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第三夜 悲しみの過去

 「クラリス!!今日も来たよ」

ここ毎日、ヴァンパイアのリッドは私の所へ来るようになった。正確には、私が来てほしいと願ったから。その願いを聞いてくれたのだ。月色に染まった窓を開ける。

 「リッド、来てくれたのね」

私は、笑いながらリッドに言った。でも、私がこうやってリッドと話をしていられるのも、あと1週間しかない。婚約を発表すれば、リッドも来てはくれなくなってしまうだろう。私は、それが一番怖い。夜なのに、太陽のように明るく笑ってくれるリッドに会えなくなるのは、心細くなるに違いない。だから、自分がそんな立場に立っている事をリッドに話してはいなかった。

 3週間近く、リッドは私に色々な面白い話を聞かせてくれた。山でウサギを食べようとして追いかけていた熊は、切り株につまづいて、頭を打って気絶した。とか、その他色々。そんなリッドの話を聞いて、私は外の世界に興味がもてた。

「…外って、楽しいんだろうな」

私は、ちょっと暗くなった。

「クラリス、屋敷の外へ出たことないの?」

目をまん丸にしたリッドが、少し驚いたような顔をして、私に問いかける。図星だから、答えるのを少し躊躇ためらう。

「ええ、そう。父上が、外の世界に興味をもたれたら、勉強が頭に入らなくなる。無駄に覚えるのを控えているのよ。私が小さい時、『遊ぶ暇があれば、帝王学を学べ』って、しょっちゅう言われたの。だから…」

リッドはポカーンと、開いた口が塞がらない。

「クラリスのおやじさんって、厳しいんだなぁ」

「名門貴族の家に生まれちゃったのだから、仕方ないよ」

「……俺も貴族の生まれだけど…」

「え?」

「何でもない〜」

リッドが何かをぼそって言っていた。何をいったのだろう?

「それより、クラリス。出てみないか?屋敷の外」

そう言うと、リッドは部屋に入ってきて、私をお姫様だっこした。

「ええ?!ちょっ…リッド?!」

私を抱えて、リッドは窓から飛び出した。と、同時にリッドの背中に大きな蝙蝠こうもりの羽が出てきた。

「リッドには羽があったのね」

「ん?あぁ、普段出してると邪魔だろう?」

クスッと、私は笑った。なんだよ?と、言いたげなリッドの顔がそこにあった。夜空に光り輝く散りばめられた星たちは、暖かく私とリッドを見守っているかのようだった。屋敷の外は、思ったより楽しそうだった。明かりが漏れる家々が並んでいて、その家から楽しそうに会話をする家族の姿が見えた。それを見ると、昔を思い出す。私がまだ小さかった頃、父上はあんなに厳しくなかったし、母上もいた。皆でいることが楽しかった毎日…。今はもうない。

 そんな事を考えていると、気がつけば、町はずれに居た。

「ほら、クラリス。着いたよ」

そう言って私はリッドから降りた。そこには…

「わぁ、凄い綺麗」

そこは、辺り一面に広がる花畑だった。下手をすれば、私はこんなきれいな景色を見たのは初めてなのかも知れない。高いヒールを履いて走り回る。今の私を見て、リッドはどう思っているのだろうか?外を知らない馬鹿な人?屋敷から出られなくてかわいそうな人?それとも…

「クラリス、こっちこっち」

ふと、振り向くと頭の上に何かが乗った。

「花の輪…リッドが作ったの?器用なのね」

笑いながら話す。そうすると、リッドは顔を赤らめた。月に照らされて、花の上に座り込む。と、リッドが急に真剣な顔をした。

「なぁ、クラリス。聞いてほしいことがあるんだ」

「?何」

「俺さ…本当は人間なんだ。と、言っても『元』だけど」

私は驚いた。リッドは人間だったなんて…。だから、あの時、差別みたいな事を言った時、リッドは怒ったんだ。

「グーベルスタって小国、あっただろ?今はタリシアの一部になったけど。俺はグーベルスタ王国第3王子だった。けど、ある日。グーベルスタにある全教会の聖水が無くなってさ、誰の仕業かは分からないけど…それをいいことにヴァンパイア達は、城に攻め込んできた。まぁ、目的は玉座と血だったんだろうけどさ。城の兵たちは、聖水の無い中、必死に戦った。けど、兵は全滅。ヴァンパイアの『』になったって訳だ。親父や兄貴もまだ5つにもならない俺と母さんを守ろうとした、けど……」

「…」

「残された母さんと俺は隠れた。でも、あいつらは鼻もよく利いてさ、すぐ見つかった。その途端、周りは母さんの血で赤く染まった。俺も返り血をくらって。返事をしないってわかっていても、母さんの体を揺らして、母さんを呼んだ。そん時、一人のヴァンパイアが寄ってきてさ、『お前は生かしてやろう、だが。一生頼れるものも居ず、闇の中に一人で生きるがいい』とか、言われて結局は噛まれた。俺は必死に逃げて、近くにあった森に身を潜めた。その時ちょうど、朝がきて、襲ってきたヴァンパイアも全滅。他のヴァンパイアとあっても、元人間のヴァンパイア。相手にされなかった。本当に一人だった。城には人すらいなくて、後継ぎがいないために、タリシアの支配下となった…俺が行くところなくてふらふらしてた時さ、クラリスと会ったんだ。何かクラリスは俺と似ていた。だから、少し話してみたかったんだ。」

少し、空が明るくなった。

「あ、もう朝方だ。行こう、クラリス」

「うん」

私は差し出された手をぎゅっと力一杯握った。それを察して、リッドも強く握ってきた。リッドの過去…。それは、誰も分からない悲しみの中にあった。目の前で大切な人を失ったリッド。その傷はずっと癒されないのかもしれない。けど、この時。私は一生リッドの隣にいたいと思った。叶わなくても、ずっと…。


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