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妖狐、語る

今から千年前。

まだ私が子狐で人型もとれない、食事も必要としていた頃。

私は縄張り争いに負け、瀕死の重傷を負い東の草原からこの森に流れ着いたのです。

当時のこの森は幼心に到底受け入れてくれるような森ではないと感じました。

溢れる濃厚な瘴気。

数多の魔物の気配。

傷ついた子狐が生きていける環境ではありませんでした。

私には体に負った傷で死ぬか何処かの魔物に喰われるかのいずれかの未来しかないように思えました。

ところが、そうはなりませんでした。

傷つき、地に伏す私を主様が拾ったのです。

なんでも、先日まで飼っていた愛玩動物(ペット)が懐かなかったので捨てたばかりで新しいペットを探していたところとの事。

私は主様のペットとして主様の居城…今は無いですが当時は無限の瘴気を利用して造られた通称魔王城があったのです…に迎え入れられたのです。

主様は役に立つとは思えない脆弱な私の傷の手当てをし、餌を与え、休む環境を与えてくださいました。

特に餌は私の為にわざわざ森の中に絶えず進入してくる騎士団や冒険者ではなく、柔らかく消化によい赤子を獲ってきてくださいました。

傷が癒えてからも城に住む許可を下さり私は、主様に絶対の忠誠を誓ったのです。

私の前にいたというペットも私と同じように傷ついていたところを助けてやったそうですが、私と違い恩知らずなようで、最後まで主様に懐く事はなかったとの事。時に牙を剥いて歯向かうこともあったと聞いております。

そんな輩と違い私は主様の為に出来る事をしました。

と、言っても私以外に主様の居城に出入りの許可を得ている魔物は尋常では無いほど強く私の出来る事などたかが知れていたのですが。

今こそこの森は私と小鬼が100程しかいませんが昔は千種の魔物が万の魔王軍と名乗りこの森を闊歩しておりました。

それを倒すべく人間達が森に絶えず侵入し、我々に殺されその死体を森に捧げて瘴気へと変え主様の力としていたのです。

瘴気が濃厚でたくさんあればあるほどそこに住む魔物は強くなり、人間には毒となります。

主様はそこの頂点に立つお方。

森の瘴気を力に変えて人間を片っ端から殺害し、時に別の場所から侵攻してくる魔物を喰らい、人の世にも魔物の世にもその名を轟かせておりました。

しかし、人間もいつまでもやられっぱなしではありませんでした。

私がこの森にきて数十年経った頃、騎士団による大規模な侵攻がありました。

騎士団総数実に百万。

対する魔王軍一万。

人間と魔物では力の差が天と地程にあれどもこの数の差はいかんとも出来ず、我らは追い詰められます。

主様は私を側に呼び逃げるように申しつけました。

私は初めて主様のご命令を拒否しました。

今こそ主様に拾って頂いた命を使う時。

弱い私では野蛮な人間共には勝てないでしょうが、主様の肉壁にはなれます。

しかし、主様は私に転移術をかけて東の草原へと送還したのです。

東の草原にいると理解するや否や即刻森へと帰るべく空を駆けるが、時すでに遅く魔王城は半壊、

魔王軍は壊滅。

森の瘴気は薄まり量は普段の半分以下となっておりました。

しかし、主様はそんな中、力を振るい抵抗をしておりました。

その甲斐あり、人間共も無傷ではありません。

百万の騎士団はほぼ壊滅。

戦えるものは僅かに数名。

その数名も主様の前には子供同然。

遂にはたった一人で立つ人間を残すのみ。

薔薇色の髪と目を持つ若い男でした。

主様に剣を向け闘志を燃やしておりました。

対する主様も無傷ではありません。

満身創痍です。

どちらが勝ってもおかしくないでしょう。

私は人間に踊りかかりましたが、あっさりと剣で体を貫かれて伏す事になります。

主様は私がいる事に驚いておりました。

そして、それが主様が人間に見せた唯一にして決定的な隙となってしまったのです。

人間は主様の体に剣を突き立てました。

私は力が抜けており、耳がよく聞こえませんでしたが、何事か恨み言を主様に申しておりました。

そして、主様の首を刎ねたのです。

魔物は死ねば体は粒子となり消え失せ代わりに魔石を残します。

主様も例外ではなく、巨大な魔石となりました。

人間はその魔石に何事か呟き…今思えばこれこそ呪詛だったのでしょう…口付けをしたかと思うと己の胸を貫き心臓を鷲掴みにし、その血を絞って魔石にかけました。

人間は心臓を失えば死にます。

なのに、彼は躊躇いもなく己の心臓を差し出し主様に捧げたのです。

途端、魔石は砕けてしまい、天に昇りました。

人間はそれを見届け笑いながら死にました。

私は一部始終を見て、人間が、己の命を対価になんらかの呪いをかけたと思ったのです。

主様が今、大変不安定なのはおそらくその呪いのせいでしょう。

きっと、主様が二度と力を震えないよう人間に転生する呪いだったのでしょう。

しかし、人間は主様を甘く見ていた。

主様は呪い通り人間に転生したが、20年生きている間に徐々に呪いを解いたのでしょう。

未だ完全には解けていませんが、いずれは完全に呪いが解ける日がくるでしょう。

その時こそ、『魔王城と常闇の森』と呼ばれた史上最悪最強の迷宮(ダンジョン)の復活です。

千年の時を経て、今度こそ人間共を滅ぼしてしまいましょう!



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