるほどであった、その時


ライオスの目に何かが映る、それは数名の武装僧がこっそりと


赤鬼の背後に回り、襲い掛かろうとしていたのだ、そして


赤鬼の真後ろに回った武装僧が一斉に斬りかかった


「ば、馬鹿止めろ、アンタ達が敵う相手じゃ・・・」


ライオスがそう口走った時には既に遅かった、赤鬼は振り向くこともなく


凄まじいスピードで腕を振る、そしてその鋭い爪により数人の武装僧は


胴体を真っ二つにされ大量の血を噴出し地面に転がった


足元に横たわった武装僧の体はまだピクピクと動いていたがそれを


容赦なく踏みつぶし、爪に付着した血をぺろぺろと舐める赤鬼


周りの兵達はあまりの惨劇に思わず後ずさりする


「この鬼は俺が相手する、邪魔すんじゃねー!!」


その言葉に反応したのか赤鬼は再びライオスを見つめて


うなり声をあげながら睨みつける


「さあ来い鬼、お前の思いを俺にぶつけてみろ!!」


「ガアァァァァ~~~!!」


再び雄たけびを上げながら信じられないようなスピードで


襲い掛かる赤鬼、両腕の爪で交互に連続攻撃を繰り出して来る


それを全て受け止めるライオス、周りで見ている者達には


何かが激しくぶつかり合う金属音しか聞こえない、文字通り


目にも止まらぬスピードの攻防に息を飲む、しかしライオスは


そんな凄まじい戦いとは対照的に悲し気な表情を見せていた


『伝わってくるぜ・・・アンタの無念が、しかしこれが戦いなんだよ


 正しい者が勝つんじゃない、志が高い者が勝つのでもない

 

 力を持つ者が勝つのが戦いなんだ、悪く思わないでくれよ・・・』


赤鬼は疲労とは無縁とばかりに凄まじい連続攻撃を繰り出す


しかし一向にダメージを与えられない事に次第に苛立ち始め


その思いをぶつけるかのように赤鬼は右手を大きく振りかぶる 


膠着した現状を打破せんと一気に決めにかかった一撃、しかしその


焦りが生んだ一瞬の隙、その大ぶりの隙を見逃すライオスではない


渾身の力を込めた一撃がライオスの頭上から振り下ろされ直撃したか!?


とおもわれたその瞬間、赤鬼の右手が宙に舞った


「ギャアァァァァ~~!!」


右手を失い叫び声をあげる赤鬼、肘の部分から先が綺麗に無くなっていた


その切断面から大量の血が噴き出す、傷口を抑えながら後ずさりするが


ライオスの攻撃は終わらなかった、そこまで防御一辺倒だったが


赤鬼が体勢を立て直す前に一気に懐に飛び込み左腕も切断した


両腕を失い思わず跪く赤鬼


「ちょっとやそっとの傷ではすぐに再生するって聞いてたからな


 さすがに腕をぶった切ればすぐに生えて来るなんてことはないだろう


 と思ってな・・・これで終わりだ、すまないな」


ライオスの剣が振り下ろされ赤鬼の首がボトリと地面に落ちた


切断面から噴水の様に大量の血が噴き出し、両手と首を失った


赤鬼の体は力なくその場に崩れ落ちた、地面に転がった赤鬼の首は


目から血の涙を流していたが徐々に人間の形に変化していき


しばらくすると義景の首へと戻っていた、こうして戦いは終わった


越前の大名であり名門と呼ばれた朝倉家は滅亡した、家臣に


裏切られ味方してくれたものは全て死に最後は鬼となって


果てた、ライオスは義景の首を地面から拾い上げ涙をふくと


恨めしそうにゆがむ義景の目に手を当てそっとまぶたを閉じた。











 











 


 



今回は朝倉義景の最後を書いてみましたがどうでしたでしょうか?この朝倉義景という武将は

あまり深くとりただされる事もなく”名門だが優柔不断で部下からの信頼も薄い凡将”という

評価が一般的で三国志の袁紹みたいな人物として扱られる事が多いようです、それは否定

しがたい面もありますが信長という強烈な人物に飲み込まれた悲運の人物としての一面も

出せればいいな・・・などと思って書きました、さては浅井家の滅亡になります

こちらは色々な作品でも取り上げられることも多い話ですので私なりの解釈で

書いてみたいと思います、またよろしくお付き合いください、では。

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