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図書室の海  作者: 主音ここあ
17/34

第17話 本の海と銀の焔

バラバラバラ


バラ バラ


本が、落ちてくる。



『ぼくたちは じゆうに』



舞い落ちる。


喜びと希望に充ち、

彼らはもう一度、あの紺碧の本の生る海へ戻る意志を灯し、

自身を青白く輝かせていた。



そしてすべてが床に散らばった。




それはまるで海のよう。






********





(ここは・・・?)


芽衣は辺りを見回した。


(え!?家!?)


机にベッド、本棚、・・・見慣れた芽衣の部屋だった。


(私、戻ってきちゃったの!?)


どうして・・・


私、まだやらなければいけないことがあるのに・・・!


どうしよう!


戻ってきてしまったら、もう二度と戻れないかもしれないのに!


黒曜のもとに!!





「いやーーーーーーー!!」


「芽衣!!」




「あ・・・」


芽衣は自分の叫び声で目を覚ました。

(図書室・・・?)

どうやら自分は図書室の床に横になっているようだ。

目は涙で溢れていた。


「芽衣」


目の前には黒曜がいた。

涙でぼやけているが、

心配そうにこちらを見ている。

(黒曜・・・)

芽衣は泣きじゃくりながら言う。

「黒曜・・・わたし、私、まだ帰れないの・・・ふっ・・・うっ・・ひっく・・・今、自分の家にいて、怖かったわ。もう戻れなくなるんじゃないかって」

芽衣はまだ混乱していた。

「夢を見ていたんだよ、芽衣。大丈夫だ」

優しい口調で、悲しそうな表情で言った。そして涙をぬぐってくれた。

(夢・・・?)

(じゃあ戻っていないのね?私)

芽衣はまだ夢と現実の境にいたが、想いが、涙が溢れてくる。

「でも私足手まといだし、でもあなたを治さなきゃいけないのぉ・・・ふっ・・・うっ・・・」

「芽衣、芽衣、もう何も言うな」

黒曜は悲痛な表情で芽衣をぎゅっと抱きしめた。

「怖かったろう、芽衣。もう大丈夫だから」

その言葉に、今まで不安だった気持ちが堰を切ったように溢れ出し、声をあげて泣いた。





少し落ち着いた芽衣は、壁に寄り掛かかり、

黒曜と話をした。


黒曜は座っているのも限界で、床に横になった。

黒曜と琥珀の体はボロボロなのに、かろうじて動ける体で、二人で意識を失った芽衣をカウンターの所まで移動してくれたという。

そして黒曜は体が痛くても芽衣を気遣い、抱きしめてくれたのだと思うと居たたまれなくなる。

「お前が落ちてきた時、俺は心臓が止まりそうだったよ」

黒曜がそう言って苦笑する。

「ごめんなさい」

「いや、お前が悪いんじゃない。そうじゃなくて、俺は・・・いや、なんでもない」

「黒曜?」

黒曜は何故か話を変えた。

「お前が落ちてきた時、急にあの本たちがどこからともなく現れたんだ。そしてお前を守ったんだ。俺はこのとおり動けなかったから、ほんとに助かったよ」

荒く息を吐きながら、黒曜は図書室の本棚の方を見遣った。

芽衣もそちらを見る。

そして芽衣を助けた後、その本たちは、図書室の本棚の近くの床に落ちて行ったという。

そこには芽衣とともに落ちた番人の体内にいた本が散乱している。

その本たちも助けようとそこへ行ったのだろうか。


「信じられないわ。本が、意思を持って助けてくれた・・・」

まだ半信半疑の芽衣だが、黒曜の言った事が本当なら、お礼を言いたかった。

しかし様々な本が、ごちゃ混ぜに散乱していた。

図書室の本棚から落ちた本、番人の体内にあった本、そして芽衣を助けてくれた本。

図書室の半分の面積を埋め尽くしたその本たちは、ところどころに青白い光が放たれていて幻想的だ。


「じゃあ、『最果ての書』はあの中にあるのか」

芽衣は首を振った。

「わからないわ。違うかもしれないし。でもあの本が気になるから探さなくちゃ」

「わるい。俺はちょっと無理そうだ」

黒曜はつらそうに顔を腕で覆った。

本当につらそうで、胸が痛い。

「うん。早く、見つけてくるね、ここで休んでて」

行こうとして立ち止まった。

「あっ、そうだ。私包帯とか持ってきたの。応急手当やってみる」

芽衣は思い出し、持ってきたカバンから包帯を取り出た。その時何かが落ちた気がした。

「大丈夫だ、先に探してこい」

苦笑して黒曜は言った。

「う、うん・・・」

「気を付けろよ」

芽衣は頷いた。



芽衣は前を向く。

ゴウゴウと嵐が吹き荒れている。

芽衣は山積みの本に向かって歩き出したその時。


「熱っ」


(何!?)


熱いものが芽衣の肩に触れた。


「芽衣!!」

黒曜が叫んだ。

芽衣は反射的に後ずさった。

「大丈夫か、芽衣!」

芽衣は頷くことだけで精いっぱいだった。

そして上を見上げた。


空から何かが降ってきた。




黒曜が叫んだ。琥珀も気づき、顔を上げる。

「まさか!『銀の焔』を出すのか!?」

「そんな・・・」

二人とも顔面蒼白になっていた。


『銀の焔』


それは本の番人が本を処分するときに用いる処分方法。

それはすべての本を焼き尽くす――――――――。

「本が消えちゃう!!」

芽衣は悲鳴にも似た叫びをあげた。

「ありえないだろ!琥珀!」

黒曜は怒りをにじませた声を上げる。

「笑止!狂っているとしか言いようが無い!」

めずらしく琥珀も怒っていた。

黒曜は険しい表情をしたまま吐き捨てる。

「魔力のある本が混ざっているから、すべてを焼き尽くそうとしているのか、なんて奴だ」


芽衣の肩に触れた熱いものの正体は『銀の焔』だった。

芽衣はふと思った。

前回番人と対峙した時、そのあと図書室へ来たら元通りに戻っていた。

では、今回もそうなのではないか?

図書室の本だけは、元通りにならないのか?

芽衣は一度黒曜の元へ戻り、訊いてみた。

「銀の焔だけは元通りに戻らないものなんだ。残念ながら・・・」

と苦渋の表情で答えた。

「そんな・・・」

(どうやって銀の焔から守ればいいの?)

考えをめぐらすが、何も思いつかない。

(どうすればいいの)



その時。


「我が本たちよ、来ていたのか」



図書室の入口の方から、声が聞こえた。

それは、三人以外の者の声だった。





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