私は誰だ。
少しシリアスなお話かも?
私は人間だ。
間違いなく人間だ。
人間から生まれたのだから間違いようもない。
何故、そんなにも自分が人間だと連呼しているかといえば、今朝目が覚めたら、周りの人間の言葉がわからなくなったからだ。
両親は私を見て悲鳴をあげる。
家中の物という物が飛び交い私を家から追い出した。
両親は私がわからなくなったらしい。
いや、両親だけじゃない。
友達も私を見て悲鳴をあげる。
石を投げられ私は逃げた。
野良犬が私を見た瞬間、尾っぽを丸めて逃げていく。
いつもは煩いくらいに吠えるのに。
風にのって音が流れる。
音声魔法だ。
おそらく町中に流れているのだろう。
『西の第5地区に魔物か現れました!
住民は避難を開始してください!
自警団は速やかに、第5地区に移動し、討伐を開始してください。』
私がいる場所こそ西の第5地区。
え?
もしかして、私が魔物?
でも、やっぱり私は人間だ。
プラチナブランドは私の自慢。
硝子のように透明度の高い青い瞳。
白い肌も、着ている服も。
全てが人間のそれだった。
なのに、なのに!!
なんで私を魔物と呼ぶの?
混乱は最高潮。
遠くで、自警団の声がする。
声はすれども何を言っているのかは理解できない。
おかしい。
昨日までは理解できたのに!
それに、自警団は剣を持ってる。
攻撃魔法が使える人もいた。
私は剣なんて持った事ない。
魔法?
素質無し判定でしたよ。
もし、私が魔物というなら、自警団に見つかったら嬲り殺しだ。
死にたくない!
私は自警団がいる方向とは別の方向に逃げた。
「はあ、はあ、はあ…」
私は町から出た。
出なければ殺されるからだ。
ここは西の森。
私はたまに薬草を採りにほんの浅いところを行った事がある程度の場所。
でも、今はそんな場所にいたら自警団に殺される。
奥に行かないと…
ううん、奥に行ったら魔物がいる。
私は魔物になんて勝てる要素なんて何もない。
自警団に殺されるか
魔物に殺されるか
何故か知らないけれど、私の未来は二つに一つらしい。
私は森の奥に入る勇気がなくて木の下に蹲り、息を整える。
私は人間だ。
誰がなんと言おうと人間だ。
私は…
私はぞっとした。
何故なら名前が思い出せないからだ。
先程見た両親。
先程見た友達。
もう顔も名前も思い出せない。
ほんの一刻前に見たのに!
昨日、私は何をして過ごした?
思い出せない!!
私は自分の記憶がどんどん曖昧になっていく事に気づいた。
「…!」
怖いと言おうとした。
言うより早く、遠くで声がした。
自警団だ!
私は立ち上がった。
逃げなきゃ殺される!!
森の奥へ…
魔物がいる森の奥へ…
私は躊躇する。
しかし、自警団がいつ私に追いつくかはわからない。
魔物に会わなければ…
ちょっと、自警団をやり過ごして戻れば…
大丈夫だよね?
私は自分に都合よく考えて、生まれて初めて森の中へ入った。
自分がいつ生まれたのかが思い出せない事に気付くまでそう時間はかからなかった。