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一章 級友

 教室に入るとクラスで人当りが良いのか、


「おはよ、芦屋君」


「おいっす、満月」


 と、クラスメイトが、挨拶を振ってくる。


 それぞれの挨拶を交わしながら、窓際にある自分の席に向かう。窓際にはクラスメイトには見えない三本の光が目に留まる。


あいつに、情報を聞かないとな……。


そう思い、黒板の上に立て掛けている時計を見ると、ホームルームまでまだ時間はあった。


自分の席で待っていると、


「まいど~~~~」


と、とぼけた声であいつこと、加賀 茜が話しかけ自分の前の席に座る。


「おう、今日も、相変わらずケバいな」


一応、ここの学校は進学校なので、茜みたいな化粧を濃くする子はあまりいない。しかし、茜は遊びほうけていることもあり、交友関係が多い方なので、様々な情報が入ってくる。


「なに言ってんの、これが普通だし」


「そうか、そういえば、1階の窓ガラス割れていたけど、誰がやったかわかるか?」


不穏な出来事を聞いてみる。すると茜は、鞄から可愛らしいキャラクタ―が入っている缶を取り出し、満月の机に置いた。


「情報料はここにおねがいしますね、旦那♪」


ニコニコと、笑顔を見せてくる。


「話しがよかったらな」


「はいはい、何でも三組の村上がやったらしいの」


「え、あの、村上が?」


村上と言う奴は三組の男子で、テストではいつも上位に食い込むくらいに学業は優秀なやつだった。そんな奴が窓ガラスを割る姿は想像もつかなかった。


「なんでも、塾の小テストで点数伸び悩んでいて、そのことで親と喧嘩。だからノイローゼになっていたらしいよ」


「おまえには、関係ない話だな」


「あんたもね」


二人して笑みを浮かべる。そして、茜は、空き缶を指さす。


「いくら、いれてくれるのかな~♪」


茜はそのままの笑みで、ワクワクしながら言ってくる。


「しょうがないな、ほらっ」


財布から小銭を取り出し、空き缶に放り込む。


「げっ、十円かよ」


「まっ、今の話しはぶっちゃけ、おまえに聞かなくても、先生とかに聞けばわかることだからな」


「だからって、十円ってひどくね?こんなんじゃなにも買えないじゃん」


「消費税は払えるぞ」


「品物買うのに私のポケットマネーが必要じゃん」


「じゃあ、もっと良い話しを俺に聞かせないとな」


俺が意地悪そうな顔をすると、茜は歯ぎしりしながらひどく悔しがり、必死に考え込んでいる。そして何か閃いたのか笑顔になりだす。


「そうそう、旧市街地の話しは知ってる?」


旧市街地とは、室谷町の北にある。バブル時代は高級住宅街であったが、年々、老朽化が進み、今では住むのは禁止されているマンション群だ。あまりの多さに、市の税金じゃ取り壊しは不可能なので放置されている。そのため、誰も足を踏み入れない。


「旧市街がどうしたんだよ?」


「おっ、おっ、興味があるのかニャ~」


気のせいか、茜の頭から猫耳が生えている気がした。


「暇つぶしに聞いてやるよ」


「あそこね……でるんだって……」


「うんこ漏れそうなのか?」


「ち~が~う!幽霊よ、ゆ、う、れ、い!」


茜は、顔を近づけながら言った。


「私の友達がね、彼氏と夜、旧市街に行ったんだって。そしたら、だれもいないはずなのに、後ろから気配がして振り向いたら……。居たんだって、白い巫女の格好をした女の子が!」


白い巫女か。その言葉に深く考え込んでしまう。


「ちょっと、なにを考えているの?」


急に真面目な顔になってしまったせいか、茜は業を煮やして話しかける。


「いや、ちょっと、気になったんだが……」


いつになく真剣な面立ちで茜に尋ねる。それを察知したのか、茜に緊張が走る。


「ど、どうしたのよ?」


茜は生唾を飲み込む。


「あのな……お前の友達と彼氏な……その…」


「だから、なによ」


茜は口調を強める。


「なんで深夜に、旧市街に行ったんだ。まさか…」


「だから早く言えよ」


更に口調を強めだした。


「セックスしようとしていたんじゃないのか」


「な、な、な、な、な……」


茜の顔が、一気に赤面する。


「こ、この変態、エッチ!」


「スケッチ、ワンタッチってか。ギャルのくせにピュアだな」


声を荒げ、爆笑してしまう。


「う、うるさい、しかも、さむっ!とにかくお金入れなさいよ」


「はいはい」と、満月は、またお金を入れる。


「ちょっと、また十円かよ」


茜は、怪訝そうな顔をする。


「当たり前だろ、旧市街地なんて行くことないし」


「そうよね、あんたなんか彼女いないから肝試しなんて行かないわよね」


いじわるそうに言ってきた。


「うるさいな。何か他に面白い話しで、そろそろ俺をうならしてみろよ」


そう言いながら、満月は財布から千円札を取り出し、ひらひらさせる。その千円札を見つめる茜は、「ぐぬぬっ」と、言葉が出ている。


「お前がうねってどうするんだよ」


「う、うるさい、今、考えてるの……って、そうだ、あと一つあったわ」


今度は頭から電球が出てきたような気がした。


「おっ、なんだ、今度は頼んますよ。情報屋」


「任しとけ。実は、昨日から、一年生に……」


茜は、グッと、言葉をため込んでいる。


「転校生の女の子が来るそうで~す」


「ワァ、ソレハ、トッテモ、ウレシイナァ」


「おい、何で片言なんだよ」


「当たり前だろ!一年なんてどうでもいいだろ。何で昨日からなのに、『来るそう』なんだよ?」


茜は困った顔になる。


「ぶっちゃけ、よくわかんないんだよね~。噂では、学校の転入手続きも電話だけだったらしいよ」


転入するからには、親などがきて、事前に学校の雰囲気を見るぐらいはするはずなのだが、電話対応だけで済ますのはおかしな話だ。


「まっ、さっきも言ったが、俺には関係ないがな。それにしても、相変わらず、すごい情報量だな」


「でも、二十円しかもらえなかったよ~。うう~どうやって今日カラオケ行けばいいんだろう」


 今にも泣きそうな顔になっている。その直後、始業のチャイムが鳴る。


 俺は、空き缶に三千円を入れてやる。

 

 「へっ?」


 茜は、ポカンとしている。

 

 「面白かったからな。また聞かせてくれよ」


 「やっぱ、芦屋はいい奴だな。まかせといてよ」


 茜は笑みを浮かべる。


 「HR始めるぞ。早く席につけよ」


 担任が教室に入ってきながら言っていた。


 「ほら、担任が来たぞ」


 茜は「はいはい」と言って、前を向ける。


 白い巫女の女か……。気になるな。報告ついでに放課後、『あの人』に会ってみるか。

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