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図書室の海  作者: 主音ここあ
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第32話 還るとき

芽衣は感情を爆発させた。

その瞬間、図書室が白い閃光で覆われた。

そして天井から降り注いでいた黒い物質は、その白い閃光が消えると同時に消え去った。

まるで、その白い閃光が黒い物質を消し去ったように。



芽衣は涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、叫び疲れ果て倒れそうになる。

「おっと」

そこで、芽衣の体をしっかりと抱きとめる腕があった。

確かに感じたことのある、逞しく温かい腕。

「黒曜・・・!」


「目覚めたのね・・・!」

嬉しくて疲れが一気にふっとんでしまった。

「一体、どうやって・・・」

「お前が助けてくれたんだよ、芽衣」

そのまま黒曜に抱きしめられた。

「へっ・・・?」

わけもわからないまま抱きしめられる。

皆が見てるのに、と少し気恥ずかしくてその腕の中から逃げ出しそうになる。


「芽衣さんの感情により、悪の心を完全に消し去ったんじゃ。本の番人に少し残っていた黒い物質をな。そして、黒曜さんを眠らせ、その体内に巣食っていた黒い物質もな」


「え・・・」

そんなことって、あるの・・・?

助けられたって、そういう事?


黒曜を見上げると、彼は別な方向をじっと見て、何か考えているようだった。

するとその黒曜が口を開いた。

「琥珀・・・ここを頼んでもいいか?」

「黒曜?」

「ああ。勿論。移動図書館に戻るのか?」

「――――――ああ」

黒曜は芽衣の手をぎゅっと握りしめた。

移動図書館に?

どういうこと?

「こくよ・・・」

芽衣が訊く前に、彼は芽衣を抱き、高次跳躍してしまった。




そしてあっという間に移動図書館へ到着してしまう。

少し前に居た場所なのに、移動図書館の中は、ひどく懐かしく感じられた。


「ねえ、黒曜。戻ろう?」

「・・・・・・」

何も答えず室内へ歩を進める黒曜。

芽衣は苛立つ。

「黒曜!」



「このままだと強制帰還かもしれないんだぞ!」

「・・・っ」

黒曜が振り向いて怒鳴った。

めずらしく黒曜に怒鳴られて、芽衣は委縮する。

「ごめん、怒鳴って」

黒曜は顔を片手で覆い、はーっとため息をつく。

芽衣の瞳には今にも溢れそうな涙が溜まっていた。

「だがな、芽衣。急にいなくなるより、きちんと別れたほうが・・・」

だから、移動図書館に戻ってきたの?

「借りた本があっただろ?それを返却手続きするから・・・」

黒曜が芽衣に背を向け、返却カウンターへ向かう。


なに?

なんで平然と淡々とそんなことを?



きちんと別れる?

なに、それ。


「どっちも嫌よ!」

芽衣が黒曜を後ろから抱きしめた。

「芽衣」

「だって、私・・・離れたくない」

「芽衣・・・わがまま言うな・・・お前の住む世界はここじゃない」

黒曜、いま、どんな顔して言っているの?

ねえ、黒曜・・・。


「いやよ・・・」

芽衣はイヤイヤと頭を振る。

(わかってるわ。私、子供みたい。でも、離れるなんて無理よ・・・)

黒曜が芽衣の方に向き直り、抱きしめた。

「わかってる・・・ああ、わかってる・・・」

苦痛の表情で声をしぼりだす。

ごめん。もう一度そう言い、芽衣の顔を両手で優しく包んで、何度も口づけた。





しばらく抱きしめ合った後、黒曜が体を離した。

「本を返却しよう。芽衣、本はどこだ?」

「うーん、無いわ。・・・あ。図書室だ。カバンに入れて図書室に持っていったんだわ」

「あー、そうか。もう取りに行ってる時間は無いな」

うーん、失敗したかな。

でも、本を持っていかなければ、本の中に隠れていた天藍星葉がすぐに図書室に現れる事もなかったかもしれないし。


もう、強制帰還でも正常な帰還であっても、時間的には同じではないのか。

透明になってくる己の手を見つめ、芽衣は思った。



「あれ、靴も片方無いぞ、芽衣」

「えっ。あ、ほんとだ、どこかで脱げたのかな、それとも壊れちゃったのかな」

「うーん、あとで探してみるよ」

「この硝子って、所有している本人じゃないと触ると壊れるんじゃなかったっけ?」

「ああ、そうなんだが、・・・壊れないよな」

「うん・・・でも・・・」

「もうその話はお終い」

「きゃっ」

ぐい、と芽衣を抱き寄せた。

「黒曜・・・」

「芽衣。今更だけど、怪我とかないか?なんともないか?」

「うん。大丈夫だよ?」

相変わらず、心配性なんだから。

黒曜の背中に手を回す腕が、半透明に透けはじめていた。

今度こそ、やばいわね・・・。

とうとう、現実になるのね。

怖くて、ぎゅっと黒曜の背中にしがみつく。

それに気づき、黒曜が抱きしめながら優しく髪や背中を撫でてくれた。

その気持ちよさに、落ち着き、うっとりと目を閉じる。


ふと目を開け、思い出したように訊く。

「ねえ、この硝子の靴、片方持って行ってもいいんだよね?」

「いいんじゃないか、もうお前のだし」

「もう片方が見つかったら、履かせてくれる?」

「勿論だよ、シンデレラ姫」

「ふふ」

二人で見つめ合い笑う。

「そしたら、靴を持って迎えに来てくれるよね?」

「ああ。迎えに行くから待ってろよ、お姫さま」

また笑う。

しかしその笑顔も、長くは続かなかった。

黒曜が目をにじませ、苦痛の表情になる。

「行くな、芽衣」

芽衣の頭を掻き抱く。

「黒曜」

芽衣もこらえきれず、黒曜の腕の中、わんわんと泣いた。

「ごめん、迷わせる事言った」

ふるふると頭を横にふり、抱きしめ続ける。


やがて。

芽衣の体がうっすらと輝く。

そして全身が半透明になり―――――――。


消えた。

移動図書館から、その姿が消えた。



『また会える』

薄れゆく景色の中、彼の声が聞こえた気がした。




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