表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
図書室の海  作者: 主音ここあ
31/34

第31話 黒い物質 2

「あ・・・」

芽衣が目を開けると、目の前には心配そうにこちらを見る天藍星葉と琥珀がいた。

「芽衣さん!・・・良かった・・・」

琥珀が安堵の表情をした。

(一体どうしたの?)

「あ、私・・・っ」

「大丈夫?」

起き上がろうとしてなかなか力の入らない芽衣に、琥珀が手を貸した。

(たしか、黒い物質が本の番人から出てきて・・・)

「あ、あの・・・私は一体・・・?」

(あれ、誰か、足りない・・・)

まだぼんやりとした視界で琥珀を見る。

床に手をつくと、金色の粉が少量散らばっていた。

足元を見ると、未だ硝子の靴が芽衣の足を覆っていた。

(修理はどうなったんだろう)

琥珀が上体を起こした芽衣の肩を、両腕でしっかりと支えた。

(あれ、こういう事をしてくれるのはいつも黒曜だったはず・・・)

そう、ぼんやりと考えていたが・・・

「黒曜は!?」

芽衣は急に意識をはっきりとさせた。

そう、彼が見えないわ。

少し後ろめたそうに琥珀が口を開く。

「黒曜ならそこだよ」

琥珀の視線の先を見ると、少し離れた場所に黒曜が横たわっていた。

「―――――こ、黒曜!?」

芽衣の顔が青ざめる。

黒曜に駆け寄り彼の手を取る。

(あたたかい)

「大丈夫。眠っているだけだ、ちゃんと息はしているし、怪我も無い」

(あ・・・)

芽衣が勘違いしないように琥珀が説明する。

その言葉にホッとした。

ほっとしたものの、琥珀の言った事は、一体どういう事だろう。

「まあ、正確には、起こしても起きない状態じゃのお」

それまで黙っていた天藍星葉が口を開く。

「お前さんと黒曜さんは、本の番人の黒い物質の毒素に当てられ、意識を失ったんじゃ。傷を負ったわけではない。精神的な部分をやられたんじゃ。金の粉をお前さんたちに振りかけてみたら、お前さんが目覚める事に成功した」

「あ、ありがとうございます・・・」

やっぱり目覚める前のあの金色の光は金の粉で、天藍星葉さんが助けてくれたのね。

「そしてお前さんを庇おうとした黒曜さんが、より強力にあてられたようじゃ。だから起きないのかもしれん」

「そんな・・・」

(また、私は助けられた・・・)


「目覚める直前にお前さんが叫んでいたのじゃが、すると黒い物質の威力は弱まったようじゃ」

芽衣が宙を見上げると、そこにはまだ番人が鎮座していたが、そこから出てくる黒い物質の量は、少なくなってきているようだ。

銀の焔の次は黒い物質。

一体あとどのくらい私たちは攻撃されるのだろう。

芽衣にはまったく予想もつかない。

「黒い物質とは何ですか?」

「悪の心じゃよ」

天藍星葉が即座に答えた。

「悪の心・・・?じゃあ、私がさっき目覚める前に聞こえた、あれは・・・たしか、琥珀さんに教えてもらった・・・」

「僕?」

予想外の芽衣の発言に琥珀が目を丸くする。

「黒曜の過去の話の・・・」

「ああ、あれか。―――――まさか、あの場面でも見たの?」

琥珀は最後トーンを下げた。

やはり見てはいけないような悲しい場面だったのだろうか。

芽衣はかぶりを振る。

「見てはいないです。でも、声が聞こえて。悪いことを考えている、その人の心の声」

「そうか、本の番人の中に蓄積されているのだろうか。その悪意たちが」

誰に問うでも無く話す琥珀に、天藍星葉が相槌を打つ。

「そうかもしれん。そして本の番人の中にある悪意が飽和状態になり、おまえさんの、芽衣さんの人を想う心に反応して混乱し、蓄積されたものが黒い物質となって放出された、と見るのが正しいかもしれん」



「なるほど。これならつじつまが合う。今までの疑問が全て解決される」

納得し、少し興奮気味に早口で琥珀が言った。

(じゃあ、じゃあ、もう大丈夫なのね?)


「修理は終わったんですか?」

「ここまで来れば、あとは元の、初期のような状態に戻すだけじゃ」

本の番人の件はもう大丈夫なのね?

芽衣は天井を見上げる。

本の番人からは銀の焔は出てこない。


やっと本の番人の脅威から解放されるはずなのに、芽衣は全く喜べない状態だった。

(黒曜は・・・)

そばで眠りつづける黒曜を再び見つめる。

「天藍星葉さんは治す、というか彼を起こすことはできないの?」

少しためらいがちに芽衣がきいた。

天藍星葉は難しい顔をした。

「お前さんが眠っている間に試してみたんじゃが、駄目じゃった。体に傷があるわけではないので駄目なのじゃろう」

「そう・・・」

(唯一の希望なのに)

芽衣は落胆の色を隠せない。

(じゃあ、どうすれば)

黒曜を見る。

「黒曜、ねえ、目を覚まして、お願い」

芽衣は大粒の涙を流し黒曜に語りかける。

彼の動かない手を握り締め。

「お願い、黒曜!」



その時。

(え・・・)

フラッシュバック?

一瞬、自分の住んでる家が見えた。

(なに・・・)

黒曜を握り締めていた自身の右手を見ると、透けていた。

(きゃっ・・・)

ゾッとする。

しかしそれは一瞬で終わった。

(なに今の)


琥珀がそれに気づき慌てる。

「もしかして、強制帰還・・・?」

「え・・・?」

芽衣は一瞬で青ざめた。

体が震えだす。


まさか、今?


芽衣は今まで気にも留めなかった外の景色に目を向けた。

明らかに、夜が明けようとしていた。

(時間が・・・!)

心の中で、悲鳴にも似た叫びをあげる。

芽衣の焦燥感は極限に達していた。


(もしもこのまま黒曜の目覚めなかったら、私は)

私は・・・、



(黒曜にもう会えない)


「そんなの嫌ーーーー!」

芽衣の感情のたがが外れた。



力のかぎり叫んだ。



その瞬間。

ドっと芽衣の中から何かが溢れてきた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ