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図書室の海  作者: 主音ここあ
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第27話 『はじまりの書』

天藍星葉は『はじまりの書』と『最果ての書』、この二冊をひとつに戻す作業をはじめた。

二冊を取り出し、床に置いた。

上からのぞいても、無残にも二つに裂かれている、というのがよく見えた。

これを一体どうやって修復するのだろう。



芽衣たちは静かにそれを見守った。

天藍星葉は杖(芽衣には杖に見えるが、彼らにはただのペンに見えるのだろう)を取り出し、床に置いた二冊に向けた。

そして杖を連続して三回程ふった。


すると、本は二冊同時に床を離れ、ふわふわと宙へ浮きはじめた。

そして芽衣の目の高さほどまで浮いたら、そこで止まった。

やがて淡い光が本から溢れだし、本全体を包む。



「わ、キレイ・・・」


突如、天井からキラキラと宝石のような小さい欠片が現れ、二冊の本へ降り注いだ。

その欠片は色とりどりの輝きを放っていた。


「七色の光か」

「え?」

黒曜が芽衣の隣でポツリとつぶやく。

「『最果ての書』は七色の光を放つと言われていた」

「七色?」

「ああ。実際にそれを間近に見れるとはね」

琥珀も驚いていた。

(でも、二人に治療した時は緑色に光っていたわ)

芽衣は、黒曜と琥珀の治療を思い出した。

「『はじまりの書』で治癒した時は緑色だったわ」

その疑問を口にすると、天藍星葉が杖を二冊へ向けたまま芽衣を見る。

「ふむ。あれは片割れだけでの治療じゃったからのお。今は元通りの一冊の本になり、強大な力を得た」

ひとつ間を置いて続けた。

七色の欠片は未だ降り注いでいる。

「この異空間は七大元素から成り立っているといわれているのじゃが、その七つの力がこの本には備わっているのじゃよ」

「七大元素?」

これも初めてきく言葉だ。

「七大元素を司る、草木の緑、海、大地、火、風、空、そして人の心じゃ」

「人の心?」

「そうじゃ」

「移動図書館からおまえさんのような異空間にいない住人が来るであろう。そのことを言っていると思うんじゃが・・・」

ふと何かに気づきはっとして口をつぐむ。

そして独り言をつぶやいた。

「そうじゃ、もしや・・・」

何か考えているようだった。

「ど、どうしたんですか?」

芽衣がきくと、天藍星葉は少し焦りながら首を横にふった。

「いや、なんでもない。さ、続けよう」



天藍星葉が大きく腕を振り上げて杖を一振りする。

すると、まぶしい閃光が走り、二つは一つに密着しはじめた。

破れた部分同士がくっつきはじめる。

本を包む淡い光が一層大きくなる。

二つはその淡い光の中で徐々にお互いを接合させ、破れた部分がパズルのピースを嵌めるようにぴったりと重なり合う。

そしてとうとう完全に融合し、一冊の本になった。

そのすぐ後、七色の欠片が二冊の本へ吸収されていった。



やがて本はゆるやかに降り、天藍星葉の手に収まった。

光も消え、部屋全体がシン、と静まり返る。

芽衣は彼と本の行動に目を奪われ、呼吸することすら忘れ見入っていた。

他の二人も同様のようで微動だにしない。


天藍星葉が口を開き、その均衡を破る。

「よく今まで頑張っておった」

彼は慈しみの目でその手にした本を見つめた。

三人はそれを黙って見つめた。

とても大切な天藍星葉の生み出した本。

それが、今やっともとに戻った。

芽衣は目に涙を浮かべ、その光景を見つめた。



まるで元々破れていないかのように、キレイな装丁の本がそこにはあった。

天藍星葉が本をめくってみる。

すると、またあの七色の光が今度は本の内側から溢れだし、輝きだした。


「・・・?」

何か、今。


やっぱり。

耳を澄ませる。

芽衣は天藍星葉と顔を合わせた。

彼は無言でうなずいた。



本の声が、聞こえる。



「お、おい、これは・・・」

「君にも聞こえるのか?はじめてだな、こんなことは・・・」


今度は黒曜と琥珀にも聞こえたようだ。



「本の声ね?」

芽衣が確認するように天藍星葉にきいた。


「ああ、そうじゃ」

力強い笑顔でうなずく。


「黒曜たちにも聞こえるの?」

「ああ。本の声なんて初めて聞くな」

めずらしく興奮しているのか、声が少しうわずっている。


「きっと、強大な魔力の本だからであろう」

天藍星葉はまたページをめくった。



唐突に本は、話しはじめた(・・・・・・)

風がふいた時のように、パラパラ、パラパラと本のあちらこちらのページがめくれる。





”本の番人は 人間の悪の心で 満たされた しかし あなたがきて 本当の本を愛する心を 感じ取り 混乱した あなたの想いが 本の番人を 変える” 



「え・・・」

「なんじゃと・・・」



全員が驚き本を凝視する。


『はじまりの書』が、本の番人の混乱の原因を教えてくれたのだ。

天藍星葉でもわからなかった事が、『はじまりの書』が一つになったらすぐに教えてくれた。

どのくらい凄い魔力の本なのだろう。



琥珀はまだ興奮冷めやらぬかんじだ。

「しかし『はじまりの書』は凄いですね。こんな事もわかるのか」

「ほっほっほ。わしの最高傑作じゃよ。しかし予想を上回る魔力じゃよ。想像以上の仕事をしてくれておる」

天藍星葉は嬉しそうだ。




(でも、その内容が・・・)

「あなた、とはおまえの事だな、芽衣」

黒曜が微笑む。

「わ、わたし?」

(やっぱりそう?)

「そうじゃのお。おまえさんの事を言っているのじゃと思う」

天藍星葉もうなづいた。

「そ、そうなの・・・?」

芽衣は突然自分が渦中の人になってしまった為、混乱した。



「これで本の番人の混乱の原因がわかったな」

満足そうに黒曜が言った。

琥珀が本をのぞきこむ。

「ということはやはり、お嬢さんが混乱の原因ということか」

「おい、琥珀。まだ言うか」

黒曜が睨む。

「僕の考えははずれてなかった。しかし・・・」

琥珀がチラリと芽衣を見る。

「凄いな、お嬢さんは」

破顔した。

(わあ・・・)

その端麗な顔で笑顔を向けられたら、女性は一気に恋に落ちてしまうのではないか、と思う。

「お嬢さんが混乱の原因であるが、それと同時に、その番人の『悪の心で満ちた』ものを取り除けるのかもしれないぞ」

「え・・・」

「本の番人を変えることができるんだ」

琥珀は確信に満ちた表情をする。

(な、なにそれ。そんな凄いことできるわけない)

芽衣は事の重大さに気が引ける。

「わ、私何もしてない。ただ、本が好きなだけで・・・」

緊張のあまりスカートのすををギュッと両手でつかむ。


「それでいいんだよ。それだけで」

黒曜が優しく肩を抱いた。




本をのぞきこむと、その声のとおり本の中には”書かれて”いた。

天藍星葉は本を机に置く。

「やはりそうか」

「?」

「七大元素の『人の心』。それこそが本の番人に影響しているのか。ただ、本の番人は七大元素の『火』と『風』『空』で成り立っている。とすると『人の心』は、監視していくうちに影響されたのじゃろうか」

独り言のように考えをめぐらせながら話す。

「修理してもまた壊れる可能性がある『原因』が判明したが、原因が『人の心』となると、どのようにして『完全に治る』状態にできるのか・・・」

悩ませる天藍星葉に、黒曜はトントンと本を指して言う。

「本の声を聞いてただろ?芽衣が本の番人を変える原動力になれるんだ」

「黒曜、もうっ、プレッシャーになるわ」

唇をとがらせて、少し怒った表情で芽衣が言う。

「ごめんごめん。でもさ、なんとかなりそうな気がしてさ」

「黒曜・・・」

「そうじゃのお。とりあえず修理じゃのお」



「もう一つあるようだ」

唐突に琥珀が本をめくりながら言った。

そしてニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

「なんだ?」

「本への愛情とは違う『愛情』。それも番人を変えていると書かれている」

「え、ど、どういう・・・」

芽衣が訊き返そうとしてやめた。

(それって、私の黒曜への思いってこと?)

急に心臓がバクバクしてきた。

(どうしよう、気持ちがバレちゃう!?)

「どういうことだ?琥珀」

黒曜が執拗にきいてきた。

(きゃあ!き、聞かないで!)


「それは・・・」

「こ、琥珀さん!私にも本見せて!!」

琥珀が話そうとした時、芽衣が持っていた本を無理矢理奪った。

「ちょっと」

「どうした?芽衣」

黒曜は驚く。

琥珀は言葉を遮られ、本まで強引に奪われてむすっとしている。

芽衣ははっと我に返った。

「ご、ごめんなさい。と、とにかくちょっと見せて」


話しを変えさせようと突発的に奪ってみたはいいものの、どうしよう。

(あ。もしかしたら琥珀さんの作り話なのかも?)

琥珀さんは私の気持ちに薄々気づいているのかもしれないし。


実際、本を開いてみると綺麗な文字が並び、色々書かれている。

芽衣にも読めるものだった。

(あ、人を愛する気持ち、と書かれてる)

琥珀さんの出まかせではなかったのね。

ごめんね、琥珀さん。と心の中で謝る。

それに、それ以外具体的な事は書かれていないわ。

ふー、よかった。


「どうした?ため息ついて」

「わっ」

黒曜が芽衣の顔をのぞきこむ。

「な、なんでもないっ」

黒曜は首をひねったが、すぐさま話題を変えた。

「よし、これで修理できるんだろ?早く戻ろうぜ」



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