幼馴染
遅くなりました。
魔法使いの女性に向かってオーガが突進を再開した。僕は魔闘術を使ってそこに使っているが、距離があるためこのままでは間に合わない。あの女性は発動準備中の魔法に全力で集中しているようで迫り来るオーガに反応できていない。ダインの知識・経験から見てあの魔法の完成は間に合いそうにない、このままでは一撃をもらうだろう。あの棍棒の一撃を食らったら紙装甲の魔法使いではペシャンコだ。
戦闘になるため、僕の精神が深い海に沈み、ダインの精神がイルカのように浮上してきた。
僕はすでに今日の何回かの戦闘でダインの身体での戦い方のコツをつかんでいる。やり方は簡単、戦闘に関して心の中にいるダインに全てをまかせるだけ……丸投げというなかれ。下手に僕が考えて何かをしようとしない方が結果はいいのだからいいじゃないか。当然といえば当然だ、僕は戦ったことなどないし。
この状況であの女性を助けられる選択肢は幾つかあった。その中からダインは最適の選択肢を選び出す。
「魔装強化!」
グン!それまでとは段違いの速さで一気に距離を詰める。間一髪間に合った僕に巨大な棍棒が振り下ろされる。ガコン!と大きな音がしたが僕の身体を包む魔装甲はビクともしない、棍棒は弾き返されオーガは反動で後ろにひっくり返った。
魔闘術は魔法使いを守る戦士の技であり、発現させる方法により幾つかの種類に分けられる。
まず、身体の中に巡らせて身体能力を上げる<身体強化>。
次に、身体の外に纏って攻撃・防御力を上げる<魔装>。
さらに、この2つを会得した上で習得が可能になる<魔装強化>。
魔装強化は身体強化によって身体に係る負担を魔装が肩代わりしてくれるためにより強い力を発揮することができるのだ。実に身体強化の3倍の能力を持つ、まさに戦士の切り札的存在。
転がったオーガに追撃を行おうとした瞬間、後ろから朱色の光が発せられた。
「出でよ!ファイヤーフォックス!」
魔法使いの少女がそう叫ぶと、カードから彼女の前方やや上に尻尾が燃える炎で出来た狐が現れた。炎の尻尾は2本もある。アレは火の下級精霊だ。
「なんて……魔力。」
思わずつぶやいてしまう。精霊は例え下級と言っても人間とは格の違う存在だ。
「灰燼とかせ!」
少女の命令により火狐は炎でできた双尾を振るう。それはスルスルと伸びてオーガを包み込む。やがて炎の消えたあとには何も残っていなかった。オーガは断末魔の叫び声さえあげることなく消え去った……まるでもとから存在しなかったかのように。余りの攻撃力の桁の違いに惚けていると、魔法使いの少女が近寄ってきていた。
「冒険者どの、助力感謝致します。」
「……持ったいないお言葉です。僕、いや私の協力など不要でしたでしょう。」
「謙遜を。魔法のミスチョイスに気付ていたからの行動でしょう。」
「……見事な攻撃力でした。確かにオーバーキルの出力ではありましたが……」
「優しいのですね。」
少女から、丁寧で品性のある言葉がかけられた。それだけで身分が高いことが伺える、恐らく……いや、間違いなく貴族だ。精霊と契約できるほどの魔法使いはほぼ貴族だけといっていい。年齢はダインよりは少し上かな。思ったより冷静な判断が下せるようだ。
ローブのフードで顔はほとんど見えないが、薄いルージュを引いた唇からして美人なのだろうと思う。
「あてて、君、助かったよ。クレア姉、呪文長すぎだよ。」
「なによ、ルーク!あんたを信用したからじゃない。やくたたず!」
「ひでぇ!」
護衛の戦士が血の着いた頭を押さえながら近づいてきた。クリクリとした目のイケメンで歳はダインと同じほどか。実力はともかくタフだな。あんなのをもらってこの程度の怪我とは。
それにしてもなんだろう、何かほのぼのとしてくるな。軽ぐちを叩き合うほど仲の良いこの姉弟……なにか引っかかるものがある。
「あれ?……もしかしてダイン兄?」
ルークと呼ばれた少年の戦士はダイン兄と言った、ダインを知っている?思わず、ルークをまじまじと観る。
ダインの記憶を高速検索していくと似ている人物に行き当たった。そして、ローブのフードを後ろに落とした少女の顔を見て確信した。
「……フォックス・フレイム家。」
そう、この2人をダインは知っていた。ダインの生家であるフレイム家の分家のフォックス・フレイム家の子供だ。
「やっぱり!ダイン兄だ!会いたかった!」
そして幼馴染でもあり、一つ歳下のルークはダインに懐いていたし……。
「ウソ……ダイン……なの?」
「クレア……久し振り。」
何と言ってもクレアはダインの初恋の相手だったのだ!
えええっと、どうしよう?
読んでくれてありがとうございます。
感謝・感謝です。
まず、ヒロイン1人目(笑)
クレアの正式名称はクレア・フォックス・フレイムです。意味はフレイム家一族のフォックス家のクレアちゃんとなります。姉弟揃って赤毛に透き通るような灰色の瞳です、当然美少女です。
ちなみに今回の作品のヒロインずは冬メロン系ではありません。