表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
図書室の海  作者: 主音ここあ
26/34

第26話 トピアリーガーデン 2

天藍星葉の家――――――芽衣の云う『シンデラレ城』――――――に案内され入った。

「わあ・・・」

玄関を開けると、いきなり舞踏会でも開かれそうな絢爛豪華な大広間が現れた。

シンデレラ城のような西洋のお城の内装がきらびやかに広がっている。

勿論、これは芽衣にとっての視線であり、彼らとは全く違う景色が見えている。

「あっ・・・」

思わずトキメいてしまって、はっと我に帰る。

チラリと横目で黒曜を見るが、彼は別な方向を見ていてそんな芽衣にまだ気づいていない。

少しホッとしたが、しかしこのまま大っぴらに喜んでいると黒曜の視線がきっと突き刺さるであろうことは間違い無いので、心の中だけで喜んでいるとしよう。


芽衣はあたりを見渡してみた。

クリーム色の大理石のツヤツヤとした輝きが目を奪う。

こんな床、ガラスの靴で歩いたらキズがつくんじゃないの?と思えるほど、一庶民の自分にはこんなに綺麗な大理石の床なんてそうそう歩けるものでは無いし、価値がわからない。

天井は高く、大きなシャンデリアが吊るされており、細かい文様の入った調度品や、金の額縁に入った大きな肖像画がいくつも掛けられいる。

すべてが美しく輝いていた。


大広間の奥に真っ白い螺旋状の階段があった。

きっとあの階段から王子様が降りてくるのね、キャー、やばいわ!とまたしても芽衣の妄想が暴走してしまう。

王子さま・・・。

チラ、と黒曜を覗き込むと、今度は目が合った。

(ひゃあ!)

心臓が跳ね上がりそうな程驚いてしまう。

気づかれそうで、思わず彼に背を向けてしまう。

「どうした?」

黒曜が訝しむ。

「な、なんでもない」

(ふっー、危なかった)

大丈夫、気づかれてないわ。

『王子様』の姿に、黒曜を重ね合わせてしまったなんて、とてもじゃないけど恥ずかしい。



大広間にはいくつも扉があった。

その中の一番手前の部屋へ案内された。

「本が、たくさん・・・!」

芽衣は目を輝かせた。

移動図書館に初めて来た時と同じように。

その部屋には壁一面を書棚で埋められており、たくさんの本が収蔵されていた。

窓は一面だけあり、そこからは木漏れ日が入ってきて綺麗だ。

よく見ると外の庭の景色が見えた。

「この本棚の本は一度『本の生る海』へ行き、正式な本になった本たちじゃ」

天藍星葉の話に耳を傾けながら、黒曜が腕組みをして書棚の本を眺めた。

「ここの本は本の番人に回収されたりしないのか?」

そうだ、ここにあるのが彼が作った魔力の本だとすると、番人は必ず回収してしまうのだ。

黒曜も以前言っていた。

移動図書館にあった魔力のある本が―――――それは『はじまりの書』なのだが―――――それが突然番人に回収され、移動図書館からいなくなり、しかしそれ自体、回収されたのかどうなのかはわからないが、天藍星葉の元に戻ってきた。

移動図書館でも本を回収されるぐらいだから、このトピアリーガーデンにある本たちも、例外なく回収されてしまうのではないか。


すると、天藍星葉がにっこり笑って嬉しそうに言った。

「このトピアリーガーデン自体が、本になっているのじゃよ」

「え!?」

どういう事だろう。

もう不思議な事に驚きたくはなかったが、やはり謎な事には思考が追い付いていかない。

天藍星葉は外の景色を見遣る。

「あの大きな樹木で出来た造形物は、おまえさんの世界でもあの造形物を『トピアリー』と言うじゃろう?それが、それぞれ『目録』の役目をしていて、あそこに入ると、各話の物語に触れることができるのじゃ」

つまり、あの樹木は――――芽衣のいる世界でも『トピアリー』と言われているのかどうかは芽衣は草木に詳しくないのでわからないが――――目次の役割をしていて、そこに入ると(どうやって入るの?)本の物語を読めるという事か。

他の二人も初耳だったようで、外の庭をまじまじと眺めていた。

天藍星葉は声のトーンを落とす。

「だからなのかはわからんし、何か不思議な力でも働いているのかもしれんが、あまり回収される事は無い。・・・勿論、回収されることもある。じゃが、自力で回収を免れる本が大多数じゃ。『はじまりの書』のように引き裂かれたりすれば、自力で帰ってくることは困難かもしれんが」

芽衣はわからなくなった。

回収されることがわかっているのに・・・?

「回収されることも前提で、本は生み出されるのですか?」

「芽衣」

少し、きつい言い方になってしまっただろうか、黒曜がめずらしくたしなめる。

「・・・それが、わしの仕事じゃからのお」

少しさみしそうに微笑する。

「・・・ごめんなさい」

だって、本がかわいそうだから。

うつむいた芽衣の頭を、黒曜がぽんぽんとたたく。



「・・・本は、『本の生る海』を経て一人前になる。正式な本になるため、多少の危険はあっても、それが彼らの、そしてわしの仕事の一部じゃからのお」

笑みを浮かべていった。


だとすると、本の番人の『回収』する仕事は、正しい事なの?

そう、一番の疑問はこれなのだ、と芽衣は思った。

腑に落ちなかった、この世界に来てからの疑問。


「番人は番人で独立して仕事をしておる。わしらの存在も、番人にとっては『関係の無いもの』じゃ。じゃが、魔力のある本などは『自分の自由にならない存在』じゃから回収する」

それは、そうなんだけども。

修理に必要な存在なのに、回収してしまうの?

そんなに魔力ある本たちが『自分の自由に』ならないの?

「だから、正式な番人の仕事内容なんだって」

黒曜は苦笑しながら言った。

「うーん」

禅問答でも聞いているかのように、芽衣には難しい内容だった。

「わしも、わしの仕事をするだけじゃ」

天藍星葉は少し寂しそうに言った。

「それに、『本の生る海』へ行った本たちの中で、半分以上はもう一度ここへ戻ってくる。それがわしの修理を手伝ってくれる本たちじゃ」

そう言って本棚を見る。

(このたくさんの本たちが、本の番人の回収を免れて帰還して来た本たちなんだ)

芽衣は急にこの本棚の本を見つめる目が変わった。

勇敢に、戻ってきたんだ、ここへ。


黒曜がふと気づく。

「そういえば、琥珀、自分のとこに戻らなくて大丈夫か?」

「まあ、そろそろ帰らないと、とは思うけど」

琥珀はひょうひょうとしている。

大丈夫なのだろうか。

そうだ。私だけじゃない。

早く帰らなければいけないのは。

琥珀さんは『本の生る海』という大事な場所を守っている人なんだから。




芽衣は書棚へ目を移した。

どんな本なんだろう。

芽衣が目を輝かせて本を見たそうにしていると、天藍星葉が言った。

「わしが修理道具を探している間だけでも、本を読んでいたらどうじゃ。すべて魔力のある本じゃから、面白いかどうかはわからんが」

「はい!!」

待ってました、とばかりに即座にうなづいた。


――――――――いったい、魔力のある本の中身はどうなっているのだろう。そもそも私たちが思っているような『物語』などが描かれている本なのか?魔法の呪文が綴られているだけなのか?


芽衣は早速書棚から一冊手に取ってみた。

桃色の薄い本。

開くとふわり、と良い香りが漂った。

「なんだか良い匂いがするわ」

花の香りのようにほんのり甘くかんじた。

「それはこのトピアリーガーデンの花に関する本じゃよ」

花の図鑑かしら。

芽衣が目にしたことのある図鑑のようだった。

魔法の呪文のようなものは、書かれていないようにかんじる。

どこらへんが、魔力を持つ本なのだろうか。


そしてもう一冊手に取る。

「あれ?開かない」

芽衣が表紙をめくろうとしても、開かない。

「ああ、それは表紙を三回コンコンと叩かなければ開かないのじゃ」

ごそごそと箱や机の中を探していた天藍星葉がこちらに顔だけ振り返る。

「三回ノックする?」

どういうことなんだろう?

「今から開ける合図、とでもいうのか?」

黒曜が芽衣の持っている本をのぞきこむ。

「そうじゃ。そういうことじゃ。・・・魔力を持った本には色んな性格があってのお。そやつは慎重な性格じゃな」

「そ、そうなんですか?」

・・・本に、性格?

にわかには信じがたいが、芽衣は試しに表紙を三回叩いてみた。

「あ、開いた」

すると、ページはすんなりとめくれるようになった。

(うーん、不思議だわ)

琥珀も興味津々に本をのぞきこむ。

「このタイプは初めて見るね。まあ、色んな本があるから、こういうのがあっても不思議ではない」

読んでみると、とても面白く、すぐに物語に引き込まれていった。

魔力を持つ本といっても、中身はいたって普通に読める本で、特別魔法的な何かを感じ取る事はできなかった。

(天藍星葉が使わないと、魔法は出てこないのかもしれないわね)



「よし、あったあった、これじゃ」

部屋のあちこちを探していた天藍星葉が、ようやく修理道具を見つけたようだ。

「なにせ、大がかりな修理用の道具なぞ、あまり使わないでのお、見つけるのに時間がかかってしまった。すまんのお」

そういう彼の手には何やら手のひらに乗るぐらいの小さい硝子の瓶と、無地の羊皮紙のような紙が数枚、以前黒曜たちを治した時に使用したものとおなじような魔法の杖(きっと黒曜たちにはまた『普通のペン』に見えているのね)があった。


「これが修理道具ですか?」

琥珀が訊ねた。

「そうじゃ。これで番人を修理しよう」

芽衣はもっと大がかりな大きな道具をイメージしていたので拍子抜けしてしまった。

あの三つだけ?

大丈夫かしら。

要らぬ心配をしてしまう。

まあ、でもあの魔法の杖から繰り出される魔法は凄かったから、きっと大丈夫だろう。


天藍星葉が部屋の隅にある机に小瓶を置いた。

何やらキラリと光った。

小瓶の中身をよく見てみると、金色に輝く砂のようなものが入っていた。

「わ・・・キレイ・・・」

これは・・・

「魔法の粉?」

芽衣の瞳もキラキラ輝きだした。

それを見て黒曜は、またか、とあきれ顔。

「な、なによ」

「いや、またはじまった、と思ってな」

そうおどけて言った。

もうっ、と芽衣は顔を赤くしながら黒曜を叩いた。


「まあ、魔法の粉、じゃな」

「これをどうやって使うんですか?」

琥珀も興味津々だ。

「まあまあ、先にはじまりの書と最果ての書を一つにしよう」

そう言うと、天藍星葉は二つの本を取り出した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ