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図書室の海  作者: 主音ここあ
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第15話 戦場と結界 2

「番人の体内!?駄目よ、危険だわ!」

と、否定してみたはいいものの、

「・・・でも、番人の体内ってどういうこと?あの雲の中に入れるってこと?雲の中なんて歩けっこないわ」

芽衣には疑問符だらけだ。

琥珀が口を開いた。

「普通の雲とは違うんだ。外側はそれこそ雲のように突き抜けられるが、もっと奥へ入れば僕の『本の生る海』ような物質でできているから普通に歩けるんだ」

「歩けるって、入ったことがあるの!?」

黒曜が答える。

「ああ。普段はこんなに荒れていないしな。俺も琥珀も何度も入ってる」

うんうんと琥珀がうなずいている。

強風で時折聞き取りにくくなりやはり大声で話し合う。

ただ、それ以上は強さは増していないようだ。

まだまだ芽衣には知りたい事がある。

「台風みたいっていっても、あ、雨は降らないのよね?他には何か攻撃方法があるの?」

黒曜が腕組みをして言った。

「強風と『銀の焔』だけだと思うな。ただ、『銀の焔』は本を処分する時のみに使われるから、今攻撃してくるとすれば、風だけだろう。あとは?何か訊きたい事は?」

「な、ないわ」

少しほっとする。

黒曜がふっーと息を吐き、上を見上げる。

番人の起こしている強風は強さを保ったままだ。

「じゃあそろそろもう一度行くか」

「今度こそ私も行くわ」

芽衣は黒曜を見ながら言う。

黒曜は無造作な黒髪をガシガシと掻いた。

「はいはい、じゃあ行くぞ。琥珀頼むな」

「まかせときなさい、お二人さん行ってらっしゃい」

黒曜はそのまま結界へと進んでいった。

芽衣はカバンを床へ置き、黒曜の後を追った。



(うわあ、ここに入るの?)

「ん?どうした?行くんだろ?」

黒曜は芽衣の後ろでニヤニヤと笑っている。

なかなか勇気が無くて入れないでいるのを気付かれたようだ。

「も、勿論行くわよ!でもこれ、どうやって入るの?」

見た目は海の中のよう。

そんなところに入るなんて。

琥珀も黒曜も入っているのを目の当たりにしているのに、急にこの中で呼吸できるのかなど余計な事を考えて不安になってきた。

黒曜は腕組みをして苦笑する。

「じゃあ、まず右足から入れてみようか」

「ば、馬鹿にしてるわね!」

顔を赤くして黒曜を睨む。

「ほらほら、早くしろよ。ゆっくりしてる暇は無いぞ」

「わかってるってば、もう!―――――っえい!」

意を決して足を踏み入れてみた。

「あれ?」

なんてことはない、足を入れたところで何も感じなかった。

特に水の中でもないジェルのようでもない。

「大丈夫だろ?」

黒曜が後ろから声をかける。

「う、うん」

芽衣はそのまま結界の中に全身を入れた。

中に入ると、少しひんやりしているが普通に息もできるし動けた。

黒曜も中に納まり、いよいよその碧い球体は図書室の床から飛び立った。



そしてゆっくりと上へと上がって行く――――――。

「うわっ浮いた!」

「あまり動くなよ、落ちるかもよ」

ニヤっとして言った。

「もうっ変な事言わないでよ!」

芽衣がプンプン怒っていると、あっという間についた。

「さあ、番人の体内まで手が届く距離まで来た」

(うわあ・・・高い)

半透明な為、外界が見わたせる。

図書室の天井まで、とはいえ、結界に乗って宙に浮いていると非常に怖い。

高い所はあまり得意ではない芽衣は、足がすくむ。

おそるおそる下を見てみると、琥珀がこちらへ向かって手をかざしていた。

さきほど芽衣の前でやっていたように、結界が弱まらないように守っているのだ。

(琥珀さん頑張って!頼むわよ!)

言外に伝わるように琥珀を強く見つめた。

(ああ、でも結界もここまでしか行けないのよね、番人の中には入れない)

芽衣は隣にいる黒曜を見つめた。

(傷は、大丈夫かしら。痛くないかしら)

「―――――――黒曜」

ん?と黒曜が芽衣を見る。

大切な、大切なひと。

芽衣は決心して告げる。

「私も中に入るわ」

「駄目だ!お前はここで待ってろ!」

(言うと思った)

ほんとに黒曜は心配性なのね。

「ここまで来たら行くの。もう結界に入った時から決めてたの、私も行くって」

黒曜を見つめる。

黒曜はため息をひとつついた。

「わかったよ。ほんとにお前のその目にはいつも負けるよ。なんでだろうな・・・」

そう言って黒曜は芽衣の頬に手を触れた。

(黒曜・・・?)

そして芽衣はギュッと抱きしめられた。

(わっ!)

抱きしめたまま黒曜は言う。

「いいか、何かあったらすぐ戻るからな」

「う、うん・・・」

耳の近くで囁かれるように言われて、くすぐったくて、でもとても甘くしびれる。

(不謹慎だわ、芽衣。黒曜は心配性だからこうして抱きしめてくれたのね)

気持ちを切り替えるように黒曜の腕の中から離れた。


「私は大丈夫よ。じゃあ行こう!」

「ちょっと待て。お前ひとりじゃ体内には上がれないと思う」

芽衣は番人の雲を見上げる。

「え?じゃあどうするの?」

「ここから雲の向こうの体内までは距離があるんだ。だから俺がお前を抱き上げて体内まで放り投げるしかない」

「ほ、放り投げる?」

何その乱暴な方法は。芽衣が唖然としていると黒曜がムッとしながら言った。

「仕方ないだろ。俺は高次跳躍で移動できるが、お前を抱えたままだとあそこまで行くのは無理なんだ。だからお前を先に上げてその後俺も行く」

「わかったわよ。ちゃ、ちゃんと落ちないように投げてよね?」

「落とすかよ」

黒曜が言うと、自然と二人から笑みが浮かんだ。

「ふふ。なんだか変なかんじ。放り投げられるって」

「うるさいなー。他に無いんだから仕方ないだろ。ふっ、放り投げて肩痛めないといいな」

おおげさに黒曜が肩を押さえた。

「失礼ね!そ、そんなに体重重くないんだから!・・・たぶん」

黒曜は笑った。

大好きな人の笑顔。

このまま笑顔でいられるように、私がしっかりしなきゃ。


黒曜は芽衣を抱え、番人を見上げた。

「よし。じゃあ、やるからな」

「う、うん。」

言うな否や、力いっぱい芽衣を上へ放り投げた!

「~~~~~~うわわわわ、きゃーーーー!」

芽衣の体は雲の中を勢いよく突っ切った。

そしてあっという間に別な空間にたどり着いた。



そこは、真っ白な世界だった。

「ここが、番人の体内・・・?」

少し移動すると、雲の隙間から下界が見えた。

結界に入ってこちらを見ている黒曜や、手をかざしている琥珀が見える。

すると、次の瞬間。

「黒曜!?」

「・・・ぁ・・・っく!」

黒曜がうめき声をあげた。

黒曜の腕から血が流れ出ている。

腕で顔や胸を防御しているのだ。

結界から黒曜の上半身が出ている状態になってしまっている。

今さっきまで結界に全身を守られていたのに。

暴風に晒され、図書室の備品や本棚にあった本さえも、色んなものが飛んでくる。自ら結界から出たのか?いや、そうではない。結界が小さくなっているのだ――――。

「琥珀さん!」

地上を見ると、強さを増した強風とともに、図書室の椅子や備品が琥珀めがけてぶつかっていた。

あきらかに意志のある攻撃。

本の番人の仕業だ。

(体内に入ったから攻撃が強まったの?)

琥珀は必至で攻撃を凌いでいるが、傷だらけになっていた。

「琥珀の結界が弱まった・・・!芽衣、降りられるか!」

黒曜が声を振り絞り叫んだ。

芽衣は泣きそうになりながらうなずく。

「やってみる!」

しかし。

「黒曜!?いやーーーー!」

「くそっ・・・芽衣っ」

黒曜の乗った結界が―――――――消えた。

そのまま黒曜は落ちていく――――――。

「やめてーーー!!」

芽衣は泣き叫んだ。


それは一瞬の出来事だった。

ドッと落ちた音が聞こえた。

「・・・っ!」

「黒曜!」

落ちた先は図書室の机だった。

図書室の固い床に打ち付けるよりは幾分ましだ。

しかし激しく落ちたため黒曜は動かない。

「黒曜!黒曜!」

芽衣は上から何度も黒曜を呼んだ。

涙で視界が見えなくなり、目をごしごし擦る。

するとピクリと黒曜の指が動いた。

そして黒曜は目を開けた。

「よかった。生きてる・・・!」

芽衣は心の底から安堵した。

しかし、予断は許されない。

きっと落ちた衝撃で黒曜の体はボロボロになっているに違いない。

(動けなかったらどうしよう)

泣きやみたくても涙が溢れてくる。

(あ・・・)

黒曜と目が合った。

だいじょうぶだ、と声に出さずに口を開いた。

その顔は笑っていた。

――――――きっと、私を心配させまいと。

「黒曜・・・」

涙がますます溢れてくる。

私、見つけ出すわ、必ず。

『最果ての書』を。


琥珀も床に倒れ込み、動けはするが、立ち上がれる状態ではないようだ。


きっと、本が見つかれば二人とも治る。

今はその希望だけを持っていよう。


二人が心配でならないが、早く探さなくては。

「よし、行こう」

私しかいないんだから。

まだ涙は止まらないが、立ち上がり踵を返し、真っ白い世界へ向かった。

「いくな・・・めい・・・おれが・・・さがすから・・・」

肩で息をしながら弱々しく静止する黒曜。

その彼の声はもう芽衣の耳に届かない。




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