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花の魂  作者: 鈴盛りプリン
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04.触りたいけど触れない

 病院について受付の係の人に事情を説明すると、霊安室に通された。真っ白で無機質な部屋だが、そこでは警察やら記者やらなんやらがたくさんいて、嫌なほどカラフルな場所となり変わっていた。それらをうまく退け、私たちは心の体に合うことができた。途中でなにかマイクみたいなものを向けられてきたような気がするが、そんなものは全て無視した。


 心結のからだの傍らには、彼女のご両親がいた。彼らに先生はどうしたのかと訊くと昨日の十六時ごろにはもう帰宅したと言ってきた。

 それからはもうここには来ていないらしいので、たぶん学校に行ったのではないかとも言われた。

 心のほうを見ると、悲しそうにしていた。自分のせいで泣きはらして赤くなった目を無理やり笑わせて私たちに対応しているのが見ていて辛いのだろう。それもそうだ。確か彼女の両親たちは霊感は無い。だから、彼女の霊体がここにいるなんて思ってもみないのだろう。


 私は話がひと段落したあと、心の顔を覆っている白い布を外してみた。綺麗な花に痛々しい傷がたくさんついている。縁は失礼にも鼻を布で覆いながら私のとなりにたってきた。

 私は呟いてみる。

「心、ごめんね、守れなくて、気づけなくて、ごめんね。ちゃんとあなたの敵は取ってみせるから、ちゃんと、安心できるようにしてあげるから」

 その言葉に縁が続ける。私と同じように、回りに聞こえるか聞こえないかの声量で。

「だな、ちゃんと安心できるようにしてやるから、こいつのことは俺に任せろ、心」


『それは恋人として? 幼馴染の友人としたかな?』

 その思いもよらない心の人とで縁は吹き出すとついでに咳き込んできた。え? どういうことだろうか。あ、この二人付き合っていたとか? そういうこと?

「え、なに、お二人さん付き合ってらっしゃったの? なんなら言って下さればいいのに。お赤飯炊いて盛大にお祝いいたしましたよ」

 その私の言葉に今度は心が吹き出し、むせてきた。どうやら違うらしい。

『なのを言っているのかな、私が付き合うわけないじゃん……』

「え、じゃあ誰」

『心結と縁』

 ついに私が吹いて咳き込んでしまった。え、私と縁? ありえない。絶対あり得ない。そして、そのやり取りが霊安室で行われていることを私は思い出す。やばい。これは絶対おかしな人だと思われているパターンだ。


 私は恐る恐る心のご両親のほうを見る。すると思った通りにとても心配そうな目で私たちを見てきていた。その他の方々も同じような目をしていた。

 恥ずかしいと思ったが、気にせず私は続ける。

「それは絶対あり得ない。ちょっとびっくりして吹いちゃったじゃん。というか、縁も縁で何やってるの。精神的ダメージ受けすぎじゃない?」

「なっ!? いやいや、そんなに受けていないし、心の一言が衝撃的だったというか、ビックリしたというか、とにかく、おれは、親友としてお前を守るから。だから、安心しろよ、心。おまえの分までこいつの面倒見てやるからって意味で言っただけだから!」

「おお、少女漫画みたいなこと言ってやがる」

 その一言で縁の顔は真っ赤になっていく。リンゴみたいだ。

「これからは少年漫画を中心的に読んでいこう……」

 そのあと、そう彼が小さく呟いたのが私の耳に入って来たので、私はちょっとしてやったりと思えた。心もなんだか楽しそうにしていた。良かった。



「ねえ、心結ちゃん、縁くん。心は、死んだんだよ」


 あの会話の後に、心のお母さんから私たちはそう告げられた。あの会話を見ていると、私と縁は精神科に突っ込まれてもおかしくないほど異様な光景に見えただろう。私だってそう思う。けれど、たしかに、ここにいるのだからしょうがないだろう。心は、ここにいるのだ。

 私が答えようとすると、縁が先に口を開いた。

「分かっています。心が死んだということは」

 はっきりと、そう言い切った。そして、おかしいと思われてもかまわない、という言っているかのように聞こえるような口調で心のお母さんに告げた。

「けれど、彼女はここにいるんです。俺たちは、彼女に言われました。まだ生きたかったと。自分は人生を謳歌しきれていないと。だから、俺たちはその言葉を信じて、今ここにいます。探っていました。彼女の死の真相を。心は、優しい奴です。だからこそ、俺らに知られたくないものがあった。自分無意識に追い詰めてしまうほどのものが何かあった。お願いします。彼女はここにいるんです。俺らを、信じてください」

「馬鹿言わないで。あの子は、あの子は……」


 しかし、彼の熱意は伝わらず、逆に暴走させようとしてしまった。なので私が言葉を付け加える。

「心は死にました。これは間違いのない事です。だからこそ向き合おうとしています。そして真実を認めています。あの子は、自ら身を投げたのではありません。さっき電話しましたよね。ちゃんとあの子の死の真相を知りたいと。だから私たちはここにいています。真実と向き合うために。

 それと、今、心すっごく辛そうな顔していますよ。大切な人にこんなさせたくないと言っています。彼女は、あなたに触れたがっている」

 私は心に視線を移す。今にも泣きそうで、だけれど泣けなくてとても、もどかしそうにしている。とても、両親に触れたがっている。しかしそれはかなわない願いだということを身で味わっている。

「現実ほど、理不尽な物は……ないんだよ」

 私はただただ、謝ることしかできなかった。最後まで、彼女の母親は真実を認めることは無かった。



 私たちは病院から足を移した。とても後ろめたいものがあったが、しょうがない。

 次に私たちが向かったのは、今日休んでいいと言われた学校だった。

 病院から出る前に一応スマートフォンで学校のホームページを見てみると、今日は非常事態のため休校になると書かれていた。そして、記者会見が行われるということも書かれていた。

 何時から始めるのかと思い調べてみると、午前九時から始まりらしい。私はスマートフォンのディスプレイにある時計を見る。時刻は八時半だった。速足で向かえばなんとか行けるだろう。私たちは急いでそこに向かった。



 学校に付くと人がごみのようだっ! と言えるほど人がたくさんいた。たぶん死んだ彼女が美人だということもあって、ネタにできるからだろう。本当に大人は物事に汚いと思う。それに彼女成績と運動神経以外はすべて良かったし、本当にうはうはな存在なんだろうな。

 私たちは人混みを避けるようにしながら裏門から校舎に入った。記者会見は講堂で行われるようで、そこに向かうための立て看板が多くつけられている。

 学校に着いたのは九時過ぎだった。なので、多分あの学校外にいた記者などは情報待ちの人たちなのだろう。見つかったら絶対面倒なことになる。私たちは慎重に歩を進める。そして、着いた。


 講堂ではない。行動のすぐ近くに存在する、講堂専用の放送室だ。そして、まずは彼らの言葉に耳を傾ける。

 記者会見に応じているのは、校長、教頭、学年主任、そして、クラス担任であり、心が飛び降りるときに教科を受け持っていた久瑠隈先生である。

 彼らは用意していたコピー用紙を真剣に読んでいた。どうやらまだ経緯説明の段階らしい。彼女の人柄、態度、周りの評価、そんなものがつらつらと校長の口によって並べられている。

「なんか、当たり障りのない事ばかり言っているね」

「だな、というか事実捏造とかしていたら今すぐにでも行くぞ」

「あたりまえ」

『というか、私あんな風に先生から思われていたんだ。才色兼備だとか思われていたんだ。すごい。そしてあんな重い期待に今まで気づきもしなかった……』

「え」

「ふぁ!?」

 その言葉に私たち二人が驚く。結構な信頼のされようだったのに。それに気づかないとは、おそれいった。この奴、おっとりだけではなく天然だったのか。まあ、知っていたけれど。

「心、お前は結構な評価のされようだったぞ。みんなからの信頼も厚かったし、自分の教師から歪んだ愛情を向けられてたことに関してはもう同情しかないが、それほどお前がすごかったということだ」

 縁がフォローになっていないフォローを入れてくる。とても彼らしい言葉だ。


 私は今朝縁が開けた茶封筒をリックの中から取り出し、その中に入っていた手紙を広げる。

 そこには理不尽なほどに私に向けられた強い憎しみが、怒りが、妬みが、馬鹿なことに手書きで綴られていた。この独特な字は忘れもしない。あの人の字。あの時、黒板に書かれようとしていたこの独特な字は、狂気を満ちて紙の上に張り付いていた。

 この字のせいで、彼女の心は壊れていった。私が彼女の壊れたものに気づいてあげられたら、また違っていたのかもしれないあの、花の生命。けれど、一度過ぎた時は戻らない。


 私はリュックサックから、USBメモリを取り出す。そして、それを講堂のスクリーンにつながるケーブルへと繋ぐ。私は一応放送委員会というものに属していた。なのでこういった類のものは一通りわかるのだ。私は縁と心といつもみたいに他愛のない話をしながら、家から持ってきたものをセッティングしていく。

 全てのセッティングが終わった時、それは記者会見が終わろうとしていた時間と同じものだった。


 校長が記者会見を終わる挨拶を告げようとする。それの瞬間に、私はスクリーンにある物を流す。

 もちろん講堂の中は騒然となる。



 夜の住宅街、街灯に照らされ、一台の大型バイクがやってくる。そのバイクはある家の前に止まり、何かをその家の郵便受けにいれ、去って行った。



 また、同じ夜の住宅街、同じように街灯に照らされ、一台のバイクがやってくる。そして、さっきと同じように家の前に止まり、郵便受けにある物を入れる。そこでカメラは暗視モードに切り替わり、バイクに向かってズームインしていく。そして、ナンバープレートを映し出してきた。



 昼の学校。ある大型バイクが映し出される。さっき流れてきた動画と同じような種類だ。そして、ナンバープレートが映し出された。さっき流れてきたものと同じ数字だった。



 画面は切り替わり、昼間の住宅街。何やらこの動画を取っている物は歩いているらしい。画面が揺れている。そして、見覚えのある家の中に入り、ポストを開けた。すると中からは茶封筒が一枚入っていた。カメラを持っている物はそれを持ち、家に入っている。どうやらこの家の住居人らしい。

 視点が変わる。少女の手らしいものが映し出されて来た。そして、その手はあるものを置いてきた。さっき映像で流れていたものと同じ封筒だ。未開封だった。手は何やら手を洗浄用のゴム手袋で覆った後、なぜか近所や熱帯魚を入れる用の水槽を自分の前に置いてきた。もちろん中身は空だ。しかし、と横とカメラで映すところ以外はすべてコピー用紙らしきもので覆われている。そして、その中でカッターナイフを使い、茶封筒を開けた。


 そこで、講堂の中ではざわめきが起こった。なぜか、こういうことだ。


 その茶封筒からは虫が出てきた。蜘蛛やゴキブリ、死んだ蛇など。少し少女の叫び声が聞こえる。どうやらこの動画を取っている主は女の子で間違いないようで、この中に入っているものがなんだか解らないまま開けたらしい。少女は勢いよく、その水槽のふたを閉め、安全となった封筒の中から恐る恐る手紙らしきものを取り出す。そして、少女は少し自分でその文章を見た後にこちらに向けて広げてきた。

 手紙には、宮下心結、死ね、死ね、死ね、殺す、殺す、殺す、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、お前なんかがいていい存在ではない。お前なんか、お前、なんか、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! と、その後にも文は長々と続くような文章が、手書きで書かれていたのだった。


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