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狼と少女の幻想譚  作者: ウチノネコベンケイ
2/6

プロローグ2

シロこと私はかつてこの村から北の方向の森の中で行き倒れていたらしい。


どんな経緯で行き倒れていたのかどんな場所でいき倒れていたのか・・・それは村人達からの情報でしか知らない。


いわく黒いローブに包まれていて北の森の大樹の足元に眠るように倒れていたらしい。


その際外傷はまったくなく、土で汚れていたらしいが旅の汚れなどはまったくなかったらしい。


そんな訳があるか、そんな御伽噺に出てくる主人公みたいな行き倒れ方があるか。百歩譲ってそんな行き倒れ方があったとして、なんでその前後の記憶がないんだと。しかも常識も知識も全部抜け落ちてるんだと。


記憶喪失のシロにはまったく分からないが何らかの原因があるのではないかと思っている。例えば不倫とか夜逃げとかしてドロドロの関係になった大人達が私が邪魔になってその大樹の元へと捨てていったとか。とかとか。


今でも何故自分がここにいるのかを探っていたりする。村長の家に忍び込んで書物を調べたり、村民に話を聞いたり。


それはまだいいらしい。忍び込んだ件は死ぬほど怒られたけど。



だが・・・私が行き倒れていたであろう北の森には絶対に入ってはいけないと大人達から言明されていた。


あの森には何があるのだろうか。あの森に何故私はいたのだろうか。その答えを私はいつか知りたいと願っている。


そんな不思議体験からこの村の住民に仲間入りした私はこの村に住み始めてから二年も経っていた・・・






「よいしょっと」


シロこと私は井戸から汲んできた新鮮な水を友達の家の前においていく。


この村では水は必要なときに必要なだけ持って行くことが許されている。


だが井戸から水を汲むのは相当な力が必要になるため、歳をとった人たちや、暇がない人たちはたやすく汲むことは出来ないのである。


私はそんな人たちのため、自主的に水を汲んで家の前に置いていく。嫌がらせとかではない。


親がいないシロは村人の一員として村に貢献できるものがほとんどない。


耕作も狩猟も採取も、私の幼い身体では難しいため、せめてもの手助けにと水を汲むのである。


私の境遇は記憶喪失で行き倒れていたところこの村の人間に拾われたそして周りの人たち育てられて育った。


周りに生きさせられている、育てられているのに何もできないのが嫌だった。


だが私は体力が見た目相応に見た目以上に無かった。


昔、シロはお願いをして耕作を手伝させてもらったことがあった。だが二時間が経ったあたりでぶっ倒れたことから、村ではシロに仕事をさせてはならないということになっている。


これは村の大人達の総意だった。何故だ。


水汲みは自分の身体を鍛える修行のためにやっていることだった。最初の方は一回やるだけで精一杯だったが、今では十回も出来るようになったのだ。


なお十回を超えると筋肉痛で明日は動けないが・・・


「あら、シロちゃん毎日ありがとうね」


私が二件目の家の水瓶に水を入れたところで上から話しかけられる。


顔を上げて見てみるとシロの友達・・・ノームの母親が微笑をたたえながら立っていた。歳はもう四十にもなるはずなのに皺一つさえ見れないその顔は、ご近所の奥さんの羨望の的になっているらしい。


「いえいえたいした苦ではありませんから」


シロは淡々と応える。正直大人達を相手にするのは少しばかり苦手だったりする。心が悪がき根性のせいだと思うがこればっかりどうしようもない。


「シロちゃんは大人びててかわいいなぁ、もう。食べちゃいたいくらいに」


そんな冗談?かは分からないがおそらく本気の言動をさらりと受け流し、そしてさらりと距離をとる。


「旦那さんが泣きますよ、てか狩りが終わった後いつも酒場で泣いているらしいですよ」


「あら、私は女性しか手を出してないのに泣くなんて、軟弱な男ねぇ」


そんな言葉を吐く女性から更に距離を取りながらフェードアウトしようとする。だがその前に呼び止められる。


「ねえ、シロちゃん?」


「はい、何ですか?」


そんなことを考えていると話しかけられた。常に笑顔を絶やさないその顔からは何を考えているか、全く読めない。距離を保ちながら慎重に応える。


「私これから狩りに行った旦那に弁当を届けないといけないの、だから息子の面倒を見てやってくれない?」


そう言って手に持った弁当を見せてくれた。


「面倒って・・・一応私は年下なんですが・・・」


「シロちゃんのほうが、うちの息子より大人びてるからねー、それに賢いし可愛いしね」


本気なのか冗談なのか分からない口調でそう言う。


「まあ、構いませんが・・・じゃあノームはどこに?」


ノームとはシロの友達のことで大人になりたいと常々考え背伸びしてみせる子供らしい子供だ。


「いつもの広場にいるから水汲みが終わったら行くといいわー、それじゃあ息子をよろしくね」


それだけ言って、ノームの母親は踵を返して東の森へと歩いていった。


シロは少しだけ息を吐き、次の家へと向かった。




村の端に位置する場所、そこにシロ達がいつも遊ぶ広場がある。


まだ村には広場がたくさんあるが、ここだけは村の端にあるおかげで、大人達の目が届かない。


そこに数時間かけて水を配り終えた後筋肉痛で激痛が走る腕をほぐしながら歩いていった。


「あっシロ!」


そこにはノームだけじゃなく、気が弱い女の子のネルカや、それと対照的な男の子のドリアもいた。


「シロは何でここに来たんだ、場所教えてなかったろ?」


「ノームのお母さんに教えてらった、そして仲間はずれは良くないぞ私も混ぜろ」


シロはいつもの敬語をやめ普通の口調で話しかける。


「げ、お袋がどうして教えるかな」


「なにいじめでもしようと考えていたの、私はやり返すぞ、えげつないぐらい。具体的には十倍返しぐらいにやり返すぞ」


その言葉に驚いたように


「いや違うって!大丈夫大丈夫、仲間はずれとかいじめとか考えてないから!」


と手をぶんぶんと振りながら否定をする。いつ見てもいい反応だやはりからかうと面白いなノームは・・・


あごに手を当てながら頷く。


「ほらシロあんまりノームをからかってやんな、俺達だって悪気があって話さなかったわけじゃないんだ」


そう言ってドリアは笑う。いつもどうり快活そうな格好に笑顔が眩しい。だがノームより落ち着いているのが特徴だ。


「き、北の森に行こうかって話してたの・・・シロちゃん大人達から止められてるから、その・・・私達と一緒に行ったら怒られるかなって思って・・・」


いつもどうりネルカがオドオドしながら答える。なるほど納得した。つまり私のためを思って離さなかったらしい。


「んー北の森か・・・でも北の森って確か南の森と変わらなかったんじゃなかったっけ」


この村は森に囲まれている。細かい区分では北の森、南の森、東の森、西の森と分けられている。


南の森はいつも子供たち、つまり私達の遊び場として活躍している(大人達に許可されていないが、てか入るなって言われているが)


対して西の森は危険区域、東の森は大人達が狩場としていつも使っている場所だ。


そして北の森は南の森と対して変わらないらしいが・・・大人達の話だけど。


「いつも行っている場所より新鮮味があっていいだろうって話してたんだよ!」


とノーム


「だけどシロちゃんは禁止されてるし・・・」


とネルカ


「だからシロに見つからないように行こうとしてたんだ」


とドリア


三者三様の反応にあごに手を当てて考える。なるほど確かに私は禁止されているせいで一緒に遊べない。それどころか森に行くとなるとこの貧弱な体では足手まといになるだけだろう。さらに南の森と同じならば、わざわざ行く意味なんて


「よし行くか!」


数秒の熟考の末行くことにした。足手まといなんていつもと同じだし、大人の規制なんてあってないようなものだしな。


「だから俺はシロに見つからない方がいいって行ったんだよ!」


「やっぱりおままごとにしよ、ね」


「俺たちまでまとめて怒られるだろうな・・・」


行く方向で話がまとまりつつあるなかネルカが不安そうに声を洩らす。


「で、でも見知らないところに行くのは危ないよ・・・武器だってないんだし、剣とかあれば別なんだけど・・・」


確かに一理ある。武器すら持たずに森に入った結果は、魔物に食われて死ぬか、獣に食われて死ぬか、遭難して死ぬかの三択だろう。


・・・仕方ない諦めるか。さすがに武器すら持たずに飛び込むほど蛮勇ではない。まだ次の機会があるさ。


そう思い諦めようとした、だがノームの異変に気づいた。


「ノーム?」


顔を伏せているせいで表情が読めない・・・と思っていらクックックと笑い始めた。


「その反応は予想していたよ、だからちゃんと対策を立ててきた!」


そして担いでいた、まるで剣を入れるための皮製のリュックサックを地面に下ろす。


そしてそこから剣を三本と小型ナイフを二本取り出す。


「ほら、村の倉庫から取ってきたんだ!どうだこれならいいだろ!」


そういって自信満々に見せてくれた。


「取ったじゃなくて『盗った』の間違いじゃないか・・・」


「あの・・・えっと・・・うん」


「私は知らぬ存ぜぬで行くから一人だけ怒られてね」


そんな三者三様の反応を見て得意げそうに笑う。


「ふっ完璧すぎて反論も出ないか、あとシロ怒られるときは一緒だぞ」


得意げそうに笑うノームの隣に立つ。そしてノームと視線を交わす。俺達は共犯者だということを目と目で通じ合う。そして乗り気じゃないネルカとドリアのほうに向き直り・・・


「別に、来たくないなら帰ればいいんじゃないかなー、まあ・・・」


私達はお互いの肩を組む。


「「俺たちは行くけどな!」」


悪友同士で肩を組みながら、意地悪な笑みを浮かべる。追い詰めているようだが実際には違う。ここで二人に帰られたら、こっちの二人が森から還らぬ人になってしまう。


「仲良しだなお前達・・・はあ」


ため息をつきながらノームが放り出した剣を手に取る。


「行こうネルカ、みんなで行ったほうが危なくない」


「う、うんドリアが言うんなら・・・」


ネルカは直剣を取りながら慣れた手つきで腰へと提げていく。


「よし決定だな!」


ノームが剣を取りながら腕を挙げる。そして笑顔でこういった。


「行くぞー!」


「おー!」


「おー」


「お、おー!」


皆ばらばらな意気込みにちょっとだけ笑ってしまった。


ちなみに北の森は、大昔では『神の森』と呼ばれていたそうだ・・・









・・・・・・・・・・・・・・・・











北の森は南の森と比べて魔物が多いわけでもなく、木々が生い茂っているわけでもない。


それに魔王の領域のように霧が覆っているわけでもなく、食人植物が生息しているわけでも、瘴気が出ているわけでもない。


でもこの北の森は不思議な空気が漂っている。


不思議な空気といっても害のあるものではなく、神聖なものでもなく・・・なんだか分からない。


でもこの空気は嫌いじゃない。守ってくれてるような感じがして、居心地がいい。


多分、ノームもネルカもドリアも同じことを思っていると思う。


「よし!これから探索を開始する!みんな俺たちに続けー!」


そう言いながら剣を振り回しながら歩いていく。


「行くぞー」


それに続きながら適当な声をあげながら歩いていく。


「ていうか、ただ進むだけかよ」


「でも、ここは安全そうだね」


ドリアとネルカもそんなことを言いながら歩いていく。


ナイフだけはいつでも抜けるようにポケットの中に入れておき、剣は抜き身のままじゃ危ないから、盗んできた鞘の中に入れてある。


剣を持っているのはネルカ、ドリア、ノームの三人だけだ。


「私も剣使いたかったなあ・・・」


愚痴を洩らしながら歩いていく。皆いわく剣を持たせてもたいして使えないどころか、自分の身体を傷つける可能性があるらしいので私だけナイフを持たされている。


「一番使い慣れてないから仕方ないんじゃないかな」


「まあ、俺たちは狩人の子供だからな・・・まあシロはそれを別にしても持たせられないけどな」


「毎日修行してるんだ、だから剣ぐらい持たせてくれてもいいと思うんだけど・・・」


「修行ってあの水汲みのことか・・・」


「ノームそれ以上言っちゃいけない、シロのとってはそれが修行なんだ。シロにとっては・・・価値があるんだ」


「で、でもシロちゃんはまだ幼いから・・・私たちの中でも一番小さいから・・・大きくなったら筋肉もついて剣も持てるようになるよ!」


皆のフォローの言葉が傷口に染みる。


だが不思議でもある。なぜ私は強くなれないのか?


たしかに私は一番小さいけど他の皆とこれほどまで差が出るとは思わなかった。


「ネルカだって私と変わらないくせに・・・いつか越えてやるからな・・・」


シロはそんなネルカのフォローに恨み言で返す。


「まあ、ネルカに勝てるとは思わないけどな、だってこの中で一番強いからな」


「えっ、そんなことないよぉ・・・」


ネルカは実はこの中で一番武器を上手く使える。


具体例を挙げるなら、村を滅ぼすような魔物の軍勢に囲まれても、全員切り伏せられるほど強い。


村で大人達だけで構成される、『魔物討伐隊』に大人達の推薦によって入ってるぐらいの強い。


見た目はおとなしそうな女の子なのに・・・。


「普段はこんなに弱っちいのになー」


「いひゃい、いひゃい、ほっぺを引っ張らないでー!」


「相変わらず微笑ましいねー」


シロはネルカとドリアのそんな微笑ましい光景に、さっきの精神攻撃の反撃に皮肉を返す。


「まあシロだってナイフ持ってるじゃんか、それにシロには『直感』があるから戦えないこともないだろ」


そう私は武器を持っていないという訳ではない。ちゃんとナイフを一本持ってる。ちっちゃいナイフだが、首を掻っ切ればちゃんと殺せるし、防御だってできる。


「剣は男のロマンだからな!」


「そうだ!私だって飾りだとしても剣を持ちたいんだ!」


ノームの突然の宣言に同意する。けど・・・


「シロちゃんの体力じゃあずっと持っていられないでしょ・・・」


正論すぎた。ぐうの音も出ないとはまさにこのことだ。




そんなほのぼのしたような空気の中、私の耳にガサッという音が茂みから聞こえてきた。


何度も聞いたことのあるその音に、表情を崩さずノーム達に話しかける。


「囲まれてるよ」


「っ!?」


その言葉を理解した途端、皆剣を抜き放った。みな仲間の言葉は無条件で信じるようにしている。


「何体?」


ネルカが尋ねる。その言葉に淡々は答える。


「5体、たぶんゴブリンかな」


ゴブリン、この世界で最も数が多く、魔物の中で最も有名なモンスター。雑魚として有名だが、大人達ならともかく子供たちにとっては天敵とも言える存在である。子供を積極的に狙い、攫い、餌とする。狡猾で知恵を使うその小さな魔物は、計画的に小さな村を襲うこともあるのだ。


危険度が他の魔物より少し高いため、冒険者に常に狩られているが、繁殖力が強いのか一向に減る気配がなかった。


余談だがゴブリンは小さい個体でも、シロと同じぐらいの体格を持つ。


「ネルカと俺は2体倒す、ノームは一体倒してくれ、シロは俺たちの背中に隠れていてくれ」


「分かった」


ドリアの言葉に頷く。


「さっきまで剣を持ちたがっていたとは思えないな・・・」


さすがに魔物を前に願望を優先させるほど持ちたくないよ・・・


ノーム達の中心の移動する。移動した瞬間、ゴブリンたちが飛び出してきた。


「ギギャア!」


ゴブリンは飛び出したと同時にそれぞれに分散して襲い掛かる、


統率が取れたその行動に、皆は剣を構えてそれぞれ防いだが一体だけはノーム達の肉壁を越え私に向かってきた。その一部始終を眺めながらも私はナイフを構えることをしなかった。


一見無防備に見えるだろうがこれは回避に力を注いだ無の構えである。決して諦めて辞世の句を読むために構えないのではない。


実際ナイフ程度では、勢いがついてる攻撃を止めることは難しい。さらに相手の棍棒は棘付き棍棒。上手くやらなければ腕がやらてしまう。


ゴブリンはその筋肉のあらん限りを振り絞り棍棒を振り下ろす。


「シロ!」


ドリアたちが防ぎながら叫ぶ。心配性め、自分の敵に集中しろ。


私は落ち着いてバックステップで棍棒を回避する。だが・・・


「ギギャア!」


ゴブリンは衝撃を殺さず、二撃目を繰り出す。


一撃目を回避したせいで二撃目を回避できない。私は二撃目に対して小型ナイフを出して、ガードしようとした、だが


「ッ!」


防ぎきることは出来なかった。


私は弱い、ゴブリンの一撃を受け止めることすら出来ないほど脆く儚く貧弱な腕は、敵の攻撃に受け止めるには頼りなく、殺すことはもってのほかだ。


「シロ!避けろ!」


シロの視界の端でノームが掌を向けてきた。シロは長年の付き合いから、直感のままに避ける。


「ファイアーボール!」


紙一重で飛んできた炎を避ける。その炎はちょうど、攻撃時の硬直で動けなくなったゴブリンの頭部へと吸い込まれるように直撃した。


「ギ・・・ガ」


糸が切れたように倒れるゴブリンを尻目に、ナイフを再び構える。


周りはもうすでにノームが相手にしているゴブリン一体とドリアが相手にしている二体だけになっていた。


「ネルカはドリアの方に、私はノームの方やるから」


「うん、分かった」


ネルカは軽く頷いて、ドリアの方へ参戦し一体を一瞬で屠る。


シロはノームに当たらないようにナイフを投げる。


ナイフは一直線にゴブリンの胴体に当たる、シロの力は致命傷には至らせられなかった。

だがその一瞬の隙にノームが切り伏せる。


「ギ・・・ギャア・・・」


うめき声を上げて倒れるゴブリンを尻目に被害を確認しあう。





「みんな大丈夫か!?」


「ああ、オレもネルカも無事だ」


「オレも返り血を浴びちまったけど平気だ。それよりシロ殴られた部分は大丈夫か?」


「うん、ナイフでガードしたから、腕に軽く突き刺さっただけ」


シロは腕を押さえて血を止めながらナイフを回収して皆に伝える。


「どうする、帰るか?それとも進むか?オレはどっちでもいいけどな!」


とノーム。


「シロちゃんのこともあるしネルカは帰るのがいいと思う・・・」


「オレは進みたいな、血を浴びてしまったから帰ったら怒られる・・・」


とネルカとドリア。


「と、なると」


「シロが決めてくれ」


皆に決定を任されたシロは頭を押さえながら少し上を向きながら考える。そして皆に向き直る。


「うん、嫌な予感もするし戻ろう」


帰ることに決めた。すると皆はあっさり引き下がり剣を納めた。


「シロが言うなら戻ろうか」


「うん、楽しかったね」


「それより言い訳どうしよう・・・」


そんな風に皆が笑いあう。一人だけ深刻そうな顔をしているが・・・ドリアだしいいか。


さて、帰り道の間にごまかす方法でも考えるか・・・


そう考え踵を返そうとした瞬間、胸の辺りに痛みが走った。


「っ・・・」


服の中を見てみるが何もない。だがしっかり熱を帯びた痛みが残っていた。


「?」


はてなマークが浮かぶ。だがいくら考えても答えは出ない。


「おーいシロ!帰るぞー!」


ノームの子供のような呼ぶ声が聞こえる。


考えても仕方がない。


「ああ、今行くよ」


そういってノームたちと合流した。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




村に帰ってきた時、私達を迎えたのは村中の大人達だった。


ノームの親もドリアの親も、ネルカの親も狩り道具を手に持ちながら私達を迎えていた。


大人達はこちらの方を見ながら、お互いに囁きあっている。


私達は怒られるんじゃないかとビクビクしていたが、時間が経つと様子がおかしいことに気がついた。


「おい、どうしたんだろう?村総出で怒る事なんてあるのか・・・」


「ノーム何をした?怒らないから話してみなさい」


「何もしてねえよ!ていうかお前も同罪だろうが!」


「でも様子がおかしいよ、普段ならこんなにピリピリしてることないし・・・」


私の『直感』も告げている。何かがあったと、それに加え多分私のことだろうと。


そう考えていると、村長が前へと出てくる。


白いひげを蓄え、耳がほんの少し尖っている。皺が目立つがそれは確かな人生の経験の賜物であり、一つ一つに威厳が感じられる。腰になる剣が鈍く光っている。


村長はジロリと嫌な視線を私に向ける。前々から村長は私のことを目の敵にしているような印象を受ける。まあ気のせいだと思うが。


「シロよ・・・」


厳かな声で私を呼ぶ。その声に驚いてノーム達は私の後ろに下がっていく。


私は前に出る。きっとこうしたほうがいいから。


「シロよ・・・神の森に入ったのだな・・・」


それは確認と言うより、覚悟を入れるようなものだと思った。私は何も言わない。何をしても結果は変わらないような気がしたからだ。


村長は目を閉じる。そして深く息を吐き目を開く。


そして・・・


「っ!?」


村長は剣を抜き一瞬で間合いをつめる。私は『直感』でナイフを瞬時に取り出す。


剣の剣先が迫る。ナイフをそれを弾く形で振る。だが


「無駄だ!」


村長は老人とは思えないほど若く逞しい。そして魔法の扱いもこの村一に上手い。


その村長の魔力を纏わせた剣は、私のナイフなど容易く貫通し・・・







私の腹を一瞬で貫通した。






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