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図書室の海  作者: 主音ここあ
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第25話 トピアリーガーデン

二人が操縦席まで戻ると、天藍星葉は感慨深げに『最果ての書』を見つめていた。

(天藍星葉さん・・・)

元々はひとつの本だった『はじまりの書』。

本の番人によって半分に引き裂かれ、ひとつは本の番人によって『最果ての書』として本の番人の体内に閉じ込められた。

それが、やっと自分の元へ戻ってきてくれたのだ。

どれほどの思いなのか、私たちには思い量る事などできない。

芽衣と黒曜は顔を見合わせた後、彼の後ろで静かにモニター画面を見つめた。



(あ、そういえば・・・)

ふと芽衣が気づいて黒曜を見る。

「本の声が聞こえた時、「ばんにんはこんらんしている」と本たちが言っていたのはどういうことだろう?」

感慨にふけっている天藍星葉の邪魔をしないようひそひそと話す。

「ああ、そういえば普通に聞き流していたが、そうだよな、もっと深く掘り下げる必要があるよな・・・うーん・・・」

黒曜も悩みながら小声で話した。

「じゃあもうしばらくしたら彼にきいてみよう」

すると。

「いや、今でよいぞ?なに、あの時の話じゃな?」

「え!」

芽衣は天藍星葉の耳の良さに驚く。

小さい声で話していた気がするが彼には聞こえていたようだ。

「なんだ?どういうことだ?」

琥珀には聞こえていなかったらしい。

黒曜が説明する。

「さっき芽衣が本の声が聞こえた話をしただろ。で、本が言うには『ばんにんはこんらんしている』と」

琥珀がうなずいた。

「それがどういう事かって考えてたのさ」

「ああ、そうだね。一連の番人の暴走は、本たちの声を信じるなら『混乱』によるものだとわかったな。でも、何故混乱しているのか」

「天藍星葉さん、わかりますか?」

芽衣が訊いた。

難しい難題に直面したかのように天藍星葉以外の三人は顔をしかめていたが、天藍星葉も少し顔を曇らせた。

「正直、本たちが本の番人を『混乱している』と理解しただけでも凄い事じゃと思う。何故混乱しているのか、その理由もわかればいいんじゃが、それはわしには皆目わからんし、もしも本たちがそれ以上の事もわかっているのならば、戻って本たちに訊くのが一番早いが・・・」

「今彼らもまだ図書室で戦っている。色々こちらから頼みにするのも酷、ですね・・・」

琥珀の発言に、天藍星葉は黙ってうなずいた。

そうだ。

教えてくれた本たちは今も図書室で本の番人の猛威にさらせれ続けているのかもしれない。

それを思うと居たたまれない。

「あとはそうじゃな、混乱の原因を探るのを省き、先に修理をしてみて、それで混乱が解けるかもしれんし、万一修理できなかったら、『混乱を解く』ことをしてみようではないか」

「そうだな、修理次第だな」

黒曜もうなずいた。



黒曜が操縦席へ向かい歩きながら話題を変えた。

「あ、あと、定期的な巡回では異常は見つからなかったのか?」

「うむ。巡回中は大人しかったのお。まあ、『はじまりの書』が二つに裂かれた時は番人を修理したが」

操縦席へ着き、モニターを見る。

「そうだったのか、わかった」

(やっぱり最近おかしくなってきたのかしら・・・?本の番人は・・・)

ますます、自分のせいではないか、という疑心が強くなってくる。

(何故、混乱しているのか)

それがわかれば、少しは進展するのではないか。

悶々と思い悩んでいたが、突然の黒曜の声で我に返り顔を上げた。


「よし、そろそろ到着だ」

座標のみ映っていた画面が瞬時に切り替わる。

モニター画面いっぱいに、緑色が広がっていた。


その緑は、生命の源のような、癒されるような、瑞々しい青緑色。



「ここは・・・」


見覚えがある風景だった。


(・・・・・・!)

すると、芽衣の脳裏に、あの時の夢の記憶が一気に押し寄せてきた。

一度移動図書館から本を借り、自分の家に戻ってきて疲れ果て眠ってしまった時に見た夢の記憶。

緑色の草原のような場所。

そう、そして本が宙を舞い

見知らぬ声が聞こえてきた。

そう、それはもう見知らぬ声ではなく―――――――。


「あなただったんだ」

目を真ん丸にして天藍星葉を見る。

あの時の声。


「どうした?芽衣」

黒曜が怪訝な表情で芽衣を見た。

とても驚いた表情でこちらを見てくるので天藍星葉も不思議そうだ。


芽衣は目を真ん丸にしたまま言った。

「見たの。一度家に戻って眠ってしまった時に、夢で見たの」

「何を?」

「この景色を」

「なんだって」

黒曜が驚く。

「そして、天藍星葉さんの声も聞こえてきて」

「ほほお、わしの声か」


「小さくなってお前さんのカバンの本の中に入っておったから、もしかしたら近くにおったわしの想いがそれを見せたのかのお」

天藍星葉も不思議そうに笑った。

「それにしても不思議だな」

黒曜も笑った。


そう。不思議な事だ。

知らない場所の、しかもこんな異空間の夢を見るなんて。

やはり天藍星葉が見せてくれたのだろうか。


「あ、それに、あの魔法と同じ色だわ」

「あの魔法?」

「黒曜と琥珀さんが治療してもらっているとき光ったでしょう?あの時の光は緑色の光だったわ」

「ああ、確かに」

「私、あの時、どこかで見た事のある色だと思ってたの。まさか、あの夢の景色の色だとは思ってもみなかったわ」

芽衣自身もまだ驚きを隠せない。

琥珀が感心する。

「君は凄いね、僕らには気にも留めない事を言う。確かに言われてみればそうだ」

天藍星葉が目を細めてこの空間を眺める。

「この場所もわしの治癒の力も、すべてこの緑色で構成されておる。永劫の治癒再生の緑じゃよ」


エバーグリーン

そんな言葉が似合う場所だ。


芽衣は思わず涙が出そうになった。



「しかしここは変わった所だな」

腕組みをして黒曜があたりを眺める。

芽衣からしてみれば、黒曜の乗る移動図書館だって変ってる。


トピアリーガーデンの周囲を見渡すと、緑で一面覆われていた。

だから異空間の外の世界(・・・・・・)が見えない。

1ミリたりとも見えないくらいびっしりと覆われているのに、内部は暗くなく、むしろ日中太陽が出ている時のように明るい。

どこかに明かりを灯す人工照明の装置でもあるのだろうか、そんなことを思わずにいられない。

上を見上げれば、球状のようにカーブのかかっている緑の天井のようだ。

このトピアリーガーデンは、たぶん――――――球体になっているのだ。

以前琥珀が言っていた、彼らの世界の『異空間』は球体の形をして成り立っている――――――と。

それなのだろう。

天井はどんな植物が成っているのかわかるぐらいの高さだが、奥行きはどのくらいあるのかわからない。

広い『庭』の向こう側が緑のカーテンのようになっていて、その向こう側は窺い知れなかった。


(本の形なのかしら?その形をした草木・・・)

一面が芝生になっていて、その上にまるでオブジェのようにあちらこちらに佇んでいる、草木を刈り込んだ造形物。

大きさも大小様々。

色とりどりの花も咲き誇っていた。

それは見たことも無い花だった。

とても美しい風景だ。

芽衣の記憶では、英国庭園が思い出された。



芽衣がそのオブジェの近くまで行ってしげしげと見つめる。

それを見た天藍星葉が嬉しそうに言う。

「それらはまだ正式な本になる前の本じゃよ」

「本になる前?」

「草木の中に隠れておる。正式な本になるためあの中で成長しておるんじゃ」

(製本する前の段階ってことかしら?)

芽衣は自分の世界の本で考えてみた。


そして彼は上を見上げる。

「あの空を舞っている本はもう少しで『本の生る海』に行く予定の本たちじゃ」

本たちが、宙を舞っていた。

草木の造形物では無く、誰もが見た事のある『本』としてのフォルム。

「へえ・・・僕のいる所へ・・・」

琥珀が興味深げに眺めた。

(あ・・・これも見覚えがあるわ。夢の中で本が舞っていたわ。この事だったのね)

芽衣も感慨深く見つめる。

楽しそうに、飛んでいる気がした。




芽衣が他の場所も見ようと、緑のカーテンの奥へ進んでみた。

「ほんとに、ここには不思議なものがあるわ。わあ、あっちにも・・・って、え、ええっーーーーーー!?」

「ど、どうしたっ!?芽衣!」

黒曜が芽衣の声に驚き、芽衣の元へ駆けつけた。

話しをしていた他の二人も何事かと芽衣たちの元へ来た。


「し、シンデレラ城みたいだわ・・・」

前を見つめながら茫然とする。

どうしてここへ着いてから気が付かなかったのだろう。

「な、なにが」

いつも冷静な琥珀でさえも芽衣の発言にうろたえる。


「シンデラレ城があそこにあるわ」

勿論お城なんてテレビでしか見たことが無いが、西洋のお城のように美しい。

「・・・・・・」

黒曜と琥珀が急に黙った。

「ん?あの家のことかのお?」

天藍星葉が不思議そうにその『シンデレラ城』がある場所を指差した。

「は、はい」

芽衣が答えると、黒曜と琥珀の二人は顔を見合わせた。

「普通の家だな」

「ああ、木造のね。蔦が絡まってて少し趣が良いかんじだけど」


「え、ええ!?」

思わずおもいっきり振り返って二人を見る。

(ふ、普通の家!?)

このお城が!?

黒曜と琥珀には私と全く別な建物が見えているの!?


黒曜がシラーッとした目を向けた。

(そ、そんな目で見ないで!また私だけ!?)

「て、天藍星葉さんは!?何に見える!?シンデレラ城でしょ!?」

「ほっほっほっ。残念ながら琥珀さんのいうとおりじゃのお」


「ええ~~~~」

ガックリと肩を落とす。

そして芽衣は顔を赤くして黒曜を見る。

「べっ、別に妄想してるわけじゃないもんっ、私正常よっ」

「・・・まだ、何も言ってないけど」

まだ黒曜はしらけた目で見つめていた。

「もうっ、あきれてるわねっ!」

そう言ってバシっと黒曜を叩いた。

「いてっ、・・・おまえねえ」

琥珀が二人の遣り取りを見て笑った。


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