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図書室の海  作者: 主音ここあ
13/34

第13話 可能性:0.001パーセント

第12話後半の内容を変更しています。

移動図書館は昨日と同様、学校の門の前に到着した。

「じゃあ行ってくる」

「気を付けてね」

移動図書館の入口で短い言葉を交わした。

一緒に行けない芽衣にとっては、心配で心配で仕方ないが、長い言葉を伝えたとして今は何も変わらない。

「ああ、心配するな」

「早く戻ってきますよ、お嬢さん」

そして黒曜と琥珀は移動図書館を後にした。

・・・心配だよお。大丈夫かなあ。



芽衣はカウンターの椅子に座ってただ黙って待っていた。

後ろには芽衣の心をときめかせる本がたくさんあるが、今は読む気になれない。

「うーん、どのくらい経ったかなあ」

外に出て時間を確認することにした。

入口から顔を出す。

まだ夕暮れ時だった。

「遅いなあ。早く二人と合流したいけど、まだまだ学校には人がいるなあ」

学校の入口から人がちらほら出てきているのが見える。

だがまだ部活動時間である為、生徒はまだたくさん残っているだろう。




****


ようやく二人が戻ってきた。

「大丈夫?」

「ああ、俺はなんとかな」

ほっとしたのも束の間、黒曜は首をひねって琥珀を見た。

「琥珀を少し休ませよう」

「琥珀さん・・・」

黒曜は琥珀を背負ってきていた。琥珀に反応は無い。

「眠ってるだけだ。奥で休ませよう」

「う、うん」

黒曜は奥の休憩できるスペースへ琥珀を降ろし、自身も床へ座った。

琥珀の顔は憔悴しているようで、白い綺麗な顔が血の気が引いて青ざめている。

「まだ『最果ての書』は見つからない。本の海の結界が弱まったから一度戻ってきた。琥珀が疲れてきてるんだ」

「あなたは大丈夫なの?傷は」

「どうにかな」

どうか、『最果ての書』が見つかるまで傷口が開かないでほしい。

たとえ、その本が存在する可能性が限りなく無いに等しくても――――――。


黒曜は腕組みをする。

「嵐の威力がかなり増してるな。俺らが本を探しているのを断固拒否しているようだ」

芽衣も隣に座り黒曜の話をきいた。

「本の番人は本を奪おうとしてるから妨害するのよね?」

「ああそうだ。もしも『最果ての書』があるのなら、それほど魔力のある本は奪われたくないという事だろう」

「魔力のある本ってそんなに嫌なの?番人にとって」

黒曜は難しい顔をする。

「うーん、諸説あるが、魔力を持った本は、自らの意思で動く事ができるらしい。だから自分の自由にできないような本が出回るのを排除しようとする」

「排除?」

芽衣がつぶやくと、黒曜もはっと気づいて顔を上げる。

「あ・・・。もしかしたらもう番人によって処分されたのか?」

「どうやって処分するの?」

「『銀の(ほのお)』だ」

「え?」

「銀の焔と呼ばれる炎を番人が発生させ、焼かれて消える」

「そんな・・・・・・」

芽衣はショックを受ける。大事な本たちがそんな無残な事になるなんて。

「番人はひどいわ」

うつむきつぶやく。その目には涙が浮かんでいる。

「そうだよな」

黒曜は悲しそうに芽衣を見つめ、背中をぽんぽんとたたいた。




「だが、俺らが行った時のあの嵐の荒れ具合はひどい。やっぱり本はあるんだろうか。それに、一冊も本が見当たらないんだ」

「え?」

黒曜は分からない、というような顔をする。

「あの番人の台風のような雲の中をかき分ければ、本が見えるはずなんだ。だがそれが一つも無い。番人の奥深くか、別な場所に置き場所があるのか?絶版になった本だけでもたくさんあるというのに。それとも全て処分してしまったのか?」

黒曜は頭をかかえた。

一体本はどこにあるのだろう。

「それとも、『最果ての書』と名が付いているから、『最果て』なる場所があるってことなのか?」

「黒曜」

黒曜は混乱しているようだ。次々に考えを浮かばせては打消しまた次の考えを出す。

「・・・ごめん、なんだか手詰まりだな」

黒曜はふーっと息を吐く。

黒曜も疲れの色を隠せない。

出血だって、もしかしたらまだあるのかもしれない。

足だってひきずっていたんだし。

琥珀の応急手当がどんなものだったのかはわからないが、早く『最果ての書』で治癒しなければ。

でも、本があるのかどうかもわからない。

(こんなにもどかしい事はないわ)



黒曜はふと思い出して言った。

「あ、そうだ、芽衣。貸し出した本があるだろう?それをバーコードで読み取り返却の手続きをしてしまうと、お前は元の世界に戻る事になるから気を付けて」

「うん、じゃあカバンの中にまだ入れておく」

カバンをカウンター横に置いた。

中に包帯など一式が入っているのは秘密だ。




黒曜が芽衣のおでことおでこをくっつける。

外の世界の時間を知る手段だ。

この行為はまだまだ慣れない。

黒曜は何も言わない。

(今何時なのかどうして言わないの?)

もどかしいので芽衣が口を開く。

「ねえ、夜になってるんでしょ?私も行くわ」

やはり黒曜は時間を芽衣に隠していたのか、しょうがないなとあきらめの表情をした。

「本当に行くのか?大丈夫なのか?この前みたいに短時間で終わらないし、何が起こるかわからない。危険なんだぞ?」

次々にまくしたてるように言う黒曜。

(私以上に心配してるわ)

「時間だっておまえ、また家族が心配する・・・」

「大丈夫!」

その声をさえぎって芽衣は声を上げる。

「大丈夫。そのつもりでまたここへ来たの。だって私は・・・」

私は、あなたを守りたいから。

まっすぐに目の前の人物を見つめた。

黒曜は芽衣の頭を撫でた。

「怖くなったら言えよ」

「・・・うん」

とても、あたたかい手。


(あ!違うわ!私が黒曜を守るのよ!)

そう思い立った芽衣は、

黒曜にしてもらったように頭を撫でようと思ったが、何か違うと感じ、

黒曜が負傷したお腹あたりを、勇気を振り絞り服の上からなでなでとさすった。

勿論、傷のある辺りはのぞいて。

「お、おいっ、何してる!?」

黒曜は焦って立ち上がろうとする。

「動かないで!」

芽衣は下を向きながら大きな声を出した。その顔は赤くなっている。

「おまじない。早く良くなりますようにって」

だがその目はいたって真剣だ。

「・・・ありがとう」

そして黒曜はただ黙って芽衣を優しく見つめた。





それからしばらく後、琥珀が目を覚ました。

琥珀も本がどこにあるのかはお手上げだが、手がかりを探す為もう一度行く事に勢いづいているようで、ほっとした。体調も戻ったようだ。

「よし、そろそろ行くか。お前も行くんだろ、芽衣」

「うん!行こう!」

芽衣は使うかもしれないからと、持ってきたカバンも持ち出発した。



夜になり、誰もいなくなった学校へ三人は入っていった。

琥珀も高次跳躍ができるようで、芽衣を黒曜が抱きかかえて、前回のように一瞬で図書室の前までたどり着いた。

芽衣はごくり、と喉を鳴らす。

緊張で足ががくがくしてきた。

(やばい。足手まといにならないようにしなきゃ)

それどころか、私が、黒曜を守らないと。

そう何度も念じた。


黒曜が扉を開けた。

風が強く吹いていた。

芽衣の制服のスカートがめくれる。

(しまった!ジャージはいてくればよかった!私のバカバカ!)

今頃になって気づいた芽衣がガックリしていると、芽衣の後ろにいた琥珀が怪訝そうな表情で訊いた。

「どうしたお嬢さん、大丈夫かい?」

「・・・あ、あのぉ、スカートで来ちゃったから、こういう時には着てくるんじゃなかったなと思って・・・」

琥珀はああ、と笑って言った。

「お嬢さんらしくてそれはそれでいい。戦闘服みたいだ」

「ありがとう!」

芽衣は戦闘服をなびかせて、戦場へと入って行った。





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