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花の魂  作者: 鈴盛りプリン
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02.何で私の部屋事情にそんなに詳しいの

 全てのことから解放された頃には夜の九時をまわっていた。

 心が自殺したのはまだ、日差しが痛い秋の昼頃だったというのに。


 質問の嵐から解放された私たちはそのまま帰路につくこともなく、そのままの足である場所に向かった。

 ちなみに私は心の血がベットリと付いた制服のままではまずいということで、今日たまたま持っていた学校指定ジャージを着ての下校だ。そしてその取り替えた制服は、ビニール袋にいれてから、お気に入りの私の通学カバンである真っ赤なリュックサックに入れてある。


 ある場所につくと上木鉢の下に置いてある合鍵を使いドアを開け、躊躇なくその鍵を開けた建物に入り、迷うことなくある部屋に一直線に向かった。

 ある部屋に入る前に心が呑気に、心結ちゃんと縁くんゆっくりしていってねー! なんて言ってきたが、一番今ゆっくりと休んだ方がいいのはそれを言っている心だと思う。幽霊が休めるのかどうかはわからないけれど、絶対に心を落ち着かせた方がいいと思う。

 彼女はいつもこういう子だ。本当に悩んでいることは絶対に言わない。すべて私たちに迷惑をかけたくないというなんとも心苦しい理由で、相談したら一発で解決しそうな物事さえも一人で重く溜め込んでしまう。だから私たちが気付いてあげなきゃいけない。

 そして、気づいてあげられなかった結果があれだ。悔やんでも悔やみきれない。


 私と縁は苦笑いを浮かべながら、そうさせてもらうと口をそろえて返事をした。


 それから私たちはある物の捜索活動を始めた。私たちは彼女の部屋を知り尽くしている。なので、すぐに探し物は見つかるだろうと高を括っていた。

 しかし、それは予想と反して難航することになる。



「にしてもないねー、心が秘密を隠してそうな物……」

「だな、えーと、あと見ていないところって、どこだったっけ?」

「カーペットとベットの下、本棚、箪笥の下と奥の隠し物置かな」

「じゃあそこ見っかー」

「うん」

 私たちはそんなことを互いの顔も見ずに目を皿のようにしながら怪しいものを探していた。

 私たちは知り合ってから今日まで約十三年間、幼稚園の年少から高校二年まで同じ場所に通い、ずっと奇跡的に同じクラスに在籍してきた。ずっと一緒だった私たちが分からないもの、それはきっと彼女が私たちに隠して悩んでいたものに違いない。そう思って本人の目の前で彼女の両親に快く電話で了承を得てから、こうして赤の他人の手にこの部屋が渡る前にすべてを見つけ出そうといろいろな心の私物を物色しているのだ。

 彼女はそんなものは無いと言っていたが、それでも一応申し訳ないけれども、彼女の部屋を片っ端から漁っている。


 しかし、そんなものは出てこない。


 何も見つからない。


 彼女は私に言った。


 ――まだ生きたかった――


 と。ならば親友として、彼女の死の真相を解かなければならない。


 しかし……。


「無かった……」

「なにこれ、絶望的だぞ」

 最終的に、カーペットの下にも、本棚の奥にも下にも、ベットの下にも、箪笥の奥にも下にも、どこにもなかった。


「なんで、ないの?」

「あ、もしかしてなにもモノを残さなかったとか?」

「あ」

 その発想は無かった。

「え、マジで? 私たちの努力は無駄に終わってしまったということ?」

「いや、まだそうと決まったわけでもないし……、えっと心、他にどこか見ていないことろってあるか?」

「あ、結局部屋の持ち主に聞きやがった」

 けれど、それが一番手っ取り早い方法なのは間違いなかった。


というか、そういえばさっきから心の声が聞こえないような気がする。どうしたんだろう……。

 私は心がいる方向を見てみる。そこでは予想もしていない光景が待っていた。

「ねえ、心何やっているの」

 そこでは心が自分の机の引き出しを取ろうとしていた最中だった。しかし、彼女は霊体。それが引き出せるわけもなく、ずっと掠ってばかりだ。

 それに、顔が、私たちが今まで見たことがないくらい暗く漆黒の中に身を投じたようになっていた。


 その光景に見かねた縁が彼女に明るく声を掛ける。

「おーい、心、お前何やってるんだ?」

 しかし、彼女はその言葉が聞こえないようで、ずっとずっと机に手を掠らせている。

 これはおかしい。私は黒い花に向かって歩く。そして、彼女が開けようとしている引き出しを開けた。

 ここはさっき私が目を皿のようにしながら見たので、何もないことは明白なのだが、なぜか彼女が開けようとしているので、なんとなく開けたのだ。


 私が引き出しを開けたのを見ると、目を見開きながらも彼女はまだというように引き出しを引っ張ろうとする。私は全開にそれを開ける。が、まだだというように、彼女は引き出しを引っ張ろうと指を掠られる。

「心結……」

「しっ……」

 縁が心配して声を掛けてくれたが、その声に彼女は反応して少し震えてしまったので申し訳ないが、彼の優しさを冷たく踏みにじった。

「大丈夫だから」

 引き出しを机から取り出し、床に置く。すると彼女は何とそこの机と引き出しとの僅かな隙間に手を入れ込んだ。何かがそこにあるのだろうか。彼女は例の如く、手を掠らせご所望のものが取れないらしい。私を怯えた目で見てくる。

 なので私はそれに応える。彼女が手を突っ込んだところになんとかギリギリ手を入れることがかなうと何かが指にあたる感覚があった。ペラペラと少し何かが捲られるような感覚が指に伝わってくる。これは、紙……?

 なんとかそれを取り出すと、一冊の普段心が使っている種類のノートが出てきた。あ、そういえば心この前新しく買ったノートがなくなったとか何とか言っていた気がする。

「あなたが取り出そうとしたのはこれ……?」

 私は心に向けてそれを見せる。すると彼女はコクンと首を一回縦に振ってくれた。縁が肩をほっと撫で下ろしながら私のほうに向かってくる。

「見つかったのか……」

「たぶん……」

 私は縁が隣に来たのを確認した後、彼女に優しく落ち着くように声を掛けた。

「これ、見てもいい?」

 その時、彼女が口を開いた。

『いいけれど、ここではないところで見て。私なんかが言っていいのかわからないけれど……あなたの……心結ちゃんの家の中で見てほしい……』

 ああ、やっぱり私の目の前にいる子は心であって心ではない。彼女の言い方、声の質、声量どれもが違う。いつもの心はおっとりしているけれどそれなりに声量があり、透き通るような声だ。しかし今の心の声はか弱く、一つでも物音をたてたのならそれに負けてしまいそうなものだった。

 私は掌に置かれているノートを無言で見つめる。そして、わかったとそう何かを決心したように呟いた。


 私たちはそれから私の家に場所を移した。

 ちゃんと心の家には鍵を閉め、彼女の両親の携帯に電話をしてお礼を言った。鍵は上木鉢の下に戻さずに、私たちが持ったままでいいとのことで、今私の通学カバンに入っている。その方があの人達も安心のようだ。

 彼女の家を出たのは午前2時をまわっていた。因みに明日は学校に行かなくていいと、警察と学校のほうに耳にタコができるぐらい言われたのでそれに甘えることにしている。今のうちは。

 そして、移動途中に縁のことをどこか置いてけぼりにしている気がして、謝ったがこれはしょうがないことだと笑ってきた。この人もこの人で不安だ。



 私の家に着くと、親の姿が見えないどころか、玄関のドアに鍵がかかっていた。この様子だと、どうやら今日も夜勤らしい。

 私の両親は共働きで、朝昼晩なぜか執拗に仕事をしている。そんなに仕事が好きなのかと言いたいぐらいだ。まあ、そのおかげでお金には困っていないので、いいっていったらそうなのだろうが、その代わりに代償にするものが大きいのは事実だった。

 そんなこともあって、よく心の家に泊まらせてもらうことも多かった。頻度でいうと週三ぐらいだと思う。もう七竈家は私の第二の家族といっても過言ではないだろう。

 ということで、たぶんあの過剰な心の両親からの信頼は、そういうことも多く関係しているのだろう。


 私は郵便受けを見てそこに入っていた郵便物を取り出す。一つの茶封筒から何かが入っているような感覚が手の中に広がる。たぶん何かの粗品だろう。どうでもいいことだ。あとで開けずにゴミ箱にぶちこむとしよう。

 その様子を心ではない心が心配そうに見ている。彼女はいったい誰なのだろうか。なぜ、彼女は私のことをあんなに悲しそうに見ているのだろうか、不思議である。


「じゃあ、入って。今に行ってて、食べ物適当に見繕ってくるから」

 私たちはさっきまで心の遺留品を飲まず食わずで探していた。なので昼から何も食べていないことになる。まあ、体中ににじみ出る不安のおかげでそんなにお腹もすいていないのだが、一応何か食べなければいけない気がしたので私はそう言った。

「おお、悪いな」

 彼はいつものように見つめられたら怖い目を細めてくる。こいつ絶対見た目損だ。



 急ごしらえを終え、私たちは本題に入った。

 机の上にはあまり食べられることがなかったカップラーメンと、綺麗に見事に間食されたカップラーメンが一つずつ置いてあった。もったいないが、そういう心境なのだそうだ、縁は。


 私は心の家から持ってきたノートをリュックサックから取り出し、机の上に置く。

「じゃあ、このノート開くよ」

 縁が縦に首を振る。心は相変わらず虚空を見つめていた。

 妙な緊張感がその場に佇んでいる。なんとも居心地の悪い空間に私は心の中で溜息を吐きながら、未知の世界が広がっているであろうノートに手を掛ける。


 そして、開いた。


 そして、閉じた。


「これは、見ないほうがいいな」

 私は溜息を付ながらそう言った。


「いや、なんでだよ」

 即座に縁が私に言ってくる。それもそうだ。いきなり開いたと思えば数秒でその開いたものを閉じてしまったのだから。

 これは、隠し通せないのだろうか。隠し通せなかったのだろうか、この事柄はどうでもいい事柄だった。別に私も気にしていなかったし、精神的ダメージも皆無に等しかった。

 けれど、あの子にとってはそうではなかったということなのだろう。だから、彼女は新しい人格を作り出すまでにも落ち込んでしまった、ショックを受けてしまった。


 彼女は無自覚にも多重人格者になってしまった。


 一気によりどころのない憎しみと後悔が私の下に降り注ぐ。しかし、私は顔には出さず、いつも通りに彼に接する。

「うーん、私が見るのは後ろめたいものが山盛りなので、先にあなた様がみて下せえ」

 私はノートを慎重に縁に渡した。

 彼はそれを開き、見始めた。するとだんだんと顔が青白くなっていく。

「お、おい……なんだよこれ」

「心の後悔の日記」

 私は感情のない声でそう呟く。

 彼は次々とページをめくっていく。私もところどころ横目で見るが、そこには見覚えのある事柄が綴られていた。

 そうして終いには、縁は本人がいる前で失礼にも、ぎゃあ! と叫びながらノートを投げてしまった。私はそれを拾いに行く。そして、拾うと同時に文字が書かれているのが最後のページを開く。そこには、『自分がすべて悪い』『周りがすべて悪い』『この世がなくなってしまえばいいのに』『あの子は、悪くない』『自分が悪いこんな自分嫌だ』そんなワードが私の身に覚えがありすぎる事と共に多く並んでいた。

 これは心のもう一つの人格の後悔の日記だ。たぶんこのノートから察するにこの心の人格は自分を責め、他人を責めてしまう人物だ。だからあんなに内気で声が消えてしまいそうなのだろう。闇に飲まれ、虚空を見つめているようにしているのだろう。この子は、私のせいで生まれてしまった。


「おい、心結……」

 縁が眉を八の字にして聞いてくる。

「これ、本当なのか……?」

「本当だよ、このノートに書いてある事柄全て本当のことだよ。うーん、誰にもバレていないと思っていたんだけど、まさか心にばれているとはねえ、親友おそるべしと言ったことろだな」

 ははは、とごまかすように笑ってみる。全然笑えないが、笑っていないとなんだかおかしくなりそうだ。

「これがそうか?」

 縁がさっき私が家に入る前に持ってきた郵便物の一つを持って上にあげる。どうやら電気のほうに向けて透かしているようだ。

「……そうだよ。あ、開けてもいいけれどベランダか外で開けて。家に連れ込まないで、ここで開けたら自分で責任もって殺生よろ。逃がしたらただではおかない」

 私は全力で注意を促す。これは決定事項だ。いつもならば何も見ずにそのままゴミ箱にダンクシュートを決めている物を開けるとならば、大変なことになる。

 たぶん私が開かなくなったころから三ヶ月は経っているはずだから、それなりにエスカレートしているはずだ。生きているGと私がよんでいるあの、黒光りの生物どころではないものが出てきても、おかしな話ではないだろう。

「そんなに言うのかよ。確かにあのノートには卑劣な事がたくさん書かれていたが、そんなに大変な害虫がないそうされているとは限らないだろ……ああ……」

 なにやら茶封筒を透かしていた縁の口から落胆を表す吐息が流れてできた。その様子だととてもじゃない物が内装されていたのだろう。まったく、いらない粗品である。

「お、何があったんだい?」

「蛾と見られる害虫と蜘蛛とGを発見しました。蜘蛛とGはまだまだ元気なご様子です」

「おお、そんなにグレードアップしていない様で安心した」

 そんな私が胸を撫で下ろしたのもつかの間、次の彼の言葉で次は肩を下ろすことになる。

「なお、蜘蛛のほうは毒を持っているご様子」

「あ、グレードアップしてたわ。殺しに来てるわ」

 どうやら相手の的外れな私に向けての恨みはエスカレートしているらしかった。というか、毒蜘蛛だなんてどこから仕入れてきたのだろうか。今度聞いてみるとするか。

「で、開ける? そのままゴミ箱にダンクシュート決めます? 明日燃えるゴミの日だから丁度良いよ」

「いや、開ける」

「おお、男らしい。やっぱり強面男はこうでなければ」

 私は茶化すように腕組をしながら首を縦にふる。それに彼は呆れたように溜息を吐く。

「お気楽だなあ。これ一応お前の為でもあるんだぞ」

「これまた失敬。ありがとう。ちょっと待ってて、ゴム手袋とか持ってくるから」

 私は立ち上がり、台所の隣にある用具入れに向かった。



「はーい、おまたせー」

 私はゴム手袋、もしもの為の解毒剤、ピンセット、害虫スプレー、あとなんか虫を殺せそうなものを適当に見繕ってきた。

「おお、サンキュー」

「いや、本当はこれ私がやった方がいいと思うけれど、やってくれると聞いたのならば、心からお世話になる代わりに何かしなくては気が済まないのだよ」

 そういいながらまず最初にゴム手袋を縁に渡す。それを縁がはめたのを確認すると、心を見る。彼女は心配そうに私たちを見ていた。それに気づいた縁は心に向かって笑みをこぼす。

「大丈夫だから、お前の死の真相は必ず暴くから」

 そうして彼は全身何かしらで覆った後、封筒と害虫撃退グッツをもって、二階にある私の部屋のベランダに旅立っていった。

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