魔物もドン引く人間
人間と言葉が通じた!
私の気分は最高潮となる。
しかし、この人間は何者だ。
私は人間の言葉はわからない。
しかし、彼の言葉がわかるのは一重に彼が魔物の、言葉を話しているからだ。
人間と話せて嬉しいが、なんだか警戒もしてしまう。
でも嬉しいから逃げたり出来ない。
「言葉通じる。」
「わあ!凄い!!嬉しい!!!」
彼は興奮していた。
「あの、彼はノーライフキングですよね!?
初めてみました!握手してください!!」
彼はノーライフキングに恐る事なく近づく。
ノーライフキングが引いている。
こっちを見て指示を欲しそうにしている。
「…うん、いいんじゃない?」
私が許可した事で二人?は握手する。
「うわぁ、感動!生きててよかった!」
手を見ながらニヤニヤしている。
「あの!あちらの狐でしょうか?
彼も珍しい魔物ですよね!是非握手を!」
「断固拒否する!」
妖狐は自身の意思で拒否した。
「素晴らしい!知能が人間並み!」
全然堪えないようで妖狐に熱い視線を送る。
妖狐ドン引き。
「あの…」
「ああ、貴方が一番不思議だ!」
「ほえ?」
「貴方、人間にしか見えないのに魔物の言葉しか通じないって事は魔物なんですよね!?
しかも、ノーライフキングも狐さんも貴方に従っている様子!」
「…!」
「しかも、この森!
この間までこんな瘴気を発してなかった!
ズバリ!貴方が原因なのではないでしょう…」
妖狐が男の後ろに立ち首筋に爪をかける。
「お前、何者だ?」
冷たい声が場を支配する。
「あは、は…。わ、私はサムソン。
狂科学者と人には呼ばれていた事もあった。」
「事もあった?」
過去形?
「私は集落に住んでいたが、逃亡中の身の上なので偽名を使っていた。
もう五年そう呼ばれてはいない。」
「逃亡中?」
妖狐が問う。
「私は魔物の研究をしていた。
研究の為、生きた魔物を家で飼っていたりしたのでそう呼ばれた。」
…魔物を家で飼う?
…あれ?何か引っかかる。
マッドサイエンティスト…。
サムソンという名前…。
「魔物を飼うなど狂気の沙汰だな。」
妖狐もドン引きだ。
「だが魔物を飼ってはいけないという法律はない。」
しれっと言うけどさ。
「餌はどうしていた?」
私の疑問を妖狐が代弁するかのように問う。
魔物は肉食だ。
アンデットは食事を必要としないしゴブリンは獣でも大丈夫。
しかし、これはかなりのレアケース。
大半の魔物は…
「人間を与えてましたよ?」
悪びれもせず言う彼は紛う事なきマッドサイエンティストそのものだった。
「魔物を飼うのは問題なくても、餌の用意で人を殺しすぎましてね。
今じゃ生死問わずの賞金首です。」
「生死問わずって捕まったら死罪って事じゃないですか。」
私が呟く。
「ええ。私も死にたくないので、逃げて今の集落に落ち着いていたんですよ。
そこでは研究もせず、善良な農民をしていたのですが…。」
彼は嗤う。
妖狐が一瞬怯むような怪しい笑みだった。
「研究なんて忘れたつもりだったんですよ。
やはり命は大事じゃないですか。
でもダメですね。今日アンデット軍団を見たら
興奮してしまい、つい追いかけてしまいました。」
くるりと、振り向き妖狐の顔に触れる。
「ひっ!」
なんの力もないはずの人間に恐れをなして一歩体を引く。
「山賊どもに家を荒らされ隠していた研究結果も見つかってしまいましたし、もう集落には帰れませんね。」
妖狐から離れ私の元にやってくる。
私は離れられない。
と、いうか、思い出してしまった。
思い出せるんだね、失った筈の記憶。
切羽詰まれば記憶が蘇るのか。
妙に落ち着いているのは、彼が私達を殺す事はないと知っているから。
サムソン・メルヴァン
伯爵子息として生まれた筈なのに、魔物に魅入られその爵位を失い一族を魔物の餌として殺した男。
研究内容は魔物の生態と言われていたし、今の今までそう信じていたけど、違う!
私の本能がそう告げる。
彼の真の研究内容を知ったのは今、この瞬間。
既に遅かったのだ。
彼は言った。
「調教」