プロローグ1
「このキノコ本当に毒が無いの?なんか禍々しい色してるけど……」
少女は屈みながら毒々しい色をしたキノコを手に持ちながら尋ねる。
『……さあ』
「おい」
あいまいな返事に少女は思わずドスが効いた声を出す。
『いまさら何言ってんだ、毎日食ってんだろうが毒なんてあるわけないだろうが』
その声に反応して呆れたような声が聞こえてくる。
「苦すぎるし、舌も痺れるし眩暈もする幻覚も見たこともある……これに毒が無い方がおかしいんだけど・・・」
『毒の定義は、少量で致死量になるものだぜ。つまりそれは毒じゃない!』
「身体に害があるのは否定しないんだね……」
少女はそんな相棒の声にため息をつきながら立ち上がる。土を落としてから空を見上げる。空には忌々しいほどに輝く太陽があった。
そんな太陽の日差しに顔を顰めながら遮るようにフードを引っ張る。
そんな中シロの後ろで浮いている背後霊みたいな奴が声を上げる。
『そろそろ来るころか?』
「ん、たしかにそうだね」
『あいつも変な奴だな、わざわざこの魔物が巣食う森に来るなんてな』
「本当に何でだろうね?君は分かるかい?」
『さあ、オレが分かるかよ』
「だよね……っと来たようだよ」
遠くから自分の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。少女は持っていたキノコを袋に入れながら待ち合わせ場所の切り株の上に腰を下ろした。
「あんまりしゃべらないでよ。君と会話をするのは疲れるんだから」
『ひどい!ボクより彼を選ぶっていうの!』
「気持ち悪いこと言わないでくれるかな」
「おーい!シロ!遊びに来たよ!」
少女……シロはそんな大声が聞こえてきたほうに目を向ける。ふわふわとした髪を揺らしながら、こちらに向かって手を振る女と男の間……中性的なイケメンの姿が見えた。
『爆ぜろ』
(黙ろうか)
さっそく言いつけを破りそうになった背後霊に冷たくあたる。
「なんだか呪いの言葉が聞こえてきたような気がするけど、まあいいや遊びに来たよ、シロ!」
太陽のような笑みをこちらに向けながらシロに喋りかけてくるこのイケメンの正体はシロの親友、ノア君(苗字は知らない)である。
「・・・ノア君、例のブツは」
どこかの司令のような口ぶりでノアへと話しかけた。
「相変わらずだねシロは、ちゃーんと持って来たよ、ほら、お弁当」
「ありがとう心の友よ」
ノアの手をつかんで上下にブンブンと振る。
そしてシロは親友に全力で感謝をしながら弁当箱を受け取る。
そして弁当のふたを開ける。するとシロの普段の生活と比べ物にもならないほどの食材に思わず涙を流す。
「本当に相変わらずだねシロは・・・」
若干呆れたようなノアの視線が痛いがそんなことより補給だ。
こっちは毎日の食事がそこらへんの草と、キノコだぞ、肉なんて一ヶ月に一回ぐらいしか食べれないんだから。
そんな生活のおかげ最近は野生動物に枯れ木と思われる程に痩せ細っている。
「そんな目でこっちを見ないでよ、最近は遊びに行けなかったけどちゃんと来たじゃないか」
実際ノアが来ない日は栄養のあるものが取れない、だからこのノアのおかげで生き長らえているようななのだから感謝はしないといけない。
『うまそうだな・・・感覚共有してオレにも食わせてくれよ』
そんな声を軽く無視しながら、食べ続ける。このお肉美味しいな・・・
『おい!無視すんな!オレにも食ーわーせーろー!』
(ボクは優しいから、君にはあのキノコを食べさせてあげよう)
『いーるーかー!この野郎食えるものを教えてあげた恩を忘れたか!』
(元はといえば君が原因でこんな生活を強いられてるんだから、恩を着せる言い方はしないでほしいな)
『うぐ・・・で、でも半分ぐらいはお前の責任でもあるんだから勘違いしないでよね!』
(いらないツンデレをありがとう・・・貸し一つね)
『ありがとう!愛してる!身体があったら抱きしめてるところだぜ!』
(ボクの中に住み着いた魂だけの居候の分際のくせに、そんなことしたら二度と身体変わってあげないからね)
そんな毒を吐きながら心臓の辺りに手を当てる。
『その魂だけの存在に助けられたこともあるからチャラにしてくれ』
トクン、そんな風に心臓が脈を打った瞬間、シロの視界が自分の身体を捉えた。
『毎回思うけど自分の身体を直接見るっておかしな感覚だね』
(慣れろ)
『慣れるほど変わる気はないよ・・・』
「ねえ、シロさっきから何しているの?」
そこで今まで本を読んでいたノアが話しかけてきた。
「ん、ちょっと宇宙ひも理論と多次元的世界理論について考えていただけだぜ」
『男口調とその出任せをやめてくれないかな・・・』
「へー、難しそうなことを・・・時々シロは性格が変わったみたいになるからね、不思議だね」
そんな核心をついたようなノアの発言にシロ(別人)は
「そ、そうだにゃ・・・」
『きみは核心を突かれたからといってもう少し落ち着こうか、ボクのイメージをこれ以上崩さないでくれるかな』
この動揺すると何をしでかすか分からない魂だけの存在は、名前が無い。いや本当はあるらしいが教えてはくれなかった。理由は分からないが・・・
(一応呼び名はあるけどね)
でもそれは認めたくない。
それに魂だけの状態のためぼんやりとしか姿が分からないから、シロは性別すら分かっていない。ちなみに姿を例えるなら白い布を被った子供みたいに見える。
(全く本当に不思議だね)
そんな不思議な存在は二年前にシロと初めて出会った。そして・・・こんな状況になってしまった。
(おーい、もういいよ、ありがとな)
『もういいの?』
(ああ、一人だけ食うのも悪いだろ)
『・・・うん』
入れ替わるように身体の主導権を交換する。またシロは目を開けて残った弁当を食べ切る。
ゴックン、そんな擬音とともに最後の食材を食べ終え手を合わせる。
「・・・ご馳走様でした」
そんなシロの様子をノアはしげしげと見てくる。
シロは首をかしげながら
「・・・何かおかしいかな」
「いや、そんな食後の儀式ははじめて見たなって思ってさ」
「ある人・・・?に教えてもらったんだ。糧になった食べ物に感謝するものらしいよ」
「うーん、僕はいろんな本を読むけどそんな風習は見たことも聞いたこともないよ?その人の故郷はどこなんだい?」
(どこなの?)
後ろに浮いている魂に尋ねる。それは腕を組んで考える振りをして応える。
『うーん強いて言うなら、平和と自由の国、日本ってとこだな』
ニホン?この国にそんなところあったっけ?
「平和と自由の国、ニホンっていう場所らしいよ」
「ニホン・・・?。やっぱり知らないなあ」
「ボクもだよ」
シロは立ち上がりながら横に立てかけておいた錆びた剣を持ちながら立ち上がる。
「うん、美味しかったよ。ありがとうノア」
ノアも弁当を片付けて立ち上がる。
「シロが昔作ってくれた、料理には勝てないけどね」
「・・・うん、ありがとう」
作ったのはもう一人の方である。
(君のせいでハードルが上がっているんだけど・・・)
『教えてやろうか?』
幽霊が提案してくる。
(・・・いつかね)
適当にあしらいながらノアの方へと顔を向ける。向き合ったノアは笑顔を浮かべながら、恥ずかしがらずにさらりと言った。
「いつかもっと美味くなって毎日食べさせてあげるからね」
そういってこちらに向けて満面の笑みを浮かべた。
バッ!と全速で回れ右、をして赤くなった顔を隠すようにノアから顔を背ける。
「うん、いつかね」
そしてなるべくいつもどうりに応えた。
『ヒャハハハハ!だってよ!将来が楽しみだなー』
(ハハハちょっと黙ろうか・・・)
『まあ、お前も今でこそちっこい身体だけど、十年後ぐらいには、ないすばでぃーの美人のお姉さんになるさ。お前結構可愛いもん』
(・・・・・・)
やっぱりこいつ嫌いだ。時々こんなことを突然言ってくる、人の気も知らないで・・・
シロは改めて自分の身体を見る。栄養が取れなくて痩せ細くなったからだ。女性としての凹凸が欠けた局部。
昔の金色で輝いていた髪は色が落ちて銀髪になり、銀色の瞳は睡眠不足がたたりクマが出来ていた。
服も、こんな森に住んでいるから、まともなものはなく、ほとんど破れているか、血がついているものしかなかった。
唯一破れてない、この黒いローブは女性としての色気はほとんどなく、やせ細った身体を隠すことしかできない。
「・・・はあ」
『ガキが何を色気づいてるんだよ、お前だってもうちょっと歳を取れば・・・あっ』
(あって何!)
『大丈夫大丈夫気にするな気にするな。ちょっとナイスバディーの希望がなくなっただけだから』
「それ大丈夫じゃないんだけど・・・!」
まったく大丈夫じゃなかった。むしろ一番大切なことだった。
『それより』
「ん?」
『横の少年が怪訝そうな顔で見てるぜ』
「ふぇ!?」
いそいで横を見てみると
「シロ・・・いい医者を紹介しようか?」
ノアがすごく微妙な笑顔を浮かべながらこっちを見ていた
いや、これは違うんだ・・・
「え、えーと精霊さんと話してただけだから、ノア、気にしないで・・・」
「う、うん・・・そうなんだ・・・」
『精霊さん?』
そんな元凶の声が聞こえたが無視する。
(はあ、どうしてこんなことになったんだっけ)
時間は二年前に遡る・・・
皆さんはじめまして、開いてくださり、そして見てくださりありがとうございます。この物語は今にも死にそうな幼女が、なんとか知恵をこらしながら頑張るという物語です。
文才がない故、多々至らない点があると思いますが、そういう点を見つけた時はじゃんじゃん批判を下さいますと恐悦至極でございます。