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図書室の海  作者: 主音ここあ
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第22話 硝子ケースの謎

「どうする。先にあんたの家に行くのか?」

黒曜が再び結界の中へ入り、天藍星葉へ声をかけた。

天藍星葉は首を振る。

「いや、家に行き修理道具を探すには時間が少し時間がかかる。先にあの本の山をなんとかした方がよいじゃろう。いつまた銀の焔の被害が出るかわからん」

天藍星葉はさきほど自身の大事な本を失ったばかりだ。

もう失いたくない。

強い想いがあるのだろう。

「それに、あの山の中に埋もれておる『最果ての書』を探し出さねばならない」

「やっぱりあの中にあるのね!?最果ての書が!」

芽衣は目を輝かせた。

ずっと探してきたもの。命をかけて、と言っても過言ではない。

もう使う意味は無くなってしまったけれど。

天藍星葉はうなずいた。

「本の番人の体内にあるのはわかっておった。そして片割れの『はじまりの書』と共に探しに行った。しかし、硝子ケースに入った本はたくさんあったが、『最果ての書』だけは奥深くにあって、わしらには見つからなかった」

「そうだったんですね・・・」

天藍星葉もあの場所へ探しに行ったんだ・・・。

「今は、攻撃に気を取られておる。奥深くにあったものが出て来たのかもしれんのお」

天藍星葉は続ける。

「もしかしたら、番人の体内にある本の中で『最果ての書』―――――――まあ、元々は『はじまりの書』なのじゃが、それが一番強力な魔力を持った本なのかもしれんのお」

『はじまりの書』

天藍星葉が作りだした治癒の本。

最上位の強大な魔力を持つ。

だからこそ、本の番人はそれを特別に自らの最奥に隠そうとしたのか。


芽衣はずっと気になっていた事を訊いてみた。

「あの硝子ケースに触ったら割れたんです。鎖も切れて。そしてそこにあった全てのものが落ちてしまいました。何故ですか?」

番人の体内で芽衣が目の当たりにした事。

芽衣が落ちてきた原因ともなった出来事。

彼ならわかるかもしれない。


天藍星葉はすまなそうに口を開く。

「わしがもっと早く目覚めておったら、お嬢さんがたを危険な目に晒す事もなかったかもしれんのに、すまんのお」

質問に答えるのではなく、まずはじめにそう言って謝った。

「まったくだ」

腕組みをして黒曜がうんうんとうなずく。

「ちょっ、黒曜!」

失礼な黒曜を芽衣がたしなめるが当の本人はケロッとしている。

琥珀が冷静に天藍星葉の謝罪をきっぱりと否定した。

「あなたがいたとしても、最初から僕たちは無理な行動をとっていた。そんな僕たちを治療してくれた。あなたが負い目を感じる必要は無い」

透き通った真白い頬に青い瞳、無表情で見つめられると冷酷にさえ見える表情だが、言葉は温かかった。


「そうか、ありがとう」

天藍星葉はお礼をのべ、さきほどの芽衣の質問を続ける事にした。

「そもそも、この異空間は硝子にものを入れたりするのじゃ。ほれ、琥珀さんの硝子の瓶も然り」

芽衣は琥珀を見た。

自分の名前が出されたので、琥珀は硝子瓶を服の中から取り出してみせた。

「お嬢さん、これに触れてごらんなさい」

そう言って琥珀が硝子の瓶を床に置く。

透明で綺麗な硝子の瓶。

中には何も入っていないようだ。

一見、芽衣の世界にもあるような普通の瓶に見える。

「やらせんのかよ。俺がやるよ」

黒曜が悪態をつく。

「いや、知らないなら本人がやった方がいいだろう。実戦の方が理解しやすい」

「えっ?」

じ、実戦?何?

「これは『本の生る海』の結界を使い果たして空の瓶だから大丈夫」

何が大丈夫だと言うのだろう。

とにかく、触ってみればいいんだろうか。

「う、うん・・・」

しぶしぶ芽衣が琥珀の持っている硝子に触れようとする。

黒曜が芽衣の隣に来て、それはそれは心配そうに見つめる。何やら自らも手を出しそうな勢いで。

「あ。触ったらすぐ手を引っ込めるように」

と直前に念を押された。

「ええ!?」

もう触ってしまった。

芽衣は言われたとおり手をすぐに引っ込めた。

すると。


パリンっ


「きゃあ!」


硝子の瓶が割れてしまった。


「大丈夫か!芽衣」

「う、うん・・・」



「このように、この硝子の瓶を管理しているもの以外が触れると割れる仕組みになっている」

な、なんか琥珀さん、実験しているみたいね・・・。

「何がこのように、だよ。おまえは危険な事させといて」

黒曜はムッとする。

「怪我していないから大丈夫だろう。なんてったって、僕の管理する本の生る海の硝子の瓶だ!そんな危険な事なぞさせるわけがないだろう!はっはっはっ」

本の生る海の自慢がまたはじまった。

久しい琥珀節にみんな笑った。


天藍星葉がにこにこ笑みを浮かべながら言った。

「これで硝子ケースが割れた理由は明白になったのお。鎖が切れたのは、硝子ケースが割れたためその硝子ケースに閉じ込めておく番人の力が弱まり、鎖も切れたのじゃろう」

「それと、全てが落ちてきてしまった事じゃが、閉じ込めておった力の均衡が破れたのじゃろう。それと番人が怒ったも原因だと考えられるのお」

黒曜が眉根を寄せる。

「自分の領域でやられた、ゆるせない、と?」

天藍星葉がうなずき、芽衣の方を見る。

「・・・わかりました。なんとなく納得しました」

あの不思議で恐かった体験。

もう二度と、あんな目に遭いたくない。



天藍星葉は話を元に戻した。

『最果ての書』を探し出さなければならないという話だ。

「最果ての書を探し出すには理由があるのじゃ。勿論もともと一つの本だったのじゃから一つにせねばならない。そして『最果ての書』と『はじまりの書』。それをまた一つの本に戻す事ができれば、強大な治癒の力となる。先ほどおまえさん達を治すのに『はじまりの書』の力を少し使ってしまったゆえ、この『はじまりの書』だけでは番人の修理は無理じゃ。大規模な修理となるであろう本の番人の修理も、これでできるはずじゃ」

「そうか、ひとつに・・・」

琥珀は独白する。


元々は天藍星葉が作りだした治癒の本『はじまりの書』。

本を一つにできれば、強大な力となるという。

天藍星葉が黒曜たちに施した治癒の魔法も、芽衣からしてみれば凄い力であるのに、それ以上のものとなるのだ。想像もつかない。



「琥珀さんのこの結界であの本の山まで進む事はできないじゃろうか?」

天藍星葉が結界を見渡す。

言われた琥珀はハっとした。

「そうか。それは考えてなかった。はじめからそれをやっておけばよかったね」

苦笑する。

「ちょっと待て。それだとお前が危ない」

黒曜が言う。

「大丈夫だよ」

琥珀は微笑する。

「どういうこと?」

話についていけず、芽衣が訊いた。

琥珀が答えた。

「結界を動かすには、結界の主の僕が結界の外へ出て、動かさなきゃいけないんだ」

「そうなの?」

「大丈夫だよ、きっと本の番人は結界の方に気を取られてると思うから」

それを聞いて黒曜はしぶしぶ納得した。

「わかった。じゃあ、急いで『最果ての書』を探すぞ」



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