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図書室の海  作者: 主音ここあ
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第19話 癒しの来訪者 2

天藍星葉はその場に立ち、本をめくった。

開くと、色あせたような生成色の紙がますますアンティーク調を醸し出し、古い物が好きな人にとっては心ときめくものだろう。勿論芽衣も例外ではなく、目を輝かせていた。

一方、どの様に治癒するのか半信半疑の黒曜は、腕組みをして疑り深くその本を注視していた。

琥珀はじっと黙って見つめている。

芽衣は再び立ち上がり、少し離れた所から見守った。

緊張してしまい、思わず手に力が入り握りこぶしになる。



少しの間のあと、

本が黄金に輝きだした。

「わっ・・・、光った・・・」

芽衣は瞠目した。

その光は眩しいくらいに輝き、やがて図書室中を明るくさせる光となった。


その間も暴風は吹き荒れ続けていた。

上を見ると相変わらずぐるぐると不気味な雲が自転している。

銀の焔は一旦止んだようだ。

天藍星葉は風にあおられている。

やり辛くないだろうか。

「おい、『銀の焔』だ」

黒曜が上を見る。

『銀の焔』で再び本を攻撃しようとしているのか。

「また!?」

芽衣は悲鳴を上げる。

お願いだから今はやめて。

上を見上げて懇願する。


琥珀は天藍星葉の方を見たまま、忌々しそうに言った。

「ああ、やはりまた来たか。治癒が終わったらもう一度結界を作るさ」

「結界はまだ残っているのか?」

黒曜が訊いた。

「ああ。予備で一つ持ってきている。これで最後だ」

琥珀がトントンと服の中を指差す。

最悪の事態が起きた場合のみ使えるように、本の生る海を入れた硝子瓶をあと一つ服の中に入れているらしい。

「了解だ。頼むぜ」

二人のやり取りを聞いていた天藍星葉が、急いでローブから何かを取り出す。

「『銀の焔』まで出ておるのか、本の番人も困ったものじゃ。早くせねばな」

「魔法の杖!?」

芽衣が叫んだ。

天藍星葉が取り出したそれは、はじまりの書と同じように焦茶色をしていて、木で作られた一本の杖だった。杖には金色の装飾が施され、杖の先端には宝石だろうか、淡く輝く緑色の石がついている。

(なにこれ、凄い素敵。・・・私も欲しい)

不謹慎にもそんな事を芽衣は考える。

(杖なんて、ほんとに魔法使いみたいね)


「はっはっはっ、おぬしには魔法の杖に見えるのか」

「僕にはペンにしか見えない」

「ああ、ただのペンだな」

二人ともわざとらしく白々しい目で見る。

「う、うるさいなー、みんなで変な目で見ないでよー」

顔を赤くする。

黒曜と琥珀は顔を見合わせて笑った。

どうみても私には魔法の杖にしか見えない。

どこまでもメルヘンな頭だな、私。



その魔法の杖(ただのペン)を本の上にトン、と置くと、なんと本の中の文字が浮き出してきた。

アルファベットのような文字で、芽衣には読めなかった。

(異空間の文字?でも移動図書館の文字は読めたわ)

芽衣がその文字をじっと凝視していると、

(わっ!なにこれ!)

そして文字たちは本を飛び出し、列をなしてするする、するすると舞い上がっていく。

一定まで舞い上がるとぐるぐる回りはじめ、また違うたくさんの文字が舞い上がる。

そして天藍星葉がペンをピッと指揮者のように降ると、

文字たちが一斉に黒曜と琥珀の体の周囲にくるくると螺旋状に巻き付くように回りだした。

琥珀は初めての事に目を丸くしながら、時折嬉しそうにその文字たちの動きを追っていた。

黒曜は身じろぎ一つできないので、居心地悪そうだ。

すると彼らの体やその周囲は、緑色の光で包み込まれた。

(どこかで見た事のある色だわ、草原のような緑色)

芽衣はその色を知っていたが、どこで見たかは思い出せない。



芽衣はその文字たちの舞い踊る様を、キラキラしたまなざしで追い続けた。

(不思議・・・)

これが、魔法っていうの・・・?

(初めて見る魔法の力。魔法使いってこんなかんじなの?)

この不思議な異空間へ来て、やっと魔法らしい魔法を見られる。

いつ『銀の焔』の攻撃が来るかわからないというのに、芽衣は期待に胸を膨らませる気持ちを止められない。



すると、芽衣のところにも文字がやってきた。

二つの文字。

芽衣には何と書いてあるのか読めない。

「おぬし、肩を痛めておるのか」

天藍星葉は芽衣に訊いた。

「え・・・?」

確かにさきほど『銀の焔』の炎が落ちてきて少し熱くて痛かったけど、怪我をしているというほどではない。

「だ、大丈夫ですよ、私」

「じゃが、その文字たちが治療したいそうじゃが・・・」

「え・・・?」

その文字は『肩』とでも書いているのだろうか。

二つの文字を見ると、芽衣の体の周りをくるくる回りだした。

(文字が自分の意志を持って?)

そういえば、さっきも本に助けてもらったわ、私。

どうしてそんなに助けてくれるの?

「よっぽど本たちに気に入られておるんじゃのお。おぬしは移動図書館に来た者であろう?どうりで移動図書館がおぬしの前に現れたのもわかる気がする」

そう言って天藍星葉は笑った。

「そ、そうなの?」

でも、移動図書館ってランダムで選ばれるんだよね?気に入られてるのも選ばれる理由の一つなの?

よくわからないけど、本に気に入られてるって事は相思相愛ね!とプラス思考で考えよう、今は。

「なんだ、やっぱり怪我してたんじゃないか」

黒曜が言う。

「別に大丈夫なのに」

天藍星葉が少し申し訳なさそうに言う。

「しかしじゃの、この本の治癒の力は、この異空間に存在するものにしか効かぬのじゃ。おまえさんのような異空間以外の人間には無効なのじゃよ、残念ながら」

「そうなのか?芽衣、大丈夫か」

「私なら大丈夫よ、それより彼らの治療を早くお願いします」

天藍星葉はうなずいて杖をトントンと本の上でたたくと、芽衣を治療しようと来てくれた文字が本へと戻って行った。

それはそれは残念そうに帰って行くように見えた。

「ありがとう!」

芽衣は本に向かって力いっぱい叫んだ。

そして天藍星葉がもう一度杖を振ると、その緑の光がゆらゆらと揺らめきだした。

すると黒曜と琥珀は自然に瞼を閉じた。



そのゆらゆらが続くこと数分。

『銀の焔』が再び襲って来た。

今度は火の粉が何個も降り注ぐ。

「危ない!」

容赦なくその火の粉が芽衣たちの頭上にも落ちて来た!

――――――その時。

本が飛んできた。

山積みの本の中から何冊も飛んでくる。

先ほど落ちて来た芽衣を助けてくれたあの本たちだ。

そして芽衣たちの頭上を守るように火の粉へとその姿を晒した。

本に火の粉が付き、そのまま炎が本全体を包む。

『銀の焔』というだけに、銀色の炎がひとつ、またひとつと本を包んでいく。

成す術なく、天藍星葉でさえもその一瞬の出来事を茫然と見る事しかできなかった。


『銀の焔』が焼き尽くしたその本は、消えてしまった。

「なんと・・・」

天藍星葉は悲痛な表情をした。

しかし、まだ治療中だ。

彼はギリリと唇を結び、一度思わず下げてしまった杖をまた本へ戻す。

緑の光はまたゆらめき、また数分。

光は消え始め、文字たちも元の本へするすると戻っていった。

そして、本は何事も無かったかのように静かになった。

銀の焔の攻撃はあり、暴風に耐えながらもなんとか治療を終えたのだ。


黒曜と琥珀は自分の体を眺めたり、腕や足を動かしてみた。

天藍星葉は本をローブの中に仕舞い、満足そうに彼らを見つめた。

琥珀は目をこすりながら言った。

「治癒してくださってありがとうございます。しかし緑の光がとても暖かかくて、眠くなりそうになったよ」

(そうか、だから目を閉じていたのね)

「助けてもらって感謝する。だが、本が・・・」

黒曜もお礼をのべ、本が消えたであろう方を見る。

天藍星葉は嘆いた。

「わしの本が三冊も消えてしもうた・・・」

(そうだ、私、また本に助けてもらったんだわ)

「どうして助けてくれるの・・・」

芽衣は泣きそうになった。

どうして本が犠牲に。

「結界を作る」

琥珀は、そう短く言うと服の中から本の生る海の入った硝子瓶を取り出した。

黒曜も番人の方を見ながら、琥珀を暴風から守るように立った。


琥珀は大きく膨らんだ球体の結界を作りだし、球体へ手をかざす。すると球体が覆いかぶさってきて芽衣たちはすっぽり入った。

そして自分もその中へ入った。



「あの守ってもらった本たちは、わしが作った『修理用』の治癒の本じゃ」

「修理?」


天藍星葉が話しはじめた。



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