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図書室の海  作者: 主音ここあ
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第4話 エラーコード

「さっ、どれを借りるんだ?」

黒曜は話題を変える。

その時、ピピピピと高い音が聞こえてきた。

「おっ、来たか」

黒曜は音のするカウンターの方に向き直る。

「新しい本だ」

芽衣もつられて見てみると、カウンターの横の壁面の、四角く切り取られた小窓から本が現れた。

この窓はどこに繋がっているのだろう。

芽衣はその窓を凝視する。不思議でたまらない。

「新しい本?この本はどこから来たの?」

芽衣が訊く。

黒曜はお手上げとばかりに両手のひらを天に向けた。

「さあ、それは俺も知らない」


黒曜はその本を手に取り、カウンターの椅子に座った。

本を見ながらパソコンに入力していく。そして入力し終えると、パソコンの横のプリンタのようなものから、バーコードが出てきた。そしてそれを本へ張る。

・・・芽衣の学校の図書室で図書委員や先生がやっているのと同じだ。

「その作業は手動なのね」

今まで魔法のような不思議な体験ばかりしてきたので、なんだか笑えた。

「・・・なんだよ、おかしいか?」

ムッとする黒曜。

そしてそれを書架へ置くらしい。黒曜はおもむろに立ち上がった。

「なんだか司書さんみたいね」

芽衣はおどけてしゃべる。

「まあ、そのようなもんだろ」

ムッとしたまま歩き出す。

こんな表情の黒曜をはじめてみるので、芽衣は面白がる。

はじめに会った時はあまりいい印象ではなかったのに。


そして軽い気持ちで言った。

「私が本を置いてきてあげよっか?どこへ置けばいい?」

芽衣が黒曜がバーコードを貼った本を無理矢理取り上げる。

「あっ、馬鹿よせ、俺しか出来ない事なんだっ・・・!」

―――――――その途端。

ガタガタっと図書館が一度だけ振動した。

「エラーコードだ!」

黒曜が叫んだ。

「え、な、なに?きゃっ!」

芽衣が手にした本が、芽衣の手を離れて、ひとりでに浮遊しはじめた!

芽衣は驚いた拍子に後ろへバランスを崩す。

黒曜は芽衣へ駆け寄り体を支えた。

そしてすぐにその動き出した本をつかまえようとしたが、間に合わず、本はひとりでに元来た道―――――本が現れた小窓から出て行ってしまった。

「えっ!?」

「しまった・・・!」

黒曜は焦りの表情を見せた。

本が、いなくなってしまった・・・。

「ど、どどどどどうしよう!ごめんなさいっ私のせいで!!」

芽衣は泣きそうになる。

「いや、俺も説明不足だった。本を書架へ配置するまでが新しい本を登録する一連の作業で、俺しかやってはいけない事なんだ。その規則を守らないととエラーを起こす。ほら、エラーコードN20138だ」

焦燥感を滲ませながら黒曜はパソコン端末のモニターを指さした。

モニターには本の画像と、エラーN20138と赤く表示されていた。

「そうだったのね・・・、あの本はどこへ行ったの?」

芽衣は恐る恐る訊く。

「今、見てみる」

素早く端末を操作し、本の情報がモニターに映し出される。

本の情報をパソコンに入力済みなので、どこに行ったのかわかるらしい。

「あ!」

芽衣は驚いた。

なんということだろう。

そこには芽衣の学校が映し出された。

「本が誤作動を起こした。たぶんお前の学校の図書室へ行ったんだ」

「本が勝手に?」

「ああ。稀にそうなることもあるようだ。はじめての事だけどな」

「はじめてなの!?」

芽衣の顔から血の気が失せていく。

「大丈夫だ。捕まえに行くだけだから」

だから芽衣、お前はここにいろ、と黒曜は言った。

「え?このまま移動図書館ごと学校へ入れないの?」

「図書室へは入れない。あそこは今本の番人がいるから、見つかったら面倒だ」

「本の番人・・・?」

「説明はあとだ。急がないと」

そういうと黒曜は図書館の奥へ向かおうとした。

「私も行く・・・!」

芽衣は声を振り絞った。

黒曜が驚いて振り返る。

「私も行く。・・・だって、私の責任だから」

「俺も初めての事だから、もしなにかあったら危ないから、ここにいろって。大丈夫、お前の責任なんかじゃないから」

そう言って黒曜は笑顔見せて芽衣の頭をなでる。

優しいのね。とてもとても、泣きそうになるほど優しいわ。

芽衣は頭をなでていた黒曜の手に、そっと触れる。

「芽衣・・・」

黒曜が動きを止める。

そしてわずかな時間、二人の間に静寂が訪れる。



その静寂を断ち切り、黒曜が言った。

「―――――わかった。じゃあ足手まといになるなよ」

ニヤリと笑う。

「勿論!」

芽衣も笑った。


「あ、そういえば、私一度ここから出ても大丈夫なの?また借りれるの?」

芽衣はふと思い出して言う。

まだまだこの移動図書館のシステムに関してわからない事だらけだ。

だからこそさっきのミスを犯してしまった。

「ああ、大丈夫だ。まだ貸し出し作業してないからな」

「よかった」

芽衣は安堵した。

黒曜は踵を返し、奥へ向かった。芽衣が追いかけると、そこには大型モニターといくつものボタンがあった。そこへ座りながら、芽衣へ声をかける。

「軌道修正する。ちょっとつかまっとけよ」

「えっ、わっ!」

黒曜が言うな否や、移動図書館はぐらぐらと揺れ始めた。


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