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花の魂  作者: 鈴盛りプリン
5/5

05,私はあなたを見守る

 ざわめく講堂。講堂の前で立ちすくむ四人の教師。私はマイクの音量を上げる。そして、声を張って絶対に聞きのぎせないように意識しながら、告げ始めた。

「初めまして。私は、七竈心の幼馴染兼親友の宮下心結と申します。本当は今日はここには来てはいけなかったのですが、どうしても言いたいことがあって、来ちゃいました。では、これを見てください」

 私はさっき講堂のスクリーンに繋がるように設定したカメラに、ある手紙を見せた。

 その様子を縁は真面目な顔つきで見守っていてくれている。ドンドンと子の部屋のドアが叩かれるおとが聞こえてくる。たぶんあの前にたっている四人も他にも誘導のために今日来た教員が私たちを止めようとしているんだ。

 けれど、扉は中から鍵をしたうえで、防音のために使うシャッターを閉めている。簡単には開けられない。

 私は深呼吸を小さくしてから、話を続けた。

「これは、さっき流した動画に出てきた手紙と同じものです。ほら、一緒でしょう?」

 私は手紙を設置したカメラに開いた手紙を見せつける。

「でね、この封筒さっき見てもらった動画にもわかるとおり、郵便の人に運んでもらったものではないので、消印付いていても郵便の人に当てにされないのですよ。消印付いているのにですよ? なぜだと思います? ほら、ブラックライト。これで便箋の宛名の部分を照らします。

 なにも浮かび上がりませんよね。これ、おかしいんですよ。普通ならば、バーコードみたいなものが浮かび上がるんです。えっと、ほら、これはちゃんと郵便局を経由して私の下に届いた広告郵便です。これにライトを当てると、バーコードみたいなものが浮かび上がりましたよね。普通はこうなるはずなんです。だけれど、この封筒はそうではない。

 ふふ、ここでもう警察にそのやった人をつきだしてもいいのですがね、いま、私は虫の居所が悪いのですよ。これ、誰が何のためにやったと思います? これね、歪んだ愛情をある人物に当てていた人物がね、よくその愛していた人の隣によくいた私に理不尽な嫉妬を抱いたために行われたものなんです。

 あ、ちなみに言うとこの妙に嫌でめんどくさい嫌がらせは約5ヶ月ほど続きました。全く私には精神手にダメージは来なかったのですが。だって、来るものが茶封筒だけならば、それをそのまま開けずにゴミ箱にダンクシュートを決めれば一発で無害確定ですからね。だから私はよく仲良くしていた子にさえ、この事を言いませんでした。

 けれど、それが痣となってしまった。

 彼女はどこかで感じ取ってしまったのです。そして、それは自分のせいだと思ってしまった。知らずに自分が壊れてしまうまで、自分を責め続けるほどに。……新しい人格が、できるほどに。これ、その新しい人格の子の日記です」

 

 私は、カメラにあのノートを映した。1ページ目、2ページ目と無言でめくっていく。パシャパシャとシャッターをきる音が聞こえてきた。

 そして、最後のページ。一気にシャッター音が大きくなる。たぶん一番ネタに出来るからだろう。全く、いいところばっかり使いやがって。

 最後のページ。地獄のページ。彼女が一線を越えてしまったあのページ。心のほうを見ると、目を丸くしていた。私は、こんなものは知らない、そう言っているようだった。だけれど、それを言えないほどにショックを受けてしまっている。私はあることをするために、縁とマイクを交換する。

「どうでしょうか、このノートを見て何を思ったでしょうか。あ、俺は心の幼馴染兼親友の古色こしき縁と申します。

 少女の心の葛藤、自分を責め、他人を責め、最終的に世界を憎んでしまった、女の子。まるで漫画のヒロインみたいです。それが、七竈心という人物です。そして、わかっていますか? この子をここまでさせてしまった人物を。……宮下心結だなんて言わせませんよ。

 先生、あなたの歪んだ愛は人を殺しました。俺は、あなたのことが理解でしません。理解したいとこ思いません。だから、今からあなたの顔を見て、話させてください。おい、行くぞ」

 縁はそこまで言った後に、マイクから離れた。私は頷き、すべての機器からセッティングした物を取り出し終えた私はリュックサックをしょって、彼と共に放送室を出た。


 放送室を出るとそこからはフラッシュを眩しいほどにたかれた。教員たちは記者などに押されてもうすでに蚊帳の外に存在している。どうやら諦めというものが回ってきたらしい。まあ、ここの教員はやる気のないやつが多いからこの対応は当たり前だろう。

 にしてもフラッシュが面倒だ。

「煩い……」

「まあ、ここは我慢だよ」

 私が嫌そうな顔をすると、彼ははにかんできた。そして、講堂へ大きな一歩を踏んだ。



「君たち、なんできたんだ。それに、今のはなんだ」

 校長が私たちを怒鳴りつけてくる。それに縁が反論する。

「真実です。彼女はなんで自殺したのかを突き止めたら、こういう事実が出てきました」

「はあ、何言っているんだ」

 しかし、お偉いさんは逆上している。たぶん何を言っても同じだろう。私は溜息を吐く。

「先生方、さっきのお話聞いていましたよー。とても綺麗事を並べていましたね。彼女のことは嘘偽りなく話してくれましたが、彼女の自殺後の対処の仕方、あれは無いでしょう。

 早急に対処した? 嘘おっしゃい、あなたたちが下に降りてきたのは彼女が飛び降りてから約十分も立った後でした。これ、遅すぎやしませんか? なぜ、まず来ない。それほどのものなんですか、私たち生徒の命は、心の命は。

 ねえ、先生、私はあのとき、心が飛び降りているとき、落ち行くとき、目が合ったんです。この学校は最上階が五階まである。そこから飛び降りて、彼女は即死だった。

 あの真っ赤な鮮血出てきた花畑は、いま、目を瞑ったらすぐに浮かび上がってきます。綺麗なほどに鮮明に浮かび上がります。そんな姿を目のあたりにしてもなお、あなた方は下りてくることは無かった。ひどく落胆しました。そして、そんなことが起きても酷く落ち込まない先生方に、ひどく失望しました。ねえ、久瑠隈先生、あなたはなぜ彼女の死を見て、嬉しそうにしていたのですか」

 あの時、忘れもしない。彼が下りてきたとき、先生の口角は上がっていた。まるで彼女が自分の下に来てくれたかのように。そんな感じの不吉な喜びが、私の目では感じ取れた。だから、ついていきたかった。彼と彼女を一緒にしたくなかった。結果的には無理だったけれど、でも、それでも嫌だった。


「彼女がなぜ、自殺したのか教えて差し上げましょうか、先生。彼女が自殺したのは、あなたに話しかけられたからです。彼女自身ではありません。彼女の裏人格のほうです。たまたま、なぜか昼間に出てきてしまった心の裏人格は、あなたにあって、話しかけられて、ひどく混乱し、身を投げたそうです。それほどにあなたが恐ろしい存在で、嫌な存在だったそうですよ」

 私はいつも通り飄々と立っている先生を見つめる。彼はおかしそうに顔面を歪めていた。本当に彼は頭が悪い。自分が犯人のことなんて隠そうともしない。

 なぜだかわからいけれど、でもそこにはとてもじゃない歪んだ何かが存在しているのは明らかだった。


「おい、宮下。お前はあの手紙いつから俺がやっているとわかっていたんだ」

 彼はいつも通りのけだるそうな口調で上から目線に行ってきた。隠す気ゼロかよ、と縁は呟く。ここまでくると少しすがすがしい気がするが、気にせず私は答える。

「手紙が来るようになって二日であなたを疑い始めて、一週間目であなたがやったのだと確信しました。さっき流した動画はその一週間目で撮ったものです。学校に止めてあったバイクは二週間目ぐらいですが。先生は基本自動車で来ていらっしゃるので、毎日毎日確認するのが手間でした」

「え、は」

 私が答えたことが予想外過ぎたのか、彼は戸惑っている。まあ、そうだろう。

「先生の字は独特すぎます。そして、指紋は消した方がよいかと。あと、バイク。ヘルメットをしていても骨格で解ります。乗用車のほうがまだ安全ではなかったでしょうか。それならば車内でも顔を隠し、いろいろと着込めば誰だかわかりませんしね」

 私は言葉で先生を刺していく。私はどうなったってかまわない。とにかく彼に無機質に公開処刑を施して行く。


「あ、先生、音声データもございますが、どうなさいます? たまたま私、録音したものを持ってましてー、それを今から流してもかまないのですが。先生が懲戒免職になろうが、私は嬉しいだけです。私もここ退学バッチ来い! っていう覚悟できてますからね。一緒に地獄に落ちます?」

「おまえ、用意周到過ぎるだろ」

「いやだな、縁ー。これぐらいはあたりまえだって。ちゃんと証拠はたくさん持ってないと訴えが取り消されたら嫌ではありませぬかー」

「まあ、そうなんだけれど」


 彼は頭を掻く。そして、先生に告げる。

「先生、あなたは、あなたのその当てどころのない憎しみを彼女に当て続てていたばかりに、一人の少女の命を奪いました。これはまぎれもない事実です。というか、誰かここに霊感がある奴とかいないのか?

 そこに心居るの見えんだろ。とても心配そうに俺たちを見ている心が」

「うわ、いきなり心に話を……」

 いきなりの話の転換に私は若干引く。この展開はなんかおかしい気がするし、見覚えがある気がする。

「だってその方が手っ取り早いし」

『おお、さすが効率を求める男、縁くん。けれど見れる人なんているの? あ、カメラに映っているとかあるかな?』

 心も話に入ってきた。またしてもフリーダムになるのか。

「お、もしかしたら映るんじゃね。心どこでもいいからカメラの前に立ってみろ」

『はーい』

「おう、フリーダム……」

 私はその光景に気持ち的には肩を落としながらも、顔は笑っていた。


 そして、そのたまたま心が目の前に立ったカメラを操作していた人が叫ぶ。

「うわっ、少女がいきなりきたっ! てか透けてっ……!?」

 どうやら映ったらしい。私と縁は顔を見合わせる。そして、もうこれはやるしかないということで、どちらも吹っ切れた。

「おー、心霊現象だー」

「いやだー、面白ーい。心もっとやれー映ってやれー。もしかしたら音声も入るかもだから何かしゃべったらー?」

『え、本当?! じゃあね、先生。私は貴方のことが生理的に嫌いです』

「「oh......」」

 私たちは予想の斜め上を行くコメントに呆気にとられた。そして、縁がニヤニヤしながら先生に告げる。

「先生、心生理的にあんたのことが嫌いだってさ、おめでとう。どっちにしろ叶わぬ恋だったのな」


『それと、私は心結のことが好きでした。ずっとずっと、憧れていたし、目標だった』

「え、ちょっと、それは百合的ない――」

『うん、そう。だからずっと私が守っていきたかった。私のせいで心結が過度な嫌がらせを受けていると知った時にはもう、私が嫌になった』

 まさかのだった。全く気が付かなかった。私は、彼女の胸の内をあまり知らないかったのか。

「言ってくれれば、良かったのに……、なんて言えはしないけれど貯めこまなくてよかったのに」

「お二人さんともひどいわー。いつの間にかカップルになっていただなんて」

「おまっ!? 今の話の流れでどうしてそこにたどり着いた!?」

 私は縁の突然の発言に驚きを隠すことができず、胸倉をつかむぐらいに怒鳴った。

「……ごめんなさい。冗談が過ぎました」

 彼はすぐに謝ってきた。解ればいいのだ。解れば。私は掴んだ服を話し、先生に向き直る。そして、問うた。


「先生。貴方は踏み込んではいけない一線をあなたの行いのせいで踏ませてしまいました。これに関してどう思っておられるのですか?」

 それに先生は答える。

「俺のものにできるからよかった」

 その答えに周りが騒めく。周りの先生方も彼から身を離していく。どうやら無能教員たちもそういうことは解るらしい。私はこの人がやりかねないことで、一番最初に浮かんだ答えを飾らずに告げる。

「骨を盗む気ですか」

「あれ、なんでわかったんだ」

 彼は素っ頓狂な声を上げてきた。どうやら自分がどう私に思われているのか完全に把握していないらしい。それに落胆して、目を少し伏せながら溜息を吐く。

「やりかねないと思ったからです。というか、本当にやる気ですか。マジで危ない人ですね。そろそろ警察とかくるんじゃないですか? 責任とか何も感じていないようですしね」

 この人はもう、手遅れだ。多分、さぞかし甘やかされて育ったのだろう。だから、やってはいけないことも、こんななん簡単なことにも気付けられないのだろう。そう思うと、彼が本当に小さくみえた。私がもう一言言おうとすると、別の声が彼に降り注がれた。


「本当にお前は教師向いてないな」

 縁だった。どうやら我慢できなかったらしい。すべての感情をその一言に込めてきた。とても怒りで震えているせいか、いつも普通にしているだけでも怖い目つきが更に怖いものへと進化している。


 そして、その時、ついに警察がやってきた。どうやら思っていたよりも早いご到着だったようだ。

 あ、そういえば、心たちとフリーダムタイムをしていた時に確かサイレンが鳴っていたのが聞こえた気がする。それなのか。

 警察は記者達の山を掻き分け、私たちの間を抜け、身なりが整っていない男性の前に立ちはだかる。

 そして、その場で久瑠隈先生には手錠を付けられた。

 先生は何が起こっているのかわからないといったふうに自分の腕を見つめている。たぶんこれは放送事故と言われる類に入るだろう。というか、よく私たち止められなかったな。心の底から思う。いくら面倒くさがりな人たちだからといって、ここまでやって止めなかっとなると軽く尊敬の畏敬を込めたくなった。



 こうしてわけもわからないうちに、訳の分からない終わりかたで、私たちの戦いは幕を下ろした。



 すべてが終わって、彼女は私たちに告げてきた。体が軽くなったと。たぶん、あの人の逮捕は、彼女にとっての何よりも変えがたい安心につながる道だったのだろう。そして、ありがとうと言ってきた。私たちは胸を張ってどういたしましてと言えなかった。言えるわけもなかった。けれど、嬉しそうにしている彼女は見ていてこっちも嬉しくなっていくなにかが込み上げて来るのだった。


 あの記者会見の騒動で彼女の死は公となった。そして、私たちの行いも公になっただろう。たぶんこれからの生活が大変になると思う。

「あー、にしてもなんだか腑に落ちない感じで終わったなー」

 縁が背伸びをしながら言ってくる。あの後もいろいろあったのでもう夕日が見えてきている。もう何時間寝ていないのだろう。

「そうだねー。あー、もっと違う道に進めなかったのかなー。やっぱり現実は思うようにいかないなー」

 私もそれにぶっきらぼうに答える。本当に、他に道はなかったのか。やはりぶっつけ本番でやったのがアザとなってしまったのか。


「あ、そうだ。言いたいことあったわ」

 彼の行きなりの話題転換に私は耳を傾ける。

「え、なに」

「俺、お前のこと女として好きだわ」

「…………は」

 突然のことに私は目を点にしてからだんだんと見開いていく。え、何を言われた、私は、何を言われた!? 心に助けを求める目線を送ると、彼女は笑ってきた。

『お似合いだと思うよ。心結、ちゃんと私はあなたを見守るから、自分がしたいことをするんだよ』

「え、は、え、ちょっと!? うー……、ん、んんん? …………。え、縁!」

 少し走り、びしっと縁のほうに指を突き指す。それに縁は驚き、身を仰け反ってくる。

「何!?」

 そして、大声で、たぶん頬を赤く染めながら縁の告白に答えた。

「私より早く死んだら、許さないからな!」



 数十年後、私は専業主婦をしていた。一家の大黒柱となったあいつは昔と変わらず今も大事な存在だ。私があの告白に答えた後、心は安心したようで消えて行ってしまった。最後までなんというか、パッとしない終わりかただった。

 そんな私にも、いまは守るべき存在が一人増えた。


かえで、何描いているの?」

 私はこの前5歳になった、あいつとのたった一人の愛娘に向けて話しかける。彼女は今楽しそうに絵をかいていた。

「んー、ママと、パパと、私?」

「なんで、自分だけ疑問形なの」

 絵を描きながら片方に髪を揺らす愛娘に苦笑いを浮かべる。

「んー、だってー」

「なになに、絵見てもいい?」

 もどかしく、本性を言わない楓に私は駆け寄りながら聞く。それに彼女は嬉しそうに首を縦に振ってくれた。

「いいよー、見てみてー。うまく描けたでしょ!」


 彼女が見せてきた絵は、私と、縁が確かにいた。けれど、その隣にいたのは――。

「心結ママ! 私はあなたを見守っているからね! これは決定事項なのだっ、うぎゃっ! ママが抱き着いてきた!」

 私は片方の手で絵を持ちながら、強く楓に抱きついく。そして──。


「ありがとう、生まれてきてくれて、ありがとう」


 私は彼女に泣きながら、笑いながら、そう照れ臭そうに抱き着いてきた私を無邪気に抱き着いてくる楓に向かってそう告げた。


ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


七竈……ナナカマドの花言葉は、私はあなたを見守る

楓……カエデの花言葉は、大切な思い出


です。

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