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紡ぎ手無き虚空  作者: 馬
2/2

りんごの樹–①

明日、俺が死ぬとしたら

俺はこの世界に何を残すだろう

草一つ生えぬ荒れ果てた地を遺すのだけだろうか。機械によって生きながられる世界だろうか。

音のしない廃墟が残るだけだろか。

それとも、俺も彼女のようにりんごの木を遺せるのだろうか。




初めて少女に会ったのは、どこまでも続く灰色の雲の上だった。


「黒057 !7時の方向敵機!!」

その声にとっさに反応する。機体後部上面に有るスラスターを一瞬引き出しかけ、同時に主エンジンの出力を最大まで上げる。それによりF15に似た機体は、元の位置から後ろを向く方へ急激な回転をする。

同時に、急激なGに耐えられなり意識を無くすが、その数秒後に薬物の投与により撃墜音と共に目覚める。

戦闘はすでに始まっていた。



それは戦闘機と呼ぶには、あまりに異様な形をしていた。

頭の形は確かに従来の戦闘機ではあったが、翼はワシのようであり、ジェットの噴出口は爪のようになっていた。


空気の取り込み口は三本ほどに分かれたものかまとまっており、それらが自在に動くようであった。

そしてコックピット下部には鋭利な刃物のようなものがある。


一見するとワシのような形をした不恰好さだが、その戦闘力には驚くしかなかった。


僚機が敵の後ろに付きそうになると、その噴出口を無理やり上に曲げ、足首を曲げることで噴出口を下にする。

それにより急激な上昇を可能にし、僚機は距離感を見誤り、敵機に後ろに回り込まれ撃墜されていく。

かなりのGがかかっているはずだが、ブラックアウトする素振りを敵は見せない。

敵機は10機ほどしかないのに、20機いた機体は7機しか残っていない、状況は絶望的に見えた。

「黒057! 24時!から5時と7時!!」

あの声が聞こえ、俺はそれに従い上に向かって上昇を始めた。

いつのまにか真上には敵機の腹が見えた。

そして、その後ろには僚機がおり敵は上に上昇しようとするが、真下にいた俺がその敵に狙いをつける。

引き金を引くと、敵の破片が下に落ち始めた。

敵はその機が撃墜されると同時に引き上げていった。

味方は5機になっていた。敵の損害は3機と圧倒的な敗北だった。

あと少しで敵はこちらを殲滅できたであろうになぜ引き上げたのかと思った。

僚機が後方から近づいているのをレーダーで確認し、このおかげで命拾いしたのだと知った。



そして、僚機のおかげでなんとか空域を守れた俺は味方とともに基地へと戻ることになった。

もちろん哨戒用の機体は残していくが、少なくとも先ほどまで戦っていた奴らではない。

ボロボロの機体から徐々に高度を下げていく。基地は3本の常時の離発着用と、緊急時用に2本の滑走路の5本の滑走路を所持している。宿舎が3棟、格納庫は20番まである。宿舎は本部を挟んで格納庫と反対側にある。俺の機体はあまり見受けられないものの、ブラックアウトの影響が少し残っているために、3番目の着陸を許可された。宿舎側から見て三本目の滑走路に機体を下ろした。そのまま速度を落としつつ、50キロ程度になったところで、俺は宿舎側へ移動を始めた。

先に降りた僚機はすでに本部近くの1番格納庫に入り始めており、俺もそれに倣って1番格納庫へ向かう。もっとも酷い機体として、最初に降りた機体は1番小隊の小隊長の機体であり、俺に通信をしてくれた機体だった。機体はコックピットの真後ろに被弾し、羽の先端がもげかけていた

 しかし、それでも敵機を黒星のうちの2機はあの小隊長の機体だという。あんな状態でも敵に食い下がり、敵機を破壊したいる人物はどんな人なのだろうか。

 そのようなことを思っていると前の機体が整備士の指示に従い移動を始めた。俺の番ももうすぐるだろうと思い、機体のチェックを始める。羽を格納し、エンジンの出力を絞る。

「57番機、お疲れ様。第1格納庫左奥の第3スペースに格納する。機体を回転させる。方向板の上へ頼む。。」

「57番 了解 ありがとう。方向板の上へ移動する。」

円形の方向板の上に乗り、先頭のタイヤを方向番の穴へ当てはめる。

「57番、エンジン停止」

「57番 了解、エンジンを停止する。」

エンジンと燃料タンクのパイプを切り離し、エンジンをゆっくりと切る。

これはエンジンタンク内に燃料が残ることによる爆発を防ぐためのセーフティだ。

エンジンが止まるのを確認して、タイヤをロックする。

「エンジン停止、タイヤロック、移動準備良し。」

そう俺がいうと、タイヤの周りにロック板ができて、タイヤをロックする。

「移動板、ロック完了、移動開始。」

整備士が言うと、移動板は徐々に動き始め、左奥に止まる。前の移動板があった位置には下から他の移動板が上昇してくる。

「移動完了。タラップがくるまで待ってくれ。」

そういうと、整備士はタラップを移動させ、機体の横へつけた。

「大変だったな、とりあえず大佐が呼んでる。辛いだろうがもう少し頑張れ。」

「ありがとう、行ってくるよ。」

そういうと、俺はタラップから降り本部の3階の大佐の部屋へ向かった。

覚悟していたとはいえど、仲間の死は重く自分にのしかかってくる。

敵を一機でも撃墜できたのは良かったのかもしれない、これからのことを思うと気が重くなった。そして、また俺は誰も守れなかった。



基地の最上級士官である大佐の部屋の前に着くと、その扉の前には一人の少女がいた。

身長は160センチ代の中盤だろうか。痩せ型でも細型でもなく、程よく引き締まった体と言えるだろう。

目は大きく、利発そうな顔立ちをしている。

ボーイッシュというほどではないが女子校にいたらモテていただろう。

そして髪は長く、後ろでまとめてポニーテールにしていた。

一見遠目から見ると美人さんという言葉が合うような気がする。

しかし、近づいてみるとその瞳は少しだけ憂を帯びていた。


階級は中尉であり、俺より二つ上の階級でありその胸には小隊長のマークもある。俺は相手に気付かれる前に敬礼して声をかけた。

「少尉、先ほどはありがとうございました!」

「先ほど……。」

中尉はこちらに気づくと敬礼をして、俺が何者か考え始めた。

「戦闘中に助けていただいた、黒の57です。」

「ああ、君が黒の57か。」

中尉は俺のことを思い出すと、少し苦い顔をした。

「君も呼ばれたのか。」

「はい。」

「君も敵を一機墜したから、そう考えると妥当か。」

「はい、中尉に比べると幸運で撃墜できたとして言えませんが……。」

「幸運か……、ふざけたはなしだ。」

「なにかおっしゃいましたか?」

「いや、なんでもない。とりあえず入ろうか。君の名は?」

「はい。桜庭伊月です。」

「桜庭だな。」

そういうと俺と中尉は扉を向き。そして中尉がノックをしながら言う。

「失礼します!水月中尉、並びに桜庭准尉、到着いたしました!」

「よし、入れ」

中尉は扉を開け、敬礼してから司令官の部屋に入る。

俺もそれに倣うかのように中に入っていく。

「水月中尉、並びに桜庭准尉、参上いたしました!」

中尉と俺は敬礼する。

大佐は机の上に手を組み、肘をついていた。

「楽にしたまえ。」

「「ハイ!」」

大佐の言葉に俺たちは腕を後ろに組み、足を広げて休めの格好をする。

「わかっているとは思うが、君たちを呼んだのは今回の戦闘についていくつか聞きたいことがあるからだ。」

大佐はそう言うと、俺たちに質問を始めた。



数十分後、俺はなぜか模擬戦闘室で、怒りたいような、泣きたいようなそんな表情の中尉にシャツを掴まれ、壁際においつめられていた。

「お前はなんのために戦っているんだ!」

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