主様、選択する
「私は人間だよ…」
力なく言う。
「その身は人間なのでしょう。
しかし、本質は魔物。
今は呪いが中途半端に解けてしまった影響で認められないだけで、完全に解ければ私の言っている意味を理解するでしょう。」
妖狐は言う。
「しかし、呪いを完全に解くには力が足りないようですな。」
長老が言う。
「確かに。」
「それに、主様の体は人間ですから、人間の食事が常に必要。
毎回人間の街に奪いに行くのも面倒。」
「その通りだ、長老よ。
やはりこの森に人間を呼び寄せるのがよいか。」
「とはいえ、この森はゴブリンが100程度しかおらぬ。勝ち目はないぞ。」
「私もやるし、罠を仕掛けるなど工夫すれば最初はいけるだろう。」
妖狐の言葉に長老が考える。
「一体、なんの話を…」
「勿論、主様の食事を効率よく手に入れる話です。」
妖狐が言う。
「主様がこの森に逃げ込んだ事を人間は知っております。
そう間を置かず、人間達がやってくるでしょう。
彼らを向かい討ち、死体と物資を手に入れるのです。」
「死体…」
物資はまだ理解できる。
私が生きる為に手に入れたいと考えているのだろう。
「死体を森に捧げる事で瘴気が生まれ、その瘴気を力にかえる事で主様は呪いを解く力を手にする事が出来るのです。」
そんな!
呪いが解けてしまう!
いやだ、人間のままがいい!!
「問題は勝てるかどうかです。」
「え?」
「我らゴブリンはただの町娘程度になら勝てますが武器を持ち戦う事に特化した人間には一対一では勝てません。
三対一くらいで漸く互角でしょうか。
人間がどのくらいの人数で来るかはわかりませんが、このままならばまず間違いなくゴブリンは全滅、主様の身も危なくなります。」
私は人間を殺したくないが、人間は私をころしたがっている。
人間やめるのと同じくらい私は死ぬ事が怖かった。
「最初は冒険者が数人様子見で来る程度でしょう。
その程度なら森中のゴブリンが手を取り合えば勝てます。
問題は第二第三の人間部隊。
数が多ければ返討ちもできますが、人間に目をつけられるのを恐れ個体数管理をしていたのが裏目にでました。」
「ねえ、私は死にたくないけど、人間を殺すのも嫌なんだ。」
「しかし、力を手に入れるには人間の死体が必要です。
しかも、この森で死んだ死体が…」
「主様、若しくは、この森で魔物が死んでも瘴気になります。
ゴブリンを全滅させれば、僅かながら瘴気になり力を得る事が、できましょう。」
「おお!主様の為にこの身を捧げる事が出来るとはなんたる誉れ!」
「だめ!だめだから!!」
ゴブリンは人間ではないが、こうやって話して良くしてくれるのだ。
私の為に死ねとはいえない。
「人間を殺して力と物資を得るか、ゴブリンを殺すか、お選びください。
大丈夫、ゴブリンは雄と雌を一体ずつ残しておきます。
一月もすれば、元の数まで復活するでしょう。」
そういう問題ではない。
ゴブリンの繁殖力の強さは驚異といえるがいくら増えても死んだ魔物は戻らない。
どちらかを選ぶ…
選ばなければ、彼らは自爆するのだろう。
私は彼らに完全に情をうつしていた。
私は、勇気を振り絞って…
「人間を選びます。」
人間を殺す事を選択してしまった。
やはり私の本質は魔物で間違いないのだろう。
どんなに否定したって普通、魔物と意気投合なんてしないのだから。