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図書室の海  作者: 主音ここあ
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第9話 移動図書館の本

・・・どうしてこんなに好きになってしまったのだろう。


たった数時間の出会いなのに。


少しだけ大人な彼に憧れをかんじた?


容姿端麗な彼が魅力的に見えた?


とても優しい彼に惹かれた?







◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆



芽衣は黒曜の端正な顔立ちを見つめていた。

黒曜は本の内容を真剣に丁寧に説明してくれた。


「『そして天藍星葉(てんらんじょうよう)は、天と地に嫌気がさして、この『異空間』を作った』・・・」

「天藍星葉って、凄い人なのね。神様みたい」

黒曜の説明によると、この本は「自叙伝」で、天藍星葉の人生の歩みと、黒曜たちのいる異空間の歴史が記されている。

天藍星葉は男性で、この本の主人公だという。

「だがこれが事実であるという証拠も残念ながら無いんだ」

黒曜は事実ではないかもしれないと言ったが、だがこの本は移動図書館内で一番の大きさの本で、作りもとても格調高く、信憑性は高い。



大昔にいた天藍星葉という人物が、地上や天上の争い事などを嫌い、自ら『異空間』と云う場所を作り移り住んだ。というところから物語は始まる。

「『彼はいつも本をたくさん持ち歩いていたので、地上にあったほとんどの本たちが彼と共に来た』」

「え!じゃあここにある本は私たちの世界の大昔の本かもしれないの!?」

「だから本当に起こった事なのかはわからないって。作り話なのかも」

「えー、こんなに立派な見た目の本なのに」

ちょっと残念そうに芽衣は言う。

黒曜は続けた。

「『そして彼は地上に似せた、本の『海』や、嵐を起こしたり出来るまるで気象を操るような本の番人などを作り配置した』」

長く細い綺麗な指で黒曜がページをめくる。


「『そして最後に移動図書館を作った。彼は部類の本好きであり、地上から本が消えてしまった為、せめてもの償いにと、地上にいる本が好きな人間たちの為に、移動図書館を作った』」

「わあ、なんてこと・・・とても感動的な話」

芽衣が目をキラキラさせる。

「そうか・・・?まあでも、彼の気持ちがわからないでもないな」

「え?」

目を伏せて黒曜が穏やかに言う。嗚呼、以前も何度かしていた表情だ。

「俺はここからお前たちの世界を見ていて、人間は海のようだなと思っていた」

「・・・海?」

「波のように善の心と悪の心が繰り返し出てきて」


人の心は一定を保たず、寄せては返す波のように心は揺れ動き、時に心は荒れた海のように激しく、かと思えば穏やかな凪の状態へ移りゆく。


すると黒曜は芽衣を真っ直ぐ見て続けた。

「今までは、客観的にそう見てきて、あまり良い印象は無かった」

でも、と続ける。優しく微笑みながら。

「俺はお前と出会って、そんな海も悪くないと思えるようになったんだ」

「黒曜・・・」

そんなこと言われたら、私・・・。





「・・・っ」

黒曜が急に顔をしかめて脇腹を押さえた。

「?黒曜どうしたの?」


「なんでもない。さあ、別なのを選ぶかそれともこの本の続きを自分で読んでるか?」

何事も無かったかのように黒曜は言った。

大丈夫なのだろうか?

不信に思いながらも、芽衣は別な本を探す事にした。


「あれ、ここは?」

芽衣は、本棚の中の開いている部分を指差す。

本と本の間に隙間が有り、あきらかにここに本があった証拠だ。

「ああ、ここに入ってた本は、絶版扱いになったから本の番人の所に送られていったよ」

「絶版?」

「そう。タイトルは『はじまりの書』だったかな。何故絶版になったのかはわからない。ここのパソコン端末情報も消えてしまったから、何も情報はわからない。しかもこの図書館にその本が来てから、すぐにいなくなったからな」

「そうなの・・・なんで絶版なんだろうね、読みたかったな・・・」

「そんなに読みたいのか?ほらほら、こんなに本があるんだ、それにこだわらなくてもいいだろう」

「うん・・・」

黒曜が芽衣の背中を押して別な場所へ移動させようとした―――――――その時。



ガクリ、と黒曜がひざから崩れ落ちた。


「黒曜!?」

「・・・っ、駄目だなっ・・・」

芽衣が驚いて黒曜の顔をのぞきこむ。

その顔は苦痛の表情で、少し汗ばんでいる。

「どうしたの!?」

「大丈夫だ、気にするな。お前は本を選んでろ」

「選んでる場合じゃないよぉ~!!どこか痛いの?」

芽衣は泣きそうになる。

「少し痛むだけだ、じきに治る」

そう言って脇腹を押さえた。

「見せて!」

「こらっ芽衣!」

芽衣が無理矢理服をめくると、白い包帯から赤い血が滲み出ているのが見えた。

「やっ・・・!これは・・・!?」

芽衣は悲鳴をあげる。

黒曜は服を直し隠した。

「本の番人に嵐を起こされた時にやられた。たぶん何か物が飛んできて、それでだ」

「そんな・・・」

まったく気づかなかった。

もしかして黒曜は今まで痛みを我慢していたの?

芽衣の顔が青ざめていく。

しかも、さっき重たい本を運ばせてしまった・・・!

「琥珀がいた時に応急手当をしてもらったから、大丈夫だ。まあ、すぐ直るもんでもないし」

「手当?いつの間に・・・知らなかった・・・」

「おまえに見つかればうるさそうだから、こっそりとな」

と、ニヤリと黒曜は笑った。

「もうっ私だけ知らないなんて!ねえ、応急手当だけじゃなく、ちゃんと治そうよ!お医者さんとか、いないの?」

「そんなのいないさ」

平然と言う。

「そんな・・・じゃあどうすれば・・・あ!私の世界の病院に行って治してもらえば!」

我ながら名案だと思ったが、黒曜にすぐに否定された。

「それは無理だな。俺たち異空間のものが、普通の人間に見える事は無いと思う。それに、異空間を長いこと離れる事はできない」

「そうなの・・・」

「大丈夫だって。そのうち治るから」

黒曜は笑って芽衣の頭をぽんぽんとたたいた。




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