第30話 黒い物質
三人での少しの談笑の後芽衣はふと気づいた。
(あ!そういえば、琥珀さんがいたんだ・・・!)
急に恥ずかしくなってきた。
(さっきの黒曜との出来事を見られている・・・よね?)
離れて立っていた、といっても、それほどの距離ではない。
(ど、どうしよう・・・)
黒曜を見ると平然としている。
琥珀も何事もなかったかのようにしている。
見て見ぬふりでもしてくれているのだろうか。
「むう・・・」
なんだか私ばっかりドキドキしてちょっと釈然としない。
琥珀が難しい顔をしながら口を開く。
「さっき硝子の小瓶が落ちてきた少し前から、なにやら本の番人から黒い物質が出ているような気がするんだ」
「黒い物質?」
「銀の焔ではなくて?」
「ああ。まあ、出てくる場所は銀の焔と同じだが・・・」
なんだか不穏な空気が漂いはじめた気がして、三人は同時に頭上を見上げた。
黒い物質とは一体・・・。
「なっ・・・!」
三人は驚愕した。
琥珀の言うように、本当に黒い物質が―――――――銀の焔とは違う、黒い煙のようなものが本の番人から溢れてきていた。
芽衣はその物質を見て、とても不快な気分になった。
「なんだか嫌なかんじだ」
黒曜が隣で顔をゆがませて言った。
彼も感じているのだろうか、あの物質のおどろおどろしい気味の悪い様を。
芽衣は何かに当てられたかのように、気持ちが悪くなり、足元がふらついた。
「芽衣」
その芽衣を支えた黒曜も黒い物質に圧倒され冷や汗をかいていた。
琥珀も横で耐えていた。
あの物質はなんなのか。
天藍星葉が上から声をかけた。
「もうすぐ終わる!耐えてくれ!」
(おしえて、あの物質はなんなの、)
天藍星葉の声が遠のいていくのがわかった。
芽衣は意識が薄れていった。
「芽衣!」
更に巨大な黒い物質が芽衣たちの方へ向かってきた―――――!
黒曜が芽衣をかばおうと覆いかぶさる。
「黒曜!」
一瞬、琥珀の声が聞こえたが、それ以上二人には何も聞こえなくなった。
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黒い、世界。
気味の悪い、おどろおどろしい世界。
(わたしは、いま、どこにいるの?)
『本を売りさばいてどこが悪い!』
誰かの、黒い心。
『黒魔術の本が無いんだ、せめてこれだけでも持っていかねえと割に合わねえ!』
嗚呼、過去に銀の焔で消された人の声ね。
憎しみ、悲しみ、妬み、怒り、
様々な負の感情が人々を支配している。
嫌だね、嫌な人間だね。
『おまえもそうなんだ!おまえも嫌な人間なんだ!』
(やめて・・・!)
『綺麗ごとばっかり言ったって、おまえも黒い心で溢れてるんだ!』
そう、そうね。
(私だって、そう)
負の感情が心を支配されるときがある。
私も、そんな嫌な人間なの・・・?
でも、
(もう、やめて・・・)
こんな黒い世界、
(こんな苦しいの、耐えられない・・・!)
「やめてぇーーーーーー!!」
芽衣の感情が爆発した。
その時。
真っ暗な心に支配されてはならない。
そう、声が聞こえた。
光の世界へ照らし導いてくれる声。
光が見えた。
否、光ではない。
それは金の粉だった。