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外伝 絶望の魔女

クルム・ハイドニール…世界最強と言われている魔法使い”クルム魔法学校”の総帥

ビル・フリニオーラ…後のクルム・フリニオーラ、義母に虐待を受けていた所をハイドニールに拾われる

バンデローダ…クルム魔法学校の主席生徒、名家出身で気位が高く横暴な性格、いつも取り巻きを連れている

クルム・バーデンブルグ…ハイドニールの師匠であり先代”クルム”

時は勇者ルキア達が魔王アドギラルロックを倒す三年ほど前の事である



この世界”レスティアレ・ラドス”では魔王アドギラルロックを中心に


魔族が世界を席巻し人々は明日をも知れない未来に希望を持てないまま


怯えながら暮らしていた


そんな中でも魔族と魔王を倒すための様々なパーティーが


魔王の居城である”呪血城”に乗り込み敗れ去っていった


こんな荒廃しきった世界でも魔王討伐の為の人材を


次々と送り出せるのには理由があった


それは回復や防御を得意とする優秀な僧侶を何人も育成している


”聖教神師団”という巨大教団と世界最強の魔法使いと言われている


クルム・ハイドニールが魔法使い育成の為に開校している


”クルム魔法学校”の二つの存在が大きかった


この二つの施設は強力な結界に守られ魔族達も手出しできなかった


魔法使いと僧侶 攻撃魔法と防御&回復魔法は


魔王討伐には必要不可欠でありこの二つの組織がその両翼を担っていた


そのうちの一つ”クルム魔法学校”の総帥にして教師


世界最強の魔法使いと呼ばれるクルム・ハイドニールは


御年197歳を迎えていた


秘術によって年齢の進行を抑えていたものの


見た目や肉体年齢はすでに70歳を超える老婆に近い所まで来ており


そんなハイドニールが弟子を数人連れてある村を訪れていた


各所で暴れ回っている魔族達を退治する為度々出張しては


撃退しているのである


その報酬として村から金銭や食料を分けてもらっていた


ハイドニールには100人を超える弟子たちがいる


各地から魔法使いとして素質のある者達が一流の魔法使いになるべく


続々とハイドニールの元に集まっていたからだ


魔王討伐の為の魔法使いを何人も育成している


”クルム魔法学校”には各所から支援や援助が来ているものの


100人を超える弟子たちの育成には不十分である為


こうして度々ハイドニールが出張って


資金や食料を調達しているのである・・・


と言うのが一応の建前だ


建前と言っても本当に資金や食料が不足しているのは事実であり


これは必要な事ではあるのだが本当の理由は他にあった


このクルム・ハイドニールという女は若い頃


毎日のように喧嘩に明け暮れていた


強そうな奴を見つけては喧嘩を吹っかけ相手の心が折れる程


叩きのめしてしまうのだ


そうしているうちに付いたあだ名が”絶望の魔女”である


ハイドニールは誰にも教わる事無く独学で魔法を習得し


それを駆使して闘うスタイルを身に着けた


そして一度も喧嘩で負けたことが無く連戦連勝を続けていたのだ


そんな噂を聞きつけ始めてハイドニールを負かしたのが


先代の”クルム”であったクルム・バーデンブルグだった


勝負の前に”君が負けたら私の弟子になりなさい”


という約束を守りバーデンブルグの弟子となったハイドニール


しかし弟子となってからも毎日のように師匠に挑み続け負け続けた


それでもどう戦うか?どうやったら師匠に勝てるか?


そればかりを考えて毎日を過ごしていた


元々ずば抜けた才能の持ち主のハイドニールが


毎日師匠に挑み鍛えられているのである


メキメキと力をつけあっという間に他の弟子たちを追い越し


”クルム魔法学校”中でも主席の地位を獲得した


しかしハイドニールにとってそんな事には興味が無かった


彼女にとって自分より強い者がいるという事が許せないのだ


主席となってからも毎日毎日師匠に挑み続け


二年後ようやく始めて師匠バーデンブルグに勝利した


その時のハイドニールの喜び様は凄かった


天にも届くか!?と言わんばかりの叫び声をあげ


涙を流して喜んだ


そんな姿を嬉しそうに見守った師匠バーデンブルグは


次の日”クルム”の名をハイドニールに譲り魔法学校を去った


それ以来師匠に受けた恩と”クルム”の名に恥じないよう


魔法学校の運営と偉大な魔法教師という立場を考え


行動もつつしんできた


しかし彼女の根本の性格は短気で粗暴、喧嘩っ早くて


誰よりも負けん気が強い、それがハイドニールの本質なのだ


だから”学校運営の為の資金&食糧調達”という名目で


出張っているものの本当は”堅苦しい生活のストレス発散の為


魔族相手に魔法をぶっ放して憂さ晴らししている”


というモノなのであった


今人間世界の魔族討伐の中心は”ベルドルア聖王国”という国である


この国だけは屈強な聖騎士団の活躍もあり唯一魔族の侵攻を


退け続けてきた国家なのだ


魔王討伐の為のメンバー編成や人員要請も


この国が中心におこなわれていた


そしてハイドニールの所にも”ベルドルア聖王国”からの要請で


魔族討伐の為に何人もの弟子たちを送り込んできた


本当はハイドニール自身が行きたいぐらいなのだが


弟子たちの育成や師匠バーデンブルグに受けた恩もあり


”クルム魔法学校”をほっぽり出して魔王討伐に行くこともできない為


仕方なく弟子たちを送り出していた


そんな魔法学校ではハイドニールの代になって変えた事がある


以前からあった成績優秀者の席次を絶対的な順位と定め


カースト制度にしてしまったのだ


早い話が”弱い奴は強い奴のいう事を黙って聞け


悔しかったら強くなれ”という


学校とは思えない制度を導入したのである


その結果席次が高い者は傲慢な態度で威張り散らし


横暴とも思える態度や思考で下の者を平気で虐げるようになった


しかし不思議と不平不満を言う者は少なかった


ここは学校とはいえ平均的な生徒を育成するところでは無い


魔王を倒し魔族を滅ぼす為の唯一無二の存在を


作り上げる機関だという事を皆わかっているからだ


そんな弟子達を数人を引きつれある村の魔族退治の要請を受けた


ハイドニールは魔族をあっさりと蹴散らした


村長を始めとして何人もの村人から次々と感謝の言葉を受ける


中には涙を流して喜んでいる者すらいた


しかしそんな村人の態度とは対照的にハイドニールの心は晴れなかった


なぜなら彼女にとって敵が弱すぎたのだ


村人からの感謝の言葉をにこやかな態度で聞き流し


頭では全く別の事を考えていた


『全く弱すぎるんだよアイツら


 これじゃあ憂さ晴らしにもなりゃしない


 今考えると師匠に挑み続けていた毎日が


 一番面白かったねぇ・・・』


そんな事を考えていた時近くの家から女の怒鳴り声が聞こえてきて


玄関のドアから一人の少女が転がる様に飛び出てきた


それを追う様に中年女がその少女に皿を投げつけ怒鳴りつけていた


「アンタって子は、皿洗い一つ満足にできないのかい


 この役立たずが、今晩は食事抜きだよ


 ずっと外で反省してな‼」


そう言い放った中年女は玄関のドアを乱暴に閉めると


中から”ガチャリ”という鍵を閉める音が聞こえた


外に残された少女は震えながら投げられた皿を抱きしめ泣いていた


そんな光景をジッと見ていたハイドニールに


村長が恥ずかしそうに説明を始めた


「何ともお恥ずかしい所をお見せしまして・・・


 あの子と母親は実の親子ではないんです


 あの子は父親の連れ子だったんですが


 父親が魔族に殺されて二人きりになって

 

しまって・・・父親が生きていた時は

 

仲の良かった家族だったんですが・・・

 

彼女らも魔族の被害者という訳です・・・」


心痛な表情で少女の生い立ちを語る村長


ハイドニールには同情とか憐れみとかの感情はほとんどない


なぜならそんなモノを自分に向けられたら絶対許せない‼


という気持ちになってしまうから


他の人もそうなのだろうと考えているからだ


しかしこの時のハイドニールは何かに引っかかって


少女の元へ歩み寄り地面に座り込んで泣いている


少女の顔を覗き込んだ


「どうしたんだいお嬢ちゃん


 何でお母さんに怒られたんだい?」


話しかけられた少女は一瞬ビクッと反応してから


恐る恐るハイドニールの顔を見た


「ごめんなさい


 私お皿を割っちゃったの・・・


 一所懸命がんばってるんだけど


 いつもお皿を割っちゃうの


 ごめんなさい・・・」


ハイドニールはふと少女の抱きかかえている皿を見て


驚愕の表情を見せた


なぜならその皿は中心部分にだけ十字に亀裂が入っていて


周りには傷一つついていなかったからだ


『何をどうやったら


 こんな割れ目ができるんだい!?』


ハイドニールがそんな事を考えていた時少女のお腹が


”グ~”っと鳴った、恥ずかしそうに顔を伏せる少女に対し


懐からパンを取り出し差し出すハイドニール


しかしそんな自分の行動に疑問を感じ心の中では自問自答していた


『私はなんでこんな柄にもない事


 をやっているんだか・・・』


ハイドニールがパンを差し出した時


再び少女はビクッと反応し身をすくめた


おそらく日ごろからあの母親に暴力も受けていたのだろうと


推察できた、その時驚くべきことが起こった


皿の十字の割れ目が一気に広がり綺麗に四分割に割れたのだ


「ごめんなさい、ごめんなさい


 もうお皿を割ったりしませんから・・・


 ごめんなさい」


頭を抱え震えながら怯える少女に向けたハイドニールの顔は


誰にも見せた事の無い程の歓喜の表情を浮かべていた


『見つけたよ、とうとう見つけた・・・


 自分でも柄にない事していると思ったけど


 あたしの勘もまだまだ衰えてないねぇ』


そう考えてからの彼女の行動は早かった


先程鍵をかけられた玄関のドアをすかさずノックした


すると中から先ほどの中年女の不機嫌そうな声が聞こえてきた


「何だい、言っておくけど今日は


 食事抜きだし家に入れないよ


 大体アンタは・・・」


文句を言いながらドアを開ける中年女


少女がドアをノックしていたと思い込んでいたらしく


慌てて態度と言葉遣いを変え取り繕う


「あら嫌だ、お客様でしたか


 それでウチに何の用でしょうか?」


「私の名ははクルム・ハイドニール


 この村の魔族を倒す要請を受けて来た者です


 話と言うのはこの少女の事なんですけど・・・」


ハイドニールがそう言いかけると中年女の態度が一変した


「ウチの家庭の事を他人に


 とやかく言われたくないよ


 どうせ”もっとやさしくしてやれ”


 とか言うんだろ!?余計なおせっかいだよ


 人の事はほっといてくれないかい‼」



強い口調でそう言い放つとハイドニールを睨みつける中年女


「あなたは何か勘違いをしているようですね


 私はこの子を引き取りたいと言っているのです


 この子には魔法の才能が有ります


 是非私に預けてはくれませんか?

 

もちろん大切な御嬢さんを預かるのですから


 タダでとは申しません、これを・・・」


そう言うとハイドニールは先程村長にもらった


謝礼の金が入った布袋をそのまま渡した


最初はキョトンとしていた中年女も渡された布袋を


慌てて手に取るとすぐさま中身を確認する


そして二マリと笑い下卑た目をして話しかけてきた


「人の家の大事な娘を引き取りたいって


 言うのにこれだけなのかい?


 もう少し誠意ってモノを見せても


 いいんじゃないのかと思うけどねぇ」


その女の目は明らかに”もっとよこせ”と言ってた


ハイドニールはにこやかにほほ笑むと


ゆっくりその女の耳元に近づき静かにささやいた


「調子に乗るんじゃないよこのクソアマ


 テメエなんざアタシがその気になれば

 

3秒でミンチだよ、その金をもらって納得するか


 ミンチになりたいかさっさと選びな」


さっきまでニヤけていた中年女の顔から血の気が引く


思わずハイドニールの方を見たその女はハイドニールの


言った事がただの脅しではない事を本能的に感じ


慌てて何度もうなづいた


その態度を見て再び微笑むハイドニール


「そうですかご納得頂けたのですね


 では娘さんをお預かりいたします


 もうここに来る事は無いでしょうが


 私が責任をもってお預かりいたしますので」


そう丁寧にあいさつすると少女を連れてその村を出た


この時のハイドニールはすこぶる上機嫌だった


「そう言えば名前を聞いていなかったね


 お嬢ちゃん、アンタの名前はなんていうんだい?」


まだビクつきながら恐る恐る応える少女


「フリニオーラ・・・


 ビル・フリニオーラと言います・・・」


「そうかいフリニオーラね


 私はクルム・ハイドニール


 今日からアンタの師匠になる者だ


 よろしくね、これからアンタには


 世界の真理ってのを教えてやるよ」


ハイドニールに手を引かれ魔法学校に入学する事となったフリニオーラ


ここから魔法使いとしての修業が始まるのである




魔法学校に入学したフリニオーラはまず一般教育から始めた


今までまともな教育すら受けていなかったようで魔法の勉強以前に


一般常識と教養を身に着ける為に勉強をする事となった


この魔法学校に入学するような生徒は元々高い教養があったり


物心つく前から魔法の教育を受けていた者が少なく無い


そんな生徒の中でひときわ目立つ者がいた


バンデローダという男子生徒である


彼は名家の出身でありこの学校で主席の生徒であった


この学校で主席という事はハイドニールを除き


一番偉い人物という事に相当する


いつも取り巻きを連れていてその日の機嫌次第で


周りの生徒に暴力をふるう事も少なく無かった


今日も数人の取り巻きを連れて上機嫌で校内の廊下を


我が物顔で歩いていた


「それにしてもバンデローダさん凄いっすね


 この前のテストもトップだったと聞いてますよ!?」


「次期”クルム”の座もバンデローダさんに


 決まりみたいなものですよね!?」


「さすがバンデローダさん


 魔王アドギラルロックを倒せるのも


 バンデローダさんしかいないっすよ‼」


皆に持ち上げられいい気分で歩いていたバンデローダの目に


一人の少女が目に入った


その少女は図書室の片隅で一人本を読んでいた


「おい、この学校にあんな女いたか?


 お前らあの女の事知っているか?」


取り巻き連中は顔を見合わせ首を傾げる


その中で一人の男が思い出したかのように発言した


「そうだ思い出した、ほら先週末に


 師匠がカーズ村に行った時拾ってきた


 女がいたって話がありましたでしょ?


 その女がアイツですよ」


バンデローダは目を細め冷ややかな視線をフリニオーラに向けた


「あ~そんな話あったな・・・


 何考えてるんだあのババア


 今更あんな薄汚い女連れて来て


 どういうつもりだ!?」


「全くその通りですよ


 しかもあの女、魔法の知識はゼロで


 一般教養すらあまり知らないらしいっすよ」


「はあ、なんだそれ!?おいおいとうとう


 モウロクしちゃったのかあのババア!?


 一流の魔法使いは小さい頃から


 勉強して始めてなれるってのは常識だろ


 全くしょうがないな・・・


 ボケる前にさっさと俺に”クルム”の座を譲れよな」


「全くですよバンデローダさんの


 言うとおりっす‼」


そんな事を言いながらもジッとフリニオーラを見つめている


バンデローダ、何かが癇に障ったのか隣の男に呼びかけた


「おいマリオ、お前


 あの女を一発殴って来い」


バンデローダの突然の命令に驚く取り巻き一同


「えっ、いきなり何を!?


 あんな女バンデローダさんが


 気にするような存在じゃないっすよ


 無視しましょうよ無視を」


ヘラヘラ笑いながらやんわり拒否しようとしたマリオに


「お前俺の命令が聞けないのか?


 それがどういう事か


 わかっているんだろうな!?」


鋭い目で睨みつけるバンデローダ


その迫力に渋々ながらも従うマリオ


さすがに何もしていない年下の少女をいきなり殴るというのは


抵抗があったようだがここでは成績上位者のいう事は絶対なのだ


図書室で一人本を呼んでいるフリニオーラをいきなり殴りつけるマリオ


その小柄な体は吹き飛ぶように床に倒れ壁にぶつかり止まった


一瞬驚いた顔を見せるフリニオーラだがマリオは逃げるように


走り去った、そんな光景を見て大笑いするバンデローダ


ひとしきり笑った後ニヤけながらフリニオーラを見つめた


それは”俺がやらせたんだけど文句あるか?”


というメッセージでもあった


しかしフリニオーラは何事も無かったように再び本を読み始めたのだ


その態度に余計にイラつくバンデローダ


そしてその日から執拗にバンデローダの嫌がらせが始まった


それはいつもくっついている取り巻きでさえも


ウンザリする程の嫌がらせだったが


それにも全く動じないフリニオーラ


なぜならこの学校は朝昼晩とちゃんと食事ができ


勉強もさせてもらえるのだ


それを考えればそんな嫌がらせなど些細な事だと思えた


ハイドニールもその嫌がらせによるいじめには気が付いていたが


あえて黙認していた


そうこうしているうちに皆が徐々にフリニオーラに


感心するようになっていった


あれ程のイジメにも微動だにしないその態度に


尊敬する者すら出始めた


徐々にフリニオーラに話しかける者も増え始め


逆にバンデローダを蔑むような空気になっていて


取り巻き以外誰も話しかけようとはしなくなっていた


そんな空気を察してか最近益々荒れているバンデローダ


教室の椅子を蹴りまくり鬱憤うっぷんを晴らすかのように


暴れ狂っていた


「気に入らねえ、気に入らねえ、気に入らねえ


 何なんだあの女は!?


 チクショウふざけやがって


 魔法の知識も無いくせに‼」


ひとしきり暴れた後息を切らせているバンデローダに


マリオが恐る恐る話しかけた


「そう言えばあの女ようやく


 魔法の勉強始めたらしいですよ


 何でも師匠直々にマンツーマンで


 教えているとかで・・・


 この前ファイヤーの呪文を


 勉強していると聞きました


 笑っちゃいますよね


 今頃ファイヤーですよ!?


 あんな基礎呪文


 俺なんか10歳の時に習得してましたよ」


マリオを睨みつけるように振り向くバンデローダ


「ファイヤーなぞ俺は8歳の時に習得してる


 でもそうか・・・ようやく


 魔法の勉強を始めたのか!?」


バンデローダは何かよからぬ事を思いついたのか


目を細め怪しい笑みを浮かべた


ようやく魔法の勉強を始めたフリニオーラは


毎日が嬉しくてしょうがなかった


家では散々役立たずと罵られてきた自分が


世界最高峰の魔法使いに直々に教えてもらっているのだ


フリニオーラはそんな期待をかけていてくれる師匠の為に


どうしても上達したかった


命の恩人ともいえる人の為に恩返しがしたかったのだ


だから寝る間も惜しんで勉強に励んだ


それゆえにハイドニールの教えをまるでスポンジのように


どんどん吸収していった


その習得速度はハイドニールも驚くほどで自分の期待以上の逸材に


心躍っていた


今現在”クルム魔法学校”の主席はバンデローダだが


ハイドニールから見て正直実力的に全然物足りなかった


自分の師匠であったバーデンブルグの様に


自分を打ち負かす程の実力を持った人間に


”クルム”の座を譲りたいと思っていた


例えそこまでいかないまでも自分とそれなりに戦えるぐらいの


力が無い限り”クルム”の名はやれないと考えている


今ハイドニールとバンデローダが戦ったら


バンデローダは1分持たずに消し飛んでしまう


まだそれほどの差があるのだ


そしてその差は永久に埋まらない事もわかっていた


『魔法はある程度の素質と知識さえあれば


 誰でも使う事は出来る


 でもその魔法をより強く


 より効果的に使おうと思ったら


 センスが必要だからねぇ・・・


 こればっかりは教える事ができない


 モノだからね・・・』


自分の弟子たちに絶望しかけていた時に出会った最高の逸材


ハイドニールは自分の全てを叩き込んで後3年以内に


フリニオーラに後を継がせたいと考えていた


フリニオーラに対するハイドニールの入れ込みようは半端なく


徐々に生徒たちがそれに気づき始めていた


バンデローダは自分が”クルム”の名を継ぐと思い込んでいた為


その怒りは凄まじく


しかもその嫉妬の対象がまだ魔法の勉強を始めたばかりで


5歳も年下の少女なのだ


そんな事は自分のプライドが許さなかった絶対に認められなかった


その怒りは頂点に達しもう正常な判断ができ無い程


嫉妬に狂ったバンデローダはある晩に師匠の書庫に忍び込んだ


そこには長年ハイドニールが研究してきた魔法の書が


ずらりと並んでいて魔法使いを目指す者であれば


喉から手が出る程欲しい代物である


そんな宝の山を目の前にしてバンデローダは


ファイヤーの呪文を唱えた


「師匠、アンタがいけないんだ・・・


 俺を差し置いてあんな女を選ぶなんて・・・


 そんな馬鹿な話があるもんか!?・・・


 これはアンタのせいだ、俺は被害者なんだ」


ブツブツと自分を言い聞かせるようにつぶやくバンデローダ


最初の書物に火をつけようとしたその瞬間


「何をしているんですか!?」


薄暗い書庫に甲高い声が鳴り響く


バンデローダが驚いて振り向くとその声の主はフリニオーラだった


「何をしているんですかあなたは


 ここにはお師匠様の大切にしている


 書物がたくさんあるのですよ


 火を使うなんて


 もってのほかじゃないですか!?」


そんなフリニオーラの姿を見たバンデローダは


凄い目をして睨むしかし今回はフリニオーラも


一歩も引かなかった、自分に対しての嫌がらせならば


いくらでも耐えて見せるが師匠に対しての


暴挙ともいえる行為にフリニオーラは怒っていた


「貴様のせいで・・・貴様のせいでこんな事になったんだ!?


俺は悪くない、あの老いぼれババアがいけないんだ


モウロクしやがってボケたんじゃないのか!?」


その言葉にフリニオーラの表情が怒りに染まる


「今すぐここを出て行きなさい、


 お師匠様を侮辱するなんて


 絶対に許しませんよ‼」


「ほう許さないならどうすると言うんだ!?


 どれほど才能があろうと高々


 ファイヤーの呪文を覚えた程度の知識で


 俺に勝てるとでも思ったのか!?


 身の程を知れゴミ虫が‼」


バンデローダはそう言うと書物の一つに火をつけたのだ


「ああああああぁぁぁぁ~~なんて事を、何て事をするんですか!?」


悲鳴を上げ両手で頭を抱えるフリニオーラ


「どうした怒ったか!?さあかかってこいやゴミ虫が


 お前をぶち殺してあのモウロクババアが


 間違っていた事を証明してやるぜ‼」


その時バンデローダは意外にも冷静であった


それは皮肉にも師匠ハイドニールの教えでもあった


”戦う時、気持ちは熱く心は静かに


これが魔法使いの鉄則である”という教えを


嫌と言うほど叩き込まれていた


それに対しフリニオーラは明らかに怒っていた


怒り狂っていると言っても過言じゃ無い程


冷静さを失っている状態なのは明白だった

『我を忘れる程怒り狂っていて


 基本呪文のファイヤーしか使えない


 ゴミと冷静な対応をしながら


 トゥルーメガファイヤーをも使える俺


 もう勝負にもならないじゃねーか


 悪いな糞ババア、あんたのお気に入りは


 ここで潰すぜ』


そんな事を考えながらほくそ笑むバンデローダ


「いくぞゴミ虫、トゥルーメガファイヤー‼」


バンデローダの放った炎が凄まじい勢いで


フリニオーラに襲い掛かりあっ


という間にフリニオーラの小さな全身を覆い尽くした


「はっはっはっは もう終わりかよあっけない


 まあそりゃあそうだわな、今考えると


 少し大人げなかったかも

 

 知れないが・・・ん!?」

自分の放った炎の異変に気付いたバンデローダ


フリニオーラの全身を包みこんではいたものの


一向に収束しない炎、すると次の瞬間


信じられないモノを見た


バンデローダの炎がフリニオーラの炎に


抑え込まれていたのである


「馬鹿な・・・そんな馬鹿な


 あり得ないだろこっちは

 

 トゥルーメガファイヤーだぞ!?


 なんで基礎呪文のファイヤーに

 

 押されているんだよ!?」


フリニオーラは怒りの表情を浮かべ


バンデローダを睨みつけている


「謝れ・・・師匠に謝れ‼」


フリニオーラの感情に合わせるかのように


炎の勢いは強くなっていく


バンデローダはその迫力に押され


ししりもちをつきながらも必死に抵抗していた


そんな時書庫の方が騒がしい事に気が付いた


ハイドニールが様子を見に来たら


フリオニールとバンデローダが戦っているのが見えた


しかもファイヤーしか使えないはずのフリニオーラが


バンデローダを圧倒しているのである


目を輝かせてその光景を見ているハイドニール


『凄い、凄いじゃないかフリニオーラ!?


 素質のある子だとは思っていたけど


 ここまでとは、しかもあの炎を完璧に操る

 

 見事なコントロールは・・・』


ハイドニールが注目したのはその絶妙なコントロールである


戦っているのは大量の書物が置いてある書庫なのだ


その書物を燃やさないように相手のみ


炎で追い詰めるなんて芸当はハイドニールにも


できるかどうかわからないほどだ


その絶妙な炎のコントロールを


魔法を覚え始めたばかりの少女がやっているのである


その凄まじいまでの力にハイドニールは震えた


そしてバンデローダもようやく気が付いたのである


”コイツはモノが違う”と戦ってはいけない相手と


戦ってしまったことを後悔し始めたがもう遅かった


全力で抵抗するもジリジリと追い詰められていくバンデローダ


ついには死を覚悟し涙目になっていた


その時フリニオーラの炎をさらに抑え込んだ炎が現れた


それはハイドニールの操る炎だった


ようやく二人はハイドニールの存在に気が付く


バンデローダは命が助かった安ど感から


全身から力が抜けその場で崩れ落ちるように倒れ込み気を失った


しかしハイドニールはバンデローダを助けるために


止めたのではなかった


フリニオーラの圧倒的な力を目の当たりにして


しばらく忘れていた対抗心が湧き出て来たのだ


それは自分の師匠に戦いを挑んでいた時と同じ気持ちで


”この子と戦いたい‼”という気持ちから


思わず割り込んでしまったのである


その眼差しはもはやカワイイ弟子を見る目では無かった


強敵を前にしてどうやって勝つか!?


というモノに変っていた


戦闘意欲満々のハイドニールだったが


フリニオーラは師匠の姿を見て泣きながら抱きついてきた

「ごめんなさい師匠、私師匠の大事な書物を守れませんでした


 本当にごめんなさい!?」


泣きながら自分に抱きつく弟子に戦いを挑むわけにも


いかず軽くため息をつくハイドニール


『そうか、この子は怒りの感情が力を増幅させるんだね

 

 私とは真逆の魔法使いになりそうだ


 でも困ったねぇ・・・この子は自分の事では

 

 まず怒らないけどあたしの事となると

 

 物凄い力を発揮するみたいだからね

 

 ”アタシと戦ってくれ”なんて言っても


 承知する訳ないか!?


 師匠の気持ちは弟子には伝わらないモノなのかねぇ


 今ようやくバーデンブルグ師匠の気持ちが

 

 わかった気がするよ』


そんな事を思いながら泣きじゃくるフリニオーラの頭を


優しく撫でるハイドニールであった。


今回は人物紹介を兼ねた外伝です、最初の人物はフリニオーラです一応、3部構成で考えておりますがもしかしたら変更になるかもしれません、この人物紹介の外伝シリーズはどうしても書きたいので私のわがままに付き合っていただけると幸いです、では。

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