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一章 早朝


 朝、起きたのは七時ごろ。今日の朝食はおにぎりを作ってくれたらしい。そのおにぎりを頬張りながら、テレビをつけると、いつも通りの報道テレビが流れていた。


 『昨夜未明、室谷町3丁目で刺殺された男性の遺体が警察官に発見されました』

 という、朝から気分の悪くなるニュースの話題が流れていた。


 「この辺りにも強盗があったらしいですよ」


 そう言って、割烹着姿の千代が食後にと、コーヒーを差し出してくれたので、一口飲み込む。自分が好むいつも通りの甘すぎなく、少し苦みのある風味が口の中に広がる。十年前、千代の両親が亡くなって、身寄りのない千代を、芦屋家が引き取った。その為、千代はこの恩義に報いるために、毎日家事手伝いをしてくれている。何も言わなくても自分の好きな味を知っている、それ程、この芦屋家に奉公をしてくれている。


「いつも悪いな、俺がやると邪魔になるかもしれないけど、手伝ってほしいなら遠慮せずに行ってくれよ。俺、男だし力仕事なら得意だから」


 筋力には自信がないが、裾をまくり、力こぶを見せる。


 「大丈夫です、こうでもしなければ、芦屋家に返すものが御座いません。しかし満月様、大丈夫ですか、昨日もこの辺で強盗があったらしいですよ?」


 恐らく心配しているのは、街に煌めく一般の人には見えない『柱』の事を言っているのだろう。千代もこの家に住んでいる身だから一通りの魔術(こと)は教え込まれている。


 「大丈夫だって、何とかするよ」


 そう言って、千代に笑顔で返す。しかし実際、昨日から室谷町に犯罪が多発している原因は柱が一本無くなり、妖魔が入り込んでいるからだろう。その結果、邪気が飛び回り、人間の負の気が高まってしまった結果、こういった犯罪が起きているに違いない。

 

 「満月様、もしもの時は何なりとお申し付け下さい」


 千代は、両手を握りしめ、言ってくる。


 「じゃあ、この街の事は俺に任せていいから、千代は家事を頑張ってくれ。もしも仕事が終わった時に、家が汚かったらいやだろ?」

 

 それに、女の子を危険にあわしたくないからな・・・なんて心の中でかっこつけてみる。


 それを聞くと、千代は花のような笑顔になり、


 「家の事は、千代にお任せ下さい」


 と、胸をドンっと叩いた。


 「こんな広い家、千代じゃないと直ぐに終わらないからな」


 自分で言うのもなんだが、この家は、いい言い方では、広く古風を感じる純和風の家、悪い言い方では、無駄に広く古臭い、その様な住居だ。


 「あっ、満月様、もうご用意しなくては学校に遅れますよ」


 壁に掛けられている時計を見ると、もう登校時刻の時間だった。


 「じゃあ、そろそろきがえるか」


 そう言い、自分と千代は着替えるために自室へと向かう。部屋に戻ると、部屋着を脱ぎ。あらかじめ机の所に用意してあった制服に着替え、鞄を取り、部屋を出る。千代はまだ着替えている最中だと思い、玄関へと向かい、靴を履いて千代を待つ。


 「お待たせしました」


 割烹着ではなく、セーラー服姿の千代がとてとて走ってきた。


 「じゃあ行こうか」


 千代は「はい」と言い、俺たちは家を出る。


 外は太陽が輝き、いい天気だった。


 その横で柱が三本輝いていた。


 千代と一緒に歩くこと十分の距離に、自分達が通う室谷高校が見えてきた。この室谷高校を選んだ理由は簡単だ。いわゆる『普通』の高校だからだ。偏差値も普通、部活動も対して有名なものはなく、秀才も不良も一学年に手で数えるほど。まさに、高校の代名詞といった具合に、THE・普通の高校だ。だからこそ芦屋家を継ぐ者としては、別に経歴など必要ないから家から近い場所を選んだ。だが、千代は違った。千代は自分の身をお世話をしたいという理由でこの高校を選んだ。


学校のグラウンドが見える道を歩いていると、いつもなら聞こえるはずの朝練をしている野球部の声が聞こえてこなかった。


 「何故、朝練してないか、わかるか?」


 ふと、疑問に思ったので千代に聞いてみる。


 「いえ、分かりませんが、あれが原因なのではないですか?」


 千代は、金網越しに見える校舎を指さす。その方を見ると、恐らく割られているのだろう、一階校舎のガラスが大半、ダンボールで覆われているのが見えた。誰が割ったのだろうか、そんな疑問を覚えながら歩くと正門が見えてきた。その正門には、自分のクラスで国語を教えている教師が立っていた。


 「おはよう、芦屋」


歳は、確か三十代だっただろうか、髪が薄くなってきている教師が笑顔で挨拶をしてくれた。千代と共に挨拶をすると、先程の事を聞いてみる。

 

 「先生、あの窓ガラスはどうしたのですか?」


 あまりにも直球すぎたのか、先生の顔は笑顔のままだが、明らかに瞳は笑っていなかった。明らかな憤怒の心を持っているようにも見える。


 「まっ、いろいろとな、そんな事より早くクラスに行け」


 そう言って、先生は話題を変える様に校舎の方を指さす。恐らくあまり言いたくないことがわかったので、この場を離れる。正門から校舎まで桜の木々が立ち並ぶ一本道が続く。季節は秋になっているので、桜の木は眠りに落ちていた。やがて校舎へと中に入り、上靴に履き替える。校舎は、旧校舎と新校舎があり、旧校舎は、文系のクラブの部室と物置部屋が多くあまり使われていない。新校舎は、一階は三年、二階は二年、三階は一年が使われている。その為、自分のクラスがある二階へと向かう。二階に上がると一組の教室が見えた。


 「では、また後ほど」


 「しっかり勉強しろよ」


 一組の教室に入ろうとしている千代に言う。別に言わなくても千代は勉強ができるが一応冗談で言う。


 「満月様こそ、しっかり先生の話を聞いてくださいね」


 笑顔で自分に言いながら、千代は笑顔を見せ、一組の教室に入る。


 千代と別れてからその隣である二組の教室に入る

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