開戦
妖狐視点
想定外です…
私は木の上から人間どもを見ていた。
木の上にいるが隠密魔法を使っているので私の姿は見えない。
人間どもはごちゃごちゃ何か話しているが言葉がわからないのでただの雑音でしかない。
しかし、これらの人数を小鬼と共に戦うとはいえかなり厳しい戦いになるでしょう。
私は自分の力の無さにため息をつく。
かつて魔王城への出入りを許可されていた親衛隊レベルとはいいません。
せめて、歩兵団に加われる程度の力があれば…。
所詮私は愛玩動物。
獣あがりの魔物でしかなく千年生きても得た力は微々たるもの。
武器を持ち戦う事を生業とする人間と戦えば二対一までなら対応出来るがそれ以上となれば厳しい。
せっかく主様にお会い出来たのに大した力になれないとは情けない。
いや、大丈夫だ。
皆殺しにする必要はない。
数体殺して追い返せばよいのだ。
私は拳に力を入れる。
やるしかない。
主様の為に。
その命、捧げよ。
人間どもが森の中へ土足で侵入してきた。
列をなし、行儀よく進行する。
かなり周りに気をつけており、隠密魔法を解けば立ち所に私など見つかってしまうだろう。
私は先頭を歩く男…おそらく冒険者…に狙いを定めて風の鎌を飛ばす。
完全なる不意打ち。
男はたまらず体を二つに割かれて倒れ臥す。
『!!』
途端に列は崩れ周りを警戒する人間ども。
こうも警戒されてはもう風の鎌は使えまい。
私は何もせずに彼らが立ち去るのを待つ。
やがて死体を置いて人間どもは森の奥へさらに進んでいった。
置かれた死体の側による。
見ると森がゆっくりとだが死体を飲み込んでいた。
私の口端が上がる。
やはり。
森が息を吹き返した。
確かに昨日までは普通の森だった。
迷い込んだ人間が死のうとも、森は無反応。
ただ、腐り木々の養分になる…食物連鎖…だけだった。
しかし、今はどうだろう。
森が生き物のようにズブズブと死体を飲み込んでいくのだ。
血の一滴、肉の一欠片も残さないと貪欲に喰らいつく。
このぶんだと数刻とせずに鎧や剣、物資以外の全てが森に喰われてしまうでしょう。
そして、死体を喰えば喰うほど森に瘴気が満ち溢れそれが主様の力となるのです。
そうとわかればこんなところでぼーっとしてはいられません。
人間をどんどん殺して森に捧げましょう。
私は人間どもを追いかける。
すぐに人間どもは見つかった。
丁度木々の隙間から小鬼が弓矢で人間を狙っている。
中々の距離があり、未だ人間は小鬼の存在に気づいていない。
ひゅん
風を切り、矢が放たれる。
「!!?」
間一髪。
狙われた人間は身を捩り矢を躱す。
ちっ。
私は舌打ちする、
人間どもは小鬼に気づき剣を槍を構える。
何人かの人間が弓矢を構え矢を放つ。
「ぐえっ!」
「ぎゃ!」
小鬼が二体犠牲になった。
そこに剣や槍を構えた人間が走り他の小鬼に躍り掛かる。
その背に風の鎌を放つ。
背後からの一撃に二人の人間が倒れた。
「!!」
人間の一人が私を指差す。
隠密魔法を使っていたが見破られたようだ。
隠密魔法を解除する。
「!!!」
「!!!」
何か叫んでいるが人間の言葉はわからない。
私は火を放ち人間の一人を焼く。
手加減して体は残さなくてはならない。
矢が数本私に飛んできた。
私は着物の袖で打ちはらい、風の鎌を飛ばす。
「!!!」
しかし、風の鎌は人間の魔法使いが作った土壁に阻まれ消えてしまう。
土壁は少し削れた程度。
私の風では破れそうもない。
「!」
小鬼の放った流れ矢が魔法使いの背中に刺さる。
よし、かなりの幸運だ!
しかし、魔法使いは矢を抜き回復魔法をかけてしまう。
あの魔法使いが邪魔だ。
とりあえず、撤退!
私は木々を渡り人間どもから距離を取る。
小鬼も十数体殺されたようだが、人間を数人討ち取っている。
しかし時間がかかれば小鬼は全滅だろう。
私は小鬼に撤退の合図を送り、小鬼を逃す為に風魔法で木の葉や土煙をあげて目くらましをする。
その隙をついて残った小鬼は助け合いつつ逃げる。
私も一緒に逃げた。
かなり距離をとり人間どもを観察する。
逃げ帰る事はしてくれない。
どちらかといえば人間優勢だから当たり前か。
「小鬼、仲間は後どれくらいいる?」
「80程度です。」
小鬼3対人間一として、人間は大体15程度。
小鬼は45は必要。
「…念を入れて60。
この先の比較的ひらけた場所に誘導するから仕留めよ。」
「は!」
私はひらりとわざと人間の前に姿を晒す。
すぐさま人間が弓矢を構え、魔法使いが魔法を使おうと構える。
幸い魔法使いはこいつ一人のようだ。
こいつを仕留めれば我らの勝ち目が見えてくる。
私は矢を躱したり払ったりしつつ、剣と槍を持つ人間どもからは逃げる。
近づかれたら、後衛な私に勝ち目はない。
人間どもは私を追ってくる。
追えるように逃げているから当たり前だ。
魔法使いは後ろにいた。
私の魔法を当てるには他の人間が邪魔だ。
時々風で牽制しつつ予定していたひらけた地にたどり着く。
小鬼が人間どもを取り囲む。
「!」
小鬼が木の棒や錆びた鉄剣、打ち倒した人間から奪った槍などを構えて躍り掛かる。
数の上では有利!
しかし、魔法使いが広範囲の風魔法を使い足止めをする。
一瞬動きを止めた小鬼に逆襲する人間ども。
私は戦いの邪魔にならないよう木の上に逃げて距離をとる。
最初の魔法が痛かったか、数の上では有利なのり劣勢であった。
徐々に数を減らす小鬼。
これ以上減るのはまずい。
そこに魔法使いが第二手を撃たんと杖を掲げる。
火が生まれ固まっていた小鬼が犠牲になる。
しかし。
火を放った瞬間、魔法使いが一番無防備になる魔法を放った直後。
私は木の上から風の鎌を放ち魔法使いの首を切り落とす。
「!?」
「!!?」
人間の足並みが乱れた。
「小鬼!魔法使いは仕留めた!やれ!!」
「はっ!」
私の鼓舞に応えるように小鬼は動く。
劣勢から盛り返した。
結果。
人間どもは全滅。
しかし、我々も仲間の8割を失ったのだった。